巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
今朝も始発電車……とはいかなかったけど、7時には船場の町家を出て8時半にはゲート前に並んだ。
真知子:「いっそ、ソ連館はパスかなあ」
ロコ:「そうですねえ、マイナーなパビリオンなら待ち時間だけで10個は周れますよぉ」
佳奈子:「うん、ロスタイム長すぎ」
たみ子:「日本館は行ってみたいかなあ」
真知子:「グッチは?」
わたし:「あ……ううん……」
実は、ゆうべスマホで調べてみた。
わたしのスマホはMS仕様(魔法少女仕様)だから、1970年でも使える。
正直、どれもこれもショボい。
話題のソ連館は、ドッキングに成功したソユーズの実物大を見せてくれる。令和の時代ではすでにポンコツになっている国際宇宙ステーションは、ソユーズの数十倍の大きさがある。でもね、その国際宇宙ステーションが展示されてるといって観には行かないと思う。
本当を言うと、ぼんやりと人を眺めているのがいい。
直美さんと仕事でやってきて、直美さんはパビリオンなんかそっちのけで人ばかり撮っていた。
明治や大正生まれのおじさんやおばさんが目をキラキラさせて、待ち時間もお連れさんたちと子どもみたいにお喋りしていて、そういうのを横で見ている方が楽しかった。
でも「じゃあ、人を見ていよう!」なんて言えないよ。
わたし:「じゃあ、一応ソ連館目指して、待ち時間長いようなら、近場のパビリオンを観るってのでどうかなあ」
真知子:「そうね、やっぱ、初志貫徹。それでいこう!」
佳奈子:「よし、じゃあ、ロコ選手、いっぱい調べといてよ!」
ロコ:「了解!」
それで、いざ開場になってみると、意外にソ連館が空いているというほどじゃないけど、30分も待っていたら入れそうな雰囲気!
ロコ:「やっぱり、ソ連館です!」
ボールペンで指さしたロコの手元にはメモ帳がひらめいている。ビッシリと文字やら図やら計算式やら……ロコって、やっぱすごい子なんだ。いっそ、スマホを貸してやったら……ウソウソ(^_^;)
たみ子:「あ、やっぱり人が戻って来る!」
他人より首一つ高いたみ子は列の後ろを見て感心。
真知子:「みんな同じなんだぁ」
佳奈子:「そうね、試合も中盤になって、敵も味方も対策は似てくるんだ」
なるほど、早朝から並んでるのはリピーターが多くて、みんな初回でアメリカ館やソ連館は観ていて、微妙に敬遠してたんだ。で、少し落ち着いたら、意外に空いてる(それでも、30分とか1時間待ちとかなんだけどね)ってんで、戻って来るんだ。
ソ連館は、なんか赤旗押し立てて行進してますってイメージ。正面のトップには共産主義共通のシンボル、鎌とトンカチ。まだまだ元気なころのソ連。
「「「「おお!」」」」
昨日と同じリアクション。
確かにソユーズの実物は迫力。ドッキングしてるのはレプリカだけど、実物大だからね。
ソユーズの横にはガガーリン少佐の写真。最初に人工衛星に乗って「地球は青かった」とか言った人。
真知子:「いい男ね、ガガーリンて」
真知子が感心して、みんなで見上げる。
わたし:「チャーミング……」
ガガーリンの笑顔はアメリカ的だ。屈託のない100%の笑顔。ソ連人には珍しいタイプ。
ロコ:「まあ、ヒーローだし、ソ連の広告塔ですからねえ」
真知子:「死んじゃったしね」
わたし:「え、死んじゃったの!?」
みんな:「「「「は?」」」」
声が大きかったので、他の人たちも何人か見てるし、ちょっと恥ずかしい。
ロコ:「グッチ、知らなかったんですか!?」
佳奈子:「飛行機事故で死んだんだよ」
たみ子:「うん、二年前。ケネディー暗殺ぐらいにショックだった」
真知子:「グッチ……」
わたし:「え、ああ……ど……(;゚Д゚)」
ど忘れ……と言おうとして動揺した。
ガガーリンなんて歴史上の人物、それも教科書の欄外の参考程度。令和のJKとしては名前知ってるだけでも上出来。死んだ年までは知らないし。
ヤバイ、展開によっては未来人だってバレてしまうかも。
ど忘れの『ど』は、どうしようの『ど』になってきて、涙が滲んできた。
ロコ:「グッチ……」
と、わたしの横に人の気配。
「オジョウサン、ガガーリンを好いてくださってたんですね」
赤いユニホーム、ソ連館のコンパニオンのロシア美人が立っていた。
「え、あ、あの……」
「わたし、ユリアといいます。ガガーリンと同じスモレンスクの人です、わたし。日本、情報多い。知らないこともあります。でも、いま知って悲しんでくれました。うれしいです。記念に、これもらってください」
ガガーリンバッチをもらった。
「仕事あるので、これでね。ほんとにありがとうオジョウサン」
ハ、ハグされた(#^_^#)。
ロコ:「これ、売店で売ってるやつじゃないですよ!」
真知子:「特別製!?」
たみ子:「うわあ、いいなあ」
佳奈子:「ガガーリンを愛していたのねぇ」
わたし:「ユリアさん?」
ロコ:「グッチのことですよ!」
わたし:「え、あ、それは……」
なんだか周囲の人も感動してるっぽいし、そそくさと……いきたかったんだけど、みんなに付き合ってじっくり見て、ソ連館を出ようとしたら、ちょうどユリアさんがお見送り係り。親しみのこもった笑顔を返されて、顔が真っ赤になってしまった。
☆彡 主な登場人物
- 時司 巡(ときつかさ めぐり) 高校一年生
- 時司 応(こたえ) 巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
- 滝川 志忠屋のマスター
- ペコさん 志忠屋のバイト
- 猫又たち アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
- 宮田 博子(ロコ) 1年5組 クラスメート
- 辻本 たみ子 1年5組 副委員長
- 高峰 秀夫 1年5組 委員長
- 吉本 佳奈子 1年5組 保健委員 バレー部
- 横田 真知子 1年5組 リベラル系女子
- 加藤 高明(10円男) 留年してる同級生
- 藤田 勲 1年5組の担任
- 先生たち 花園先生:4組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀
- 須之内直美 証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。