大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・イスカ 真説邪気眼電波伝・12「屋上の天体観測」

2018-01-13 16:21:35 | ノベル

イスカ 真説邪気眼電波伝・12

『屋上の天体観測』

 

 

 イスカの西田さんが誤解を解いてくれた。

 

 と言っても、堕天使の魔力で墜落寸前のジェット機をかわした……とは言っていない。

 片棒担いだオレが、まだ半信半疑なんだから、生活指導の先生たちが信じるわけも無いし、言っていいことでもない。

「宵の明星が見たかったんです……」

 優等生の西田さんが、保健室を抜け出してきてまで言うので先生たちは信じてくれた。

 じっさい、この時期を逃してしまうと見られなくなることを専門的な知識で解説するので理科の先生でもある生指部長が感動した。

「それは感心だ。よし学校の天体望遠鏡を貸してやろう! 俺も立ち会いたいが、あいにく仕事でな。ぜひ週明けに観察レポートを出してくれ!」

 

 ということで、再び屋上。かわりばんこに天体望遠鏡を覗いているオレと西田さんを見ながら階段室の壁に背中を預けて座っている。

 えと……説明。

 西田さんのスイカが二人にそっくりなアバターを出して天体観測をやらせ、オレタチは大事な話をしている。生活指導室の窓からは屋上がよく見えるからだ。

「堕天使が力を発揮するにはジェネレーターが必要なのよ。それで、わたしに適合するのは勇馬、あなただというわけなのよ。候補になった子は他にもいるけど、四年前の適合テストで勇馬が一番適していることが分かった……本来ならジェネレーターが、その器としての寿命を終えるのを待って下僕とするんだけど、ルシファーの侵略が始まった今は悠長なことを言っていられない、それで……」

「えと、話が見えないんだけど」

「呑み込みが悪いわね……悪魔には二系統があるの。わが父サタンの真悪魔の系統と、ルシファーの闇悪魔の系統がね。真悪魔は神のバランサーで、この世を維持しようとしている。ルシファーはそれを覆してこの世を闇にしてしまおうとしている。そのルシファーの侵攻が早くなってきたので、サタンの娘であるわたしが立ち上がらざるを得なくなったというわけなのよ」

「えと……そのルシファーってのは……」

「ほんと鈍いのね、さっきジェット機が墜ちそうになったでしょ。あれルシファーの企みなのよ。こないだ佐伯さんが思い詰めて飛び降りようとしたのもルシファーの影響があるからなのよ。他にも天変地異や事件のいくつかはルシファーの仕業よ。まだ始まったばかりだけど、これからは立て続けにおこるでしょう……むろん全部を解決するわけにはいかない。我が父サタンの力が満ちるまでは、わたしが踏ん張らなきゃいけないの。特に、この学校はサタンの聖地、なにがあっても破られるわけにはいかない。ジェネレーターであるあなたに選択権は無い。もう下僕の契りを結んだのだからね……」

「さっきのキスが……?」

「そうよ、拒否すれば勇馬の明日は無いわよ……ルシファーも勇馬がジェネレーターであることは気づいている……近ごろ身の回りで危険な目に遭ったり、おかしいと思うようなことは無い?」

 オレは、ゆっくりとイスカを指さした。

「フ、そういう面白いところ好きよ。でも、他には?」

 幻想神殿のあいつが思い浮かんだが、アレはなにかのバグだ。

「あ、そうだ。オレの成績を落としている先生たち!」

「それは自業自得というものでしょ。むろん学業不振で退学なんかされたら困るんだけど……って、その真顔は本当にヤバイの?」

「え、あ、ま、なんとかなるんだろうけど」

「なんで目が泳ぐの? マジ退学とかあり得ないんだけど……もう少しで期末テストよ」

「だ、大丈夫だって」

「その大丈夫は信じられない。よし、わたしが直に指導してやろう!」

「え、テスト一週間前から?」

「いや、明日……いや、たった今からだ。勇馬の家に行くぞ!」

「ちょ、ちょ……」

 

 オレの下僕生活は試験勉強から始まった……マジ勘弁してよ!

 

 

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高校ライトノベル・小説大阪府立真田山学院高校演劇部公式ブログ・Vol・22『スランプな今日この頃』

2018-01-13 06:21:55 | 小説・2

大阪府立真田山学院高校演劇部公式ブログ・Vol・23
『スランプな今日この頃』 
 
       


☆来るとは思てたんですけど

 台詞はとっくに入りました。ミザンセーヌ(立ち位置、動きのきっかけ) エロキューション(発声とアーチキレーション=滑舌)も文句なしです。音響やってる長曾我部さんが少林寺が休みの日に5人ほど連れてきて試演会みたいなこともやりました。

「すごい!」
「さすがに演劇部!」
 と誉めてくれるんですが、なんか物足りません。勇気を奮って聞いてみました。
「『アナ雪』と比べてどう?」
 五人とも『アナ雪』は観てます。うちらも出たばっかりのDVDで観ました。
「あれはアカデミー賞とったやつやもん。なんちゅうか次元がちゃうよって……」

 うちらも、あれとは勝負にならんと思います。せやけど、あえて聞いてみたんです。
 やっぱりなあ……いうのんが、うちら役者の感想です。

「そら、本も、かけてるお金もグレードちゃうねんさかい、あんまり考えんでもええんちゃう?」
 長曾我部さんは、少林寺の元部長らしくフォーローしてくれます。
「先輩の気持ちは嬉しいんですけど。この『すみれの花さくころ』は完全やと思てるんです。初版が15年前、上演回数は20回ほど。その都度改訂されて、これで五訂版です。やってみて分かるんです。無駄なもんはありません。足らんもんもありません。試しに初版でもやってみましたけど、無駄と無理のある本でした。でけへんとしたら、うちらの力の足らんせいです」
「そう……で、なにが足らんか分かってるのん?」
「……それが分かりません。坂東先輩にも通しのDVD送ったんですけど『自分らで考えなさい』でした」

 しばらく四人、稽古場のプレゼンテーション教室で落ち込み。

「あたし、芝居のことは分からへんけど、少林寺で技に行き詰ったら、しばらく他の技の稽古に切り替えてみたりするよ。ほんなら、躓いてたとこが霧が晴れたみたいに見えてくる」

「……それや!」

 直観でした。同じ作者の違う本をやったら、その本では書ききってなかったものが見えてくるような気がしました。
 例えて言うなら、AKB48のことを知ろうと思たら『フォーチュンクッキー』だけやってても分かりません。『ビギナー』『桜の栞』『前しか向かねえ』『上からマリコ』『下からさしこ』いろいろやって、AKBの、それでも半分ぐらいしか分からへんと思うんです。
 そこでうちらは、作者の他の作品も稽古してみることにしました。

 スランプ克服大作戦です!

☆『クララ ハイジを待ちながら』

 この作品を選んでみました。作者の直近の戯曲です。

 ほとんどクララの一人芝居なんですけど、舞台には登場せえへん「アナタ」とのチャットの会話で話が進んでいきます。女の子二人の葛藤いう点では同じ構造してます。
『すみれ』の場合は、対立軸が、すみれとかおるの中にしかありません。対立は対立だけとちゃいます。互いに全体を通して関係を持ち、影響しあい、相手も自分も変わっていく存在のことです。『すみれ』の中では、それはコミカルに、そして遠慮気味に表現してあります。
『クララ』は、クララがアナタに話しかけることで、自分の隠れた心の中が出てきます。その表現は多弁で、スラプスチックでさえあります。この二つの作品はネガとポジやと言うてもええと思うんです。ネガとしての『クララ』を演ることで、ポジとしての『すみれ』の理解と表現が深まると思たんです。

 で、ほとんどクララの一人芝居なんで、あやめちゃんといっしょにやって、演出しあうことにしました。

☆余計なことかも

 芝居作りは建築物に例えられます。うちらは建物の基礎が弱いんで、地盤の改良からやってます。何回も言うてますけど、役の肉体化いうのは、これほどまでに難しいんです。9月10月になってコンクールの準備に入るクラブは分かりません。
 せやけど批判することは簡単やけど、現実は見てみなら分かりません。夏休みの間に、よその演劇部の訪問もしたいと思います。

文責 大阪府立真田山学院高校演劇部部長 三好清海(みよしはるみ) 

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高校ライトノベル・イスカ 真説邪気眼電波伝・11「これで勇馬はわたしの下僕」

2018-01-12 16:16:49 | ノベル

イスカ 真説邪気眼電波伝・11

『これで勇馬はわたしの下僕』

 

 

「墜ちないようにする」

 

 不可能なことをさらりと言うと、西田さんはジェット機の方角に両手を差し出した。

 なんか念力でも飛ばしそうな雰囲気なんだけど、んなことできるわけがない。

「さっさと下りようよ!」

「佐伯さんを助けたところ見ていたでしょ」

「え? あ、あれは……」

「現実にわたしがやったことよ。理解できないことを幻と決めつけるのは心が弱い証拠よ……」

「西田さん……」

 西田さんは眉間に力を入れ歯を食いしばり、オレの呼びかけには応えない……ほ、本気で停めるつもりかよ!?

 ジェット機は気づいたときの三倍くらいの大きさになって迫ってきている! さっきは聞こえなかった爆音が木霊してきた!

 マジヤバいって!!

「ちっ……佐伯さんを助けるようにはいかないか」

 昔の魔法少女アニメの主人公みたく踏ん張りの姿勢になるが、んなもんで墜落を止められるか! これはリアルなんだぞ!

「せめて、ここから降りよう!」

「力が足りない……背中を支えて!」

「え? あ、うん」

 恐るおそる西田さんの背中に手をやる、両方の手の平が触れた途端、グッと体重を預けられ給水塔から落ちそうになる!

「踏ん張って! ああ……もう少し下の方! しっかり力を入れて!」

「う、うん!」

 フニっとした感触……ここは背中じゃなくてお尻だよな?

 なんか、こんなときにドギマギする自分が情けない。

「力を籠めてええええええ!」

 グゴーーーーーーーー!!

 ジェット機の轟音がマックスになり、同時に西田さんが叫んだが轟音にかき消され、手のひらを通じて振動が伝わるだけだ。

 ほんのガキの頃、トラックに轢かれかけた記憶が蘇る。

 チビっちゃいそーーー!

 マックスと思った轟音はさらに大きくなり、もうダメだああああああ! 

 

「……もう大丈夫よ」

 

 まだ轟音は続いていたが、ジェット機は低空をお尻を見せながら遠ざかっていくところだった。

「いつまでつかんでるの」

「あ……!?」

 オレは慌てて手を離した。

「あ、いや、ごめん。なんか鷲掴みにしちゃったかな……」

「降りるわよ」

「あ、ああ」

 

 すごく疲れた様子の西田さんに続いてラッタルを下りていく。

 屋上まで下りると、体育館や校舎からわらわらと人が出てくるところだった。さすがに墜落寸前のジェット機の爆音はみんなを驚かせたようで、目をやると学校の外でも人々が去り行くジェット機の方を見て指さしたり声高に喋ったりしている。

「佐伯さんのときは無かったことにできたんだけど、今回は無理ね……」

 諦めたように上げた右手を下ろし、屋上のネットに身を預けるようにへたり込んでしまった。

「大丈夫、西田さん?」

「イスカよ……堕天使イスカ。この時空の堕天使たちの束ねにして暗黒魔王サタンの娘。西田幸子は、この仮初めの器の名……この結界は破られようとしている、護るためには勇馬の力が必要なの……」

「え、なに?」

 わずかに顔を寄せると、ネクタイを掴んで引き寄せられた。

 プチュ!

 オレは十七年の人生で初めてのキスをしてしまった。いや、させられた!

「さ、佐伯さん……」

「ごめん、ちょっと強引だったけど、これで契約成立。これで勇馬はわたしの下僕だから……」

 薄笑いを浮かべたかと思うとイスカ……西田さんは気を失ってしまった。

 

 オレはいい奴だと思うよ。放っておくわけにもいかず、職員室に救けを呼びに行き、イスカを保健室に収容すると生活指導室で絞られてしまった。日ごろ鍵がかかっているはずの屋上、そこで彼女がフェンスに寄り掛かって気絶するまでなにをしていたのか!? ってな!

 

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小説大阪府立真田山学院高校演劇部公式ブログ・Vol・21『坂東先輩からのダメ』 

2018-01-12 06:12:37 | 小説・2

大阪府立真田山学院高校演劇部公式ブログ・Vol・21
『坂東先輩からのダメ』 
 
         


☆音響係が決まりました

 放送部3年生の長曾我部さんが兼業部員でやってくれはることになりました。

 実は、先月の半ばからやってもろてたんですけど、放送部の実務を2年生に引き継げたいうので、稽古にべた付きできるいうのんで入ってもらいました。
 原曲は、N音大さんがやらはったのをお借りしました。著作権についてはエーベックスに確認しました。
 高校生が既成の曲をコンクールで使う場合、著作権には触れません。ただし原曲に改編(編曲したり、歌詞をかえる)せえへんことが条件です。以前近畿大会でアニソンを替え歌にして、著作権に抵触するということで審査対象はら外された学校がありました。その審査員の先生は「ここまで来るのに二回コンクール通ってるんでしょ。地区と県大会。そこの審査員は何をしてたんだろうね?」と、言わはったそうです。
 うちらは編曲も、替え歌もしませんけど、一応ご挨拶の手紙は書いておきました。
 音響が決まったんで、我が真田山は万全の体制になりました。ちなみに照明は淀先生がやらはります。近畿大会まで行ったら、これも生徒がやらならあきません。ああ、どないしょ(´;ω;`)ウッ…今から考えて、まあオメデタイうちらです。

☆道は遠いです

 昨日テストが終わったんで、さっそく一本通して前1/3を動画でとって先輩の坂東はるかさんに送りました。

 すみれの花さくころ(宝塚に入りたい物語)
          
 大橋むつお

 時  ある年のすみれの花のさくころ
 所  春川町のあたり
  
 人物 
 すみれ  高校生                        
 かおる  すみれと同年輩の幽霊
 ユカ   高校生、すみれの友人
 看護師  ユカと二役でもよい
 赤ちゃん かおると二役


 人との出会いを思わせるようなテーマ曲が、うららかに聞こえる。すみれが一冊の本をかかえて、光の中にうかびあがる。

すみれ: こんちは。あたし畑中すみれです。
 これから始まるお話は、去年の春、あたしが体験した不思議な……ちょっとせつなく、ちょっとおかしな物語です。
 少しうつむいて歩くくせのあるあたしは、目の高さより上で咲く梅とか桜より。
 地面にちょこんと小さく咲いている、すみれとかれんげの花に目がいってしまいます。
 その日、あたしは春休みの宿題をやるぞ! というあっぱれな意気込みで図書館に行き、
 結局宿題なんかちっともやらないで、こんな本を一冊借りて帰っていくところでした。
 あーあ、机の前に座ってすぐに宿題はじめりゃよかったのに。
 つい、なにげに本たちの背中を見てしまったのが運のつき。
 だから、この日、うつむいて歩いていたのは、いつものくせというよりは、自己嫌悪。
 だから、いつもの大通りを避けて、久しぶりで図書館裏。
 春川の土手道をトボトボうつむいて歩いていたのです……ところが、
 そこは春! 泣く子も黙って笑っちゃう春! そのうららかな春の日ざしを浴び、
 土手のあちこちに咲きはじめた自分と同じ名前の花をながめていると、
 ふいに母親譲りの鼻歌などが口をついて出てくるのです。
 春川橋の手前三百メートルくらいに差しかかった時、保育所脇の道から土手道に上がってくる、
 あたしと同い年くらいの女の子が目に入りました。
 セーラー服に、だぶっとしたズボン……モンペとかいうのかな。
 胸には、なんだか大きな名札が縫い付けて、肩から斜めのズタブクロ。
 平和学習で見た映画の人物みたい、一見して変! 
 近づいてくると、もっと変!……あたしと同じ鼻歌を口ずさんでいる! 
 まるで学校の廊下でスケバンのキシモトに出くわした時みたいな気になり。
 目線をあわさぬよう、また、不自然にそらせすぎぬよう、なにげに通りすぎようとした、その時……。

舞台全体が明るくなり、ちょうど通りすぎようとしている少女、かおるも現れる。すれ違った瞬間かおるが知り合いのように声をかける。

かおる: こんにちは……。
すみれ: え……。
かおる: こんにちは……!
すみれ: こ、こんちは……
かおる: 通じた!……あたしのことが分かるんだ!
すみれ: あ、あの……
かおる: ア、アハハ、ごめんなさいね。多分通じないだろうと思ったから。
 いつもそうなの……だから、いつもの調子でひょいと声をかけちゃって。ごめんなさい、驚かしちゃったわね。
すみれ: あ、あの……。
かおる: あたし、咲花かおると申します。よろしく。
 あたし、ずっとあなたみたいな人が現れるのを待っていたの。
 急にこんなこと言われたって信じられないかもしれないけど。あたし幽霊なんです。
すみれ: ゆ、ゆうれい!?

 

 https://youtu.be/g41BYxG69ZE?t=321 (参考:この部分の名古屋音大の作品)

 



 で、冒頭の五分にもならんとこで大きな指摘をされました。

 台詞と動きに動機が無い……です。すみれの最初の長台詞は、いわば導入でナレーターでもあります。せやから半分はすみれやないんです。この長台詞でお客さんを引付ならあきません。
 そのためには、お気楽さ、自己嫌悪、かおるがやってきたときの興味半分の不気味さが出てんとあかんいうことです。
 うちらは、これを演るについては、You TubeでN音大やら、真田山、天王寺商業(なんでか見られます)の芝居を何べんも観ました。で、いっちゃんええ出来になったと自負してました。
 そやけど、プロの目から見たらまだまだなんですね……。

 あたしの「かおる」ものっけから言われました。「通じた!……あたしのことが分かるんだ!」が偽物やと言わはります。
「三好さん、通じることを分かってて言ってるでしょ?」

 う~ん、そんなつもりはないんですけどね。
 坂東先輩の指摘は鋭いです。
「いつものように通じないと思って声をかけたのなら、言い終わった後は、もう別な何かを見て聞いてるはずです。そこで手を抜いてはいけません」でした。
 何気ない演技と言うのが一番むつかしいです。蒼井優という女優さんが言うてます。
「一番難しいのは、人に呼ばれて振り返るシーン。だって、役者としては声を掛けられるの分かってるんですから」
 ムムム……まあ、蒼井優さんと同じことで悩んでるんやと、自分を慰めるあたしでした。


文責 大阪府立真田山学院高校演劇部部長 三好清海(みよしはるみ)  

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高校ライトノベル・イスカ 真説邪気眼電波伝・10「じゃ、逃げよう!」

2018-01-11 15:39:23 | ノベル

イスカ 真説邪気眼電波伝・10

『じゃ、逃げよう!』

 

 

 いすか? かすい? え? だって、あいつは男だったぞ?

 いつも短パンにTシャツかトレーナーで、真っ黒になりながら走り回っていたじゃねーか。

 オレは元来アウトドアな人間じゃねえ、公園に居ても、木陰のベンチに座って携帯ゲームでピコピコ遊んでいた。

 そんなオレが、イッチョマエに飛んだり跳ねたり駆けまわったりできたのは籾井がいたからなんだぜ。じっさい籾井が居なくなって、オレは元のピコピコゲーマーに戻っちまったし、中学に入ってからは自他ともに認めるネトゲ厨になっちまった。

 オレの人生で、健康な外遊び男子で居られたのは、籾井と遊んでた一年足らずの間しかなかったんだぜ。そんな健康男子のステータスを開いてくれた相手が女子なわけねーじゃねーか!

 

「勇馬が勝手に思い込んだだけ、わたしは自分から言ったことは無いぞ」

 

「え? でもカスイってのは、きちんと漢字の籾井だったぜ。いくら逆立ちしてたって、仮名を漢字に変換して覚えたりはしねえぞ」

「勇馬、小一のとき、となりが籾井って子だったでしょ、あなた無意識に変換して覚えてしまったのよ」

「え、え、そうなのか?」

 その瞬間、西田さんの目が点になった。なにかに引っかかた顔だ。オレは焦った。オレはコミュ障なところがあって、ときどき不用意なことを口にして人の感情を害してしまうことがある。また、その口かと焦った。

「に、西田さん?」

「いっしょに来て!」

 別に手を引っ張られたわけじゃないが、西田さんの声には抗いがたい力があって、彼女の言うがままに付いて走った。

 

 ガチャリ!

 

 いつも閉まっているはずの屋上ドアを開けると、西田さんはクルリと回って階段室のラッタルを上がっていく。

 オレは顔を伏せながら続いた。見上げたら……悪いだろーが!

「え、まだ上がるの?」

 西田さんは無言のまま貯水タンクのラッタルを上がる。見上げちまったけど、これは不可抗力だぜ。

 給水タンクに立った西田さんは、スックと西の空を見上げている。秋の夕陽とは言え、太陽をまともには見られない。

「ヘーーックショ!」

 派手なくしゃみが出る。ほら、うかつに太陽を見るとくしゃみになっちゃうじゃん。

「目をそらさないで……あそこ!」

 西田さんが指差したのは、太陽から五度ほど上の空だ……両手で庇をこさえて、やっと見えた。

 ジェット機が少し傾ぎながら飛んでくるところだ。

「ほっとくと、ここに墜ちてくる」

 サラリととんでもないことを言う。オレの答えは簡単だ。

「じゃ、逃げよう!」

 当たり前のことを言ったはずなんだけど、西田さんはジェット機を睨んだまま微動だにしなかった……。

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高校ライトノベル・小説大阪府立真田山学院高校演劇部公式ブログ・Vol・20『本年度加盟校の発表』

2018-01-11 06:08:02 | 小説・2

小説大阪府立真田山学院高校演劇部公式ブログ
Vol・20『本年度加盟校の発表』 
 
       


☆今年は111校

 ゴロのええ数字ですね。HS・ドラマティックアソシエーション111
 去年は発表時には112校、コンクールのパンフでは111校になってました。ほんで、コンクール参加校が89校。加盟校数との間に22のギャップがありました。多分幽霊加盟校(部活の実態がないのに加盟してる)が入ってるんでしょうね。わたしらが訪問した誠学園なんかが、その典型です。
 半分はええことやと思います。たとえ加盟時点では部員がおらんでも、コンクールにはどないかしたろ! という顧問の先生の情熱が感じられます。

 残り半分は「どないやねんやろ?」いう懐疑心です。

 先生らは「生徒こそ主人公」と言わはります。その主人公がおらへんのに連盟加盟……ちょっと首を捻ります。

 確かに誠学園みたいに、顧問の先生が連盟の役員やってはって、生徒ゼロでも加盟せざるをえんいうとこもあります。言葉を飾らんと言うたら、ほんまは先生がやりたいから……うがちすぎでしょうか?
 極論を言います。連盟は、大阪の高校演劇の発展のためにあります……。
 現実は、連盟の存続が目的化してませんでしょうか? 

 もっと具体的に言うと、無意識のうちに運営委員の先生らの仲良しグループの存続が目的になってませんでしょうか。

 運営委員の先生らの楽しみは、運営委員会のあとの一杯飲みと研修会いう名前の懇親会……ちゃいます?
 うちの学校にも先生らの組合が二つあります。それぞれ夏に組合の教育研修を看板にして、信貴山なんかに籠って宿泊研修やってはります。職員室にいくと組合専用の掲示板があって「目指せ30人学級!」とかいろいろ貼ってる中に研修参加者募集の張り紙があります。
「あれは、仲良しグループのお泊り会や」
 そない言わはる先生も居てはります(誰とは言えませんけど)。
 うちらも、その通りやと思います。真田山は府立高校の中では落ち着いてる方やと思いますけど、たまに、生活指導上の問題がおこります。学校のことなんで具体的には言えませんけど、補導委員会いうのがあって、そこで事実確認と指導方針が決まります。モノによっては職員会議の議決がいるものもあって、そのときは原案になります。

 この補導委員会が5時15分の勤務時間が終わると「勤務時間がきましたけど続けますか?」と聞くそうです。で「もう次にしよ」いうことになったら、で、それが、もし金曜日やったら、結論は月曜まで延ばされます。むろん問題起こした生徒が悪いんやけど、土日は保護者も含めて生殺しです。こんな学校て案外多いようです。で、我が顧問の淀貴美先生は、その日のうちに家庭訪問して「やむなく持越しになりました。それだけ重大に、かつ慎重に考えてます」と、カマしに行かはります。先生の本心としては「徹夜してでも結論出るまでやれよ」やと拝察してます。

 何が言いたいかというと、絶滅危惧の幽霊学校ほっといて、仲良し会やってる場合やろかいうことです。111という数字は現実的には90もない数字やと思います。90/261は、およそ34%です。大阪の高校は2/3の学校で演劇部が事実上存在してません。ここに危機感持ったら、することは、おのずと決まってくる思うんです。

 前も書きましたけど、連盟の講習会……どないなんでしょ? 

 たった一日で演技やら劇作の力はつきません。それも8月に劇作の講習。コンクールまで三か月、現実には二か月でしょ(試験やら検定やら、ほんで休みなしで稽古はできません)ごっついイージーに本書けると言うてるようなもんです。せやから、コンクールでは「何がしたいんやろ?」いう本がぎょうさん出てきます。
 で、義理で観に来た観客は「高校演劇はおもんない」で、一般の観客はつきません。ほんまに高校演劇考えるんやったら、腰据えて一年がかりぐらいで、本の読み方(書き方ちゃいます)演技、演出教えならあかんのとちゃうでしょうか。

☆今日この頃のあたしら

 試験前なんで部活はしてません。せやけど、今度の『すみれ』は歌が入ります。30分だけ、歌の練習やってます。それから、日に二回は歩きながら台詞通して、台本は必ず一回は目ぇ通します。それと、個人的な理由でバイト始めました。正直きついです。いや、ほんま。

 せやから、うちらは創作劇には手ぇ出しません。

 文責 大阪府立真田山学院高校演劇部部長 三好清海(みよしはるみ) 

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高校ライトノベル・イスカ 真説邪気眼電波伝・09「思い出した!」

2018-01-10 14:45:27 | ノベル

イスカ 真説邪気眼電波伝・09

『思い出した!』

 

 それは西田さんだった。

 

 ほら、三日前の白昼夢。

 佐伯さんがクィーンオブナイトメアの衣装のまま屋上からダイブして、あわやの所で時間が停まったみたくなって助かった。

 あんな不思議なことが現実に起こるわけはない。佐伯さんも、周りにいた生徒も、飛び降りる佐伯さんを発見して悲鳴を上げた女子テニスたちも平気な顔して通り過ぎて行った。堕天使みたいなやつが指揮者みたく手を振ったら、そうなったんだけど、信じらんねーだろ。時間が再起動みたく動き出したら、その堕天使は学校一番の地味子の西田さんでさ、後をつけたら、当たり前だけど西田さんでさ、まったくいつもの西田さんで、途中で見失って、オレはバグだと思ったよ。ベータ版のゲームでよくあるやつさ。ネトゲのやりすぎか、オレはそう思った。でも、リアルの世界がバグルなんてありえねーから、白昼夢だ幻想だ。って、そんな幻想を見てしまうこと自体ネトゲのやりすぎなんだ。

 だって、生け垣の陰から雛壇上がってくる西田さんは、いつものように俯き加減でボブの横髪がタラーっと表情を隠して、眼鏡の奥はぜんぜん表情読めねーし、そーだよ、西田さんならオレ同様に文化祭の賑やかさなんて苦手だろうから、この雛壇で下校時間が来るのをまってたのさ。オレだって一応舞台は見届けたけど、スタンディングオベーションの晴れがましさには耐えられなくて、こうやって避難してきたんだからな。そうだよ、それが生け垣挟んだこっちと向こうに居たもんだから、さすがの西田さんも、なんだか嬉しくなって、そっと声をかけてきたんだ。

 だったら、オレは、それに応えなきゃな。

 引き籠り予備軍の地味人間が人に声をかけるなんて、とんでもないことなんだ。街の通りを下着姿で歩くくらいに勇気が要るんだ! この勇気には応えなくっちゃな!

「そういう思い込みする北斗勇馬君て好きよ……」

 雛壇の一段下で顔を上げた西田さんは眼鏡を外して、そのまま雛壇を上がって来る。

 オレはなんだか圧倒され、入れ違いに下りてしまい、雛壇の上と下が逆転してしまう。

「わたしのこと覚えてないかしら?」

「って……西田さんだろ」

 グラウンド側から風が吹いて来て、雛壇のオレと西田さんを嬲っていく。風は校舎の壁にぶつかって不規則な気流となって一瞬暴風のようになって西田さんのスカートを舞い上げた。

 刹那、至近距離で西田さんのパンツが見えてしまった……!!……驚いた、堕天使が穿いていそうな小さな黒パンではないか!?

「相変わらずのスケベぶり……でも、わたしの顔もちゃんと見たでしょ、勇馬はスケベだけの子じゃないから」

 そう、パンツを見た1/10くらいの刹那の刹那、突風が西田さんの前髪を吹き上げ100%露わになった顔が見えた。

 ……中一の春までいっしょに遊んでいた年下の電波なやつがいた。

 いつも「沈まれ我が腕(かいな)!」とか「もはや逢魔時、闇の眷属どもに地獄の糧を与える時間」とか「闇の啓示がおり下った、あの自販機のポーションが我らの魔力をリジェネするぞ!」とか、大そうで痛いことばっかり言ってた奴がいた。桜が蕾をほころばせるころに見かけなくなった隣町のそいつ……でも、そいつは籾井とかいう少年だったはず?

「わたしは正しく書いたのに勇馬が逆さまに読んだのだ」

 思い出した!

 ジャングルジムの四段目に足を絡めて逆さにぶら下がってガマン比べをやったんだ。頭に血が上って、気を紛らわすために「と、ところで、おまえ、な、名前はなんて言うんだ……」

「わたしは逆さになったまま、棒切れで地面に書いた……頭に血が上ってボーっとした勇馬は逆さまに読んだんだ」

 

 か・す・い………い・す・か…………いすか?

 

 残照を背中に受けて西田さんがニヤリと笑ったような気がした……。

 

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高校ライトノベル・小説大阪府立真田山学院高校演劇部公式ブログ・Vol・19『あたしらの思い』

2018-01-10 06:23:11 | 小説・2

小説大阪府立真田山学院高校演劇部公式ブログ
Vol・19『あたしらの思い』
        


☆あたしらのブログがトップに

 あたしらのブログも、早いもんで、これで19号になります。前にも一回ありましたけど、Vol・14『加盟校活動報告・2・誠学園高校』が、今日6月27日大阪の高校演劇で事実上のトップになって、びっくりしてます。
 それだけ高い関心を持ってもろて嬉しい……というより複雑な気持ちです。
 共感してもろてるのか、怖いもんみたさなんか、うちらでも計り兼ねてます。共感してもろたんやったら「いいね」がもうちょっとあってもええと思うですけど、まあ、ネットの世界はよう分かりません。

☆LET IT GO!

 で、もう一歩踏み込んで、あたしらの思いをLET IT GO!しとこうと思うたわけです。誠学園の織田先生と話してて、あたしらは、時々シャッターを下ろされたような気分になりました。

「ま、一つの考え方やな」
「まあ、見解の相違やね」

 この言葉を何度も言いはりました(ブログは編集の都合でカットしてます) この二つの言葉は「そのことについては、聞く耳無い」いう拒絶の意思が表れてます。相手は先生で親ぐらいに歳の離れた大人です。あたしらにも遠慮がありました。

 そもそも、審査基準については去年、うちの先輩が地区総会で勇気出して提起しはったことです。去年のβ地区予選では、うちらの学校は納得のいかん落とされ方しました。三年前、坂東はるか先輩のときもそうでした。せやからいろんな形で問題があることを指摘してきました。で、なんにも通じひんさかい、先輩は勇気出して言わはりました。

「審査は、ほんまに公正平等が保障されてるんですか? やっぱり客観性が担保された審査基準を持つべきなんとちゃいますか?」

 よう言わはったと思いました。

 案の定、会場は険悪な空気になりました。役員の先生は俯いて腕組まはるし(人前で腕組むのんは、無意識の拒絶の心理の表れです)一等賞とった学校は「あたしらの芝居を認めへんいうことか」と気色ばむし、先輩は過呼吸になって泣いてしまわはりました。よその学校の先生らが間を取り持ってくれはって、役員の先生は「ほんなら委員会で諮ってみます」と約束しはりました。

 正直期待はしてませんでした。三年間、かたくなに審査基準を問題にもしてけえへんかったんです。そんな簡単に変わるとは思うてません。

 せやけど「やっぱり審査基準はもてません」の答えは返ってくると思うてました。総会でも、地区総会でも「審査基準を持ってほしいという要望がありました」の一言もありません。先輩が精一杯の勇気振り絞って言うたことが、全く無かったみたいにスルーされてしもたんです。
 もう、うちらは絶望してます。お願いです。見解の相違で逃げんといてください。

 うちらは、こんなことまで知ってます。

「貴重なご意見ありがとうございました」学校の外からクレームの電話があったとき、おだやかに話を打ち切るための常套句です。
 そんな常套句さえ、うちらにはかけてもらえませんでした。

「%&$#””~|\\&&!!?!:*+;‘@@##=|\\|||%%%$$$###!!」

 気持ちを正直に書いたら文字化けになってしまいました。やっぱりうちらの心の中は「先生は先生であってほしい」いう最後の気持ちがあります。

 今年の本選の審査員は三年前に真田山を落とした人が、また審査員です。何回も言いますが、この人は「作品に血が通っていない、思考回路、行動原理が高校生ではない」という講評で落としました。分かります、この講評?
 ほんで、うっとこを落としながら、合評会では、その審査を撤回した人です。再起用するんやったら、なんか説明と審査の改善がされんと納得できません。

 うちらは、三年前と同じ『すみれの花さくころ』を上演します。

 念のために言うときますけど、別にリベンジとかとはちゃうんです。審査員が発表される前に、もうレパは決まってましたから。

 せめて「貴重なご意見ありがとう」ぐらいは言うて欲しいもんです。

☆玉が丘高校ダンス部をフォローしてます

 ツイッターで玉が丘高校ダンスに出会うたのは、去年たまたまネットサーフィンしてたら玉が丘高校ダンスさんにヒットしてからです。

 一昨日クラブのプロモーションビデオをYouTubeにアップしてはりました。
 たった一日でアクセスが15000を超えてました。大したもんやと思います。アクセスの数だけやなくって、ダンスそのものもパワーがあって、全員の息が合ってて、パソコンで見ててもイカシテました。
 あたしが高校入学したときに、ダンスに出会うてたら、たぶん演劇をやることにはなってなかった。と、玉が丘高校ダンスさんを観て思いました。
 けども、いま高校演劇をやっていることを後悔したりはしません。ダンスに負けへん芝居ができたらなあ……と、思いました。

文責 大阪府立真田山学院高校演劇部部長 三好清海(みよしはるみ) 

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高校ライトノベル・イスカ 真説邪気眼電波伝・08「MASCHERA大成功!」

2018-01-09 14:50:25 | ノベル

イスカ 真説邪気眼電波伝・08

『MASCHERA大成功!』

 

「フフ、偽りの魔王ルシファーに魂を売りしディアブロ能力者漆黒よ。そなたの九尾鞭はささらに千切れ、使い魔共も数多のポリゴンの砕けとなって潰え去った。もはや、そなたに、この夜魔クイーン・オブ・ナイトメアに抗する術はない。マスケラの仮面と共に滅ぶがよい。食らえ我が堕天使の雷、メテオインパクトオオオオオオオオオオオ!!」

 人の目には見えないサタンの力を宿したごとく突き出された両掌から裂ぱくの電光が発せられ、数瞬の間漆黒が陰になり陽になってスパークすると九体の漆黒はのたうち回って上下のソデにハケ、クイーン・オブ・ナイトメアはジャンプしながら旋回しゴスロリ衣装を閃かせると月の守護神アルテミスの如き決めポーズになり、文化祭舞台部門会場である体育館は割れんばかりの拍手のスタンディングオベーションの嵐となった!

 あれだけ難産だった『マスケラ~堕天した獣の慟哭~』は主演女優佐伯さんの突然の開眼によって目出度く幕を閉じる。

 佐伯さんが覚醒したおかげで、門田は、たったニ十分で行き詰った脚本を書き上げ、父たる作家のDNAを受け継いでいることを全校に知らしめた。

「いいえ、佐伯さんが彗星のごとく覚醒してくれなければ、非才な僕には書き上げられませんでした」

「いいえ、わたしこそ、門田君やクラスのみんなに支えられて今日の舞台を踏めたんです」

 互いを褒めたたえる幕間インタビューには――やっぱり、わたしの目に狂いはなかった――校長先生の血圧を満面の笑顔と反比例して穏やかな数値に落ち着かせるという効果まであった。

 晴れがましいことが苦手なオレは、興奮のるつぼと化した体育館をそっと抜け出した。

 体育館の熱気のせいか、思いのほか外気が冷たい。秋本番の向こうに早手回しに冬を感じてしまうのはマイナス方向に敏感すぎる感性のせいかもしれない。

 クラスの舞台劇が上々の首尾におわったことはオレみたいなヤサグレでも仄かに嬉しい。嬉しいんだけど、そんな顔を人に見られるのも嫌だし、人に見られなくても居心地が悪い。

 似合わぬ火照りをクールダウンさせるために中庭を目指す。しかし中庭には、文化祭で雰囲気が出来あがったアベックが三組も……オレはスルーして自販機に六十円を投入してパックのコーヒー牛乳を買おうと思う。文化祭なので売り切れている公算が大だったけども、自販機は正直にパックを吐き出した。学食の最大の収入源は自販機だ。オーナーのオジサンは心得ていて何度も補給していたんだろ。

――意外に冷えてる――

 冷却が間に合わず生温いのを覚悟していたので嬉しくなる。

 パックを持ったまま本館裏に回る。

 本館裏は、グラウンドに降りるためにコンクリートの雛壇になっていて、最上段は等間隔に生け垣になっている。生け垣に隠れたベンチに腰掛け、パックにストローを差し込む。

 ズズズーーーっと吸い込んだところで、生け垣の向こうから声が掛かった。

――そっち行っていい?――

 聞き覚えのある声だった。

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高校ライトノベル・小説大阪府立真田山学院高校演劇部公式ブログ・Vol・18『加盟校活動報告・4』

2018-01-09 06:40:07 | 小説・2

小説大阪府立真田山学院高校演劇部公式ブログ 
Vol・18『加盟校活動報告・4・大阪府立○○高校』

      

 今日は府立○○高校にお邪魔しました。

 ○○高校は、戦後○○市に府立高校が一つもないことを地元の人らが心配しはってできた、府立高校としては戦後できた学校です。
 ○○高校は、連盟が、まだ研究会というてたころに、副会長さんが出た学校でもあります。

 ※:浪速高等学校演劇研究会=連盟の前身で、運営は全て生徒でやっていて、会長は酒呑童子高校の校長さんでしたが、実際に組織を動かしていたのは、生徒だけで行われる総会の選挙で選ばれる副会長以下の生徒の役員でした。加盟校は50校ほどでしたが、当時の大阪の高校は今の半分ほどしかなかったんで、組織率そのものはあんまりかわりません。

「先生は、地区の役員校やってはるんですね?」
「はい、ちょっとでもお役にたてたらと思いまして。また、勉強にもなりますからね」
「失礼なこと言うようですけど、建前やのうて本音のとこ聞かしてほしいんですけど」
「本音いうと?」
「先生とこ、三年前から部員ゼロでしょ。せやのに連盟に加盟してはるのはなんでかなあと、不躾ですけど思うんです」
「噂には聞いてたけど、真田山は直球やなあ……」

 この間、先生は怒りもせんと、静かに言葉を選んではりました。

「難しい言葉で言うとアイデンティティーかな」
「あ、レーゾンデートルのことですね」
「あは、君らの方がむつかしい言葉知ってるねえ(笑)」

 ここで、また先生は黙った。思慮深い印象が強まる。

「むかし、高校野球の大阪大会で、応援賞もろたことがあるねん。野球部そのものはボロボロの一回戦負けやったけど、応援に来る生徒の数やら、底抜けに明るい応援が評価されてね。うちの生徒は、そういう可能性を持ってると思うねん。もちろんホッタラカシでは出てけえへん。衝動としては持ってると思うねん。その衝動に形と方向つけてやるのが僕の仕事やと思うてる」
「で、生徒がいてへんまま連盟に入ってて、その衝動に形と方向つける道はみつかりました?」
「こんなこと言うたら、年よりくさい思われるかもしれへんけど、こういうことは、直ぐに成果が出てくるもんとちゃうと思うねん。何年かやってるうちに身についてくることもあると思う。じっさい連盟の会議やらコンクールの仕事してて、アドバイスしてもらえることもあるしね」
「先生とこはθ地区やから、御手毬高校とか、京橋学院高校が実力校やと思うんですけど、そういう学校から得られることがある言うことですか?」
「そういうとこからもあるし、他の学校見て参考になることもあるよ」
「失礼ですけど、具体的には、どんなとこですか?」
「……地区は違うけど、連盟の運営委員長の先生の不屈の精神は見習うとこがあると思うた。うちと一緒で部員ゼロからの出発やったけど、夏の間に東京まで生徒連れてワークショップ受けに行って、そこのメソードで、そこそこの芝居作ってコンクールに出てはった。僕は面白い芝居やと思うたけど」
「あ、あれあたしらも観ました。感想は先生とはちがいますけど」
「どんな感想持ったんかな?」

 ちょっと言葉に詰まったけど、言いかけたことなんできちんと言うのが礼儀やと思うた。

「あたしらは、あれは芝居やないと思います。あれは、役者に一定の条件だけ与えといて即興で反応させるエチュ-ド、あるいは、エクササイズです。野球の試合でピッチングやら守備練習見せてるようなもんで、あれは観客に失礼やと思いました。ほんで、舞台に立った子らも、兼業部員……最初は、それでもええと思うんですけど、あの子らコンクール終わったら、さっさと演劇部辞めてしもて、実質は、現在部員ゼロやと聞いてます」
「手厳しいなあ(笑)」
「ちょっと話題は変わりますけど、先生は夏の講習会行かはるんですか?」
「一応は、そのつもりやけど」
「あれ、役にたつと思います?」
「なんか、いちいち引っかかってんねんな」

 先生真顔になってきたけど、あたしは続けました。

「一日だけ運転の講習受けた人の運転する車に乗る気持ちになります?」
「ちょっと、問題のすり替えのように思う」
「先生は、社会科ですよね」
「うん、いま日本史Aと現代社会やってる」
「日本史の授業一年分を一日でやれ言われたら、どないです?」
「いや、せやから、そういうのと講習会はちゃうて」
「どないちゃいますのん?」
「一つは、大勢みんなでやることに意義がある。普段はしょぼいクラブでも大勢でやったら、目に見えへんエモーションを感じられる」
「それて、ほとんど宗教団体ちゃいます? 演技やら劇作は、ほとんどマンツーマン指導でやらんと身に付かへん言うのが、常識です」
「それはやな……」
「ひところ、日本中の学校で『宿泊学習』が流行りました。いま高校でやってるとこほとんどありません。時間と労力だけとられ、結局は一年の学年はじめの大事な時間を無理して、普段の生徒指導が疎かになって、宿泊学習で皮肉なことに生徒に乗り越えられて、手におえんようになるからです。連盟の講習会は連盟が連盟として機能してることを見せるパフォーマンスです。本気で育てよ思うたら、週に一遍でも集めて一年通して指導することです。連盟の中には気ぃついてる人もいてます。せやけど口に出しては言いません。自分で猫の首に鈴を付けるのは嫌ですから」
「君なあ……」

 もう止まらへん。

「それに、ホンマのとこは、連盟にそんな指導ができる先生が居てないからです。本選の芝居の出来見たら分かります」
「ほんまに、なんにも得るもんは無いと思うてんのん?」
「一つだけあります」
「なにや?」
「反面教師……です」

 内容を鑑みて、今回は学校名を伏せさせていただきました。

 

 文責 大阪府立真田山学院高校演劇部部長 三好清海(みよしはるみ) 

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高校ライトノベル・イスカ 真説邪気眼電波伝・07「幻想神殿・4」

2018-01-08 15:22:47 | ノベル

イスカ 真説邪気眼電波伝・07

「幻想神殿・4」  

 

 

 こんなにムカつくやつがただの通行人であるわけがない!

 

 MMO(Massively Multiplayer Online)の中の通行人というのはアルゴリズムによって決められた場所とスタイルで文字通り歩いているにすぎず、目の前のこいつのように、別のステージに行くことなどできないし、決められた言葉しか喋れない。いや、音声による言葉さえ無く、ただの吹き出しセリフであることがほとんどだ。

 こいつは、なにかのバグか、オレなんかの想像もつかない裏ワザとかでIDを消してしまった、どちらにしろ変な奴に違いない。

 そこんところを問い詰めたいんだけど、じゃなくて、一刻も早く消えてもらいたい。オレは『幻想神殿』の中に安らぎを求めているだけなんだ。ピーボアを売りに行って、その金でアイテム買って、わがMMO生活の充実を図りたい。

「ナンシー、あんた、早くわたしを追っ払って街に買い物に行きたいって思った!」

「お、思ってねーし、思ったとしてもオレの勝手じゃねーか! な、なんだ、よせよ、ミスジト目コンクールがあったらグランプリ取りそうな目で見んのは!」

「フン! リアルでも、そういう目で見られてるから、こういうことには敏感なのね。あーー情けない!」

「ほ、ほっとけよ!」

「あのね、アイテムとか欲しかったら、ちゃんと課金して買えばいいでしょ。ピーボア罠にかけてチマチマ買おうなんて、セコすぎでジンマシンが出そうよ!」

「う、うっせー! これはライフスタイルなんだ! とやかく言われる筋合いはねーーー!!」

「あーーもー、逆切れなんかしないでよね。とにかくナンシーは」

「ナンシー言うな! オレはナンシだ、シのあとで伸ばすんじゃねー!」

「往生際が悪いなあ、わたしが決めたんだからナンシーなの。それより、あんたの家に行こう、立ち話飽きた!」

「飽きたら、さっさと帰れよ! ガラクタ通りの三丁目によ!」

「人に指図しないでよ、さっさと行くわよ!」

 

 ほっときゃいいんだけど、頭に来たオレは、そいつの後を追いかけてしまう。なんちゅーか、この森は自分のテリトリーって感覚があって、そのテリトリーで好き勝手やられることが嫌でたまんねー、ってか、なんで流されてるんだ!?

 で、驚いたことにそいつは、サッサと歩いて正確に俺の家を目指していくじゃねーか!? 

 ダテに三年も幻想神殿をやっていない、オレの家は普通のプレイヤーでは絶対見つけられないところにある……はずだったんだけど!

「よっこいしょっと……」

 いとも簡単に仕掛けを見抜いた奴は、あっと言う間に我が隠れ家の前に立った。どんな仕掛って? それは言えない、言ったら隠れ家じゃなくなる。

「バカね、わたしが来た時点で、もう隠れ家じゃないのに」

「お、おまえなあ……」

「ち、いっちょまえに鍵なんかかかってるし。さっさと開けなさいよ」

「なんで命令するんだ、オレの家だぞ!」

「あんたの顔立ててるんじゃない。勝手に開けたら、あんたの面目ないでしょ。それとも、勝手にしていい?」

「わ、わーったわーった!」

 仕方なく鍵を出してドアを開ける。

「フーン……無課金でここまで揃えるって、なかなかね……」

 足かけ三年、涙ぐましい努力で整えた我が家を、なんだかシミジミと感心しやがる。こんなやつでも、ちょっぴり嬉しくなる。って、なってんじゃねーよ、オレ!!

 めったに人に褒められないオレは、我ながら単純だってか、流されやすすぎ……って、なに服脱ごうとしてんだ!?

「お風呂入る! ずっと森の中だったでしょ、それも網に絡めとられたまんまで、気持ち悪くって……」

「あーー、まだお湯も張ってないんだから……」

 急いで給湯器のボタンを押しに行く。

――お風呂のお湯張りをします――

「アハハ、はんぱにリアル! アナログ通すんなら、水汲みからやって薪で沸かすって感じでしょ。お茶でも飲もうかな、お風呂湧くまで……」

「勝手に冷蔵庫……半裸でウロウロすんな!」

――お風呂が沸きました――

「はや!」

 給湯機は雰囲気のものなので、じっさい沸くのは早い。

「じゃ、入るね」

 着衣の最後を脱ぐ気配がしたので慌てて背中を向ける。

「今日は我慢するけど、脱衣所くらい作ろうよ。脱いだ服ここに置いとくけどクンカクンカとかしないでよね」

「す、するかーー!」

 バタンとドアが閉まって、シャワーの音が響いて鼻歌に混じる。

――ランラランラー🎵 ねえ、わたしに名前つけてよ、どーも、わたし名前とか無いみたいだし~♪――

 本気で名無しなんかよ?

 ザパーン カポーン……ウウ、風呂のエフェクトさせんなー!

――ねー名前!――

「だれが、おまえみたいなブスに……」

――え? 聞こえな~い――

「お、おまえはブスだ! ブス!」

――オッケー、わたしは毒島田ブスだ~♪――

 

 って、ブスでいいのかよ!?

 

 

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高校ライトノベル・小説大阪府立真田山学院高校演劇部公式ブログ・Vol・17『今日この頃』

2018-01-08 06:03:05 | 小説・2

小説大阪府立真田山学院高校演劇部公式ブログ
Vol・17『今日この頃』 
 
       


※台詞は入ったんだけど

 稽古は着々……と言いたいんですけど、なかなかです。
 なかなかいい、とちごて、なかなか進まへんの「なかなか」です。日本語はむつかしい。

 配役は以下の通りです。

 咲花 かおる    三好清海 (二年:部長・演出)
 畑中 すみれ    九鬼あやめ(一年:舞台監督)
 由香・看護師    大野はるな(一年:音響・その他)

 本は『すみれの花さくころ』 ネットで、これに大橋むつおと入れると出てきます。

 えらそうや思うたら堪忍してくださいね。いわゆる高校演劇のレベルにはなりました。
 台詞も入ったし、立ち位置や、おおよそでとりあえずの動き(ミザンセーヌ)は決まりました。挿入曲も一応覚えました。文化祭のクラス劇やったら、もう完成です。

 そやけど演劇部は、ここからです(^_^;)

 泣き笑いなんかの喜怒哀楽が、まだまだ引き出し芝居です。一応役者としての基礎練習はよそよりやってるんで、普通には芝居できます。

 役者の第一条件は、自己解放です。

 自己解放とは、芝居に合わせて自分の感情が自在に操れることです。一年の時に徹底的にやらされました。やり方は簡単。過去の体験で、悲しかったことや、辛かったことを再現するんです。演じるんとちゃいます。気持ちを表現するんとちごて、その時の物理的な記憶を思い出すんです。
 うちは、お婆ちゃんが認知症になって、あたしのことを忘れた時のことを思い出しました。病院のたたずまい。病院独特の奥行きの在るエレベータ、消毒薬と、そこはかとなくしてくる病人さんらのニオイ。夏やったんで、エレベーターが開いたとたんに入ってきた冷気。それも足元やのうて、首筋で感じたこと。病室のドアが最初はちょっと重たいけどスルっと開く感覚……ほんで、お婆ちゃんが「こんにちは」と言うた時の他人行儀な響き。他人に対する愛想のよさ……この時の笑顔が、お婆ちゃんが亡くなったとき初めて見た死に顔と重なって、あたしの記憶は一気に、お婆ちゃんが死んだ日にとんでしまいました。どっと悲しみが溢れてきて、お通夜、葬式、火葬場、骨あげ、あたしはパニックになりかけました。
 この練習は、メソード演技の基礎です。ただ、レッスンの素材に使う思い出は、3年以上経過してて、感情の崩壊をおこさん程度のもん。これが原則です。うちは、お婆ちゃんが亡くなったばっかりやったんで、記憶が、そっちに引っ張られてしもて、まだ生傷のお婆ちゃんの死を思い出してしもたんです。
 そやけど、これであたしは自己解放を覚えました。

 しかし、役者は、これではあきません。役者個人が自分の感情を見せたら演技とちゃいます。
 役者は、その役に合うた感情表現ができんとあきません。たとえばAKBの高橋みなみと指原莉乃とでは、泣き方も笑い方もちがうでしょ?

 今、あたしは、この段階にさしかかってます。役の肉体化と言います。かおるというのは昭和20年に17歳やった女学生です。女と言えど人前で泣いたり笑うたりしたらあかんと言われてた時代です。ほんで宝塚を目指すほどの子ぉですから、姿勢もええし、歌もうまいし、抑えようとしても出てくる自然な明るさ……なかなかですわ。

 チェ-ホフやったかスタニスラフスキーやらが言うてました。

 本を書くのも演技するのも、例えて言うと森の中を歩くのといっしょやて。
 一回通っただけやったらあかんのんです。毎日森を歩いて、森の中の最高の場所と道を探します。最初は、毎日違う道を歩いて迷うこともあります。適当に見つけたロケーションで満足することもあります。それでも繰り返し歩いて、ほんまに、その人物や戯曲が求めてる道を探ります。

 今は、暗中模索です。

 ネットで検索して昔の遊びなんかしたりしてます。お手玉、福笑いなんかにも挑戦しました。あと、かおるが死んだんは3月10日の東京大空襲なんで、そのことも調べてます。
 で、気ぃついたこと。一回の爆撃で一番犠牲者が多かったんは、原爆と違うて、この東京大空襲やったんです。一晩で10万人亡くなってます。東日本大震災の三倍です。で、これを企画したのがカーチス・ルメイいうアメリカの将軍で、皮肉なことに、この人は航空自衛隊の創設にも力を尽くした人で、日本は大勲位菊花賞いう最高の勲章をやってます。この勲章は天皇陛下が直接手渡すことになってるんですけど、昭和天皇は、直接手渡すことだけは断らはったそうです。むろん外交上失礼になれへん理由をつけてですけど。

 まあ、今は、こんなとこです。役作りは、毎回のことやけど、大変です。まあ、四か月あるから、どないかなるでしょ。こういう楽観も役者には必要です。

※連盟の夏の講習会
 うちらは行きません。芝居は一日二日の講習なんかで身に付くもんと違います。自動車の運転に例えたら分かると思います。たった一日の教習で免許とった人の車に乗せてもらおと思います?
 ほんで、これはうちの中でも整理ついてないんですけど、今度の講師は、三年前に真田山を理不尽な理由で落としときながら、合評会では、その審査内容を撤回した人です。あの時の先輩らの気持ちは受け継がれてます。連盟の先生らは、こういうとこに心配りがありません。顧問の貴美先生も「総括もせんままに、同じ審査員使うのは問題や」と言うてはります。
 そうなんです。この人は、また本選の審査員をやらはります。で、うちらは、その時と同じ芝居を持っていきます。

 ああ、どないしょ!?

 文責 大阪府立真田山学院高校演劇部部長 三好清海(みよしはるみ) 

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高校ライトノベル・イスカ 真説邪気眼電波伝・06「幻想神殿・3」

2018-01-07 14:28:46 | ノベル

イスカ 真説邪気眼電波伝・06

「幻想神殿・3」  

 

 

 幻想神殿のプレイヤーなら頭の上にIDバーが必ずある。

 ゲームのアカウントをとる時に付けるIDだ。三十字以内の平仮名・片仮名・漢字・アルファベット。

 オレはNANSHIだ。ネットのハンドルネームはデルス・ウザーラだけど、表立っては名乗っていない。

 本当はNANASHIなんだけど、登録するときにAを一つ忘れてしまいNANSHIになってしまっている。

 A一つの事なんだけど、ローマ字読みするとナンシとナナシの違いになる。

 オレは目立つことが嫌いなんで「名無し」にしたんだ。アルファベットにすることによって「名無し」の印象は薄まる。

 デルス・ウザーラだと、映画オタクとかオッサンのプレイヤーなら分かってしまうしな。

 それにアルファベットだと、人が読むのに少し時間がかかる。

 たとえゲームの中であろうが目立つのはいやなんだ。

 たまに行くバザールのオヤジなどは「ナン氏」と呼んでくれる。ナンシ氏じゃ発音しにくいもんな。

 

 網から抜け出したそいつは、ザンバラの髪と服装を整えているが、頭の上にIDバーががない。

 

「おまえ、NPCか?」

 言って自分でもおかしいと思う。NPC、つまりゲーム内にデフォルトで設定されているキャラなら、設定された場所からは移動しない。店のオヤジなら店から外には出てこない、ホテルのフロント係ならフロントの中、洗濯女なら日がな一日川で洗濯している。兵士とか巡査なら動き回るが、決められた街や任地の外に出ることは有りえない。

 じゃ、この森のNPC? 森の中ならドワーフかエルフ……こいつのミテクレは町娘だ。森に町娘、有りえない。

 それに所属のあるNPCなら名前と役割のIDが付いている[ハンス・店主]とかな。

 IDが無いのは単なる通行人だ。その他大勢のモブならいちいちIDが付くことは無い。

 だが、通行人ならこんなに喋ったりはしない。むろん単なるモブに話しかけたことなんかないけでさ。

「ボサっとしてないで謝ったらどうなのよ! こんな森の真ん中に罠を仕掛けて、ひとをひどい目に合わせてさ!」

「おまえの方こそおかしいだろ! ひとが仕掛けた罠をメチャクチャにしやがって、もう、おまえの臭いとかが染みついて、ピーボアも寄り付きゃしないだろが! っていうか、おまえ何者なんだよ?」

「あんたを叱りにきたのよ、ナンシー!」

「ナ、ナンシー!? 伸ばすな、オレはNANSHIだ!」

「ダメ、ナンシーで覚えちゃったんだからナンシーよ!」

「いや、だから、オレのIDは……」

 めんどくさいが、オレはIDの由来を穏やかに説明してやった。世の中めんどうを回避するためには忍耐が必要だ。予測されるめんどうを回避するためなら、少々の我慢はできる男なんだ。

「ハ! 軟弱な! 説教しに来て正解だったわね」

「おまえなーー!」

「いい若いもんが、森に引きこもっちゃって、有りえないじじむささじゃん。男だったらさ、スキル磨いて攻略目指しなさいよ! きちんとギルドに入って社交性にも磨き掛けなきゃ、イザって時に救けを呼ぶこともできないわよ」

「うっさい! オレは、こういうマッタリ生きるのが好きなんだよ!」

「ゲームの中に入ってまで引き籠るな!」

「引き籠りじゃねー、ライフスタイルだ! ロビンフッドだってシャーウッドの森で似たような暮らししてんじゃないか」

「ハ! ロビンフッドはやがては悪辣な王様やっつけるじゃん。ぜんぜん違うわよ。あんたはナンシー、軟弱な死にかけ野郎よ!」

「グヌヌ、人のことをメチャクチャ言いやがって、そういうお前は何者なんだ?」

「メレンブルクの娘よ」

「で、名前は?」

「ンなもん無いわよ」

「名前とかIDが無いのは、ただの通行人だぞ」

「そうよ、あたしはガラクタ通り三丁目のミス通行人よ、文句ある!?」

 

 こんな偉そうな通行人は見たことが無いぞ!

 

 

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高校ライトノベル・小説大阪府立真田山学院高校演劇部公式ブログVol・16『臨時増刊号』 

2018-01-07 05:58:58 | 小説・2

大阪府立真田山学院高校演劇部公式ブログ
Vol・16『臨時増刊号』 
 
         


 昨日のVol・14は意外に反響が大きかったので、臨時特別号です。

☆反響のコメントなど

 実は、デリケートな問題なので、顧問の淀貴美先生からは書くなといわれてたんですが。概要だけでも書いておきます。学校訪問で行った誠学園や谷町高校でも話題ににはなってたんですが、あえて書かなかったことです。それほどデリケートかつ根本的な問題なんで、あえて要目だけでも書いておきます。みなさんにも考えていただけたら嬉しいです。

☆創作劇の偏重

 大阪は、90%以上が、顧問や生徒などによる創作劇がコンクールに出てきます。これは創作劇が特別な扱いをされるからです。
「既成脚本と、生徒が一生懸命創作してきたもんを同列にはあつかえません」という高校演劇の先生方の公式見解による影響です。
 うちらは、坂東はるか先輩のころから、この風潮には反対してきました。谷町の先生なんか「上演本探してはいてんねんけど、どうせ落とされることが分かってると気がなえてしもてね……」と、苦笑いされながら言うてはりました。
 前号を読んだ人には分かると思うんですが、谷町の先生は「野村萬斎のマクベスなんかええな」と言うてはりました。やっぱり手に合うたものを探してはいてはるんです。これを、実際の上演にまでいかさへんのは『創作至上主義』からです。
 うちらは既成の『すみれの花さくころ』をやります。まっとうな芝居を、高校生にやらせるためには、創作優遇主義、どないかせんとあかんと思いました。

☆審査基準

 二校ともそうでしたが、審査には不信感を持ってはりました。コンクールの2回に1回は「あれ?」と思わはるそうです。むろんうちらもそうです。創作劇の偏重との相乗効果で、コンクールの審査に疑問を抱かせてる大きな問題になってます。審査基準がないと、極端な場合「裏で、なにかあるんちゃうか?」と勘繰られてしまいます。実際学校訪問で行った学校の先生は「一つの地区で、同じ学校が四半世紀に渡って、地区で最優秀とんのはおかしいで」とおっしゃってました。やっぱり審査基準を作って、透明性のある審査が望まれています。

☆今年の審査員

 本選審査員のお一人は、三年前に真田山を「作品に血が通っていない、思考回路・行動原理が高校生ではない」いうわけ分からへん理由で落としておきながら、合同合評会では、レジメで、その審査を撤回した人です。この人を再び使うんやったら、それ相当の説明が必要です。
 三年前は落とされましたが、東京のNOZOMIプロのディレクターは、ちゃんとDVDの記録を観てくれはって、坂東先輩がプロの女優になるきっかけになりました。その結果から見ても、審査はおかしいです。個人名はひかえますが、この疑問と、三年前の誤審については釈明し、審査員の人選を再考すべきやと思います。

 では、もう学校に行く時間なんで、失礼します。

 文責 大阪府立真田山学院高校演劇部部長 三好清海(みよしはるみ) 

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高校ライトノベル・イスカ 真説邪気眼電波伝・05「幻想神殿・2」

2018-01-06 15:03:06 | ノベル

イスカ 真説邪気眼電波伝・05

「幻想神殿・2」  

 

 

 罠はバネ仕掛けの網だ。

 獣道に仕掛けた畳二畳ほどの大きさで、十キロ以上の重さの獲物が載るとセンサーが働いて頭上の木に掛けられたツタが引っ張り上げられ、ネット入りのスイカのように吊るされる。

「もー、何時間待ったと思ってんのよ!」

 スイカが文句を言う。

「……なんで人間がかかってんだよ」

 ピーボアの罠にかかった人間というのはひどく間が抜けたものだ。体がU字型に畳まれ、四本の手足が、それぞれアサッテの方角に絡んで、ピカソっぽいオブジェのようだ。こういうオブジェになってしまうには罠の中でかなりもがいたからなんだろうけど、絡まり方にも個性があるもので、そうとう短気なオッチョコチョイに思えた。これがしおらしい女の子、佐伯さんのような子なら「ごめん、すぐ下ろすから」になるんだけど、こいつのツンツンぶりなあがきは、ついからかいたくなる。オレはアンコウの品定めをするように、そいつの周りを一周する。

「ちょっと、ニヤニヤしてないで下ろしなさいよ、あんたが仕掛けた罠なんでしょーが!?」

「ジタバタすんなって、揺らしたら下ろすものも下ろせないだろーが」

「さっさと……!」

 暴れるもんだからクルンと半回転してしまい、ツタを外そうとしているオレの方に尻が向いてしまった。

「こ、こらー! 見るんじゃない!」

「だって、ここを外さなきゃ下ろせないじゃないか」

「グヌヌ、こっち見ないでやれー!」

「だって、結び目はそっちの方なんだから」

「そこをなんとかしろ!」

「ゆ、揺するなって! ゲホ!」

 突き出た足がオレの頭をヒットする。

「お、おまえが悪い!」

「んだよ……」

「ちょ、どこいくのよ?」

「もう、これしかねえ」

 オレは五メートルほど離れてツールバーを開き弓矢を出した。

「動くんじゃねえぞ」

「あ、ちょ、それは……」

 弓を引き絞ると間をおかずに放った。

 キャーーー!!

 ドテ!

 悲鳴の後に鈍い落下音がして、そいつは落ちた。

「いったあああああああああ」

「……ほらよ、これで出られるだろ」

 腕に絡まった網だけを切って放置する。下手に手を出すと、きっとセクハラとかなんとか騒ぐに違いない。

「あーーーーーやっと自由になったーーーーー」

 そいつは、網からにじり出ると、うつ伏せのままノビてしまう。

 身なりはハンターでも魔導士でもなく、最下層は始りの街であるメレンブルクの商人の娘のようなナリをしている。

 栗色の髪は魔女の箒のようにザンバラだが、乱れたザンバラの間からのぞく横顔はけっこう可愛い。

 しかし見かけの可愛さというものはゲームの中では当てにならない。なんせプレイヤーが作ったアバターだ、容貌や年齢はおろか性別だって当てにならない。去年ミスコンでグランプリを獲ったのは大阪のオッサンだったしな。

「なあ、あんた……」

 そこまで言って言葉が継げなかった。

 そいつの頭の上には、プレイヤーだったら誰でも表示されているIDバーが見当たらなかったのだ。

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