RE・かの世界この世界
フラワーポッドは祭りの参加者がよく見えるように、式台の上に円形に並べられている。丸い広場の奥には野球場のスコアボードのようなプロジェクターがあって、祭りの様子を映し出している。
プリンツェシン・ローゼン役のヒルデは悠然と剪定鋏を構えてポッドの周りを周り始めた。
わたしたちには見えないが、ヒルデには司祭が示したバラが黒く見えているのだ。
チョキン
ヒルデが歩くとドラムロールが鳴って、一つ剪定するごとに音楽隊の小さなシンバルが鳴らされ、広場の空気はいやましに高まっていく。
おお!
選定されたバラは、そういう仕掛けなのか悪しきものの性なのか、切られて空中に浮いたとたんにムクムクと大きく膨らみ、クルクル旋回しながら五メートルほど空中に舞い上がる。
それに呼応して、街中の花壇やフラワーポッドの中からも、いくつものバラの花が太りながら舞い上がっていく。
「さあ、悪しきバラもローゼンシュタットのバラ! 最後に一花咲かせてやろう!」
司祭がロッドを振ると空中の花たちは、一斉に満開になってクルクル回り始めた。
そして、旋回の遠心力によって陽気に花弁に分離する。分離した花弁は一瞬輝いて消滅し、消滅と同時にシンバルたちがジャジャーンと慣らされ、祭りは一気に盛り上がる。
シリンダーとかのクリーチャーを見慣れているので、花が命あるもののごとく飛翔しようが飛散しようが驚くものじゃないのだが、儀式の雰囲気もあって、我々もファンタジーなときめきを覚える。
「なかなか、いい祭りだな」
タングリスが、いつものぶっきらぼうさで呟く。しかし、いまのタングリスは花の女神と見紛うばかりのピンクのドレスだ。髪も相応しくドレスアップし、同性のわたしが見てもドッキリするほどに美しい。そのギャップが面白く、クスリと笑ってしまう。
「テルだってきれいだよ」
横で、ケイトがニヤニヤ。そのケイトもラノベのヒロインが務まりそうなくらいにイカシテいる。
「おまえだって(*´ω`*)」
ロキに言われてアタフタ。
肩にとまったポチが面白そうに丸い体を揺すっている。
オーーーーーーーー!
見物人のどよめきが上がる。
なんと、剪定するたびに、残りのバラが色と輝きを増してムクムクと大きくなるのだ。それも、ポッドのバラだけでなく広場から見渡せるバラの全てが身を震わせながら肥えていく!
そして、ヒルデが最後の一輪を選定した時には、ブルンと音がして町中の幾万幾百万のバラがキャベツほどの大きさになった!
「これがプリンツェシン・ローゼンの御業なのです!」
「「「「「「「「「ウオーーーーーーーー!」」」」」」」」」
司祭が宣言し、広場中の人たちが感嘆の歓声を上げた。
「ありがとうございます、ブリュンヒルデ殿下並びにおつきの皆さん! こんなにうまくいった降誕祭は初めてです、このローゼシュタットにもみなさんにも神のご加護があることでしょう!」
「さあ、今年もローゼンシュタッテンの儀めでたく成就! 町中祝して呑み明かそう!」
ミュンツァー町長が宣言すると、広場を取り巻く家々、辻々から大小さまざまなワゴンが繰り出される。ワゴンの上には満たしたビールジョッキが並べられていて、人々が声を上げて飛びつき、町長の音頭で一斉の乾杯になった!
われわれも、厳しい旅の前途を忘れ、しばしの酒宴に興じたのだった。
「あ、おまえらはノンアルコールな」
ケイトとロキが持ったジョッキをジンジャーエールに替えてやる。球体のポチは割れ目でストローを加え、チューチューとジンジャエールを吸う。炭酸でも平気なのかと感心すると、小さな体はすぐに炭酸で溢れてゲプーー!
ロキとケイトが「「アハハハ」」と笑うと、ポチは面白がって何度もゲップ。それをカメラがとらえて会場のプロジェクターに流すので広場に笑い声が満ちた(^_^;)。
☆ ステータス
HP:2500 MP:1200 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
持ち物:ポーション・35 マップ:4 金の針:20 所持金:500ギル(リポ払い残高80000ギル)
装備:剣士の装備レベル10(トールソード) 弓兵の装備レベル10(トールボウ)
憶えたオーバードライブ:ブロンズヒール(ケイト) ブロンズスプラッシュ(テル)
☆ 主な登場人物
―― かの世界 ――
テル(寺井光子) 二年生 今度の世界では小早川照姫
ケイト(小山内健人) 小早川照姫の幼なじみ 荒れ地の万屋ペギーにケイトに変えられる
ブリュンヒルデ 主神オーディンの娘の姫騎士
タングリス トール元帥の副官 ブリの世話係
タングニョースト トール元帥の副官 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属
ロキ ヴァイゼンハオスの孤児
ポチ ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体
―― この世界 ――
二宮冴子 二年生 不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
中臣美空 三年生 セミロングで『かの世部』部長
志村時美 三年生 ポニテの『かの世部』副部長