やくもあやかし物語・2
二人部屋を一人で使ってる。
わたしのクラスは女子が7人なので、ハミゴのわたしは一人なんだと思っていた。
でもね、今日からは二人なんだ。
「家の都合で入学式に間に合わなかった子が一人いるんだけど、ヤクモと同室になります」
「あ、はい」
キャリバーン教頭先生の話にこっくり頷く。
「OK?」
「イエス、マム」
「……あのねぇ」
「はい、何でしょうか、先生」
「これは決定事項ではあるんだけども、疑問とか不安があったら、ちゃんと聞いた方がいいわよ。ヤクモ」
「はい」
「二人部屋を一人で使っているのはあなただけだから、ヤクモに言ったんだけど『理由はそれだけですか?』とか『同室になるのはどんな子ですか?』とか、思うところがあれば聞いた方がいいわよ」
「あ、はい」
「えと…………じゃ、いいわね」
「はい」
教頭先生は――やれやれ――という感じで職員室の方へ行ってしまった。
ちなみに職員室には『スタッフルーム』と看板が出てる。なんか、ファミレスの休憩室みたいでおかしい。
校長室は『プレジデント』だよ、プレジデントって大統領のことだよ。むろん、校長や生徒会長のこともプレジデントっていうんだけど。先生たちはただのスタッフ。スタッフとプレジデント。やくも的には変なんだけど、きっと変な子だと思われるから聞かない。
トントン
ドアがノックされて「はい、どうぞ」と返事する。
ドアが開いて、なぜか講師のソフィア先生に引率されて制服姿の女子が立っている。
「教頭先生から聞いていると思うが、今日から同室になるコーネリアだ。コーネリア、ルームメイトのヤクモ・コイズミだ。ヤクモ、よろしくな」
「はい、ヒギンズ先生」
「ソフィアでいい。苗字で呼ばれると今の百倍は口うるさい教師になりそうだからな。じゃあな」
「はい、先生」
コツコツコツ……
軍人らしい足音をさせながらヒギンズ……ソフィア先生は行ってしまった。
「コーネリア・ナサニエルよ、あらためて、よろしく」
「ヤクモ・コイズミです、よろしく」
「ああ、言葉とかはフランクにいこうよ」
「え、あ、うん」
握手した手に感動して、ちょっと上の空。
きれいな手だけど大きい。大きいのは手だけじゃなくて、身長も180くらいありそうでプレッシャー。
それにね、ロングのプラチナブロンドに青い瞳。鼻筋もピシッと通っていて、すごい美人さん。
でもね、近ごろは、たとえ誉め言葉でも人の容姿にアレコレ言うのは反則っぽいから言わない。
「ソフィア先生、苗字で呼ばれるの微妙に嫌がってたでしょ、なんでか分かる?」
「あ、えと……(声を潜めて)マイフェアレディーだから?」
「フフ、分かってるじゃない。ヒギンズ教授なんて、ジェンダー的には敵みたいなもんだからね……ベッドは、こっち使っていいのかなあ?」
「あ、うん。机もクローゼットもそっちかな」
「うん、ありがとう……ああ、くったびれたぁ~!」
バフ!
すごい音をさせて仰向けに寝転がるコーネリア。
胸、おっきい……。
「ごめんね、長旅だったし、いろいろあったんで……ちょっとグロッキー」
「あ、晩ご飯までは時間があるから寝てていいよ。起こしてあげるから」
「うん、そうさせてもらおうかなあ……えい!」
ガバっと起き上がると……え、服を脱ぎだした!
下着一枚になると旅行鞄からジャージを取り出して着替える。
めちゃくちゃプロポーションがいい!
「じゃ、ちょっと寝かせてもらうね」
「うん」
あ……また触った。
ドアが開いてから三回耳を触ってる。
耳にかかる髪が気になるのかと思ったけど、ひょっとしたら耳たぶに怪我したのが治りかけとか……いろいろあったんで……ちょっとグロッキー……とか言ってたし。
……晩ご飯の時間が迫ってきた……まだ、よく眠ってる。
形のいい胸が上下して、ちょっと触ってみたくなる。
おっと、女子同士でもセクハラになるし……クークーと寝息を立てて、ジャージじゃなくて、ちゃんと相応しい服を着ていたら、白雪姫か眠れる森の美女か。
あ、また耳触った。
わたしも触ってみようかなぁ。
誘惑に負けて手を伸ばしたところで、起きる気配。
慌てて自分の場所に戻ったよ(^_^;)。
「ちょっと遅れてしまったけど、この夕食からみんなの仲間になります。コーネリア・ナサニエル、ネルって呼んでくれると嬉しいかな。好きなものは日本のアニメ。部屋はヤクモと同室。日本の子なんで、アニメの話とかしたかったんだけど、長旅ですぐ寝ちゃって、それにガツガツ聞いてドン引きされてもアレなんで、またよろしくね、ヤクモ。むろん、みんなもね!」
パチパチパチパチパチパチ
みんなに祝福されて席につくネル。
ネルって、よく寝るからネルなのかもしれない。
あ、また耳触った。
さあ、晩ご飯。
みんなでお祈りをして、ヨーイドンって感じで食事が始まる。
隣の席、刺激物大好きのアーデルハイドが盛大にペッパーミルをゴリゴリ。
「やだ、詰まったのかなあ」
拳でトントンやるものだから、蓋が取れちゃって、粒のやら粉になったのやらのコショウが飛び散る。
「ちょ、ハイジ!」「アーデルハイド!」「またかよ!」
「ハーーックション!!」
ネルがたまらずにでっかいクシャミ!
ポヨン
ええ!?
クシャミをした拍子に、ネルの耳は「呪縛を解かれた!」って感じで伸びてしまった。
「あ、ああ……ごめんなさい、言いそびれていたけど、ネルはエルフだったりします」
いっしゅん凍り付いたようになったけど、すぐにネルがテヘペロ(ノ≧ڡ≦)をカマシて暖かい拍手が起こったよ(^_^;)。
☆彡主な登場人物
- やくも 斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生
- ネル コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
- ヨリコ王女 ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
- ソフィー ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
- メグ・キャリバーン 教頭先生
- カーナボン卿 校長先生
- 酒井 詩 コトハ 聴講生
- 同級生たち アーデルハイド