大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

鳴かぬなら 信長転生記 116『天照のゆで卵』

2023-04-02 17:15:28 | ノベル2

ら 信長転生記

116『天照のゆで卵信長 

 

 

 鬼退治が終わって戻ったのは御山の頂上、例の石の前だ。

 

 日輪は、ようやく東の空に顔をのぞかせたばかりで、日輪の本性であるくせに天照は、まだ現れていない。

 石に耳を寄せると、クーークーーと寝息が聞こえる。

 チャランポランに見えて、あれでも扶桑の総鎮守、神さまの元締め。疲れも溜まっているのかもしれない。

 昔の俺ならキレているところだが、俺も扶桑の空気に馴染んだか。

 まあ、機嫌を損ねたらホットケーキが食えなくなるかもしれないしな。

 

「ごめんね、あんまり力になれなかったかもしれない」

 

 振り返ると、あっちゃんが見慣れた第一形態(俺の次に可愛い美少女)で済まなさそうにしている。

「まあいい、鬼退治では活躍してくれた。俺一人で百匹は鬼を切ったからな。並の陣太刀なら五匹も切れば、脂が載って駄目になるところだ」

「うん、でも、よく考えたら、天照大神さまは『素戔嗚をやっつけろ』って言ったんだよ」

「ああ」

「思金神(オモヒカネ)のお爺さんは鬼退治を助けろって言って、なんか変だなあって思いながらも、結局は鬼を退治したよね」

「ああ、桃太郎の纏う空気にはそういうものがある。桃の旗のもとに力を合わせなければという気持ちにさせる空気がな」

「あ、お目覚めになった!」

 あっちゃんの言葉に目を移すと、石に腰掛けた天照が現れた。

「…………」

「なんだ、まだ寝てるのか」

「え、あ、起きてるわよ……」

「なんだか、まだ脳みそが目覚めていない感じだぞ」

「ああ、だいじょうぶ。これは、いわばアバターだからね、アバターが寝ていても本性は起きてるしぃ……」

「なんか、怪しいぞ。なあ、あっちゃん……?」

 あっちゃんの姿が無い。

「あ、あっちゃんは垂迹だから、本地と同時には現れないよ」

「本地垂迹? ならば、天照は本地では無くて、大日如来の垂迹ではないのか?」

「上総之介は半端に知識人だから、話しにくいぞよ。まあ、アバターの一つだ。プレーヤーが、同時に二つのアバターを使うのはダメであろうが」

「まあいい。とにかく、思金神が言っていた『桃太郎の素戔嗚を助ける』というミッションはクリアーしたぞ」

「あ、どうもご苦労であった」

「で……」

「すまぬ。ホットケーキならご近所におすそ分けしてしまったぞ」

「ム…………」

「あ、ちょっと怒った?」

「まあいい、それは後だ。思金神の言うことと天照が言うことは矛盾しておる。思金神は桃太郎を助けろというし、天照はやっつけろと言う。まあ、その矛盾を矛盾と思いつつも俺はミッションコンプリートしてしまったんだがな、いささか気持ちが悪い」

「上総之介は理詰めで攻めてくるのじゃなあ……まあ、良いわ。ホットケーキは切らしてしまったが、極上のゆで卵が仕上がったところだ。食うか?」

「極上のゆで卵?」

「ああ、伊勢神宮、つまりわたしの家で飼っている鶏でな。日ごろは神鶏と云って、一般人には手に入らぬ卵じゃ。プリンを作るのに用意したんだが、余ったやつをゆで卵にしたんじゃ」

「プリンも好きだが、ゆで卵も好きだ。食うぞ!」

「ほい、これじゃ」

 目の前にゆで卵が現れた。さすがは神鶏、色、容、大きさ、どれをとっても極上のゆで卵。

「思い出した! これは、武田が滅亡した後で家康の労をねぎらうために用意させたディナーに付けたゆで卵!」

「え、あ、そうだった? いやあ、上総之介も料理を見る目があるではないか」

「あの時は、接待奉行の光秀がクソ生意気でムカついて……けっきょく、俺は食べずじまいだった」

「そうか、それは良かった。では、いっしょに食べよう」

「うむ」

 俺は甘いものに目が無いが、ゆで卵とか焼き芋とか、料理の付け合わせや素材やお八つになるようなものも好きだ。

 やっぱり、ガキの頃に、尾張の村々で遊んでいるうちに憶えた食い物が――美味い!――の原点になっている。

 ゆで卵の剥き方にはコツがある。

 最初にヒビを入れるところ。剝くときは、爪ではなく親指の腹を使うこと、中の薄皮の方向を見極めるとかな。

 うまくやると、ほんの二剥きほどで、スルリと剥ける。

 

「兄さまだけきれいに剥けてじゅるぃ~」

 

 市が僻んだもんだ。じゅるい~というところは、単に舌が回らないだけではなくて、口の中に唾が溜まって「じゅるぃ~」になる。見た目が美幼女の市がヨダレを垂らしまくるのが面白くて、よくやって泣かせたものだ。

 市が剥いたゆで卵は、平手の爺の顔のようにゴツゴツになった。

「お、市のは爺卵じゃ! 爺卵じゃ!」

 囃し立てると、並のガキならワンワン鳴くが、あいつは掴みかかってきおった。おもしろい妹だった。

「お泣きなさるな、姫さまには、爺が剥いたのをあげましょう」

 爺が武骨な手には似合わぬ器用さできれいに剥く。

 爺は、前髪の小姓の頃から親父(信秀)に鍛えられた一徹もの、武芸や戦のことだけではなく、掃除や料理など、碑女、下郎がやる仕事まで知悉しておった。爺も俺と同じくらい卵の剥き方が上手かった。

 市が、爺の卵を嫌がるようなら張り倒してやろうと思ったが「しゅまんのう、ジイ!」そう言って、爺の卵を俺と並んで美味そうに食いおった。爺もニコニコしながら、市の剥いた卵を食っていた……。

 

「ほう、上総之介にも、そんな子供時代があったのじゃなあ」

 

「ム、勝手に人の心を覗くな(-_-;)」

「弟の信行の時は違ったな」

「ん……ああ。勘十郎(信行の幼名)の時は焼き芋だった」

「弟は、爺の焼き芋を食べなかった。しかし、上総之介、その時は弟を張り倒さなかったな」

「張り倒す値打ちも無い。奴は、爺が剥いた芋は汚いと思っておった」

「爺思いなんじゃな」

「ちがう。奴は物の値打ちが分からん男だ。美味くて量があれば誰が剥こうが同じゆで卵、同じ焼き芋だ。それを爺の手が触ったことで忌避するやつはバカだ、張り倒す値打ちも無い」

「そうか……」

 俺は、後に信行を刺し殺している……それには触れないのか……まあ、いいがな。

「上総之介、もう一つ残っているゆで卵、食べてもよいぞ」

「そうか、では、いただく……」

「ただし、殻は剥かずにな」

 

「なに?」

 

「そういうことなのじゃ、素戔嗚を成敗するには、まず殻を剥かなくてはならん。上総之介は、やっとその殻を……」

「剥いたところなのか?」

「まあ、半分な。ぜんぶ剥けたら、その時にわたしが出向く……さて、目も覚めた、仕事にかかるとしようかのう」

 

 カーー カーー

 

 ついさっき夜が明けたところなのに、もう日が暮れかかっている。

 

「で、あるか……」

「お互い、兄弟姉妹のことでは苦労するのう……励め、上総之介……」

 後姿で手を振ると、石と重なったところで天照は消えてしまった。

 

 とりあえずは、家に帰って寝ることにする。

 

 

☆彡 主な登場人物

  • 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生  ニイ(三国志での偽名)
  • 熱田 敦子(熱田大神) 信長担当の尾張の神さま
  • 織田 市        信長の妹  シイ(三国志での偽名)
  • 平手 美姫       信長のクラス担任
  • 武田 信玄       同級生
  • 上杉 謙信       同級生
  • 古田 織部       茶華道部の眼鏡っ子  越後屋(三国志での偽名)
  • 宮本 武蔵       孤高の剣聖
  • 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
  • 雑賀 孫一       クラスメート
  • 松平 元康       クラスメート 後の徳川家康
  • リュドミラ       旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ  劉度(三国志での偽名)
  • 今川 義元       学院生徒会長
  • 坂本 乙女       学園生徒会長
  • 曹茶姫         魏の女将軍 部下(備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
  • 諸葛茶孔明       漢の軍師兼丞相
  • 大橋紅茶妃       呉の孫策妃 コウちゃん
  • 孫権          呉王孫策の弟 大橋の義弟
  • 天照大神        御山の御祭神  弟に素戔嗚

 

 

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RE・かの世界この世界:056『堕天使ブリュンヒルデだぞ!』

2023-04-02 06:41:03 | 時かける少女

RE・

56『堕天使ブリュンヒルデだぞ!』テル  

 

 

 二号のエンジンでポンプを動かすのだ!

 

 普段の倍ほど目を輝かせて、ヒルデは宣言した。

 ムヘン街道での出会い以来、中二病的に言動が大げさなブリだが、この時は最高に大げさだった。

「タングニョーストが主命により四号を運んできたのは天啓である! シュタインドルフの村とヴァイゼンハオスを救い、その善行により我と我が眷属たちのステータスを上げるのだ! さあ、みな打ち揃って庭に集い、このブリュンヒルデの奇跡を目に焼けつけるがいい!」

「無理です、二号は十トンに満たない軽戦車とは言え、エンジンの重量だけで七百キロはあります。クレーンはおろか、目ぼしい工具も無い状態では作業できません」

 ここに至って身分を隠しても仕方がないので、タングリスは臣下の物言いで、しかし、キッパリとNOを突き付けた。

 タングリスの方が正しいと思う。

 ヒルデは確かにオーディンの娘で姫騎士で多少の武術には秀でている。が、それは、わたしやケイトと変わらない駆け出し勇者のレベルで、とても戦車のエンジンを抜きだしてポンプに付け替えるような力は無い。いや、魔法だ。小なりと言えど戦車だ。その戦車のエンジンを取り外すのにはクレーンが無い現状では重力魔法を使う以外に道はない。ヒルデの魔力は戦闘においてさえ三十キロそこそこの自分の体を飛ばせる程度でしかない。とても七百キロのエンジンを浮遊させてポンプ小屋に運べるものではない。それに、運んだ後にいろいろ繋いで、きちんと動かすには、電気技師のスキルか機械を魔法で操るマキナ系の魔力がいる。

「益体もないことを申すな! 我は、主神オーディーンの娘にして堕天使の宿命を背負いたるブリュンヒルデなるぞ。エンジンの一つや二つ意のままに動かせるぞ! 見よ!」

 ガチャ ゴトゴト ゴトン ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 庭の方で音がする。みんなで飛び出すと、二号のエンジンルームのカバーが開き、七百キロのエンジンが宙に浮きつつあった! 子どもたちは、それを取り巻いて胸をときめかせているではないか!

 うわあああああ(゜O゜)!

「みんな、危ないから、下がりなさい!」

 若いフリッグ先生が呼びかけるが、だれも耳に入っていない。

「目に焼き付けるがいい、堕天使ブリュンヒルデの秘めたる力を! さあ、エンジン! 汝は、この時よりシュタインドルフの命の水を絶やさず汲み上げる力となるのだ……汝エンジンに命ず! マキナとしてあるべき所に収まりて、ポンプを稼働せしめよ!」

 ヒルデが身をのけ反らしながら、高々と両の手を挙げる!

 すると、屋根ほどの高さに上がったエンジンはクルクルと旋回し、壊れたポンプ小屋からは、さまざまのパーツが磁石に吸い上げられるようにして衛星のようにエンジンの周囲を回り、次々とエンジンに接合。接合し終えると、エンジンは旋回を止め、そろりそろりと下りてきて、ジェネレーターに結合された。

 ブルン ブルブル ブルン…………

 エンジンが動き出し、同時にジェネレーターが発電を始めてモーターを動かし、ポンプが稼働した。

「見たか! ブリュンヒルデの力を!」

 決めポーズをとると、ヒルデはポーズのまま仰向けに倒れ、ケイトがかろうじて受け止めた。

「気絶してます」

 子どもたちが畏敬……というよりはヒーローショーの主役を見る眼差しで中二病の貴人をとりかこむ。何人かは、目が覚めたらサインをしてもらおうと色紙とサインペンを構えている。

「きみたち!」

 タングリスが忌々しそうに子どもたちに呼びかける。

「この人は堕天使なんかじゃない。もう、隠し立てしても仕方がないから言うぞ!」

 子どもたちは期待の眼差しでタングリスを見上げる。コホンと勿体を付けて、タングリスは宣言する。

「この人はね、主神オーディーンの娘のブリュンヒルデ姫殿下だ!」

「え、ただの姫さま……?」

「オーディンの娘ってことは、ただの神さま」

「神さまの娘だから……ま、見習いってとこ?」

「……」

 口に出しては言わないが、子どもたちは、あきらかに失望している。わけがわからん。

 

「みんなに話があります」

 

 院長先生が言うと、さすがに口をつぐむ子どもたち。

「魔法とか堕天使とかはいいんです。ブリュンヒルデ姫が渾身の力でポンプを動かしてくれたことをこそ喜び、その感謝を捧げなければなりません。そうでしょ?」

 子どもたちを促すように神妙な顔でコクコク頷くフリッグ先生。わたしたちも真似て頷くと、ようやく子どもたちも大人しくなった。

「ブリュンヒルデ姫とお付きの方々はヴァルハラを目指されています。ポンプも無事に直った今、みなさんの中から一人、お供をしてもらいます。ただのお供ではありません。あなたたちのお母さんの元に戻ってお母さんを助け、この世界に真の平和が訪れる手助けをするのです。もちろん、今回はお母さんの存在がはっきりした人になります。お供できるのは一人だけですが、他の人も残念に思ってはいけません。これを皮切りとして、いつの日か、みんなが、お母さんやお父さん、または、それに代わる人を見つけて、あるいは、十分な力を付けて、ここを巣立っていくのですからね」

 はーーい!

 みんな、お利口に返事する。おそらく、院長先生は、ここ一番というところでしか、こういう話をしないのだろう。

「ブァルハラへの旅は過酷です、厳しいものです、また、姫さまたちのお邪魔になってもいけません。ですので、一人に絞ります。ロキ、フレイ、フレイア、前に出て」

 三人は、一様にドキリとした顔になった。

 おずおずと前に出ては来たけれど、その緊張が喜びによるものなのか、未知の旅に対する不安なのか、わたしたちには分からなかった。

「それでは、決めます……ジャンケンで!」

 
 ズッコケてしまった。

 

☆ ステータス

 HP:2000 MP:1000 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー

 持ち物:ポーション・25 マップ:3 金の針:5 所持金:8000ギル

 装備:剣士の装備レベル10(トールソード) 弓兵の装備レベル10(トールボウ)

 憶えたオーバードライブ:ブロンズヒール(ケイト) ブロンズスプラッシュ(テル)

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

 テル(寺井光子)     二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)   今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 
 ヒルデ(ブリュンヒルデ) 無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘
 タングリス        トール元帥の副官 タングニョーストと共にブリの世話係

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

 

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