大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・050『酒屋にお使いに行く』

2023-08-30 08:58:52 | 小説

(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記

050『酒屋にお使いに行く   

 

 

 大きなネコでしたねえ!

 

 ロコが感心して、佳奈子と真知子は「「え?」」という顔をしている。

 耳もとをピシュって音をたてて何かが過って、いっしゅん安倍さんが暗殺されたときのことがよぎった。

 そして、その直後、プラグスーツみたいなのを着たアイさんがコンマ5秒ほど見えた。手にぶっそうなものを持って駆けて行くところが!

 あ、アイさんっていうのは、滝さんのお店の常連のOLさんで、じつは猫又さん。

 ほとんど一瞬なので、見えたのはロコとわたしだけ。

「マリーアントワネットが飼っていた猫に似ていました。メインクーンという種類で子どもぐらいの大きさがあるんです!」

 1970年にメインクーンが日本にいたかどうかは知らないけど、ネコに見えていたのならドンマイ。

 

「メグリ、あんた撃たれたんだよ!」

 

 家に帰って、ピシュって音と、アイさんを見かけたって話をすると「ちょっと調べてくる」といって出て行ったお祖母ちゃんが、30秒後に帰って来て、開口一番言った。

 たった30秒というのは、魔法少女の技で1970年に戻って、たった今帰ってきたから。

 顔やら出した腕が赤く日焼けしてる。こっちでは30秒だけど、向こうでは丸一日以上は居たんだ(^_^;)。

「これが、メグリを撃った弾だよ」

 コロリと無造作に置かれた弾は、ドングリほどの大きさ。

「9ミリ、M9の弾だよ」

「M9て?」

「アメリカとかの軍用拳銃」

「ええ、アメリカに撃たれたの!?」

「違うね、メグリは暗殺されかかったんだ。暗殺者はすぐに足の付くような拳銃は使わない……」

「それよりも、なんでわたしが狙われるわけ!?」

「万博に行って、何かなかったい?」

「ええ……ふつうだった……と思うよ(^_^;)」

「なにか目撃したとか、なにか拾ったとか?」

「ええ……なにも思い浮かばないよぉ(;'∀')」

「旅行に持っていったもの、ぜんぶ持っておいで」

「ええ、全部?」

「全部!」

 

 着替えとかは全部洗濯してるし、意味ないと思うんだけど、カバンをひっくり返してシワクチャになったレシートとかまで持ってきた。

 

「ううん……特にっていうのは無いねえ」

「でしょ」

「もうちょっと調べてみるかぁ……あ、夕べの浴衣はどうした?」

「洗い方分からないから、部屋に吊ってある」

「後で洗っとくわ、わたしも昭和から帰ってきたところだから……あ、ビール無い」

「え、先週いっぱいあったのに」

「飲んじゃった、メグリ買って来てぇ(^▽^;)」

「ええ、未成年に買いに行かせるぅ?」

「池田酒店ならお使いでいったことあるだろぅ」

「まだ、朝なんですけど」

「向こうじゃ、夕方まで駆けずり回ってたのよ、ほらあ」

 日焼けした腕を突き出されては文句も言えない。

「へいへい」

 

 お代をもらって自転車に跨る。

 

 池田酒店は川沿いを下って横っちょに入ったところ。言うのは簡単だけど、距離にして800メートルはある。

 行きは微妙な下り坂で、ほとんど漕がなくてもいけるけど、帰りはビールをのっけて漕がなきゃならない。

 まあ、これも親の代わりの親孝行。

 分かるわよね、うちのお母さんはMSAT(Mars stay acclimatization training=火星順応滞在訓練)というので、四年間の疑似火星環境のドーム暮らしで、わたしが高校を卒業するまで出てこれない。

 坂の途中で高校生たちが下校してくるのとすれ違う。

 そうか、令和の時代は24日ごろから二学期が始まってる。昭和の学校は8月はまるまる休みだからねえ。それに70年の9月1日は土曜だからすぐ日曜だしねえ(^▽^)/

 ちょっとした優越感を糧に池田酒店に到着。

「あ、お祖母ちゃんから電話あったよ」

 店主のおっちゃんは、すでに用意の6本入りを四つ箱に入れて待ってくれていた。

「ゲ、四つも!?」

「悪いねぇ、配達してたら夕方になっちゃうから(^_^;)」

 そうだろうねえ、パートのおばちゃんも辞めて、配達はまとめてってことになってるらしいし。

「おつまみ、サービスで入れといたから(^_^;)」

「あ、どうもすみません」

 サービスはわたしにしてよ……思いながら800メートルの帰り道。

 

 帰り道、半分まで戻って来るとスマホのアラーム。

 なんだろうと開いて見ると警察のアラーム。凶悪犯罪とか起こったのかなあ!?

 タッチすると、不発弾処理が、無事に終わったというお知らせ。

 そうだ、先月の末から、ずっと不発弾処理をやってたんだった。

 うちは、道一つ避難地域から外れていたので関係なかった。避難地域の人たちは、何時間か避難してたんだろうね。

 見に行こうか……いっしゅん思ったけど、めちゃくちゃ暑くなってきたし。大人しく自転車を漕ぐ。

 

「メグリ、これだよ、これ!」

 

 今度は家に不発弾?

「ちがうよ、バッチバッチ!」

「え?」

 お祖母ちゃんが、ググっと差し出したのは帯締めに使っていたガガーリンのバッチ!

「ICが入ってる、1970年の技術じゃないよ、これ発信機だよ」

 

 え、ええ!?

 

 

☆彡 主な登場人物

  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校一年生
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         1年5組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            1年5組 副委員長
  • 高峰 秀夫             1年5組 委員長
  • 吉本 佳奈子            1年5組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            1年5組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 藤田 勲              1年5組の担任
  • 先生たち              花園先生:4組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。

   

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

RE・トモコパラドクス・2『あらかわ遊園』

2023-08-30 07:22:34 | 小説7

RE・友子パラドクス

2『あらかわ遊園』   

 

 

「残念ねぇ、明日だったら『川の手荒川まつり』があったのに」

 

 友子が「チッ」と舌を鳴らした。ナリは高校生だが、小学生が背伸びしたようなリアクションが微笑ましい。

 結成四日目の家族は、連休の二日目を「あらかわ遊園」で過ごしている。

 他に有りそうなもんだと一郎は思ったが、妻の春奈と娘の友子の意見が一致したのだからしかたがない。

 

「荒川の名産品なんかが見られるんだって」

「荒川の名産見てもなぁ……」

「荒川周辺て、再開発が進んで人口も増えてるから、マーケティングの値打ちあるかもよ」

「ブーー、仕事の話はよそうぜ、休みなんだから」

「新製品開発のプロジェクトチームなんだから、アンテナ張ってなきゃダメじゃん」

「ま、いずれにしろ、『川の手荒川まつり』は明日なんだから、仕方ないだろ」

「そういう態度がねぇ……」

 

 と、夫婦ゲンカになりそうなところに、友子が戻ってきた。

 

「明日は、お墓参りだもんね。はい」

 友子は器用に持ったソフトクリームを配給した。とりあえずバニラ味の冷たさでヒートアップは収まった。

「ね、あっち、ついたちに生まれたばっかりのヤギの赤ちゃんがいるよ!」

「走ったら、アイスおちるぞ!」

「そんなドジしませ~ん」

 どうぶつ広場にいくと、親のヤギに混じって、生まれて間もない三匹の子ヤギがのんびりしていた。ここに来るのは、小さな子連れの親子が多く、鈴木一家は浮いて見えないこともないが、雰囲気は十分周りに馴染んでいる。 

「ディズニーランドや、スカイツリーじゃ味わえないもんねぇ(^▽^)」

 子ヤギが、なにか楽しいのだろう、ピョンピョン跳ね出した。

「チャンス!」

 友子も、まねしてピョンピョン跳ねる。

「ねえ、レンシャ! レンシャして!」

「レンシャ?」

「おっけー!」

 パシャパシャパシャパシャ

 一郎は分からなかったが、春奈がすぐに反応した。スマホを連写モードにしたのだ。

「アハ、これかわいい( ˶´⚰︎`˵ )!」

「どれどれぇ( ◜ᴗ◝)」

「おお( °o°)」

 子ヤギと友子が、同時に空中浮遊しているように見える写真が二枚あった。

「あ~、これいいけど、おパンツ見えかけぇ」

「いいわよこれくらい。健康的なお色気。ウフフ」

 それを聞きつけた女の子たちが遠慮無く覗きに来て「わたしもやる~!」ということで、あちこちで、おパンツ丸出しジャンプ大会になった。

「あはは、いいぞいいぞ! みんな、もっと飛んでぇฅ(^ω^ฅ)!」

 無邪気に笑っている友子は、AKBとかにいてもおかしくないほど明るい少女だ。

 

「おお、スカイツリーがよく見えるんだ!」

 

 観覧車に乗ったとき、めずらしく一郎が反応した。

「ね、穴場でしょーが」

 友子が得意そう。

「ちょっとあなた、手を出して」

「え……」

「はやく、もうちょっと下!」

「ああ、こうね」

 友子の方が理解が早く、いい写真が撮れた。まるで、一郎の手の上に載っているようにスカイツリーが写っている。

 

「荒川って、銭湯の数が日本一多いんだよぉ」

 スカイサイクルに乗っているときには友子が指を立てる。スマホで検索している様子も無いのに興味も話題も的確だ。

「フフ、大きい湯舟って魅力よね」

「お母さん、入ったことあるんだ!」

「小っちゃいころ、保育所で連れてってもらった」

「こんど行こうよ、ねえ、お父さんも」

「ええ、風呂はいっしょに入れないだろ」

「スーパー銭湯なら水着で入れるとこもあるわよ、ねえ、ともちゃん」

「わたし的には町の銭湯がいいかなぁ、赤い手拭いマフラーにしてぇ、洗い髪が芯まで冷えるのはごめんだけどぉ」

「ちょっと懐メロすぎねえかあ(^_^;)」

「荒川の子って、そういうところで青春してるんだぁ……ちょっとオシャレって思う心が大事だと生意気を言う友子!」

 そう言って、さっさと背中を向けると、友子はアリスの広場に向かった。

 

 ヘックション!

 

 今の友子の言葉に仕事のアイデアとして閃くものがあったが、お日さまのまぶしさでクシャミをしたら、吹っ飛んでしまった。

 まあ、一郎の職業意識というのは、この程度のもの。

 春奈は同じ美生堂(みしょうどう)の社員としても、夫としても不足に感じるところではあった。

「ここ、こっちに来て!」

 セミロングの髪を川風にそよがせながら友子が手を振る。

「どうしてここなの?」

 春奈が、ランチボックスを広げながら聞く。

「ここはね、まどかと忠友クンが運命のデートをするとこなの」

「なんだい、それ?」

「これよ」

 友子が、リュックから青雲書房のラノベを出した。

「『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』……これ、トモちゃんが行く学校じゃない!?」

「うん、ドジでマヌケだけど、わたし、話も登場人物も好き。こんな青春が送れたらいいなって思っちゃった。ね、ここ、なんでアリスの広場っていうか知ってる? 知ってる人ぉ!」

 友子が自分で言って、自分一人が手をあげた。

「あのね。荒川リバーサイドの頭文字。ね、A・R・Sでアリス」

「ハハ、オヤジギャグ」

「オヤジの感覚って、捨てたもんじゃないと思うよ。その『まどか』の作者も六十歳だけど、青春を見つめる目は、いけてるわよ。忠友クンが、キスのフライングゲットしようとしたとき、そのアリスの広場のギャグが出てくんのよ」

「ラノベか……」

 そう呟きながら、一郎はサンドイッチをつまんで『まどか』を読み始めた。春奈は、ぼんやりと川面のゆりかもめを眺めている。

 意外にも、のめり込んで一章の終わり頃までくると寝息が聞こえた。

 友子が、ベンチで丸くなって居眠っている。

 一郎は、初めて友子に会った時のことを思い出した。

 

 羊水の中で丸まった友子は天使のようで、とても三十年ぶりの再会とは思えなかったことを……。
 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする