鳴かぬなら 信長転生記
玉門関を出て、砂漠を南東に進んでいる。ここからは河西回廊(かせいかいろう)だ。
三国志の舞台である中原とシルクロードの舞台であるゴビ砂漠を繋いでいるのが、この河西回廊だ。
扶桑(転生国)の感覚で回廊というと、学校の渡り廊下、せいぜい学院と学園を結ぶ川沿いの田舎道を思い浮かべるが、そんなケチなものではない。
「大坂と京を結ぶ京街道のようなものかブヒ?」
「そんな、ケチなものではないぞウキ」
「京街道がどれほどのものかは知らんが、東は楼蘭、西は、さっきまで居た玉門関までのおおよそ1000キロほどの地域だッパ」
「1000キロブヒ!?」
「グーグルマップで見てみろウキ」
俺は物事を数量的、視覚的に捉える。理屈で物事を捉えては失敗する。
「ええ( ゚Д゚)! 尾張から白河の関……どころか、ほとんど津軽あたりまで行ってしまうブヒ!」
スマホの画面を見てたまげる八戒。
「あ、ああ、三国志の世界はスケールが大きいからッパ」
他の三国志人が言うと――どうだ、中華はでかいだろーが<(`^´)>――と鼻につく自慢になるのだろうが、茶姫のそれは――無駄に大きい(-_-;)――というニュアンスになる。大きいがゆえに王や皇帝の権力は強くなり、強くなるがゆえに、能力のない者や、悪党がその地位に着いた時の災厄は計り知れないという怖れと疎ましさが滲んでいる。
「この1000キロを歩いていくのかブヒ!?」
「仕方ないだろ、ウキ」
「玉門関までは一気だったのにぃブヒ」
「紙飛行機の性能がよかったからだ。忠八には感謝だウキ」
「じゃあ、いっそ飛行機で行けばぁブヒ」
「曹操を謀るんだ、並の事ではすぐに見破られるッパ。時間をかけて西遊記一行としての評判を上げ、味方を増やし、策も練らなければな……」
「扶桑は、みんなの心が一つになっている。大丈夫だ、茶妃」
最後の方は「ッパ」も「ウキ」も忘れてシビアになってしまった。
敦煌までは、砂漠や半砂漠の荒れ地が続いていて、きちんと整備されているわけではない。
ときどき立ち止まっては、岩の上や木に登って様子を探る。
「あれ、崖崩れだ、ブヒー!」
ジャンケンに負けて岩に上った八戒が叫ぶ。
「少し遠回りかなッパ」
「俺も見てくる、ウキ」
岩に上がって、小手をかざすと様子がおかしい。
「崩れ方がおかしい……」
「どこがおかしい、ブヒ!?」
「八戒が指差した一角だけが崩れていて、他のところはひび割れも無く、穏やかな谷が続いているウキ。だれかが意図的に崩して……あちらの古道の方に誘導しているんだウキ」
「誘導?」
あの崖崩れの向こうに見られたくないものがあるか、それとも……誘導された古道の向こうになにかの悪だくみがあるのか。
信長らしくもなく迷いが生じた。岩の上からは彼方に敦煌の仏塔も霞んで見える。一気呵成に進めない距離でもない。いや、だからこそ慎重になるべきという気もする。
その迷いを見透かしてか、沙悟浄も上がってきた。
「なにを迷っているッパ?」
「いや、すまん。崖崩れはしれているんだが、つい、景色に見惚れてしまったウキ」
「フフ、阿倍仲麻呂も西域には憧れておった。扶桑人は旅愁を誘われるのかもなッパ」
「ハハ、迷うまでも無い、敦煌の仏塔も見えている。ここは回り道をしておこうウキ」
「ブヒ、三蔵法師が!?」
八戒の声に振り返ると、馬上の鞍に三蔵法師の姿はなく、丑寅の方角に砂煙が上がっている。
「ッパ! 連れ去られた!」
「ウキ! まだ遠くない、追うぞ!」
三人揃って馬に飛び乗ると、砂煙を追って走り出した!
☆彡 主な登場人物
- 織田 信長 本能寺の変で討ち取られて転生 ニイ(三国志での偽名)
- 熱田 敦子(熱田大神) あっちゃん 信長担当の尾張の神さま
- 織田 市 信長の妹 シイ(三国志での偽名)
- 平手 美姫 信長のクラス担任
- 武田 信玄 同級生
- 上杉 謙信 同級生
- 古田 織部 茶華道部の眼鏡っ子 越後屋(三国志での偽名)
- 宮本 武蔵 孤高の剣聖
- 二宮 忠八 市の友だち 紙飛行機の神さま
- 雑賀 孫一 クラスメート
- 松平 元康 クラスメート 後の徳川家康
- リュドミラ 旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ 劉度(三国志での偽名)
- 今川 義元 学院生徒会長
- 坂本 乙女 学園生徒会長
- 曹茶姫 魏の女将軍 部下(備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
- 諸葛茶孔明 漢の軍師兼丞相
- 大橋紅茶妃 呉の孫策妃 コウちゃん
- 孫権 呉王孫策の弟 大橋の義弟
- 天照大神 御山の御祭神 弟に素戔嗚 部下に思金神(オモイカネノカミ)