銀河太平記・177
水・金・地・火・木・土・天・海・冥
冥王星は200年前に太陽系の惑星グループからは外されたけど、冥まで言わないと語呂が悪いので、200年後の今でも言う。
「水・金・地・火・木・土・天・海・冥はおまけで」とか「水・金・地・火・木・土・天・海・冥は名誉会員」とかね。
初等科で太陽系の順番を習った時も、この語呂合わせで習った。
先生は「長年仲間だったんだから語呂合わせぐらいには入れてあげよう!」と教えてくださった。
冥王星が太陽系惑星から外されたのは、20世紀にエリスという10番目が見つかったことが原因。
エリスは太陽系の外側で大きな楕円軌道を描いて560年ほどかけて太陽系の外周を周っている。
だったら、エリスも10番目の惑星に……とはならなかった。
「太陽系の中にはね、惑星とは呼べないんだけど、太陽の周りを周っている小惑星が何万とあるんだ。その中には冥王星ほどの星もあって、そういうのも入れたらキリがない。だから、準惑星とか小惑星とかいうカテゴリーにしている。でもね、そういう準惑星や小惑星も、ちゃんと太陽系の仲間なんだからね(^▽^)」
そう教えてくださった。
虎ノ門前派出所勤務を命ぜられたとき、その冥王星を思い出した。
霞ヶ関の旧4丁目5丁目を、新たに虎ノ門にしたのは、ここに新しい町を作ったから。
霞ヶ関の旧4丁目5丁目は、将来扶桑が拡大発展したら官庁街を拡大しようとして、ほとんど更地で保全されてきた一等地。
ひところは民有地である神谷町を拡大して民間に払い下げようという声が大きかった。
そこに、道隆さまの発案で集合住宅街が建てられることになって、あらたに虎ノ門の地名になった。
虎ノ門コンプレックス、略してトラコン。
実は、火星の政情は不安定になってきている。
比較的安定していたマス漢や連合国も、相次ぐ政権交代や不正裁判、経済政策の失敗で不法移民が増えた。
ほかの二十余りの国々は押して知るべしで、一部の余裕のある人たちは地球に移っていったけど、地球の各国は火星からの移住を厳しく制限し始め、昨年あたりからは合法的な移住はほとんど不可能になってきた。
そして、行先は火星内。治安も経済も落ち着いている扶桑に向かうようになったわ。
カキーーーン!
ホームラン間違いなしの打撃音の後に――ウワアアア!――という子どもたちの歓声。
「あれは三階グラウンドですね」
見上げると第二公園の三階フロアのバリアーを突き抜けたボールが数メートルバリアー突き抜けて消滅した。
「あ、イリーガル設定してる」
「まあ、数メートル、見なかったことにしましょう」
念のためにボディーカメラをチェックするヒコ同心。
「うん、8.5m 大丈夫」
トラコンの公園は重力制御されていて、三層構造になっている。
パルスガエネルギーで、800坪の公園を三層にして使っている。一層の高さを20mに設定してあるので、VB(バーチャルボール)ながら野球をすることもできる。
VBでも、昔とは違って、ちゃんと手ごたえがある。VBT(バーチャルバット)の真芯に当てれば、当たりに相応しい音と手ごたえがして、ついさっきのようにホームランにもなる。
VBはVBTとVG(バーチャルグローブ)にしか反応しないので、どこでやってもいいようなものだけど、見た目にはリアルと区別がつかないので、道路に飛び出すと危険なので、公園の外に飛び出したボールは消滅することになっている。
しかし、ゲームのバグのように空中で消滅すると興が削がれるので、システムをいじって消滅距離を伸ばす子もいるのよ。
時間帯にもよるんだけど、おおよそ10メートルまでは許容範囲。それもボディーカメラで捉えた映像を町奉行所のAIで確認する仕組みになっている。
公園に出入りする子、街をいく人たちの国籍はまちまち。
不法を含めた移民の街だから、こんなもの。
ただ、他の国のキャンプやコロニーと違って人種、国籍はまちまち。
扶桑は、移民の人たちに混住の義務を課している。
集合住宅の上下左右に同じ民族や国籍の者が隣り合わないようにしている。そればかりか、扶桑人の入居者も居て、その中に混じっている。混ざり合うことで互いを理解し尊重し合うという仕組みになっている。
「いやあ、わたしの発案じゃないですよ」
制度が始まったとき、道隆さまに聞いてみた。
「え、上様のお考えではないのですか?」
「はい、250年も前にシンガポールのリークワンユー氏がやったことです」
「そうだったんですか」
「はい、良いことであれば、例え昔のことでも真似します」
ただの真似なんかじゃない、移民歴が12年を超えると、居住の自由が認められ、扶桑国内どこでも住めるようになる。だけど、家賃も安く、ひところは官庁街になろうかというほどの土地なので治安も交通の便もよくて、積極的に引っ越ししようと言う人は出ないだろうと予測されているわ。
パトカーは、第二公園前を過ぎてトラコンの中央に向かった。
☆彡この章の主な登場人物
- 大石 一 (おおいし いち) 扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
- 穴山 彦 (あなやま ひこ) 扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
- 緒方 未来(おがた みく) 扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
- 平賀 照 (ひらが てる) 扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
- 加藤 恵 天狗党のメンバー 緒方未来に擬態して、もとに戻らない
- 姉崎すみれ(あねざきすみれ) 扶桑第三高校の教師、四人の担任
- 扶桑 道隆 扶桑幕府将軍
- 本多 兵二(ほんだ へいじ) 将軍付小姓、彦と中学同窓
- 胡蝶 小姓頭
- 児玉元帥(児玉隆三) 地球に帰還してからは越萌マイ
- 孫 悟兵(孫大人) 児玉元帥の友人
- 森ノ宮茂仁親王 心子内親王はシゲさんと呼ぶ
- ヨイチ 児玉元帥の副官
- マーク ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
- アルルカン 太陽系一の賞金首
- 氷室(氷室 睦仁) 西ノ島 氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
- 村長(マヌエリト) 西ノ島 ナバホ村村長
- 主席(周 温雷) 西ノ島 フートンの代表者
- 及川 軍平 西之島市市長
- 須磨宮心子内親王(ココちゃん) 今上陛下の妹宮の娘
- 劉 宏 漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官
- 王 春華 漢明国大統領付き通訳兼秘書
※ 事項
- 扶桑政府 火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
- カサギ 扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
- グノーシス侵略 百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
- 扶桑通信 修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
- 西ノ島 硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
- パルス鉱 23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
- 氷室神社 シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
- ピタゴラス 月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス