大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

鳴かぬなら 信長転生記 118『桃拾いの翁と媼』

2023-04-14 13:01:49 | ノベル2

ら 信長転生記

118『桃拾いの翁と媼信長 

 

 

 これはこれは神薙(かんなぎ)さま!

 

 村長らしいジジイが前に出て巫女服のあっちゃんを拝跪した。

 村人たちは、それに倣うように跪く者、蹲踞する者、地面に頭をこすり付ける者。いろいろの反応だが、完全にあっちゃんの方が偉いと判断している。

 まあ、あっちゃんの本性は熱田神宮の草薙剣で天照大神の分身でもある。神に仕える神薙と判断してもおかしくはない。

「そちが村長(むらおさ)であるな」

「はは、村長の桃拾いの翁、こちらは女房の桃拾いの媼でございます」

 こいつら、ひょっとして桃太郎の?

「わらわは、熱田大神に使える神薙である。大神様が『民草たちに難渋の兆しあり、疾く様子を見て参れ』とのご神意を被り、この地にまかり越した。これに従うは思金神(オモイカネノカミ)と毘沙門天に仕える神薙じゃ。安心して事の成り行きを話すがよいぞ」

「これはこれは……高天原最高の知恵の神、思金さまに、武神毘沙門天の神薙さままで。まことに畏れ多いことでございます」

「ジサマ、外では畏れ多い。うちの座敷にお招きいたしてお話を……」

「そうじゃそうじゃ、皆の衆。お話が済めば、あらためて集まってもらう。しばらくは家に戻っていてくれ」

 

 ということで、村の中で一番大きな村長の屋敷に向かった。

 屋敷には大きな桃の木が育っているのが塀越しに窺え、長屋門を潜ると、桃の木の幹は太々と逞しく、由々し気にしめ縄が巡らせてある。

「ここは、桃太郎ゆかりの村ですね」

 あっちゃんが切り出した。

「はい、お察しの通り桃太郎の村でございます」

「そして、わたしが桃の実を拾ってまいりました」

 やはり、桃拾いの二つ名はダテでは無かった。

「して、その桃太郎は? 村人の中には見えぬ様子であったが。申しにくいことかもしれぬが、我らは神薙、神の御心を戴しておる。隠さずに申してはくれぬか」

「はい……」

「それは……」

 あっちゃんは優しく聞くが、翁・媼とも言いにくそうに俯いてしまう。

「では、ワシから言おう。なに、推量じゃ。間違いがあれば言うてくれ」

 思金が身を乗り出した。

「村を攻めてきた鬼は○○○であろう」

「え、ご存知でしたか!?」

 思金が言うと、ジジイは目を剥き、ババアは両手を口に当ててのけ反った。

 さすがは思金、天照の知恵袋。

 だが、俺には○○○のところがよく聞こえない。

「はい、金太郎めが村を代表して掛け合いにまいりましたが、鬼どもは金太郎の首を切って村の田畑を早田刈りしてしまいました」

「鬼どもは、なにか申してはおらなんだかえ?」

「はい、ここは鬼の村にするから、村の者は全て立ち退くように……」

「鬼の村に?」

「はい、やっとここまでにした村でございます。先祖伝来の田畑、それをここまでに豊かに広げてまいった村の者の働きを思いますと、とても受け入れることは……」

「立ち退かねば、三日の後に村の者を皆殺しにすると……」

「お願いでございます、この地は熱田大神さまの御朱印地でもあります。なにとぞ、大神さまのお力を持ってお守りくださいますよう、これ、婆さんも」

「伏してお願い申し上げます」

「承知した。ただ、心得違いいたすな。ここは御朱印地ではない。御神領であるぞよ」

「これはご無礼を申し上げました(;'∀')」

「分かれば良し。ならば、さっそく鬼ヶ島に赴いて、話を付けよう。そなたたちも村人に話してやるがよかろう」

「「ははあ」」

「では参るか、思金、毘沙門」

 

 座敷を出るとあっちゃんは桃の木の前で立ち止まった。

 

「この桃の木は?」

「はい、桃太郎が種から育てた桃の木でございます」

「そうか、よい桃の実ができると良いな」

「「ははあ」」

 

 村長は、さっそく村人たちを集めている。

 それを尻目に我々は村の入り口に戻った。

「あっちゃん、俺に気を使ったな?」

「え、そう?」

「御朱印地とは、家康の幕府が朱印で認めた土地のこと。俺は神領として神社の支配を認めてやっていたからな」

「あ、あはは、ちょっとカマシてやりたくなった的な?」

「そうか。で、なんで俺が毘沙門なんだ。毘沙門は謙信のトレードマークだろ。だいいち男の神だし」

「ここはお伽の世界よ。リアルの真名はそぐわないし、隠密した時の織丹衣(しょくにい)では通じないでしょ。個人的にも毘沙門好きだしぃ。ほら、『ノラガミ』の毘沙門なんてステキなツンデレだしぃ」

「……で、あるか」

「おや、金太郎の首が?」

 思金の指さした晒木には、もう金太郎の首は無かった。

 我々の話に安堵した村人が引き取って葬ることにしてやったのだろう。

 人間安心すれば、他人への気配りや優しさも持てるというものだ。

「さあ、さっさと行くか……ん?」

 晒木から目を戻すと、二人の姿が無い。

『わたし刀でいくから!』

『儂は勾玉じゃ!』

 なるほど、腰の刀は草薙剣だし、首からは勾玉が……どうして肌着の下にいるんだ!?

『歳をとると温もりが恋しゅうてなあ……少し小さくはないか?』

「こ、こら! 揉むんじゃない(;゚Д゚#)!」

 

 ピーーーヒョロローーー

 

 トンビがクルリと輪を描いて、俺たちは鬼ヶ島を目指した。

 

☆彡 主な登場人物

  • 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生  ニイ(三国志での偽名)
  • 熱田 敦子(熱田大神) 信長担当の尾張の神さま
  • 織田 市        信長の妹  シイ(三国志での偽名)
  • 平手 美姫       信長のクラス担任
  • 武田 信玄       同級生
  • 上杉 謙信       同級生
  • 古田 織部       茶華道部の眼鏡っ子  越後屋(三国志での偽名)
  • 宮本 武蔵       孤高の剣聖
  • 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
  • 雑賀 孫一       クラスメート
  • 松平 元康       クラスメート 後の徳川家康
  • リュドミラ       旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ  劉度(三国志での偽名)
  • 今川 義元       学院生徒会長
  • 坂本 乙女       学園生徒会長
  • 曹茶姫         魏の女将軍 部下(備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
  • 諸葛茶孔明       漢の軍師兼丞相
  • 大橋紅茶妃       呉の孫策妃 コウちゃん
  • 孫権          呉王孫策の弟 大橋の義弟
  • 天照大神        御山の御祭神  弟に素戔嗚  部下に思金神(オモイカネノカミ)

 

 

 

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RE・かの世界この世界:068『ローゼンシュタット・1』

2023-04-14 06:54:20 | 時かける少女

RE・

68『ローゼンシュタット・1』テル 

 

 

 どっちが早かったのか……

 
 峠に差し掛かったところで「停まれ」とヒルデは命じた。

 同時に四号は停車した。

 
 当たり前なら、車長であるヒルデが命じて、即座に操縦手であるタングリスがブレーキを踏んだということなんだけど、すこし違うのだ。

 タングリスは、自分の判断で停車している。同時にヒルデも判断して命じている。

 四号は一匹の像が耳をそばだてるようにして停止した。

 具体的な変異や脅威を感じたわけではない。戦慣れした二人が同時に反射的に反応したことに車内に緊張が走る。

 五人の乗員は息を潜め、クリーチャーのポチもロキのポケットに潜り込んでしまった。

 

 ブルブルブルブルブル…………マイバッハV12エンジンの音だけが車内に響く。

 

「エンジンを切れ」

「エンジン切ります」

 ブリュン……

 四号はヒルデの真名の前半分を呟くようにしてなりを潜めた。

「え? どうかした?」

 付き合いの浅いロキには分からないようだ。

 
「Cアラームが反応したような気がしたんだ」

 
 ヒルデはCアラームを見つめる。Cアラーム(クリーチャー警報装置)は砲塔の天井にぶら下げてあり、砲手であるわたしの視界にも入っているのだが、アラームの反応には気づかなかったというかアラームは反応していないと思う。装填手のケイトも怪訝な顔をしている。

「タングリスは?」

「いや……ちょっと気配がしたもんでな。気のせいでしょ、進めてよろしいか?」

「ああ、前進しよう」

 ヨッコラショと動き出すと、バラの香りが車内にまで入り込んできた。

 そして、峠が下り坂になった瞬間、バラの花で溢れかえったローゼンシュタットの町が広がってきた。

 

 うわあ! 

 

 ロキが歓声をあげ、みんなも、それぞれのペリスコープや貼視孔から外を覗く。

 荒れ地同然の草原や灌木ばかりの、ゴルフで言えばラフやベアグランドのようなところばかり走ってきたので、お花畑のようなローゼンシュタットの町はため息が出そうなほど新鮮だ。

 
 パパパパーン!

 
 町の入り口に差し掛かると可愛い花火が打ち上げられ、『熱烈歓迎ブリュンヒルデ御一行様!』の懸垂幕が教会の尖塔に掲げられた。

 ハッチを開け、恐る恐る首を出す。

 

「ようこそ、お立ち寄りくださいました! ローゼンシュタットの町を代表いたしまして、町長のミュンツァーがご挨拶申し上げます!」

 

 同時に、町のあちこちから大人たちや子どもたちが現れて、バラの花びらを撒きながら歓待してくれた。

「い、いやあ……(^_^;)」

 戸惑ってしまった、我々は巡回警備の分遣隊ということになっている。いわば、ただのパトロールだ。

 どこの世界にパトロールを町ぐるみで歓待するところがあるというのだ。それも本人には内緒の誕生パーティーを開くように息を潜めて?

 ケイトとロキは無邪気に喜んでいるが、我々は当惑するばかりだ。

「承知しております、ですから、お名前の下の敬称は記しておりません」

 ……なるほど、ブリュンヒルデの下には『姫』だの『殿下』だのの敬称は記されていない。

「このようにバラ以外にはなんの取り柄もない町です。なにもございませんが、我が町、我が家と思ってお寛ぎください」

 詮索も野暮なようで、我々は、とりあえずはミュンツァー町長らの歓待を素直に受けることにした。

 

☆ ステータス

 HP:2500 MP:1200 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・35 マップ:4 金の針:20 所持金:500ギル(リポ払い残高80000ギル)
 装備:剣士の装備レベル10(トールソード) 弓兵の装備レベル10(トールボウ)
 憶えたオーバードライブ:ブロンズヒール(ケイト) ブロンズスプラッシュ(テル)

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

 テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

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