大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女マヂカ・258『深夜の呼び出し』

2022-02-07 14:26:03 | 小説

魔法少女マヂカ・258

『深夜の呼び出し語り手:マヂカ  

 

 

 トントン  トントン

 

 深夜、ドアを叩く音で目が覚めた。

 クマさんがファントムにかどわかされて二日がたった。

 夕べまでは、クマさん救出のため、侯爵を中心にいろいろ手立てを考えたり打合せをしたり、深夜になっても屋敷の中では、だれかれとなく起きていた。

「打つべき手は打った。どうやら長期戦になりそうでもある。わたしは、取りあえずクマの両親に説明とお詫びに行って来る。三四日のうちには戻って来るつもりだが、その間は、みなも少し休んでおくれ」

「いえ、まだまだ頑張れます」

 春日メイド長は胸を張るのだが、その春日メイド長も、事実上の対策本部になっているリビングで舟をこいでいる。

 門衛室の明かりは点いているが、詰めているのは臨時に派遣された巡査で、箕作巡査は署長から強制的に休暇を言い渡されている。クマさんを誘拐された今、まともに勤務に耐えられないからだ。

 ノンコは入浴後は霧子の部屋で話し込んでいたが、何十回目か分からないため息が絶えて三十分は経つ。

 さすがのわたしも微睡んでしまって、いまのノックで目が覚めたわけだ。

 

 ん……子ども?

 

 物憂く、緩い透視をかけると、ドアの向こうは身長130センチほどの輪郭が浮かび上がる。

 返事するのも大儀なので、指をクルリと回してドアを開けてやる。

「この時代に自動ドアは無いと思うわよ」

 開口一番、ミスを指摘するのは……黄帽を被った小学生。

「黄帽の小学生と言うのも大正時代には居ないと思うよ」

「いっしょに来て」

 それは、この時代にやってきた日以来見ていないJS西郷だ。

「久しぶりだね。お誘いはありがたいけど、まだ、元の令和に戻れる状況じゃないわよ」

「ちょっとテレポートするだけ。時間は止められないから、すぐに」

「分かった。ちょっと、着替え……」

 部屋着のボタンに手を掛けようとすると、わたしは、瞬間で制服姿になった。

 女子学習院のそれではなく、百年前の大正時代に着ていた帝国特務師団の制服だ。

「これは……」

「特務師団本部は服務規定がうるさいのよ、思い出した?」

「あ、ああ」

 この時代にはこの時代のマヂカが存在している。それを差し置いて、令和のわたしを呼びつけるのは反則だ。

 どうも、想像しているよりも何倍も重大な事態になっているようだ。

「では、行きます」

 JS西郷が示したドアの外は闇になっていて、その闇の向こうから懐かしいレンガ造りの特務師団司令部の衛門が見えてきた。

 

※ 主な登場人物

  • 渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 
  • 野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長
  • 来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令
  • 渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
  • ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
  • ガーゴイル        ブリンダの使い魔

※ この章の登場人物

  • 高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 
  • 春日         高坂家のメイド長
  • 田中         高坂家の執事長
  • 虎沢クマ       霧子お付きのメイド
  • 松本         高坂家の運転手 
  • 新畑         インバネスの男
  • 箕作健人       請願巡査

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

明神男坂のぼりたい・65〔バラが咲いた〕

2022-02-07 06:34:15 | 小説6

65〔バラが咲いた〕 

      


 

―― 明日香とこにも届いた? ――

 朝起きたら、こんなメールがゆかりから届いてた。

 それだけで分かった。

 一つ前のメールを見る。夕べ来た美枝からのメール。


―― バラが咲いたよ! ――


 その一言に、真っ赤なバラがベランダの手すりと青い空を背景に咲いている写真。

 美枝のマンションは南向きのベランダ。何を植えても育ちがいい。

 だけど、このアッケラカンと赤く大きなバラは、丹念に手入れした様子が窺える。

 バラは、ほうっておくと一杯芽を付けて、小さな花を、時期的にも大きさ的にも、バラバラに咲かせる(期せずしてシャレになった(^_^;))。だけど、美枝のバラは、プランターに一茎のバラ。そこに大きく真っ赤なバラが三人姉妹みたいに並んで写ってる。きちんと手入れして剪定(間引き)してきた証拠。

「きれいに咲かせたね」

 思わず独り言。

「あらあ、ほんと、きれいに咲かせたのねえ」

 お母さんが覗き込む。ちょっと羨ましそう。

 うちは三階建ての戸建てだけど、北向きだから、何を育てても満足には育たない。

 小さい頃は別だったけど、あんまり花には興味ない。お父さんもそうで、三年前に亡くなったお祖父ちゃんから引き継いだ仏壇のお花も、今は造花。お母さんはため息だったけど、あたしは、それでいいと思ってる。

 そんな花無精なあたしでも、美枝のバラの意味は分かる。
 赤いバラは愛情、情熱、それから……あなたを愛します。

 スクロールすると、写真の下に、もう一言。

―― LET IT GO ――

 同じ言葉をゆかりに送った……あたしのは美枝とちがう意味だけど。

 スクランブルエッグを生の食パンに乗せて、コーヒー牛乳(あたしは牛乳はダメ)500CCを一気飲み。

「そんなに早く飲んだら、お腹こわすよ」
「分かってる」

 この言葉には切実な事情がある。

 テスト期間中は、学校9時からだったから、ゆっくり起きていく。ダメなの分かってて、この癖はなおらない。なおらないとどうなるか。

 こんな、ささいな時間のズレが、生活のリズムを崩す。

 正直言って、テスト終わってから便秘気味。

 顔洗って、歯を磨いてるうちに体が反応してくる。

 生みの苦しみってこんなんだろうなあ……一分ほどお母さんの苦労に共感したあとはスッキリ爽やか(^_^;)。

「テスト中も普通に起きてたら間に合うことだろ」

 すっかりバイト生き甲斐のさつきはあきれ顔。言い返そうと思ったら、もう姿が無い。

 

「いってきまーす!」に続いて「お早うございます!」

 

 玄関の階段降りたら、向かいのオバチャンと目が合った。

「おや、あんたとこもバラが咲いたんだ!」

 かろうじ午前中だけ日の当たる階段の下の方。ベージュの植木鉢に貧相なバラが咲いている。

「おかげさまで!」

 オバチャンは喜んでいるので、その喜びのお返しに明るく返事をする。

 だけど、貧相は貧相。

 お母さんも剪定はやってるから、大きさはそこそこ。だけど色が悪い。赤黒くくすんだ感じ。美枝の真っ赤にはほど遠い。

 向かいのオバチャンは、ほんの半年前に旦那さんを亡くしたばかり。

「明日香ちゃんちに電気点いただけでホッとするのよ、おばちゃん」

 気のしっかりしたオバチャンだったけど、やっぱり一人暮らしは堪えるんだろうなあ……だから、うちの貧相なバラでも、あんなに喜んでくれる。あたしは、それに相応しいだけの反応ができただろか……美枝のことには無力だったから、ちょっとナーバスになる。

 おばちゃんの視線を感じながら男坂を二割り増し元気に上がる。

 こんなあたしでも、人を元気にできることに感謝して、いつもより数秒長く拝殿の前で頭を下げる。

 歩きながらスマホで検索。

 赤黒いバラの花言葉は……永遠の愛だった!

 うちの家も、向かいのオバチャンにも、いいことが起きたらいいのになあ……。

 鳥居の所で横目を向けると、さつきが、もうだんご屋の仕事に励んでいた。

 

※ 主な登場人物

 鈴木 明日香       明神男坂下に住む高校一年生
 東風 爽子        明日香の学校の先生 国語 演劇部顧問
 香里奈          部活の仲間
 お父さん
 お母さん         今日子
 関根先輩         中学の先輩
 美保先輩         田辺美保
 馬場先輩         イケメンの美術部
 佐渡くん         不登校ぎみの同級生
 巫女さん
 だんご屋のおばちゃん
 さつき          将門の娘 滝夜叉姫
 明菜           中学時代の友だち 千代田高校
 美枝           二年生からのクラスメート
 ゆかり          二年生からのクラスメート

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする