銀河太平記・154
孫大人と二人でブンカ―のスポンソン(海側に張り出した連絡通路)に出る。
「あんたと喋っていると男言葉になってしまうからな」
「儂は、越萌マリでもいいぞ。ネットで時々見とるが、カルチェタランのマダムに負けん女っぷりだ(^▽^)」
「冷やかすな。あそこに見張り所がある、あそこまで行こう」
「あんなとこまでかぁ……足もとがスノコというのは、どうも落ち着かん」
「あそこなら、鉄板の床がある、キャッツウォークよりはいいだろ。なんなら、アンテナのスポンソンまで行くか?」
「勘弁してくれ、あそこはジャッキステーを上らなきゃならん。儂はサーカスをしにきたわけじゃない」
「じゃ、見張り所だ」
見張り所と云ってもリアルに見張りが立っているわけではない、将来の拡張性を考えて設置されたものだ。
西之島が市制を布くにあたって、さまざまな助言をしてきたが、このブンカ―の機能を100%使うようなことは無いだろうと踏んでいた。
平時は全天候型の荷役港や荒天時の避難港になればと進言したが、及川市長は本気で整備した。
官僚時代にはいろいろ軋轢もあったようだが、立派に市長職をこなしている。
「四方を海に囲まれているせいかね、潮風と海風に晒されて、人が磨かれていくいくようで、面白いなあ」
「孫大人が殊勝気に褒めると蕁麻疹が出るぞ」
「アイヤー、そのきれいな肌に蕁麻疹を出させては申し訳ないアル。悪党に切り替えようか」
大人とは満州で司令官をやっていたころからの付き合いだ、バカ話を続けていたいが、そうもいかない。
「念を押しておく、大人は島の味方をしてくれるんだな?」
「儂は、関羽将軍の味方アル」
「関帝、商売の神さまだな。でも、漢明の神さまだ」
「商売はインターナショナルさ。その目で見れば、今の漢明は敵。その次にできる国に賭けるよ。西之島は、いい投資先だ。カッてもらわなければ困る」
「漢明は、西之島遠征軍を反乱軍認定して、国際世論を味方に付けたな」
「劉宏大統領は賢い、反乱軍鎮圧を名目にして、ついでに西之島にも進駐するつもりだ。日本政府は事変不拡大の方針で、出撃をためらっている。手を打たないと、数年後には劉宏に盗られてしまう」
「劉宏のこと、どこまで知ってる?」
「手の内は明かせないが、劉宏はあんたと同じニオイがする」
「やつの本性は劉宏だが、入れ物としての劉宏は死につつある。劉宏の体に入っていては全力を発揮できない。やがて、ソウルを100%王春華に遷すさざるを得ない」
「アイヤー、元帥も劉宏の秘密を知ってるアルかぁ!?」
「劉宏の姿をしているからこそ大統領でいられる。おそらく、想像もつかない奇策に出てくる。その第一歩が反乱軍認定だ」
「ひとつ聞いていいアルか?」
「なんだ?」
「氷川社長は親王を名乗って綸旨を発したアル」
「日本政府が救援を送ってこないんだ、自存自衛のためには仕方あるまい。実際、相当のボランティアが集結しつつあるぞ」
「しかし、元帥」
「なんだ!?」
「元帥は、今上陛下の元帥アル」
「そうだ」
「皇統を二分することになるアル」
「島の独立を確保するのが緊急の課題だ。パルスギの管理を島の者以外に渡すわけにはいかん」
「それもそうアル。パルスギを握れば世界を征服できるアル」
「想像したくないがな」
「政府は別にして、日本国内で秋宮睦仁親王の人気はうなぎ上りアル」
「あくまで方便だ、氷室社長に野心はない。さっき本人に会って確信した。わたしも、ここではシマイルカンパニーの越萌マリとして力を尽くすのだ」
「元帥のソウル丸出しででアルか?」
「え、あ、越萌マリです(^o^;)!」
「ちょっと気持ち悪いアル(ー_ー)」
「貴様……あ、あなたの中国風もキモイですわよ!」
「儂のはお国言葉アル!」
「アルアルは中国語じゃないですわよ!」
「色気出しながら怒るなアル!」
「なによ、この猪八戒!」
「そっちこそ、鉄扇公主!」
「人を妖怪みたいに言うな!」
子どものいじり合いのようになってきた。
「前線偵察の用意ができました」
二人そろってバカになりそうなところにヨイチ准尉が飛行モードのパルスバイクで現れ、思考を元に戻すことができた。
☆彡この章の主な登場人物
- 大石 一 (おおいし いち) 扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
- 穴山 彦 (あなやま ひこ) 扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
- 緒方 未来(おがた みく) 扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
- 平賀 照 (ひらが てる) 扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
- 加藤 恵 天狗党のメンバー 緒方未来に擬態して、もとに戻らない
- 姉崎すみれ(あねざきすみれ) 扶桑第三高校の教師、四人の担任
- 扶桑 道隆 扶桑幕府将軍
- 本多 兵二(ほんだ へいじ) 将軍付小姓、彦と中学同窓
- 胡蝶 小姓頭
- 児玉元帥(児玉隆三) 地球に帰還してからは越萌マイ
- 孫 悟兵(孫大人) 児玉元帥の友人
- 森ノ宮茂仁親王 心子内親王はシゲさんと呼ぶ
- ヨイチ 児玉元帥の副官
- マーク ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
- アルルカン 太陽系一の賞金首
- 氷室(氷室 睦仁) 西ノ島 氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
- 村長(マヌエリト) 西ノ島 ナバホ村村長
- 主席(周 温雷) 西ノ島 フートンの代表者
- 及川 軍平 西之島市市長
- 須磨宮心子内親王(ココちゃん) 今上陛下の妹宮の娘
- 劉 宏 漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官
- 王 春華 漢明国大統領付き通訳兼秘書
※ 事項
- 扶桑政府 火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
- カサギ 扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
- グノーシス侵略 百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
- 扶桑通信 修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
- 西ノ島 硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
- パルス鉱 23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
- 氷室神社 シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王