巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
トキツカサッ……!
はんぱな呼びかけに振り返ると、横断歩道の向こう側に宮田さん。
わたしと同じ電車だったんだろうか。
改札出たところで信号が変わりそうだったので、小走り。宮田さんは信号に間に合わなかったみたい。
やれやれ、信号変わるまで待ってあげよう……と、思ったら、変わったばかりの赤を無視して走ってきた(^_^;)
「おはよう」
「おひゃようごじゃいま……」
「あ、ひょっとして舌噛んだ?」
「あ、いしゃしゃか(^皿^;)」
トキツカサは微妙に言いにくいんだけど、それに『さん』を付けるとトキツカササンで、サが重なってはっきり言いにくい。
「下の名前でいいよ、メグリとか、中学じゃメグって呼ばれてたし。言いやすいでしょ?」
「いいですね! じゃ、わたひのこともロコって呼んでください!」
「あ、かわいい!」
「エヘヘ(*´σー`)」
「言葉も友だち言葉でいこうよ、愛称でよびあうんだから」
「え、いいんですか!?」
「『いいの!?』でいいよ」
「あ、そっか。じゃ、あらためてよろしく!」
「こちらこそ!」
「5番の男知ってます?」
「5番……あ、出席番号5番!?」
「そう、怪しい5番ですよ」
「先生も無視っぽかったから、最初は幽霊かと思ったわよ」
改札では10円請求されてたから幽霊なわけないんだけど、本人の態度も周囲の反応も見えてないみたいにシカトっぽかったし。
「あいつ、加藤高明って言って、留年生だって話です」
「留年生!?」
「留年生は入学式には出られない」
「そうなんだ!」
そうだよね、一年前に入学してるんだもんね。
「ちょっと変なやつって評判です」
「病気とかで……?」
「う~ん、これから調査です」
「あはは、調査しちゃうんだ(^_^;)」
「面白そうなことは、調査しなくちゃいけません!」
「あらら、敬語に戻ってるわよ」
「え、あ、あははは……」
「クセなんだよね。ま、ぼちぼちいこう」
「はい! あ うん!」
「うんうん♪」
電器屋さんの前まで来ると、朝のワイドショーを流している。
画面は小さくてショボいんだけど、音が大きい。
―― この三日に、ようやく解決したよど号乗っ取り事件で人質になっていた乗務員の人たちが、検査入院を終えて退院…… ――
え、解決したの遅くない……っていうか、犯人の要求みんな通って、解決ってどうよ?
―― 人の命は地球よりも重いといいますから、まあ、良かったんじゃないですかねえ ――
―― いや、そうですね。では、次のニュースです…… ――
いつの時代もテレビはいいかげん。
「……メグさん?」
「あ、ごめん。つい見入ってしまった(^▽^;)」
お祖母ちゃんが言ってた、日本のこの対応はあとを引くんだって……。
「わたし、二月におおすみが成功したのには感激しました!」
「おおすみ?」
「あ、日本初の人工衛星」
「え、あ、ああ!」
度忘れを装ってビックリしておく。
「日本も宇宙時代の幕開け!」
「うん、そうね!」
令和じゃ新型の打ち上げ失敗したとこなんだけどね。
「知ってました? 2004年になったらアトムが誕生するんですよ!」
「え、ああ、そうなんだ(^_^;)」
「あ、ごめんなさい。ちょっと引いちゃいますよね(;'∀')」
「ううん、わたしこそ疎くって」
ロコちゃんと付き合うには、そっち系の情報とかも仕入れておかなきゃいけないかもね。
「今日は生徒手帳もらえるんですよね」
「そうだ、やっと定期券買えるんだよね!」
「うんうん、定期通学って、ちょっと夢だったんです(n*´ω`*n)」
「うん、分かるぅ、ちょっと大人って感じ」
「メグさんはどこからですか?」
「奥宮だから、たった二駅なんだけどね」
「ああ、ロコは谷口だから反対方向です」
谷口……聞いたことのない駅だ。
いっしゅん反応に困ったけど、ちょうど商店街の放送が『世界の国からこんにちは』を流し始め、いっそう仲良くなった新入生同士、入学式以来最初の学校に向かった。
☆彡 主な登場人物
- 時司 巡(ときつかさ めぐり) 高校一年生
- 時司 応(こたえ) 巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
- 滝川 志忠屋のマスター
- ペコさん 志忠屋のバイト
- 宮田 博子 1年5組 クラスメート
- 加藤 高明 留年してる同級生
- 藤田 勲 1年5組の担任
- 須之内写真館 証明写真を撮ってもらった、優しいおねえさんのいる写真館