鳴かぬなら 信長転生記
大手門の前に着くと、市の猪八戒が腕組みして高札を睨んでいる。
「どうした八戒、玉門関の由来でも書いてあるのかウキ」
「違うブヒ『僧侶及び僧侶を伴う旅行者は入城後南曲輪で待機すべし』と触書が出てるブヒ」
「もう、情報が洩れてるんじゃないかッパ?」
「それで、怪しい旅行者は取り調べてるとか思うのかウキ?」
ちょっと違うんじゃないかと思ったが『玉門関』の名前でおちょくったばかりなので、穏やかに聞いてやる。
「しかし、取り調べのためなら、城外でやるッパ」
思い出した。酉盃に潜入するときも城門の前に列を作らされ、チェックの済んだ者だけ城内に入れていた。
俺は、早くから楽市楽座にして、関所などサッサと廃止していたから、市も疎いんだ。茶姫は取り締まる側だったから直ぐに見当がつくようだ。
「南曲輪というのも、一般的には行政エリアだ、そうそう不穏なことは無いと思うッパ」
「そうだな、取りあえず入城するウキ」
俺たちの他にも旅の坊主がチラホラいて、見かけで僧侶だと分かると、そのまま入城させてくれる。それ以外の旅行者は酉盃同様に根掘り葉掘り聞かれ、積荷も検められている。
「あ、眩しいブヒ!」
商人の積荷が開かれてキラキラしている。
「あれが、玉門関の由来だッパ」
「宝石ブヒ?」
「ああ、西域からの輸入品には宝石貴石、高級ガラス製品が多いんだ。そういうものをまとめて玉という。その玉が入って来る関だから玉門関だッパ」
「なんだ、そうなのかブヒ(^_^;)」
楼門を潜ろうとすると、ひげを蓄えた偉そうな役人がガシャガシャと音をさせながらやってきた。
「あの甲冑は玉門都尉、関門司令だ。なにかあったなッパ?」
そのまま入城してもよかったんだが、玉門都尉は今川義元の来襲を報告した物見のように緊張した顔をしているので、思わず振り返った。
「間もなく黄風大王がやってくる! 通関は省略! 荷が軽く足の速い者は自儘に逃げよ! 逃げる方向は自由! 西は避けよ、黄風大王は西からやって来る! 自信の無い者は城内に入れ! ただし、城内とて安全は保障の限りではない。全て自己責任、この瞬間に判断し行動せよ!」
え!?
周囲の者たちが一斉に息を呑む。
数秒騒めいた後、半分ほどは馬に鞭を当て南北に逃げ、残りの者が城内に入って行く。
「御坊、御坊には申し訳ないが、南曲輪に急いでくれ」
「南曲輪で、なにをするんだ、ウキ?」
「悪鬼退散、妖魔調伏、敵国降伏、満願成就、家内安全……そういう祈祷をしていただく。御坊らで、ちょうど百人目、お願い申す!」
そう言うと、あちこち指示を飛ばしながら本丸の方に走って行った。
ギーーーガチャン!
背後で門が閉じられ、成りたて西遊記の俺たちは、さっそく災厄に巻き込まれてしまった。
☆彡 主な登場人物
- 織田 信長 本能寺の変で討ち取られて転生 ニイ(三国志での偽名)
- 熱田 敦子(熱田大神) あっちゃん 信長担当の尾張の神さま
- 織田 市 信長の妹 シイ(三国志での偽名)
- 平手 美姫 信長のクラス担任
- 武田 信玄 同級生
- 上杉 謙信 同級生
- 古田 織部 茶華道部の眼鏡っ子 越後屋(三国志での偽名)
- 宮本 武蔵 孤高の剣聖
- 二宮 忠八 市の友だち 紙飛行機の神さま
- 雑賀 孫一 クラスメート
- 松平 元康 クラスメート 後の徳川家康
- リュドミラ 旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ 劉度(三国志での偽名)
- 今川 義元 学院生徒会長
- 坂本 乙女 学園生徒会長
- 曹茶姫 魏の女将軍 部下(備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
- 諸葛茶孔明 漢の軍師兼丞相
- 大橋紅茶妃 呉の孫策妃 コウちゃん
- 孫権 呉王孫策の弟 大橋の義弟
- 天照大神 御山の御祭神 弟に素戔嗚 部下に思金神(オモイカネノカミ)