くノ一その一今のうち
英語の時間は自習になった。
なんでも、先生が具合悪くなって保健室で寝てるって話。
『これでゆっくり話せるね(^▽^)』
え、忍び語り?
『何者よ、あんた?』
『アンタじゃないよ、ミヒャエル・ミュンツァー。ミッヒって呼んで』
『だから何者?』
『ランツクネヒト』
『ランツク……?』
『ランツクネヒト、日本の言葉だと……傭兵かなあ、まあ忍者みたいなもの』
『ドイツ人?』
『まあね、研修で徳川物産に来てるんだ』
『その研修生が、どうしてわたしの後ろにいるのよ?』
『え、だって、僕の担当はキミだから』
『聞いてないわよ』
『連絡ミスだね、確認してみてよ』
『あとで』
『ええ、今でもできるだろ?』
『だって、先生来るよ』
『え?』
ガラ
「やあ、迷惑かけたね、もう大丈夫だから授業やるわね」
弱々しい声で顔色も悪いんだけど、英語の妹尾先生はキッパリと授業を始めた。
『量を間違えたかなあ……』
『あんたの仕業ね』
『ハハ、先生も疲れ気味だったし、ちょっと休んだ方がいいかなって(^_^;)……』
「テキスト34ページ、レッスン2セクション1、一行目から五行目まで読んで訳して……今日は風間さんからね」
「は、はひ(;'∀')」
ヤバイ、ドイツ人傭兵のお蔭で半分もできてない。
『あ、ぼくがサポートするから』
『さっさと、お願い』
それで、まあ、事なきを得て昼休。
「はい、どうぞ」
ピチャ
「きゃ!」
振り向くと頬っぺたに冷え冷えの缶コーラ。
「アニメとかだったら、定番だろ、お近づきのシルシ」
「ちゃんと買ったんでしょうね?」
「もちろんだよ。学食のメニューって利が薄いから、儲けのかなりは自販機のジュースなんだよ。昔と違って分母になる生徒数も減ってるしね。ぼくはちゃんと売り上げに貢献したよ。あ、二個目はルーレットに当ってただだったけど」
「ふうん、籤運もいいんだ(´¬_¬)」
「じゃ、カンパイ!」
プシ!
プルトップを起こすと、程よく炭酸が解放される。
ドジな奴は、学食から駆け上がってきて缶をシェイクしてしまって中身ごと盛大に噴出させてしまう。
「あ、炭酸大丈夫だった?」
グビグビグビ……プハァ!
返事の代わりに一気に飲む。
「おお、今度はビールでやろう!」
グビグビグビ……プハァ!
ゲップ!
「「アハハハ(^◇^)」」
不覚にも揃って笑ってしまった。
「で、なんでランチクネクネが研修になんか来てんのよ?」
「ランツクネヒト」
「そのクネヒトが、なんで?」
「共通の敵に対処するためさ。草原の国は一つじゃないからね」
「なるほどね」
「近々、共同で働かなきゃならないことになる。撮影所でもいっしょになると思うから、よろしくね、センパイ」
「あ、五限は生物で移動だよ」
キンコンカンコーン キンコンカンコーン……
ちょうど鳴ったチャイムでミッヒの手を躱す。
すると、奴は窓枠に足を掛けた。
「ちょ、なにすんのよ!」
「生物室なら飛んだ方が早い」
「校内では、そういうの禁止!」
「チェ」
「舌打ちすんな\(`-´メ)」
生物教室へ向かう途中、学食の前を通る。
キャー ウワァ ラッキー
自販機を取り巻いて歓声が起こっている。
「あ!?」
自販機のルーレットがマヒしたように当たりを出して、次々に缶ジュースを吐き出していた。
「アハハハ」
「笑ってる場合か\(`-´メ)」
☆彡 主な登場人物
- 風間 その 高校三年生 世襲名・そのいち
- 風間 その子 風間そのの祖母(下忍)
- 百地三太夫 百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
- 鈴木 まあや アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
- 忍冬堂 百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
- 徳川社長 徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
- 服部課長代理 服部半三(中忍) 脚本家・三村紘一
- 十五代目猿飛佐助 もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者
- 多田さん 照明技師で猿飛佐助の手下
- 杵間さん 帝国キネマ撮影所所長
- えいちゃん 長瀬映子 帝国キネマでの付き人兼助手
- 豊臣秀長 豊国神社に祀られている秀吉の弟
- ミヒャエル ドイツのランツクネヒト(傭兵)