大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

くノ一その一今のうち・50『まだまだ未熟なんだ』

2023-04-10 10:38:56 | 小説3

くノ一その一今のうち

50『まだまだ未熟なんだ』 

 

 

 魔石は無くすわ、埋蔵金は取られるわ、一世一代の大不覚に天を仰ぐ。

 

 仰いだところで空は見えない。

 ここは甲斐善光寺の地下戒壇、それも『心』の形をした、その内側の秘密戒壇の最奥部。

 クソッ

 クソ クソ クソ クソ クソ…………

 吐息が怨嗟の呟きを載せてしまい、長大な地下洞窟に響き渡る。

 まだまだ未熟なんだ。

 地下戒壇に間違いないと閃いて、でも、どこか自信が無くて、課長代理にも言わずに突出したことが悔やまれる。

 まずは確かめて、確証が持てたところで……悠長に過ぎた。

 仰いだところに見えるのは、冷たい岩肌、それがフニャフニャ歪んで、溢れた涙のせいだと知ってしゃがみ込んでしまう。

 だめだ、いまのわたしは忍者はおろかアルバイトとしても失格だ。

 口の中に血の匂いが広がる。

 悔しさと絶望のあまりに唇を噛んでしまった。

 ここに居てもしかたがない……立ち上がろうとすると洞窟の向こうに人の気配。

 目をこすると、はっきり見えた。

 怖い顔で見えてきたのは、わたしだ。同じ忍び装束のわたし。

 ドッペルゲンガーか?

 ひょっとして、今のわたしはゲシュタルト崩壊?

 

「なにをボンヤリしてる」

 

 わたしが社長の声で喋った。

「セイ!」

 跳躍前転して、目の前に立った姿は、いつもの暑苦しい社長。

「しっかりしろ、社長の儂とドッペルゲンガーの区別もつかんようでは使い物にならんぞ」

「でも……どうして?」

「服部からの連絡だ」

「課長代理が?」

「ああ、服部も気づいて、要所要所に忍びを送っている。諏訪湖から草原の国までは6000キロもある。いくら草原の幻術と諏訪明神のコラボと言っても、一気に運べるものじゃない。地脈の要所要所でブーストをかけている。儂らは、そこを襲った」

「そうですか……」

 課長代理は知っていたんだ。知っていて未熟者のわたしを……敵は、未熟者のわたしに対しても多田さん達とか、かなりの勢力を割いた。そうやって注意をそらせて、今ごろは諏訪湖で佐助たちを相手に死力を尽くして戦っているんだ。

 スタ

 かそけき音をさせて、もう一人前に立った。

 わたしの姿をしている……と思ったら、すぐに術を解いて嫁持ちさんに変わった。

「多田は、ブーストを止めて逃げていきました。ご苦労だったねソノッチ」

「嫁持ちさんも来てたんですね」

「うん、百地組も総動員だよ。諏訪湖には金持ちと力持ちが行ってる」

「多田は最後まで気づかなかっただろ?」

「ええ、風魔その一は化け物かって顔をしてましたよ」

「これで、ソノッチのお株も上がったな」

「そんな、ゲタみたいなお株要らないです!」

「ガハハ、まあ、そう言うな。評判も力のうちだぞ」

「アハハ、百地組希望の星なんだしね(^▽^)」

「もう」

 

 笑うだけ笑って二人とも消えた。わたしも、そのままホテルまで走って帰った。

 まあやは、わたしの身代わりに作っておいた毛布を丸めたのに抱き付いて寝息を立てていた。

 

 朝起きてビックリした。

 

「諸般の事情でロケは中止、昼飯食ったら東京に帰るから、準備してください」

 朝ごはんのダイニングで監督が宣言。宣言した後、プロデューサーや幹部の人たちで協議。

 協議しながらも、ちゃんと朝ご飯は食べている。この業界の人は逞しい。

「お墓参り済ませといてよかったわね」

 まあやも、ものごとの良いところを見て行こうという姿勢。

 わたし一人カリカリ、ちょっと反省して、朝食バイキングに並ぶ。

――半分は死守できたが、その半分は大阪に転送されてしまった――

 脚本の三村紘一(課長代理)が闇語りしてくる。

――大阪だったら近いからいいじゃないですか――

 騙されていたから、ちょっとツッケンドンになる。

「いやあ、今朝のソノッチ怖いなあ(^△^;)、まあやフォローしといてね」

「ダメだよ、ソノッチ、三村さん徹夜で本の書き直ししてたんだからね」

 クソ、まあやは完全に騙されてるし。

 

☆彡 主な登場人物

  • 風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち
  • 風間 その子       風間そのの祖母(下忍)
  • 百地三太夫        百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
  • 鈴木 まあや       アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
  • 忍冬堂          百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
  • 徳川社長         徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
  • 服部課長代理       服部半三(中忍) 脚本家・三村紘一
  • 十五代目猿飛佐助     もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者
  • 多田さん         照明技師で猿飛佐助の手下

 

 

 

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RE・かの世界この世界:064『ノルデン鉄橋』

2023-04-10 06:11:25 | 時かける少女

RE・

64『ノルデン鉄橋』テル  

 

 

 ノルデン鉄橋は全長八百メートルのトラス式大鉄橋だ。

 
 四車線もある幅広の鉄橋で、西側から単線の鉄道、二車線の車道、一車線分の歩道になっている。

 そのノルデン大鉄橋が目前に迫っている。四車線を覆い、かつ支えている鉄の構造物は、いかにも軍都の入り口に相応しい。

 右手の南側には、その軍都ムヘンブルグ城塞都市。

 一週間前にムヘンブルグの北門を出て、そのまま、この大鉄橋を渡るところをシュタインブルグに行っていた。

 あの時以上に人や車両の動きが盛んだ。軍用車両に民間のトラックなども見えるし、自転車や徒歩で歩道を行く人たちも居る。

 ムヘンは流刑地ではあるが未開の荒れ地ではないようだ。

「北部に限られているようだが、ちょっとした開拓ブームなんだ」

 全開したハッチに寄り掛かりながらタングリスが呟く。短めのボブを川風になびかせて腕組みした姿は宝塚の男役のように景色がいい。けしてマッチョでも大柄でもないのだが、この佇まいの良さは、持って生まれたものと今までの軍歴が尋常なものではないことを物語っている。チャンスがあればケイトも交えて話がしたいが、ま、今少し親しくなってからでないと実のある話はしてくれないだろう。

 ビビ~~~~~

 いかれた玄関ブザーのような音がした。

 橋のたもとの合流点に停車した四号戦車の警笛であると気が付いたのはタングリスの反応だ。

「やあ、また会ったな軍曹」

 それは、一週間前に出会った二号戦車のクルーたちだった。

「あんたらも四号か」

「ああ、あんた曹長に昇進したのか」

 階級章が変わっていた。

「一個だけな。除隊して鍛冶屋でもやるつもりだったんだが、鍛冶屋よりも辺境警備をやれってさ、人使いが荒いぜ」

「こんなところに停車して、なにかの監視任務か?」

「いや、操縦手の交代要員を待ってるんだ」

 開け放った操縦手ハッチに済まなさそうな顔が見えた。

「卑下すんなハンス、お前が移動になれただけでラッキーなんだからな」

 そうだそうだの声があちこちのハッチからする。

「交代要員はまだなんだな」

「ああ、名前も分からん。こんなことまで軍機扱いしなくてもいいのにな」

 ピピピピ……こちらの通信手席に着信音が、受けたブリュンヒルデが何やら受け答えしている。

「その交代要員は、わたしのようです」

 なんとタングニョーストが出てきた。

「軍のやることに無駄は無いようだな。よろしくな、タングニョースト軍曹」

「曹長、あんたの名前は?」

「ルドルフだ、砲手がクリストフ、装填手がデニス、通信手がアデーレ、まあ、おいおい慣れてくれ」

「それはいいが、うちの操縦手は?」

「指示がない、問い合わせてみる」

 ブリュンヒルデがレシーバーを操作する。

「すまんが、先に行く。交代次第出発の命令なんでな」

「ああ、タングニョースト、またな」

 互いに手を振っただけで曹長は四号を発車させた。鉄橋を渡らずに川沿いを東に向かっている、東の道は軍都を迂回して南部の荒れ地に続いている。困難な南部の警備に行くようだ。

 

「信じらんない!」

 

 ブリュンヒルデがレシーバーを投げつけた。

「どうしました?」

「交代要員は無し、そっちで都合を付けろって! それもトール直々の、このブリュンヒルデに命令なんてあり得ない!」

「そうきましたか……」

 ポーカーフェイスで一同を見渡すと、頭を掻きながらタングリスは提案した。

「わたしが操縦します。姫が車長をやってください」

「えー! じゃあ、通信手は?」

「ロキ、お前だ。ポチを助手にしてがんばれ」

「オ、オレ?」

「そうだ、お前もなにかの役にたたなきゃな」

 そう言うと、ジャングルジムの中を移動するように操縦席に移った。ヒルデとロキも移動、わたしとケイトはそのままで、四号はイグニッションのスイッチが入った。

 ブリュン! ブリブリブリ!

 ブリュンヒルデの気持ちを代弁するような起動音をさせて四号は八百メートルのノルデン鉄橋を渡り始めた。

 

☆ ステータス

 HP:2500 MP:1200 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・35 マップ:4 金の針:20 所持金:500ギル(リポ払い残高80000ギル)
 装備:剣士の装備レベル10(トールソード) 弓兵の装備レベル10(トールボウ)
 憶えたオーバードライブ:ブロンズヒール(ケイト) ブロンズスプラッシュ(テル)

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

   テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
  中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
  志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

 

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