大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

くノ一その一今のうち・51『魔石の感触』

2023-04-16 17:09:18 | 小説3

くノ一その一今のうち

51『魔石の感触』 

 

 

 事故や病気で手足を失うことがある。

 失ってしばらくは、失くした方の手や足が痒くなって、掻こうと手を伸ばして――ああ、無いんだ――ということがあるらしい。

 

 それに似ている、失くした魔石。

 

 七日ぶりに学校へ行く電車の中、もう二回も感じている。胸の谷間に魔石がぶら下がってる感じ。

 その都度手を当ててみる。

 むろん失くした魔石があるわけもなく、胸をさすって俯いておく。

 アイドルグループの子に、緊張すると胸をさするクセの子がいたっけ。

 胸をさする仕草と、ヘタレ眉が可愛くて、物真似タレントが決め技みたいにやってウケていた。

 わたしがやったって可愛くない。物真似タレントみたいにウケることもない。

 

 よし、もうやらないでおこうと決心する。

 

 今朝は運よく座れた。前にいっぱい人も立ってるし、目立つことは止めておこう。

 仕事中や任務中は、こんなに内省的になることはない。

 まあやの付き人、時どき代役として充実してる。業界の人たちは、可愛いとかブスとかで対応を変えることはない。

 この業界、可愛い子なんて掃いて捨てるほどいるし、ブスでも活躍してる人がいっぱいいる。

 だけど、制服着てJKというリアルに戻ると、元に戻ってしまう。

 たいていの高校のたいていのクラスに一人はいるジミ子。

 わたしの場合は、その上に二つ名まで付いて、ブス ジミ子。

 

 ちょっと自虐すぎ……

 

 スマホを出してまぎらわせる。

 ニュースをスクロールしていて手が停まる。

 

―― 諏訪湖で局地的異常気象 ――

 

 深夜の諏訪湖に突然竜巻が荒れ狂う。竜巻は、諏訪湖の中央部で発生、稲光を伴い、十数分荒れ狂った後に消滅。気象庁は、単純な竜巻であるとしているが、あまりに均整のとれた形と不動のまま消滅したことから、地元では冬場に起こる御神渡り同様に神の意思を示すものと噂されている。

 説明と、あちこちの防犯カメラやスマホで撮られた映像がいっぱい出ている。

 

 神の御意思なんかじゃない。

 

 猿飛佐助が草原の国の幻術とコラボして埋蔵金をテレポさせている証拠の映像。

 でも、十数分で消滅している。消滅前の数秒を繰り返して見る。

 欲目かもしれないけど、何かに邪魔されてたち切れているように見える。

 社長はみんなで阻止した的なことを言っていた。埋蔵金のいくらかは転送を阻止できたって。

 どれくらい阻止できたかは言ってくれなかったけど、あの洞窟での言葉は気休めではない……と信じたい。

 

 あ?

 

 また胸に魔石の感触。

 思わず胸に手をやって……え、魔石ある( ゚Д゚)!?

 抑えた手にピンポン玉を半分に切ったような手応え。制服の上から握ってみる。

 え、ええ!?

 マジックみたいに手応えが消えて、思わずセーラーの胸当てを引っ張って覗いてしまう。

 とたんに前からの視線を感じる。

 見上げると、オッサン二人と大学生風の顔。揃って――え、残念!――と表情が裏返る。

 そんな、ラッキースケベが地獄になったみたいな顔すんな!

 

 これは、学校行ってもろくなことないと俯きながら改札を出ると、同じ制服が横に並ぶ。

 

 ちょうどロータリーを周って目の前にバンが停まって窓ガラスに二人の顔が映る。

 え、ドッペルゲンガー!?

 すると、隣のわたしが口を開く。

「しばらく大阪に行け、学校は儂たちが交代で通っておく」

 わたしの声が社長の言い回し。

 やり過ごしたバンのドアが開いて嫁持ちさんの顔が覗いて、わたしは当たり前のように乗り込んだ。

 

 あとに続いて猫が乗ってきたのは、わたしも社長も嫁持ちさんも気づかなかった。

 

☆彡 主な登場人物

  • 風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち
  • 風間 その子       風間そのの祖母(下忍)
  • 百地三太夫        百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
  • 鈴木 まあや       アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
  • 忍冬堂          百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
  • 徳川社長         徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
  • 服部課長代理       服部半三(中忍) 脚本家・三村紘一
  • 十五代目猿飛佐助     もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者
  • 多田さん         照明技師で猿飛佐助の手下
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RE・かの世界この世界:070『ローゼンシュタット・3』

2023-04-16 07:19:17 | 時かける少女

RE・

70『ローゼンシュタット・3』テル 

 

 

 プリンツェシン・ローゼンの降誕祭にやってきたのは偶然だ。

 ノルデン鉄橋が装甲列車の爆発で通行不能となり、ムヘンの首邑ムヘンブルグとムヘン最大の港湾都市ノルデンハーフェンを結ぶ街道はグスタフで途切れ、街道上の宿場は足止めを食らった隊商や旅人で一杯になってしまった。

 やむなく街道を逸れた町か村で泊らざるを得なくなり、広げた地図で、たまたま見つけたのがローゼンシュタットだったのだ。

 見つけたのが、気まぐれ姫のブリュンヒルデなのだから、深慮遠謀などあるはずもない。

 それが、ローゼンシュタットの司祭で老魔導士でもあるゼイオン・タングステンの予言通りで、横断幕やら迎賓館まで用意しての歓待ぶりだ。

 

「なにか隠していることはないのか?」

 

 歓迎レセプションが終わった後、迎賓館の庭にタングリスを連れ出して聞いてみた。

「無いと思うが」

「オーディンに会いに行くのは、オーディンとブリュンヒルデの間に確執……話し合わなければならないことがあるからなんだよな?」

「さすがはテル、的を絞った質問だな」

「なんなんだ、その確執とは?」

「それは……意見が合わぬからなのだ」

「なにについての意見だ?」

「言えぬ」

「なあ、これから長い旅になりそうだ。できるだけ、信頼関係をもって旅をしたいじゃないか、思わないか?」

「思うよ。思うし、あんたのこともケイトのことも仲間だと思っている。わたしも姫も」

「だったら……」

「ここで、あんたに分かりやすく説明することはできるんだが、それでは一面しか説明したことにしかならないんだ。そういう浅い理解は有害でさえある」

「しかし……」

「たとえばだ……」

 すると、戦車兵用の手袋を外して、ちょうど目の前のバラの花に止まった蝶々に手を伸ばす。見かけの割に男勝りのタングリスだが、こういう仕草は意外に女性的だ。

「蝶々の説明をしたいのに、目の前にいるのは毛虫だったとしろ。説明を受けているテルは蝶々を見たこともないとしろ。毛虫の説明をしても蝶々のイメージは分からないだろう、毛虫の説明をいくらしても本質である蝶々からは離れていくばかりだ。もし、蝶々の姿が見たいなら、もう少し我々に付き合ってくれ」

「蝶々ねぇ……そんなふうにはぐらかすあんたは、可愛くないよ」

「フフ、これでもトール元帥の副官を務める軍人だからな」

「もう一つ聞いていいか?」

「答えられることならな」

 蝶々を離してやると、タングリスはわたしに向き直った。

「グスタフからこっち、クリーチャーには出くわさないんだが?」

「じつはな…………クリーチャーと共生しようという奴らが居るんだ」

「クリーチャーと!?」

「ああ、テル、あんたらがこの世界に来て出会ったクリーチャーはほんの一部だ。説明は難しいが、この世界にはいろんなクリーチャーが居る。そのクリーチャーと対決するんじゃなくて共生しようと言うんだ」

「クリーチャーとか(;'∀')?」

「他にも事情はあるんだが、そいつらが、力で我々を……オーディンの秩序を破壊しようとしている。その戦いがあるんだ」

 
 タングリス殿ーーーーぉ!

 
 迎賓館の方で呼ばわる声がして、ヒョイと肩をすくめて、タングリスは大股で行ってしまった。

 
 すぐに戻るのも億劫だ。

 ふと見上げた夜空には恐ろしいほどクリアーな月が浮かんでいる。

 マジマジ月を見るのはムヘンの流刑地でヒルデの戒めを解いてやって以来……あのころはブリと縮めて呼んでいた。

 ほんの四五歳にしか見えない我がまま幼女には相応しかった。

 それが、いつの間にかヒルデに変わっている。少し毒を感じさせる愛称……いつの間にか変わってしまった。

 フフ

 思わず笑ってしまった。蝶々に重ね合わせるには、まだまだガサツな少女だ。

 さて、どんな変わり方をするのか……え、なんだか楽しみにしていないか?

 そもそも、わたしの旅は……と、自分のことを考えようと思うと、月は雲間に隠れてしまった。

 

 

☆ ステータス

 HP:2500 MP:1200 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・35 マップ:4 金の針:20 所持金:500ギル(リポ払い残高80000ギル)
 装備:剣士の装備レベル10(トールソード) 弓兵の装備レベル10(トールボウ)
 憶えたオーバードライブ:ブロンズヒール(ケイト) ブロンズスプラッシュ(テル)

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

 テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

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