巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
大きなネコでしたねえ!
ロコが感心して、佳奈子と真知子は「「え?」」という顔をしている。
耳もとをピシュって音をたてて何かが過って、いっしゅん安倍さんが暗殺されたときのことがよぎった。
そして、その直後、プラグスーツみたいなのを着たアイさんがコンマ5秒ほど見えた。手にぶっそうなものを持って駆けて行くところが!
あ、アイさんっていうのは、滝さんのお店の常連のOLさんで、じつは猫又さん。
ほとんど一瞬なので、見えたのはロコとわたしだけ。
「マリーアントワネットが飼っていた猫に似ていました。メインクーンという種類で子どもぐらいの大きさがあるんです!」
1970年にメインクーンが日本にいたかどうかは知らないけど、ネコに見えていたのならドンマイ。
「メグリ、あんた撃たれたんだよ!」
家に帰って、ピシュって音と、アイさんを見かけたって話をすると「ちょっと調べてくる」といって出て行ったお祖母ちゃんが、30秒後に帰って来て、開口一番言った。
たった30秒というのは、魔法少女の技で1970年に戻って、たった今帰ってきたから。
顔やら出した腕が赤く日焼けしてる。こっちでは30秒だけど、向こうでは丸一日以上は居たんだ(^_^;)。
「これが、メグリを撃った弾だよ」
コロリと無造作に置かれた弾は、ドングリほどの大きさ。
「9ミリ、M9の弾だよ」
「M9て?」
「アメリカとかの軍用拳銃」
「ええ、アメリカに撃たれたの!?」
「違うね、メグリは暗殺されかかったんだ。暗殺者はすぐに足の付くような拳銃は使わない……」
「それよりも、なんでわたしが狙われるわけ!?」
「万博に行って、何かなかったい?」
「ええ……ふつうだった……と思うよ(^_^;)」
「なにか目撃したとか、なにか拾ったとか?」
「ええ……なにも思い浮かばないよぉ(;'∀')」
「旅行に持っていったもの、ぜんぶ持っておいで」
「ええ、全部?」
「全部!」
着替えとかは全部洗濯してるし、意味ないと思うんだけど、カバンをひっくり返してシワクチャになったレシートとかまで持ってきた。
「ううん……特にっていうのは無いねえ」
「でしょ」
「もうちょっと調べてみるかぁ……あ、夕べの浴衣はどうした?」
「洗い方分からないから、部屋に吊ってある」
「後で洗っとくわ、わたしも昭和から帰ってきたところだから……あ、ビール無い」
「え、先週いっぱいあったのに」
「飲んじゃった、メグリ買って来てぇ(^▽^;)」
「ええ、未成年に買いに行かせるぅ?」
「池田酒店ならお使いでいったことあるだろぅ」
「まだ、朝なんですけど」
「向こうじゃ、夕方まで駆けずり回ってたのよ、ほらあ」
日焼けした腕を突き出されては文句も言えない。
「へいへい」
お代をもらって自転車に跨る。
池田酒店は川沿いを下って横っちょに入ったところ。言うのは簡単だけど、距離にして800メートルはある。
行きは微妙な下り坂で、ほとんど漕がなくてもいけるけど、帰りはビールをのっけて漕がなきゃならない。
まあ、これも親の代わりの親孝行。
分かるわよね、うちのお母さんはMSAT(Mars stay acclimatization training=火星順応滞在訓練)というので、四年間の疑似火星環境のドーム暮らしで、わたしが高校を卒業するまで出てこれない。
坂の途中で高校生たちが下校してくるのとすれ違う。
そうか、令和の時代は24日ごろから二学期が始まってる。昭和の学校は8月はまるまる休みだからねえ。それに70年の9月1日は土曜だからすぐ日曜だしねえ(^▽^)/
ちょっとした優越感を糧に池田酒店に到着。
「あ、お祖母ちゃんから電話あったよ」
店主のおっちゃんは、すでに用意の6本入りを四つ箱に入れて待ってくれていた。
「ゲ、四つも!?」
「悪いねぇ、配達してたら夕方になっちゃうから(^_^;)」
そうだろうねえ、パートのおばちゃんも辞めて、配達はまとめてってことになってるらしいし。
「おつまみ、サービスで入れといたから(^_^;)」
「あ、どうもすみません」
サービスはわたしにしてよ……思いながら800メートルの帰り道。
帰り道、半分まで戻って来るとスマホのアラーム。
なんだろうと開いて見ると警察のアラーム。凶悪犯罪とか起こったのかなあ!?
タッチすると、不発弾処理が、無事に終わったというお知らせ。
そうだ、先月の末から、ずっと不発弾処理をやってたんだった。
うちは、道一つ避難地域から外れていたので関係なかった。避難地域の人たちは、何時間か避難してたんだろうね。
見に行こうか……いっしゅん思ったけど、めちゃくちゃ暑くなってきたし。大人しく自転車を漕ぐ。
「メグリ、これだよ、これ!」
今度は家に不発弾?
「ちがうよ、バッチバッチ!」
「え?」
お祖母ちゃんが、ググっと差し出したのは帯締めに使っていたガガーリンのバッチ!
「ICが入ってる、1970年の技術じゃないよ、これ発信機だよ」
え、ええ!?
☆彡 主な登場人物
- 時司 巡(ときつかさ めぐり) 高校一年生
- 時司 応(こたえ) 巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
- 滝川 志忠屋のマスター
- ペコさん 志忠屋のバイト
- 猫又たち アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
- 宮田 博子(ロコ) 1年5組 クラスメート
- 辻本 たみ子 1年5組 副委員長
- 高峰 秀夫 1年5組 委員長
- 吉本 佳奈子 1年5組 保健委員 バレー部
- 横田 真知子 1年5組 リベラル系女子
- 加藤 高明(10円男) 留年してる同級生
- 藤田 勲 1年5組の担任
- 先生たち 花園先生:4組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀
- 須之内直美 証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。