鳴かぬなら 信長転生記
これはこれは神薙(かんなぎ)さま!
村長らしいジジイが前に出て巫女服のあっちゃんを拝跪した。
村人たちは、それに倣うように跪く者、蹲踞する者、地面に頭をこすり付ける者。いろいろの反応だが、完全にあっちゃんの方が偉いと判断している。
まあ、あっちゃんの本性は熱田神宮の草薙剣で天照大神の分身でもある。神に仕える神薙と判断してもおかしくはない。
「そちが村長(むらおさ)であるな」
「はは、村長の桃拾いの翁、こちらは女房の桃拾いの媼でございます」
こいつら、ひょっとして桃太郎の?
「わらわは、熱田大神に使える神薙である。大神様が『民草たちに難渋の兆しあり、疾く様子を見て参れ』とのご神意を被り、この地にまかり越した。これに従うは思金神(オモイカネノカミ)と毘沙門天に仕える神薙じゃ。安心して事の成り行きを話すがよいぞ」
「これはこれは……高天原最高の知恵の神、思金さまに、武神毘沙門天の神薙さままで。まことに畏れ多いことでございます」
「ジサマ、外では畏れ多い。うちの座敷にお招きいたしてお話を……」
「そうじゃそうじゃ、皆の衆。お話が済めば、あらためて集まってもらう。しばらくは家に戻っていてくれ」
ということで、村の中で一番大きな村長の屋敷に向かった。
屋敷には大きな桃の木が育っているのが塀越しに窺え、長屋門を潜ると、桃の木の幹は太々と逞しく、由々し気にしめ縄が巡らせてある。
「ここは、桃太郎ゆかりの村ですね」
あっちゃんが切り出した。
「はい、お察しの通り桃太郎の村でございます」
「そして、わたしが桃の実を拾ってまいりました」
やはり、桃拾いの二つ名はダテでは無かった。
「して、その桃太郎は? 村人の中には見えぬ様子であったが。申しにくいことかもしれぬが、我らは神薙、神の御心を戴しておる。隠さずに申してはくれぬか」
「はい……」
「それは……」
あっちゃんは優しく聞くが、翁・媼とも言いにくそうに俯いてしまう。
「では、ワシから言おう。なに、推量じゃ。間違いがあれば言うてくれ」
思金が身を乗り出した。
「村を攻めてきた鬼は○○○であろう」
「え、ご存知でしたか!?」
思金が言うと、ジジイは目を剥き、ババアは両手を口に当ててのけ反った。
さすがは思金、天照の知恵袋。
だが、俺には○○○のところがよく聞こえない。
「はい、金太郎めが村を代表して掛け合いにまいりましたが、鬼どもは金太郎の首を切って村の田畑を早田刈りしてしまいました」
「鬼どもは、なにか申してはおらなんだかえ?」
「はい、ここは鬼の村にするから、村の者は全て立ち退くように……」
「鬼の村に?」
「はい、やっとここまでにした村でございます。先祖伝来の田畑、それをここまでに豊かに広げてまいった村の者の働きを思いますと、とても受け入れることは……」
「立ち退かねば、三日の後に村の者を皆殺しにすると……」
「お願いでございます、この地は熱田大神さまの御朱印地でもあります。なにとぞ、大神さまのお力を持ってお守りくださいますよう、これ、婆さんも」
「伏してお願い申し上げます」
「承知した。ただ、心得違いいたすな。ここは御朱印地ではない。御神領であるぞよ」
「これはご無礼を申し上げました(;'∀')」
「分かれば良し。ならば、さっそく鬼ヶ島に赴いて、話を付けよう。そなたたちも村人に話してやるがよかろう」
「「ははあ」」
「では参るか、思金、毘沙門」
座敷を出るとあっちゃんは桃の木の前で立ち止まった。
「この桃の木は?」
「はい、桃太郎が種から育てた桃の木でございます」
「そうか、よい桃の実ができると良いな」
「「ははあ」」
村長は、さっそく村人たちを集めている。
それを尻目に我々は村の入り口に戻った。
「あっちゃん、俺に気を使ったな?」
「え、そう?」
「御朱印地とは、家康の幕府が朱印で認めた土地のこと。俺は神領として神社の支配を認めてやっていたからな」
「あ、あはは、ちょっとカマシてやりたくなった的な?」
「そうか。で、なんで俺が毘沙門なんだ。毘沙門は謙信のトレードマークだろ。だいいち男の神だし」
「ここはお伽の世界よ。リアルの真名はそぐわないし、隠密した時の織丹衣(しょくにい)では通じないでしょ。個人的にも毘沙門好きだしぃ。ほら、『ノラガミ』の毘沙門なんてステキなツンデレだしぃ」
「……で、あるか」
「おや、金太郎の首が?」
思金の指さした晒木には、もう金太郎の首は無かった。
我々の話に安堵した村人が引き取って葬ることにしてやったのだろう。
人間安心すれば、他人への気配りや優しさも持てるというものだ。
「さあ、さっさと行くか……ん?」
晒木から目を戻すと、二人の姿が無い。
『わたし刀でいくから!』
『儂は勾玉じゃ!』
なるほど、腰の刀は草薙剣だし、首からは勾玉が……どうして肌着の下にいるんだ!?
『歳をとると温もりが恋しゅうてなあ……少し小さくはないか?』
「こ、こら! 揉むんじゃない(;゚Д゚#)!」
ピーーーヒョロローーー
トンビがクルリと輪を描いて、俺たちは鬼ヶ島を目指した。
☆彡 主な登場人物
- 織田 信長 本能寺の変で討ち取られて転生 ニイ(三国志での偽名)
- 熱田 敦子(熱田大神) 信長担当の尾張の神さま
- 織田 市 信長の妹 シイ(三国志での偽名)
- 平手 美姫 信長のクラス担任
- 武田 信玄 同級生
- 上杉 謙信 同級生
- 古田 織部 茶華道部の眼鏡っ子 越後屋(三国志での偽名)
- 宮本 武蔵 孤高の剣聖
- 二宮 忠八 市の友だち 紙飛行機の神さま
- 雑賀 孫一 クラスメート
- 松平 元康 クラスメート 後の徳川家康
- リュドミラ 旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ 劉度(三国志での偽名)
- 今川 義元 学院生徒会長
- 坂本 乙女 学園生徒会長
- 曹茶姫 魏の女将軍 部下(備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
- 諸葛茶孔明 漢の軍師兼丞相
- 大橋紅茶妃 呉の孫策妃 コウちゃん
- 孫権 呉王孫策の弟 大橋の義弟
- 天照大神 御山の御祭神 弟に素戔嗚 部下に思金神(オモイカネノカミ)