大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

滅鬼の刃・34『朝顔と西瓜・1』

2023-08-14 09:25:08 | エッセー

 エッセーラノベ    

34『朝顔と西瓜・1』   

 

 

「ほう、懐かしいなあ」

 

 声に振り返ると半玉のスイカをぶら下げた武者が立っています。

「せやけど、こんな北向きで育つんか?」

「昨日までは三階のベランダに置いたんだけどな、育ちすぎるんで移したんだ」

「なるほど、抑制栽培というわけか」

「まあな」

 栞が近所の小学生に分けてもらった朝顔の種を鉢に入れ、日の当たるベランダに置いていたらノンノンと育ちました。

 この調子では育ちすぎてしまうので、昨日から北側の玄関前に移したのです。

 北向きなので、もう花は開かないかと思ったのですが、まだ余力があるのか、キチンと咲いています。

「栞ちゃんのやろ?」

「ああ」

 付き合いの長い武者には、こういうことが似合わないジジイだと見抜かれています。

「昨日から、泊りがけでアルバイトに行ってるんで、ピンチヒッターだ」

「まあ、水と日当たりさえありゃ勝手に育つからなあ」

 

 今日は一階の元ガレージだった和室で喋ります。

 エアコンの電気代節約と、さっきの朝顔が見えるからです。

 

「子どもじみた花やけど、朝顔っていうのは、けっこう大人なんやなあ」

「ああ、大人だから、夏休みの自然観察にも使われる」

「そこへいくと、スイカいうのは、手のかかる子どもみたいなもんやろなあ……」

 ペペ

 ジジイ二人そろって種を吐き出します。

「わしらも朝顔みたいなもんやったなあ」

「ヒネた朝顔だ」

「教室いう植木鉢と、窓の日当たりさえあったら三年で卒業していった。あ、大橋は四年やったなあ」

「教室の日当たりが悪かったからなあ」

「ホームルームなんか、全部生徒でやってたなあ。学期の始めのホームルームでホームルーム計画話し合ったやろ」

「担任は横に座って聞いてるだけ」

「そうか、時どき口挟んでなかったか?」

「え、そうだったか?」

「グランドでバレーボールとかサッカーしたい言うたら使用許可とれよとか、音楽室借りてレコード鑑賞に決まりかけたら『音響機器は視聴覚部の許可』とか、お菓子買って来て茶話会言うたら『生活指導』と相談しとけとか」

「ああ、そういう意味か」

 武者は逆説めいた言い方をしているのだと気付きました。

「憶えてるか、社会のS先生、卒業式でクラスの生徒の名前読み間違えたの」

「あ、せやったか?」

「東(ひがし)って男子を(あづま)って読んじまって、横の先生に『そのまんまヒガシです』って注意されて」

「あはは、もう二十年後やったら大爆笑やったやろなあ」

「下の方の名前は、もう詰まりまくりで、さすがにヒンシュクものだった」

「ああ、せやったっけ」

「あ、ああ……すまん、講師時代の話だった」

 わたしは母校で三年間講師をしていたので、記憶がごっちゃになっています。

「て、いうか、S先生て担任したことあったんか?」

「え、ああ……」

 このあたりは武者の方が記憶が正確です。わたしは――有ったこと――は聞憶えていますが――無かったこと――については曖昧です。

 武者は在学した三年間でS先生が一度も担任していないことを憶えていたのです。武者は一二年上の先輩たちとも付き合いがあって、いろいろ情報を知っていたので、S先生が、ちょっと札付きであったことを生徒の頃から知っているようです。

 それから二三の先生を思い出しながら、半玉のスイカの半分を平らげました。

「ええ話もあったよなあ」

 先生の棚卸ばかりでは詰らないので方向を変えます。

「ええと……野球部が府大会で優勝した!」

「え、せやった?」

「応援賞で、一位とったぞ」

 高校野球というのは部活動に励みが出るようにと、優勝・準優勝の他にも各賞を用意しています。

 その中に応援賞というのがありました。

 特に応援団やチア部があるわけでもなく、吹奏楽さえ廃部状態だったので、有志の生徒たちが自主的にチームを作って応援したことが評価されて応援賞をもらったことがありました。

「ああ、三島由紀夫の事件があった年かぁ……」

 三島事件と重なったので、みんなの記憶から消えている……という、武者の気遣いなのですが、三島事件は11月。高校野球は7月でしたから、ハナから記憶にないのでしょう。

 

 武者を見送って振り返ると、朝顔はすでに萎んでいました。

 蕾が三つ四つあるので、まだまだ咲くでしょう。

 せめて、午後だけでもと心変わりして、三階のベランダに戻してやりました。

 明日の朝には一階に戻します。

 

 

☆彡 主な登場人物

  •  わたし        武者走走九郎 Or 大橋むつお
  •  栞          わたしの孫娘 
  •   武者走                   腐れ縁の友人

 

 

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RE・かの世界この世界:188『疾走! 屋島を目指せ!』

2023-08-14 05:50:37 | 時かける少女

RE・

188『疾走! 屋島を目指せ!』テル 

 

 

 嵐の中、義経軍を追うように西北西に進む。


 右手に見えるのは鈍色の海と空。

 ようやく背後から夜が明け始めているんだけど、今が盛りの嵐のために空と海の狭間も定かではなく、砕けた波しぶきが雨と混ざって五人とも濡れネズミ。

 身に着けた衣類も背中の背嚢も水を含んでグッショリと重くまとわりつく、しかし不快には思わない。

 小学校の水泳でやった着衣泳、服を着たままプールに入るのが新鮮で、高揚したのを思い出す。

 ムヘンでの冒険にも高揚感はあったけど、それとは違う。

 異世界とはいえ、ここは日本だ。

 自分の国の風土の中で冒険するというのは格別……思うけれどもしまい込む。

 一刻も早く、瀬戸内海を渡って本州の土を踏み黄泉の国を目指さなければならない。イザナミを連れ戻してイザナギとの国生みを完遂させなければ、この物語は破綻……いや、消滅してしまうかもしれない。

「嵐が収まったのか、対岸が見えるぞ」

 ヴァルキリアの姫騎士には戦の嗅覚がるのだろう、疾走しながらも周囲の景色や状況が冷静に見られているようだ。

「あれは小豆島です。後にミカンの名産地になります」

 イザナギが横顔のまま教えてくれる。

「ミカン……オレンジのことですか?」

「はい、オレンジよりも小振りですが、味がいい」

「オレンジ以外にも懐かしい香りが……」

 タングニョ-ストも、疾駆しながら余裕の観察。

「オリーブの栽培でも有名になります」

「美しい海だ。名前はなんと?」

「瀬戸の海、つづめて瀬戸内海とも言います」

「うん、やさしい響きだ」

「船に乗って嫁ぐ花嫁と島の分教場が似合う海よ」

 自分で言って感動。

『瀬戸の花嫁』と『二十四の瞳』

『瀬戸の花嫁』は曽祖母ちゃんのオハコ、『二十四の瞳』は曽祖父ちゃんの好きな映画だった。

「中国の役人が初めて瀬戸内海を通った時に『日本にも大きな川があるではないですか』と褒めたことがあります」

「川だと?」

「晴れていれば、真ん中を通っても両岸が見えます。大陸の感覚では黄河とか長江なんでしょうね」

「フフ、大きければいいというものでもないだろうに」

「あれは、なんですか?」

 タングニョーストが、島に広がる緑の縞模様を指さした。

「中国の役人も同じことを聞きました。同行した日本の役人がデッキから指さして『段々畑です』。島の農民が撫でるようにして段々畑を営んでいることが、役人には嬉しい。誇るべき勤労の成果なんですね」

「それは分かる、ブァルキリアの北欧でも、僅かな平坦地でも利用して畑を作っているからな」

「中国の役人は、こう記録しました『耕して天に至る』」

「大げさだなあ」

「続きがあります」

「「続き?」」

 ヒルデとタングリスの声が揃う。

「『貧なるかな』、『耕して天に至る、貧なるかな』と。島々の山の頂まで耕さなければならないのは、国が貧しいからだと憐れむんですね」

「失礼な役人ですね!」

「フフ、面白い話だ」

 タングニョーストは憤慨し、ヒルデは面白がる。イザナギが時空を超えて日本のあれこれを知っているのも床しいことだけど、ケイトは話に付いていけない。

「なんだか授業を受けているみたいだ(^_^;)」

 わたしは、こういう会話が懐かしい。

 いつか冴子と、こんな感じで話ができる日々が戻れば……思った頃に高松の町が臨める峠に着いた。

 
 え!?

 

 眼下に見える高松の家々から火の手が上がり、数十秒で町全体を呑み込むような炎と煙になった。

「フフフ……義経というやつ、なかなか面白いことをやる……」

 ヒルデが、同類を見つけたように笑った。

 

 

☆ ステータス

 HP:10000 MP:400 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・1000 マップ:1000 金の針:1000 福袋 所持金:450000ギル(リボ払い残高0ギル)
 装備:剣士の装備レベル55(トールソード) 弓兵の装備レベル55(トールボウ)
 技: ブリュンヒルデ(ツイントルネード) ケイト(カイナティックアロー) テル(マジックサイト)
 白魔法: ケアル ケイト(ケアルラ) 空蝉の術 
 オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト)  思念爆弾

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

    テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官  ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官  ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          シリンダーの幼体 82回目で1/12サイズの人形に擬態
 ペギー         異世界の万屋
 ユーリア        ヘルム島の少女
 ナフタリン       ユグドラシルのメッセンジャー族ラタトスクの生き残り
 その他         フギンとムニン(デミゴッドブルグのホテルのオーナー夫婦)

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

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