鳴かぬなら 信長転生記
目が覚めると、また例の田園風景。
この前とは逆の方向に体を捻る。
ガチャリ
やはり草摺りの鳴る音がして鎧を着こんでいることが分かる、手で触れればやはり鶴姫の胴丸鎧だ。
しかし、反対側に体を捻ったので見えているのは土煙を上げて進軍する軍勢ではない。
子どもの頃に遊びまわった尾張の村々だ……が、少し様子が変だ。
尾張は美濃と並んで実り豊かなところだ。
平手の爺に習った知識では、平安の昔から上国に分類され、都の中級貴族どもは進んで国司になりたがった。
中級だから都での出世は望めないが、甘い汁をいっぱい吸って私腹を肥やすために都に近い上国に行きたがる。
そんな国司は迷惑千万なのだが、そういう国司たちにむしり取られても、まだ余りある豊かさがあった。
だから、尾張の村々は、どこでも活気があった。
村人たちは田楽の歌や拍子に合わせて田植えや稲刈りに励み、手伝いの終わった子らはあぜ道を走り回って遊んでいた。
田んぼは稲刈りが済んだ後か…………いや、これは早田刈りだ!
賊どもが村々を襲い、刈り入れ寸前の田畑の実りを根こそぎ刈っていく狼藉だ。
百姓が愛しむようにして刈った跡ではない。後妻打ち(うわなりうち)にあってジャキジャキに髪を刈られた女の頭のように無残だ。
村が焼かれた気配はない。
おそらくは、一度の襲撃では稲を刈るのが精いっぱいで、時を改めて二度目の襲撃に来る腹積もりなんだ。近隣の村々も同じ目に遭っているに違いない。
あぜ道を進んで村の入り口に来ると、首が晒してあった。
髪を大童にした若者の首だ……首筋の肉付きもよく、死してなおキリっと口を結んで、目こそつぶっているが眉尻は上がって、なかなかに逞しい。
見下ろすと、晒木の下には赤い布切れ……紐が付いているので下帯(フンドシ)かと思ったが、広げて見ると腹掛け。
その赤い腹掛けの真ん中には、太々と金色で金の一字が書かれている。
こいつ、金太郎か!?
「今度は、わたしも付いていきます」
右の腰が軽くなったかと思うと、あっちゃんが巫女服姿で現れた。
「わしも力になろう」
今度はオモイカネの爺さんが現れる。
「グ、今さらという感じがするぞ」
「そう申すな、今度は、百姓たちにも迷惑をかけておる、数は多い方が良い」
「アハハ、三人だけだけどね」
「人相の悪い鎧女が乗り込んだら、百姓たちは逃げてしまう」
「誰が着せた鎧だ」
「必要だからじゃ。さ、まずは村の中へ……」
そう言うとオモイカネはさっさと村の中に進んでいく。
神主風のオモイカネ、巫女服のあっちゃん、それに鎧姿の俺。
まあ、名のある神社の神主が巫女と護衛を連れてやってきたぐらいには見える。
その効き目があったのか、村の広場に至るころには恐る恐るながらも村人が集まってきた。
☆彡 主な登場人物
- 織田 信長 本能寺の変で討ち取られて転生 ニイ(三国志での偽名)
- 熱田 敦子(熱田大神) 信長担当の尾張の神さま
- 織田 市 信長の妹 シイ(三国志での偽名)
- 平手 美姫 信長のクラス担任
- 武田 信玄 同級生
- 上杉 謙信 同級生
- 古田 織部 茶華道部の眼鏡っ子 越後屋(三国志での偽名)
- 宮本 武蔵 孤高の剣聖
- 二宮 忠八 市の友だち 紙飛行機の神さま
- 雑賀 孫一 クラスメート
- 松平 元康 クラスメート 後の徳川家康
- リュドミラ 旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ 劉度(三国志での偽名)
- 今川 義元 学院生徒会長
- 坂本 乙女 学園生徒会長
- 曹茶姫 魏の女将軍 部下(備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
- 諸葛茶孔明 漢の軍師兼丞相
- 大橋紅茶妃 呉の孫策妃 コウちゃん
- 孫権 呉王孫策の弟 大橋の義弟
- 天照大神 御山の御祭神 弟に素戔嗚