くノ一その一今のうち
じっさいアデリア王女はレイバンのサングラスをしている。
落ちこぼれJkのわたしにサングラスのブランドなんか分からないんだけど、『お、レイバン』『マッカーサーのといっしょだ』と、徳川社長と百地社長が闇語りで呟いたから分かった。
「王女殿下おん自らのお出迎えに感謝いたします。まず、撮影準備隊メンバーの紹介をいたします」
「うむ」
桔梗さんのイントロディユースに合わせて、みんな一列に並び、わたしも最後尾に付く。桔梗さんが通訳しながら紹介していくようだ。
「徳川物産社長の徳川秀長です」
「ん、徳川なのに秀吉の秀の字が付くのか?」
「二代将軍秀忠の子孫ですので、代々秀の一字を戴いております」
「そうか、よろしくな」
「徳川グループ、百地産業社長の百地三太夫です」
「百地です」
「よろしくな」
「『バトル オブ ハイランド』の作者三村紘一先生です」
「よろしく」
「主演女優の鈴木まあやです」
「鈴木まあやです、お目にかかれて光栄です」
「……どことなく、先王后に似ている」
「あ、それは光栄です」
パッと頬を染めるまあや。
「……よろしくな」
「まあやの後見職の風魔そのです」
「ほう、こんなに若いのに後見職か、よろしく」
「お目にかかれて光栄です」
後見職にされてしまった(^_^;)
「主演の相手役をいたします、ミヒャエル・ミュンツァーです。ミッヒとお呼びください」
「よろしくな、ミッヒ」
「そして、わたくし、徳川物産の社長秘書兼通訳の桔梗と申します」
「うむ、よろしく頼むぞ」
仏頂面のまま王女が締めくくると、空港の格納庫から年代物のボンネットバスが出てきて、我々ゲストはバスに、王女はトヨタに乗って高原の道に乗り出した。桔梗さんが「都のカワンバートルに向かいます」と教えてくれた。
草原の国よりも緑が豊かだ、高原というからには標高が高いだろうに、どういうことだろう。
「先々代の国王が治山治水に熱心で、先代の国王は産業の振興に励まれました。日本流に言いますと美し国、そこを草原の国が狙っています」
「そうなんだ」
バスの席が隣同士なので、桔梗さんは地声で話してくれる。
「それだけじゃありません、高原の国が手に入れば、その富と技術で中央アジアを手に入れられます。そうすれば、中国やロシアとも肩を並べられます。すでに、西部や北部では紛争が起こってPKOの部隊まで……日本は、もう引き揚げましたが。そして、木下が埋蔵金を資金にして乗り出し始めています。この国を木下が呑み込んでしまったら……」
「取り返しがつかなくなるのね」
「はい」
「でも、ちょっと大げさじゃない。社長が出てくるなんて初めてでしょ、それも二人も来て」
「それは……王宮に行けば分かるかと思います。王女さま次第ですが……」
バスの前を行くトヨタに目を向ける桔梗さん。
そう言えば、どうなんだろ……王女さま自ら来られた割には、貧相な出迎え。挨拶の間もサングラスを外さず、ちょっと違和感。
王都カワンバートルが近くなるにつれ、整備途中の、おそらくはハイテク産業と思われる建物がチラホラ見えてきた。
「稼働中の企業もあったんですが、半分近くは閉じていますね」
「…………」
JK忍者のわたしには、発展しかけか没落の始まりか分からない景色だ。
バスは、工場よりビルが目立つ市街に入って行った。
大通りに入ると、正面に金色の尖塔を従えた宮殿が見えてきた。
あ!?
あと2ブロックで王宮というところで、官公庁のようなビルの上1/3あまりが焼けただれているのが目に入った。
☆彡 主な登場人物
- 風間 その 高校三年生 世襲名・そのいち
- 風間 その子 風間そのの祖母(下忍)
- 百地三太夫 百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
- 鈴木 まあや アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
- 忍冬堂 百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
- 徳川社長 徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
- 服部課長代理 服部半三(中忍) 脚本家・三村紘一
- 十五代目猿飛佐助 もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者
- 多田さん 照明技師で猿飛佐助の手下
- 杵間さん 帝国キネマ撮影所所長
- えいちゃん 長瀬映子 帝国キネマでの付き人兼助手
- 豊臣秀長 豊国神社に祀られている秀吉の弟
- ミッヒ(ミヒャエル) ドイツのランツクネヒト(傭兵)
- アデリヤ 高原の国第一王女