大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

パペッティア・009『みなみ大尉の家』

2023-04-13 15:32:48 | トモコパラドクス

ペッティア    

009『みなみ大尉の家』夏子 

 

 

 みなみ大尉の家はカルデラの北側にある。

 

 カルデラっていうのは、ファーストアクトでヨミのミサイルが命中して出来た巨大クレーター。

 ミサイルの弾頭には広島型原爆の何十倍とかいうアクイが籠められている。

 アクイというのは悪意からきてるんだけど、現時点では解析不能なヨミのエネルギーのことで、日本の学者が「悪意としか言いようがない」と評したことでアクイという表現が定着したんだって。

 破壊力はすごいんだけど、核兵器のように放射能とかは無いから、気持ちさえ折れなければ回復はできる。

 同じところに墜ちる可能性は低いだろうということで、その巨大クレーター中を特務のベースが作られた。

 クレーターの縁には高さ100メートルのカルデラの壁が出来た。真上から落ちてくるミサイルや航空攻撃には意味のない壁なんだけど、カルデラの外からの爆風や衝撃を防ぐには有効。それに警備やベースの秘匿性を確保するのにも好都合なので、ここに日本最大の対ヨミ戦のベースが作られた。

 一般人の居住は許されてないけど、直径3キロのカルデラはベースの施設を作っても地面としては余りまくり。

 そこで、幹部や軍属は家を建てて住むことを許可されている。

 人気は日当たりの順、北⇒西⇒東⇒南 という感じ。

 

 みなみ大尉の家は、通称北区のさらに北。カルデラの壁がすぐ後ろに迫っている棚のようなところに建っている。

 

「ここよ」

「え?」

 みなみ大尉の示したのは、どこかデジャヴな平屋建てで、表札が『磯野・フグ田』になっている。

「あ、また剝がれてる」

 門柱の下にハガキ大の段ボールが落ちていて、その裏に『高山』とマジックで書かれている。

「この家って……ひょっとして『サザエさん』の家?」

「あはは、設計とかめんどくさくってさ、サンプルのデータそのまま打ち込んじゃった。のび太君の家でもよかったんだけど、どうせなら平屋の方がいいかなって(^_^;)」

 ああ……3Dプリンターで作ったんだ。

「でも、表札くらい」

「うん、あとで好きに貼ったらいいからね」

 いや、そういう問題じゃ……

「あ、それから!」

「あ、何ですか?」

「基地に居る時は仕方ないけど、家に帰って『みなみ大尉』は禁止だぞ」

「え、あ、言ってないと思いますけど(^o^;)」

「顔に書いてある、みなみ大尉って言ってる顔だぞ」

「アハハ、気を付けます」

「うん、素直でよろしい」

 

 そして、家に入ってビックリした……。

 

 サザエさん仕様だから、普通の言い方をすると4LDKで、二人で暮らすには十分な広さと間数。

 それが、いったい何人で暮らしてるんだ!?

 というぐらいに散らかっている!

「どの部屋にもお布団があるんですけど? っていうか、五六人が住んでますよね、この家?」

「あ、いや……」

「ワ、めちゃくちゃ洗い物溜まって、ハエとか飛んでるし!」

「まかせといて!」

 プシュー! プシュプシュー! プシュー!

 ガスコンロの横の殺虫剤を掴んだかと思うと、的確にハエの鼻先10センチで噴霧、瞬くうちに8匹のハエを撃ち落とした。

「さっすがー! と言ってあげたいとこですけど、なんでキッチンでハエが湧いてるんですか!?」

「ああ、ついめんどくさくて……」

「それに、ガスコンロの横に殺虫スプレーって危なくないですか!?」

「いざとなったら、火炎放射器になるし」

「他の人は、なにも言わないんですか(-_-;)?」

「え、あ、だって、一人住まいだし」

「そんなわけないでしょ。シンクや食卓に食器いっぱいだし、どの部屋もお布団敷きっぱなしだし、少なくとも四人は住んでますよ」

「あ……いや、それはだね。わたしは特務でも重要な任務に就いてるから、いつ命を狙われるか分からないから。ね、日によって寝る部屋を変えてるんだよ。アーハッハッハ、優秀な特務隊員は辛いねえ」

「一人で、これだけ散らかしてるんですか!?」

「ウ……いや、だからあ」

「ま、まさか、これ片づけさせるために、わたしをここに住まわせるんですか!?」

「いやいや、ここ一週間帰れてなかったから忘れてた(^_^;)、っていうか、ま、とりあえずナッツが住む部屋だけでも片づけよう! どの部屋にする?」

「……うう」

 十秒悩んで、子ども部屋にした。

 理由は簡単、四畳半でいちばん狭くて片づける面積が小さい。

 それから、トイレとお風呂の掃除と、そこへ行く廊下というか動線を確保。

 台所は、シンクに溜まった食器だけ洗う(ハエが湧くから)。

 わたしもみなみさんも、それ以上の気力が無くって、カルデラの外の中華屋さんで夕食。

「ごめんね、ナッツ。今夜も泊りなの。家もあんなだし、徳川曹長に頼んで家事ロボット貸してもらうわ。ほんとは左官以上でないと貸してもらえないんだけどね、まあ、いちおう大尉だしぃ、前借的に頼んでみる」

「そんな融通きくんですか?」

「大丈夫よ! 司令のお嬢さん預かってるんだしぃ(^▽^)/」

「わたしをダシにしないでください」

「まあ、ドンと任せておきなさい!」

 ドン!

 胸を叩くと、とても充実した音がした。

 どっちかっていうと小柄なみなみさんだけど、けっこう質量はありそう。

「あ、見かけよりも重そうとか思ったでしょ!」

「あ、いえ、違います( >△<)」

 雑なようで、微妙に勘は鋭い。

 

 カルデラに戻ったところでみなみさんは基地に戻って、わたしは、ザっとお風呂に入って一部屋だけ片づけた四畳半で寝た。

 えと……明日はどうしたらいいんだろう?

 

☆彡 主な登場人物

  • 舵  夏子       高校一年生 自他ともにナッツと呼ぶ。
  • 舵  晋三       夏子の兄
  • 舵  研一       特務旅団司令  夏子と晋三の父
  • 井上 幸子       夏子のバイトともだち
  • 高安みなみ       特務旅団大尉
  • 徳川曹長        主計科の下士官

 

 

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RE・かの世界この世界:067『腹が鳴る』

2023-04-13 06:27:37 | 時かける少女

RE・

67『腹が鳴る』テル 

 

 

 ローゼシュタットに向かうには街道を西に外れる。

 
 西に外れるまでには宿場町が二つある。

 シュタインドルフを出てからベッドで寝たことが無いので、ホテルや軍の宿泊施設を横目に殺すのは努力がいった。

 燃料補給に立ち寄った補給処はちょうど昼食の準備中で、揚げ物のいい匂いがしていた。

「燃料補給が済めば直ちに西に進路をとる。昼食は走行中にレーション(携行食糧)で済ませるぞ」

 ヒルデの、ちょっとムキになった宣言は命令と言うよりは自分自身への戒めの響きがある。

 タングリスが車長に指名したのは正解だと思う。ヒルデは与えられた立場によって変わっていく性格のようだ。ムヘンブルグを出発する寸前、ケイトを連れて小学生のようにお八つを買い込んでいたのがウソのように思える。

 補給処の整備兵がエンジンとトランスミッションのチェックをしてくれて、予定よりも五分オーバーで出発。

 
 グーーーーーーーー

「あ~~揚げ物の匂いが離れないよ~(◞‸◟)」

 
 ロキが盛大にお腹を鳴らしながらグチる。

「あたしも……」

 歳が近いケイトも装填手シートでお腹を押さえている。

 この嗅覚的幻想が消えない限り大味なレーションを食べようという気にはならない。

 それにしても、この匂いはしつこい。恥ずかしながら唾が湧く(^_^;)。

「警戒を代わろう」

 半身を外に晒して警戒しているヒルデに声を掛ける。車内で腹の虫が鳴ってはみっともないのだ。

 身をよじってヒルデと交代……しようとしたら揚げ物の嗅覚的幻想が一段と強くなった。

「食べる余裕がなかったので調達してきた」

 操縦席から紙袋が差し出された。

 なんと、タングリスが人数分の揚げ物を、コッソリと仕入れていてくれていたのだ。

「いつのまに!?」

「停車するわけにはいかないが、食べてくれ」

 補給の間もタングリスは四号を離れていない、おそらくは、補給処の隊員とはツーカーの仲なのだ。そして、こういう気の利かせ方も含めてのコマンダーだということをヒルデに示しているのだろう。

「ローゼンシュタットの受け入れはいいのか?」

 揚げ物を受け取りながらヒルデが聞く。

「補給処の定時連絡で入れてもらっています、むろん暗号ですが。十マイルに差し掛かったところで、もう一度連絡、それは車長からお願いします」

「暗号でか?」

「これが暗号書です、ロキも勉強しておけ」

「オレも? うわー、なんだか数学の本みたいだ!」

 四号は、ローゼンシュタットを見下ろす峠に差し掛かろうとしていた……。

 

☆ ステータス

 HP:2500 MP:1200 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・35 マップ:4 金の針:20 所持金:500ギル(リポ払い残高80000ギル)
 装備:剣士の装備レベル10(トールソード) 弓兵の装備レベル10(トールボウ)
 憶えたオーバードライブ:ブロンズヒール(ケイト) ブロンズスプラッシュ(テル)

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

 テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
  ケイト(小山内健人)  小早川照姫の幼なじみ ペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   事故で光子に殺される 回避すれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

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