大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女マヂカ・257『悪魔城の黒マント』

2022-02-02 14:48:00 | 小説

魔法少女マヂカ・257

『悪魔城の黒マント語り手:マヂカ  

 

 

 ドドド! ゴゴゴゴ! ゴオオオオオオ!

 …………ゴトン

 唸りを上げ、地響きをさせて聳え立ったトキワ荘は、東京都庁ほどの大きさと高さになって、ようやく拡大をやめた。

 ウォンウォン ウォンウォン ウォンウォン

 しかし、巨大な機械獣が佇立しアイドリングのように身震いしている様は油断がならない。

「悪魔の城か、こいつは……」

 ステッキを太刀のように構える高坂侯爵は、一見滑稽に見えるが、さすがは高坂五万石、高坂光孝十七代目子孫の当主。サーベルを抜き放った箕作巡査よりも圧がある。

 しかし、淀橋署請願巡査であり、虎沢クマの婚約者である箕作巡査は、ズサっと地を踏みしめながら侯爵の前に進み、まるで聖剣エクスカリバーを擬して魔王に立ち向かうアーサー王のように身構えた。

「高坂侯爵家のメイド、虎沢クマ嬢を誘拐せし犯人! さっさと虎沢嬢を開放し、捕縛の縄につきなさい! 今なら、誘拐監禁の罪だけだ。この上、虎沢嬢に危害を加えたり、抵抗を試みるなら、傷害、公務執行妨害の罪を被ることになるぞ!」

「不埒者! わたしのメイドを返しなさい!」

 ブン

 霧子も負けじと拳を振り上げる。

 

 ワハ ワハハハハハハハハハハハ!

 

 悪魔城と化したトキワ荘、そのめくるめく最上階ベランダのあたりから不敵な哄笑が沸き起こった!

「なにやつ!?」

 侯爵が誰何すると、悪魔城前面の中空に黒ずくめのマント男が、虎沢クマを後ろ手に戒めて現れた。

「クマさん!」

「箕作さん!」

「くそ、ただちにクマ……虎沢嬢を開放しなさい!」

 ジリ

 背後で踏みしめる音がしたかと、思うと、小柄が投げられた。

 シュッ

 霧子が隠し持っていた小柄を投げたのだ。

「これも、くらえ!」

 侯爵も負けじと、ステッキを投げる。

 小柄もステッキも、過たずマント男の眉間と胸に当ったように見えたが、音が怪しい。

 チャリン  カラン

 頼りない音をさせて、二つとも落ちてきた。

「手ごたえはあったのに!?」

「妖術か!?」

 あれは、3Dホログラムだ。大正時代の技術ではないし理解もできないだろう。

「要求があるなら言え!」

「ある者たちが、大連武闘会で優勝し、戦艦長門が最速で帰投するのを助けた」

 こいつ、何を言い出すつもりだ?

 大連武闘会の事は高坂家の親類筋の者がやったことにしてある。まして、長門が史実よりも早く横須賀に着いたことは、史実を知っている我々しか知らないことだ。

「そのために、数十人の者の命が救われた」

「それが、なんや言うのんや……」

 ノンコが呟く。当たり前だろう、本来助からない命が助かったのだから、悪かろうはずもない。

「そうだろうか?」

 くそ、こいつ、心を読むのか!?

「助かった命の中には邪な者も……とは思わないかい」

 なんだと?

「蒔いた種は蒔いた者に刈ってもらおう……刈り方については後日伝えよう。どうか、その者たちに伝えてくれたまえ。くれぐれも、わたしを失望させることのないようにとね」

「貴様、何者だ! 名を名乗れ!」

「これは、侯爵、失礼をした。我が名はファントム、ファントムであるゆえ、君たちが目にしている者も幻だがね。実体は……ここだ!」

 最後の「ここだ!」は、はるか最上階のバルコニーに戻った。

「そして、我が意に背けば……こうなる」

 

 キャーーーーーーーー!

 

 悲鳴が聞こえたかと思うと、はるか最上階からクマさんが突き落とされた!

「クマさーーん!」

 箕作巡査がサーベルを投げ出し、クマさんを抱きとめようと前に進む。

「よせ、君まで死んでしまう!」

「箕作さん!」

「箕作巡査!」

 男たちが、箕作巡査を羽交いに停める!

「は、放してくれええええ!」

 

 ビシャ!

 

 すごい音がして、クマさんは地面に叩きつけられる……ハズはない、あれはホログラムだ。

 分かっていても目を背けてしまう。

 一瞬あって目を開けると、案の定クマさんの姿は無い。

 やつは、ご丁寧に、地面への激突音を付け加えたのだ。

 魔法少女ともあろう者が、見事に引っかけられた。

 

 そして、魔法城も消え果てて、豊島郡長崎村、甲州街道との合流点で、呆然と立ち尽くしていたのだった。

 

※ 主な登場人物

  • 渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 
  • 野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長
  • 来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令
  • 渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
  • ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
  • ガーゴイル        ブリンダの使い魔

※ この章の登場人物

  • 高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 
  • 春日         高坂家のメイド長
  • 田中         高坂家の執事長
  • 虎沢クマ       霧子お付きのメイド
  • 松本         高坂家の運転手 
  • 新畑         インバネスの男
  • 箕作健人       請願巡査

 

 

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明神男坂のぼりたい・60〔連休明けのアンニュイ〕

2022-02-02 06:46:33 | 小説6

60〔連休明けのアンニュイ〕 

    


 
 一年で、いちばんつまらないのは、五月の連休明け。高校生でなくっても分かってもらえると思う。

 で、高校生で、いちばんつまらないないのは二年生。一年の時の緊張感も夢もないし、三年の進路決定が迫って来る緊張感もない。アンニュイって言えばカッコいいけど、要はダレて来る。

 去年の今頃って、なにしてただろ……?

 演劇部入って、本格的な入部が決まって、先輩の鈴木美咲も偉い先輩だと思えた。三年の先輩たちは神さま。芝居が上手いということもあるけど、なんだか言うことが、いちいちかっこよかった。

「安直に創作劇に走るのは、高校演劇の、いちばん悪いとこ!」
「なんでですか?」
「明日香、戯曲は吹奏楽で言うと、演奏会でやる曲みたいなものなのよ。そんなもん自分たちで作るような学校どこもないでしょ?」

「はあ……」

「ん? 納得のいかない顔してるなあ」
「いえ、そんな……」

 とは言うものの、本当は納得してなかった。中学校の文化祭でも、クラスの出し物の芝居は自分たちで書いていた。そして、そこそこにおもしろかった。なんで創作がだめなのか、あたしにはよく分からなかった。

「ちょっと、付いといで」

 そう言って、吹奏楽と軽音に連れていかれた。

「オリジナル、そんなの考えられないわ」

 吹部の部長は、あっさり言う。

 そして、ちょうどパート練習が終わったとこなので、演奏を聞かせてもらった。『海兵隊』と『ボギー大佐』という、あたしでも知ってる曲をやってくれた。なんでも、吹部ではスタンダードで、一年が入った時は、いつもこれからやるらしい。

 で、三曲目の曲がダサダサ。だけど、どこかで聞いたことがある。

「今のは校歌。一応は吹けなくっちゃね」

 ちょっと分かった。同じ技量でも、やる曲によって、全然上手さが違って聞こえる。

 次に軽音。

 先輩が頼んだら、B'zといきものがかりの曲をやってくれた。めっちゃかっこいい!
 軽音に鞍替えしよかと思ったぐらい。

「なんか、オリジナルっぽいのあったら、聞かせてくれる?」

 先輩が言うと、軽音のメンバーは変な笑い方をした。

「アハハ、じゃあ『夢は永遠』いこっか」

 え、そんな曲あったかな?

 それから、やった曲はダサダサだった。正直、オチョクってんのかという演奏。

「これ、ベースのパッチが作った曲。パッチは将来はシンガーソングライター志望。で、ときどき付き合いでやってるんだ」

 ベースの三年生が頭を掻いた。

 分かった。

 戯曲は吹部でいうとスコア(総譜)みたいなもの。だから、どこの馬の骨か分からんような人がつくった校歌はおもしろくない。軽音のパッチさんが書いた曲はガタガタ。

「な、だから、戯曲は既成脚本の百本も読んで、やっと本を見る目ができる。書くってのは、その先の先」

 あたしは、その三年生の言葉を信じた。

 そして、コンクールでは『その火を飛び越えて』という既成の本を演った。

 結果は、まえにも言ったけど、予選で二等賞。自分で言うのもなんだけど、実質はうちの学校が一番だった。あたしが演劇部辞めたのは美咲先輩のこともあるけど、高校演劇の八方ふさがりなところもある。

 一昨年、鶴上高校が『ブロック、ユー!』いう芝居で全国大会で優勝してテレビのBSでもやってたし、毎朝新聞の文化欄でも取り上げられ平野アゲザいう偉い劇作家も激賞してた。

 だけど、去年、この作品を、よその学校が演ったいう話はついに聞いたことがない。今年の春の芸文祭で鶴上高校とはいっしょだったけど、キャパ400の観客席は、やっと150人。

 ああ……演劇部のグチはやんぺ。

 週があけたら中間テストが射程距離に入ってくる。あたしは英数が欠点のまんま。夏の追認考査では、絶対とりかえしておかなくっちゃならない。

 

 あ、そうそう。

 

 ひとりイキイキしてるやつがいる。

「いやあ、明日香ちゃんの従姉妹なんだってね。明るくって、働き者で、ほんと大助かりよ(^▽^)/」

 だんご屋のおばちゃんは大喜び。

 えと……うちの居候のさつきですよ。

 ちなみに、履歴書に書いた住所は明神さまの御旅所。

 そこから通うふりして、実際は、姿を消してからうちの家に戻って来る。

「そんな長時間、よく実体化していられるわねえ」

 わたしに憑りついたころは、ほんの二三分の実体化が限界だったのに。

「ああ、明日香から、ずいぶんエネルギーもらったからなあ」

「勝手に、エネルギー持ってかないでよね」

「いいじゃないか、有り余ってるんだし」

「余ってなんかないよ!」

「いやいや、余ってるぞ。ほっとくと零れてしまうから、使ってやってるんだ。感謝しろよ」

「するか!」

「ほらほら、その元気さ」

「ムー、どうやってエネルギー抜いてんのよ!?」

「ああ、これでな」

「え、USBケーブル?」

「うん、明日香のおへそに端子があったからな」

「うそ?」

 ジャージをめくってみるけど、そんなものはない。

「ほんとうは、お尻にある」

「ええ(;'∀')!?」

 慌ててお尻を押える。

「アハハ、明日香のそういうとこさ。ほら、チャージが始まったから、パイロットランプがついただろ」

「え、どこ?」

「わたしの瞳だよ」

「うん……」

 グイッと突き出した顔。たしかに、瞳の真ん中が青く光ってる。

 で、急速に眠気が湧いて来て……あ、またやられた?

 

※ 主な登場人物

  •  鈴木 明日香       明神男坂下に住む高校一年生
  •  東風 爽子        明日香の学校の先生 国語 演劇部顧問
  •  香里奈          部活の仲間
  •  お父さん
  •  お母さん         今日子
  •  伯母さん
  •  巫女さん
  •  だんご屋のおばちゃん
  •  関根先輩         中学の先輩
  •  美保先輩         田辺美保
  •  馬場先輩         イケメンの美術部
  •  佐渡くん         不登校ぎみの同級生
  •  将門さま         神田明神
  •  さつき          将門さまの娘 別名滝夜叉姫

 

 

 

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