くノ一その一今のうち
ゴォーーーーーーー
わたしたちを乗せてきたC130は、あっという間に飛び立って、高原の雲に隠れて消えてしまった。
「すごいね、この滑走路は軽飛行機がやっとなのに……」
ミッヒが眩しそうに空を見上げ、自衛隊の操縦テクニックに見入っている。
わたしたちは、数カ月ぶりのC130に乗って高原の国にやってきたところだ。
目の前には誰が見ても軽飛行機がやっとという感じの500m滑走路。
航空自衛隊のC130は折り返して、PKOに参加していた自衛隊員と在留邦人を乗せて日本に引き揚げていく。
わたしたち徳川物産関係者は、あのC130に乗ってきて、100人の引き上げ組と交代したところ。
草原の国に行った時は米軍のC130だったけど、今回は自衛隊機。
草原の国での活躍を知った日本政府は「今回はわが国で」言ってきた。
――成功した時の保険だ――
百地社長は口をゆがめたけど、徳川社長は鷹揚に付け加えた。
――なあに、針は確実にこちらに傾いている。進歩ととらえましょう百地さん(^□^)――
実は、草原の国が急速に軍備を整えて周辺の国に攻め入る気配なんだ。
木下豊臣家が甲府から持ち出した甲州金は甲府と大阪城で少しは取り戻したけど、けっきょく7割ほどは持ち出され、その資金で、さっそく草原の国の軍備拡張に乗り出した。
にわかに勢いづいた草原の国は、隣り合う高原の国に手を及ぼうとしている。
そのためにドイツからミッヒが招かれ、徳川物産は全力を挙げて対抗するんだ。
「あららぁ、ネットニュースでは『自衛隊、成果を上げて高原の国から撤収』と出てるわ」
まあやがスマホを見せてくれる。
「ええと……え?」
画面をスクロールすると、C130を見送るわたしたちの後姿。
「『脚本家三村紘一氏は、三村組と呼ばれるチームを結成し新作映画「バトル オブ ハイランド」の制作準備に入る』だって」
「ええ!?」
なんちゅう欺瞞! 実体は自衛隊のPKOだって引き上げるくらいに危機地帯だっちゅうに!
お~い、みんなぁ~!
空港事務所に手続きに行っていた三村先生と桔梗さん(徳川社長の秘書)が軽やかに駆けてきた。
なんだか、新作映画の準備どころか、みんなでバカンスに来た感じ。
「王女殿下がお迎えに来られることになりました、もう少し、このままで待ってください」
桔梗さんが穏やかに予定変更を伝える。三村先生は膝に手を付いてゼーゼー言ってる。
「いやあ……酸素が薄い……桔梗さん、あと頼む」
「はい、承りました。高原の国は国王がお体を悪くされて、皇太子が摂政になっておられますが、実際に国政を担っておられるのは王女のアデリヤ殿下です。率直なお方ですが根は国と国民を思い、日本にもリスペクトの御心をお持ちの方で……」
「桔梗さん、こ、来られたようだ……」
苦しい息で三村先生が指差したゲートから、ごっついトヨタがパトカーを従えて入ってきた。
キーーー! バタム!
ポニテで高身長の戦闘服が降りてきた。
「高原の国第一王女のアデリヤである」
その第一印象は、女マッカーサーだった(^_^;)
☆彡 主な登場人物
- 風間 その 高校三年生 世襲名・そのいち
- 風間 その子 風間そのの祖母(下忍)
- 百地三太夫 百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
- 鈴木 まあや アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
- 忍冬堂 百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
- 徳川社長 徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
- 服部課長代理 服部半三(中忍) 脚本家・三村紘一
- 十五代目猿飛佐助 もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者
- 多田さん 照明技師で猿飛佐助の手下
- 杵間さん 帝国キネマ撮影所所長
- えいちゃん 長瀬映子 帝国キネマでの付き人兼助手
- 豊臣秀長 豊国神社に祀られている秀吉の弟
- ミッヒ(ミヒャエル) ドイツのランツクネヒト(傭兵)
- アデリヤ 高原の国第一王女