大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・175『冥王星の裏側』

2023-08-09 14:30:08 | 小説4

・175

『冥王星の裏側』周温来 

 

 

 アルルカンと言えば伝説の宇宙海賊だ。

 

 地球や火星のテクノロジーは太陽系の中での移動手段しかもたないが、アルルカンの船は自在に銀河宇宙を駆け巡っているという噂だ。

 銀河宇宙に乗り出すには最低でも光の速度で飛ばなければならない。実際には光の何倍、何十倍、何百倍の速度が出せなければ実用にはならない。光速や光速の数倍程度では、目的の星に行って帰って来るだけで数年、数十年、遠いところでは百年かかっても到達さえできない。宇宙船のような移動手段は、移動することで経済的な目的を果たせなければ、国家的あるいは惑星規模の道楽でしかない。

 パルスギが発見され、理屈の上では光速航行が可能にはなった。

 しかし、それは、石油が発見されたから飛行機が飛ぶというくらいに離れた技術だ。

 おそらく光速以上の速度、あるいはワープ技術を人類が獲得するのは数十年先のことだろう。

 

「ええと、だから、今見えてるのが冥王星でぇ(^_^;)」

「信じられない、月の軌道を発進して55秒しかたってない」

「いや、だから光速の二倍で飛んだわけで……」

「これはフェイク画像だろう……」

「あ、そういう疑問持つとキリがないんだけど……」

 案内されたブリッジの展望ディスプレーには、紛れもない冥王星が映っているのだが、こんな仮想現実はAIでいくらでも作れる。

「船長、だったら冥王星の陰に隠したアレ見せればいいんじゃないっすか?」

「え、あれを見せるのかぁ?」

「はい、あれ見せれば納得してもらえるっす。たぶん」

「じゃあ、回り込んでぇ」

 ウィーーーン

 微妙に加速して、ヒンメルは冥王星の裏に周る(フェイク画像だと思うけど)。

「あの傘みたいなのは?」

「目隠しだ。地球や火星から見えそうになったら、あの傘を動かして見えないようにしている。日本の四国ほどの大きさがあるから、角度を変えることで隠せるんだ。シャケカン、回り込んでくれ」

「了解っス。船外に出るっすか?」

「ああ、ディスプレーの画面だけじゃ信じてもらえそうにないからな。付いて来てくれ周温来」

「あ、ああ」

 ボートデッキに行くアルルカンの後を付いていく。

 あれ?

 相変わらずマントを翻していくんだけど、全く周囲のものに引っかからない。

「最初に会った時はリアルマントだったからね。普段はバーチャルにしている。ほら、こうすれば……」

 マントが消えて……え……その下に着ているものが順々に消えていく。

「……あ、船長(;'∀')」

「え、あ、しまった、全部消してしまった(#^_^#)」

「…………」

「あはは、サービスを兼ねて意地悪をしてしまったな」

 

 ボートデッキの手前で、船外服に着替えて複座のパルスボートに乗り組む。

 

 シュイーーン

 

 ボートは弧を描いて傘のふくらみの中に潜り込んでいく。

 

「おお!?」

「期待通りの反応で嬉しい。どうだ、すごいだろ(^▽^)」

 傘の中には古い宇宙船がコレクションのように係留されていた。

「まあ、半分趣味だがな。中にはビンテージものの船もあってな、けっこういい値段がつくものもある。あの小さいのはボイジャーだ」

「ボイジャー……」

 250年前に、初めて太陽系を飛び出したNASAの惑星探査機だ。太陽系を出てからは追跡不能になっている。

「プロキシマケンタウリに向かう途中で発見した」

「あんなの持って帰ってきていいんですか?」

「機能もとっくに喪失している、一人ぼっちで宇宙を漂っているのは可哀そうだろ。あれは2号だが、1号も見つけてやればセット売りでけっこうな値段になる」

「いや、でも……」

「忘れてもらっちゃ困る。このアルルカンは宇宙海賊なんだぞ」

「あ、あのシルエットは!?」

「宇宙戦艦ナガトだ」

「え、実在したのか!?」

「100年前に映画化された時の原寸大模型だ。あんなものCGでやればいいんだがな、あえてリアルセットを造ったところに値打ちがある」

「しかし、こんなデカブツ、ペイするのか?」

「ハハハ、だから半分道楽だ」

「なるほど……」

「分かってもらえただろうか、これだけのコレクション、たとえ傘で隠していても地球や火星の近くでは、必ず発見されてしまう。まあ、パルスギエンジンが本格的に作られれば、この冥王星の陰でも発見されてしまうだろうがな」

 秘密のコレクションが近々見つかってしまいそうで、寂しさを隠せない子どものような目をしている。

 アルルカンがオーバーテクノロジーと云っていいスキルを持っているのは、瀕死の俺を三日で治したことでも分かってはいる。

「どうだ、その……わたしの仲間に……」

「周温来はピタゴラスで死んだ」

「あ、ああ……」

「ということにしてくれたらな」

「お、おお! そうか、嬉しいぞ、周温来!」

「おい、無重力空間で抱き付くなあ!」

 俺とアルルカンは、ヒンメルが牽引ビームで停めてくれるまで冥王星の裏側でグルグル回っていたのだった。

 

☆彡この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス

 

 

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滅鬼の刃・33『学校のにおい・2』

2023-08-09 09:56:38 | エッセー

 エッセーラノベ    

33『学校のにおい・2』   

 

 


 ニオイの話が続きます。


「中学校のころ、理科室の匂いが好きだった」

「ああ、ちょっと酸っぱいような焦げ臭いようなニオイがしてたなあ」

「よく実験をやってたから、いろんな薬品が混ざったニオイだったんだろうなあ。ろくに換気扇も無かったから」

「理科部やったか化学部やったかかがあって、そこの三年生なんか、放課後は制服の上に白衣を着てたりしてさ、なんかそこだけ学校の平均的な雰囲気から突き抜けてたよなぁ……あ、中三の秋にU先生に呼び出されてな」

「ああ、職員室に居るよりも理科の準備室に居ることが多い先生だったなあ」

「『時をかける少女』で、主人公の七瀬は理科準備室でラベンダーの匂いを嗅いで気を失なってさ、タイムリープの能力を身に付けるやろ」

「あ、ああ」


 武者もわたしも、中三から高校にかけて小松左京や筒井康隆をよく読んでいました。


「七瀬やないけど、理科室の匂いで運命が変わったんや」

「男七瀬か(^_^;)?」

「先生はなぁ進路指導の極秘資料を見せてくれたんや……ほら、進路希望調査をやったら、希望校ごとに成績順の資料作るやろ」

「ああ、懐かしいなあ」

 自分たちも高校の教師でしたので、三年の担任をやった時は同じような資料をもとに進路指導をしました。

「『武者走、これがA高校を受ける生徒の一覧や』って言うてな見せくれんねん。バリバリの個人情報やで、80人分ほどあってよ、成績順にダーーって並んでるんや。真ん中あたりに赤い線が入っててなぁ、そこから下は受けても落ちるってことや、説得して受験校を変えさせようって、まあ、当たり前の指導やな」

「ドンケツだったのか、おまえ?」

「ああ、俺が担任だったら、ぜったい受けさせへん」

「先生、どう言ってた?」

「『武者走は、A高受験者の中ではドンケツや。ええか、2ページ戻ったとこに赤い線が引いたあるやろ。ここから下の生徒は受けても落ちる、ぜったい落ちる、必ず落ちる』って言って、俺の目をジーっと見た」

「無言の指導だなあ」

「ああ、あの目で見られたら、十五の中坊は絶えられへん」

「だろうなぁ」

「直ぐには返答でけへん、俯いたら、理科部の女の子の名前が目についてなあ……ほら、CKさん。六年の時は大橋のクラスやったやろ。むろん、赤線のずっと上やけどな」

「あ、ああ(゚д゚)!」

 思わず感動の声が出てしまいました。

 金曜ロードショーだったと思うのですが『ローマの休日』をやっていて、ヒロインのアン王女を見てビックリしました。アン王女の父の王様が日本女性と浮気したら、こんな女の子が生まれただろうという感じの美人です。

 同じように感動した武者が、アン王女を演じたのはオードリー・ヘプバーンという女優さんなんだと教えてくれました。

「それでな――ぜったい受ける!――って決意したんや!」

「そうか、理科室の匂いが、それを増幅したんだな」

「いや、そうなんやけどな。CKさんの白衣は、いつも洗濯したての匂いがした」

「おまえ、嗅いだのかぁ?」

「ちゃうちゃう、狭い廊下やから、すれ違うと匂うんや」

「わざとすれ違ってたんだろ、理科室は南館の一階だから、用事が無きゃ行かねえとこだぞ」

「用があったんや、用が」

「用がなあ……まあ、いいけどな(*¬_¬*)」

「それで、併願することを条件に認めてもらってなあ……」

「ジジイが遠い目をすんな、気持ち悪いぞ」

「思うんや」

「なにを?」

「もし、あの進路指導が教室でやられてたら、オレ、A高校は受けてへんかったと思う」

「ん? 教室でも同じ指導だろうから、CKさんの名前は見えただろーが」

「ああ、けども、あっさり志望校は変えてたと思う」

「え、どうしてだ。CKさんの思い出は変わらんだろう」

「いや、理科室のニオイとのコントラストがあったからこそやったと思う」

「理科室の臭いで、CKさんの匂いが際立ったって言うんなら、ちょっと……フェチめいてないか。怪しいぞ」

「洞察力のないジジイやなあ」

「なんだ、仕返しか?」

「確かにな、理科室のニオイは妖しくて変なニオイや。そのニオイの中で化学部の実験やってる彼女は、ちょっと妖しいやないか。ほんの5%ほどやけど、お仲間て感じがしてな……ん、臭わへんか?」

「え……」

 なんだか、理科実験のような臭いがしてきました。

 ゲホゲホゲホ

 階下で栞が咳き込む声がします。

「どうした、栞!?」

 ゲホゲホゲホ

「ちょっとヤバイいぞ」

「栞!」

 

 階下に降りると、窓やサッシを全開にして栞が咳き込んでいます。

 

「ごめん、お祖父ちゃん、風呂掃除してて、洗剤注ぎ足したら……ゲホゲホ」

「あ、栞ちゃん、似たボトルやけど、メーカーが違うよ!」

 風呂場から、洗剤のボトルを取り出して、庭に放り出す武者。

 我が家にも新しいニオイの記憶が刻み込まれました(;'∀')。

 

 

☆彡 主な登場人物

  •  わたし        武者走走九郎 Or 大橋むつお
  •  栞          わたしの孫娘 
  •   武者走                   腐れ縁の友人


 

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RE・かの世界この世界:183『淡路の浜でたこ焼きを』

2023-08-09 06:13:52 | 時かける少女

RE・

183『淡路の浜でたこ焼きを』テル 

 

 

 やればできるものだ。


 ケイトの言う通り、右足を出して、それが沈まぬうちに左足を出し、左足が沈まぬうちに右足を……という具合に交互に進めて行くと、背後のオノコロジマはアメノミハシラ共々霞の向こうに滲んで消えた。

「これは、淡路島を抜かしてしまって四国に着いてしまったかもしれない!」

 ちょっと興奮気味なイザナギは浜辺の砂をキュッキュと踏みしめながら陸に上がっていく。

「ハァハァ……ヤ、ヤッタア(^▽^)/」

 無邪気なケイトは水上歩行が上手くいったので、足を痙攣させて肩で息をしながらも嬉しそうだ。

 セイ!

 小さく掛け声をかけえてジャンプすると、ヒルデは空中で一回転して地形を確認する。

 ズサ

「わるいがイザナギ殿、ここはまだ淡路島の南端だ。東に進むと水道の彼方に四国の陸地が見えたぞ」

「そうなのか?」

「ああ、生まれて急に広がった世界だから、ポリゴンが足りないのだろう。アメノミハシラは描写が凝っていたからなあ。あちらにポリゴンを食われて間に合わないんだ」

 そう言えば、アメノミハシラは最初こそ寸胴の電柱のようだったけど、イザナギ・イザナミが国生みするころには、青々と葉を茂らせて巨木のようになっていた。あの描写がテクスチャでなく、表皮の凹凸、葉の一枚一枚を造形していたら、その負荷はテラバイト単位になっていただろう。安易に背景の壁紙にしてしまわないところに、この国を作っていく姿勢が現れているような気がする。

「なんだ、そうかあ……」

 現実を知ったテルが、ヘナヘナと砂浜に膝をついてしまう。

「よし、先はまだ長い。オノコロジマでは水も飲まずに出てきてしまった、ここで食事休憩にしよう」

「すまんな、イザナギ殿」

「いやいや、わたしの都合に付き合ってもらっているんだ。それに、こまめに食事休憩をしていれば、自ずと土地々々の産物を使うことになって勉強になるだろうし、この国の発展にもつながるだろう」

「そうか」

「じゃ、お言葉に甘えておこうか」

「うんうん(^▽^)」

「では、こんなもので……えい!」

 イザナギが指を一振りすると屋台が現れた。

「ええと、これは……」

 自分で出しておきながら、何の屋台か分からずにイザナギはインタフェイスのようなものを出してマニュアルを読みだした。

「たこ焼きのようだな……」

「「たこ焼き(ºº)!?」」

 わたしとケイトはパブロフの犬のようにヨダレが湧いてくる。

「たことは……」

 北欧の戦乙女には馴染みのない食べ物なので、いぶかし気にマニュアルを覗き込む。

「こ、これはデビルフィッシュではないか( ゜Д゜)!?」

「デビル……?」

「ク、クラーケンだぞ!」

 思い出した。ヨーロッパでは、ごく一部を除いてたこを食べる習慣がないんだ。

 その名もデビルフィッシュ、悪魔の魚と名付けて恐れられている。その巨大な魔物はクラーケンと呼ばれて海上の船さえ襲って海中に引きずり込むと言われている。

「いや、これは美味しいから(o^―^o)」

 ケイトが寄って来ると、早くもまな板の上にタコが実体化してウネウネと動き始めている。

「ヒエーーー!」

 あっという間にヒルデは淡路島の真ん中あたりまで逃げてしまう。

「あ、悪いことをしたかな(^_^;)」

「いやいや、作り始めたら匂いに釣られて出てくるよ、さっさと作っちゃおうよ!」

 たこ焼きモードに入ったケイトは不人情だ。

「じゃ、焼こうか!」

 イザナギが拳を上げると、たちまちタコは賽の目切りのユデダコになり、ボールの中には薄力粉を溶いた中に山芋が投入されて攪拌されていく。 

 やがて鉄板も程よく加熱されて、仄かに油煙も立ち上ってきた。

「いくぞ!」

 ジュワーーーー!

「「おお!」」

 鉄板の穴ぼこに柄杓で生地が流される! 思わず歓声が出てしまう!

「よし、タコ投入!」

「イエッサー('◇')ゞ!」

 嬉々として賽の目切りのタコを投入するケイト。わたしは、言われもしないのにネギとキャベツと天かすと紅ショウガを手際よく投入というか、ばら撒く。

「テルもなかなかの手際だな」

「あ、去年の文化祭で……」

 そこまで言うと、去年、冴子といっしょに文化祭のテントでたこ焼きを焼いたことがフラッシュバックする。

 そうだ、二人の友情を取り戻すためにも頑張らなくちゃ。

 今度こそ。

 しかし、ここは試練の異世界。目の前のミッションに集中しよう!

 ミッションたこ焼き!

 やがて、一クラス分くらいの穴ぼこでグツグツたこ焼きの下半分が頃合いに焼き上がる。三人首を突き合わすようにして揃いの千枚通しでたこ焼きをひっくり返す。

「ちゃんと、バリの部分は中に押し込んでからね!」

「うん、このパリパリのバリが美味しいんだよね(^#▽#^)」

「なんだか、黄泉の国遠征も楽勝のような気がしてきた!」

 たこ焼きというのは、やっぱりテンションが上がる。

 でんぐり返しも二度目に入るころには、タコ焼きを焼く匂いが淡路島中にたちこめて、いつの間にかヒルデも涎を垂らしながら戻ってきた。

「こ、この香ばしい匂いがたこ焼きというものなのか(ºº)?」

「ああ、食べたら世界が変わるよ」

「そ、そうか……」

 ジュワ!

「あ、鉄板の上にヨダレ垂らすなあ(# ゚Д゚)!」

 ケイトが真剣に怒る。

「す、すまん」

 こんなヒルデとケイトを見るのも初めてだ。

「よーし、こんなもんだろ!」

 腕まくりしたイザナギは手際よくトレーにたこ焼きを載せ、わたしがソースを塗って、ケイトが青ノリと粉カツオを振りかける。

「「「できたあ!!!」」」

「おお、食べていいのか!?」

「う……」

 返事をしようと思ったら、すでに手にした爪楊枝で真ん中の一個をかっさらったかと思うと、瞬間で頬張るヒルデ。

 さすがはオーディンの娘! ブァルキリアの姫騎士!

「あ、ヒルデ!」 

「うお! ふぁ、ふぁ、ふ……ぁ熱い(#゚Д゚)!」

 見敵必殺の戦乙女の早業が裏目に出た。

「水を飲め!」

 目に一杯涙をためて熱がるが、それでも姫騎士、口から吐き出すというような無作法はせずに、イザナギが差し出したペットボトルの水を飲みながら、無事に咀嚼して呑み込んだ。

「ああ、死ぬかと思った……」

「どうだった、ヒルデ?」

 ケイトが身を乗り出す。

「ああ、美味かった。国生みの序盤から、こんなものを作るとは、日本の神話も侮りがたいものだ……」

 ヒルデの真剣な感想に、屋台を囲んだ『黄泉の国を目指す神々の会』は暖かい空気に包まれた。

「さあ、我々もいただこうか」

 四人揃ってたこ焼きをいただく。

 淡路の砂浜で食べるたこ焼きは、なんとも豊かな味わいだ。

 美味しいものを食べて、みんな幸せになるのは嬉しいことだ。ムヘンでは、なかなかなかったことだ。

 大変な旅かもしれないががんばろうという気持ちになった。

 その幸福感のせいか……背後の草叢の気配に気づくのが遅れるわたし達だった。

 

☆ ステータス

 HP:10000 MP:400 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・1000 マップ:1000 金の針:1000 福袋 所持金:450000ギル(リボ払い残高0ギル)
 装備:剣士の装備レベル55(トールソード) 弓兵の装備レベル55(トールボウ)
 技: ブリュンヒルデ(ツイントルネード) ケイト(カイナティックアロー) テル(マジックサイト)
 白魔法: ケアル ケイト(ケアルラ) 空蝉の術 
 オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト)  思念爆弾

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

    テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官  ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官  ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          シリンダーの幼体 82回目で1/12サイズの人形に擬態
 ペギー         異世界の万屋
 ユーリア        ヘルム島の少女
 ナフタリン       ユグドラシルのメッセンジャー族ラタトスクの生き残り
 その他         フギンとムニン(デミゴッドブルグのホテルのオーナー夫婦)

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

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