大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・クリーチャー瑠衣・2《兆しのままに》

2019-02-18 07:10:41 | 小説3

クリーチャー瑠衣・2
《兆しのままに》


 Creature:[名]1創造されたもの,(神の)被造物.2 生命のあるもの 

 瑠衣は高坂先生が好きだった。

 瑠衣は歌うことは好きだったが、楽譜が読めない。だから中学までは、音楽のテストというと、歌が自己流になってしまい、結果成績は低かった。だから歌が好きなわりに音楽の時間は嫌いだった。
 高校に入って、高坂先生に音楽を習うようになって認識が変わった。

「音楽って、音を楽しむって書きます。音楽をやっていて、自分が楽しければOKです。で、人を楽しませることができたらエクセレント!」
 だから、多少歌をアレンジ(中学では、音が外れていると減点された)しても、瑠衣が楽しくて聞いている他の生徒が喜んでうれたら、満点をくれた。
 それに高坂先生の美しさに、瑠衣は、いつも見とれていた。
 高坂先生は細身の美人。うりざね顔にきれいな一重目蓋、京都の舞妓さんにしたら、一番人気になるだろうなと、最初に見た時から思った。

「高坂先生に、こんな思いさせた奴、許さないからね!」

 そう叫ぶと、瑠衣は兆した想いのままに動き出した。
「ちょ、ちょっと立花さん!」
 呼び止める先生の声は聞こえたが、体が止まらなかった。
 職員室に入ると、職員室の作業台のいろんな書類といっしょに積んである内示書の山を文面が分かるように写メった。そして、上の方から二十枚ほどいただいた。
 職員室は、春休みに入ったこともあり年次休暇をとっている先生も多く、いつもの半分もいなかったが無人というわけではなかった。

 でも、誰も、瑠衣がしたことには気づかなかった。

 瑠衣は大好きな野球部の杉本が、珍しく向こうから声を掛けてくれたことにも気づかなかった。心の中には音楽準備室でボンヤリと魂が抜けたようになっている高坂先生の姿が映っている。

 内示書の高坂先生のところが二重写しのように、目に浮かんだ。

 高坂麗花(高麗香 コレイファ):〇(外国籍を表す)常勤講師 都立神楽坂高校へ移動

 高坂先生が外国籍だったのは意外だったが、それはなんの問題もなかった。自分に自信を取り戻させ、音楽の楽しさを教えてくれた先生が、自分の意志に反して移動させられること。そして、それを知った英語の岸本先生の心変わり。そして、こんな極秘文書が大量に印刷され、誰の目にも自由に見られるようにした校長の底意地の悪さだけが頭を占めていた。

「高坂先生、移動は不本意で、こんな内示書晒されてほしくなかったんだよね!?」

「立花さん……」
 ノックもせずに入ってきた瑠衣に高坂先生は、とっさに声も出なかった。
 瑠衣は、あえて岸本先生のことには触れなかった。触れれば先生が心の平衡が保てないと直観したから。
「立花さん!」
 瑠衣は返事も聞かずに準備室を飛び出した。いや聞いた気になっていた。先生が心で反応したことが、瑠衣には声で聞いたような気になっていた。

「これを見てください」

 瑠衣は、検索したわけでもなく、人に聞いたわけでもなく、都教委の指導一課長の机の上に内示書コピーの束を置き、スマホの映像を見せた。
「こ、これは……」
「違法です。これでは人事内容から、外国籍の先生の本名まで分かってしまいます。繰り返します。都の教育条例に違反し、職務権限を越えて、個人情報を暴露してしまっています。対処してください」
 一課長の頭には、驚愕、そして穏便な解決の二文字が浮かんでいた。
――こいつには解決の能力も意志も無い――
 そう思った瑠衣は、学年とクラス、名前を述べて一課の部屋を後にした。

「みなさん、これを見てください!」

 そう言って飛び込んだのは、都庁の記者クラブだった。

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高校ライトノベル・時かける少女・13『エスパー・ミナコ・8』

2019-02-18 07:02:24 | 時かける少女

時かける少女・13
『エスパー・ミナコ・8』
       




「悪魔がいるって、ほんとうなの……?」

 看護婦のジェシカが、声を出さずに口のかたちだけで伝えてきた。
 ミナコは、くちびるに指を当てると、メモを書いてジェシカに渡した。
『ジェシカ、あなたラテン語読める』
『少しなら』
 と、ラテン語のメモで返事が返ってきた。
『お願いがあるの』
 その言葉を見ただけで、ジェシカの目は光った。義務感に燃えた従軍看護婦の目だった。
『三時になると、死神は十三秒だけ眠るの』
『どうして、三時?』
『三は、神の聖なる数字だから。そして、十三は邪悪な数字。だから、十三秒』
『なるほど、ミナコって、子どもみたいだけど教養あるのね』
『見かけは、こんなだけど、自分のことは何も分からないの。歳もね』
『ミナコって、良い魔女?』
『アハハ、魔女じゃないことだけは確か。いいこと、三時前になったら点滴を替えるふりをして』
『OK でも、なんで?』
『今は理由は言えない。ジーン夫人は血管痛になりやすいから、少し遅くして。三時ごろに終わるように』
『分かったわ』

 さすがに、ベテランの従軍看護婦。二時五十九分に点滴が終わった。ジェシカは、ごく自然に点滴の交換を行おうとした。

「ジェシカ、運動神経はいい?」
「良くなきゃ、この戦争で生き残ってないわよ」
「そうね、ハイスクールじゃ、なにかやってたみたいね?」
「ヘヘ、これでもやり投げの選手だったの」
 この会話で、三十秒潰した。さもなければ、このベテランの従軍看護婦は二十秒ほどで、新しい点滴に交換してしまっただろう。点滴と繋がったままでは、ミナコの作戦は実行できない。
 三時ちょうどになって、死神は居眠りしはじめた。
「今よ、ジーンの向きを、頭と足を逆にするの!」
 一瞬で、ジェシカは飲み込み、五秒で、ジーン夫人を動かした。
「ジェシカ、元の場所に戻って!」

 騒ぎを聞きつけて、マッカーサーたちが入ってきた。

「これは……?」
 マッカーサ-は驚いた。

 ジーン夫人の頭と足が逆になっていたことと、目が覚めた死神が、大変うろたえていたからである。
『くそ、オレが寝ている間に、ハメやがったな!』
 そう言うと、悔しそうに死神は消えていった。

「あら、あなた、今日はお帰り早いのね。あ、この人たちは」
「ジーン、みんながお前を助けてくれたんだよ。特にこのミナコ・マッカーサーがね」
 そのとき、ミナコの体が透けはじめてきた。
「閣下、どうやら、お別れのようです。死神をハメてしまったんで、もう、この世界には居られないようです」
「ミナコ……」

 マッカーサーの最後の言葉は聞こえなかった。ミナコは、また記憶を失いつつ、時のハザマに落ちていった。

「やってくれたわね。死神をハメたのは、これで二回目よ」
「そうなの……」
「オリジナルの湊子とも時間がかぶっていたし、どうなるかと思ったら、このざま。わたしがいくら時間を管理しても追いつかない。このメモはしばらく預かっておくわ」
 ミナコと瓜二つの時の管理人は、右手に持ったメモを、セーラー服のポケットに収めた。
「それは……」
 大事な物だとは分かっていたが、中身は分からない。ただ、無性に心細くなっていくだけだ。

「今度は、さっきの分を取り戻してもらうことになりそうよ。じゃ……いってらっしゃい!」

「あ、ああ……」

 歪んだ時空の先に、桜並木、その向こうに東京タワーが見えてきた……。

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高校ライトノベル🍑MOMOTO🍑デブだって彼女が欲しい!・43『ゲフッ!!』

2019-02-18 06:56:32 | ノベル2

🍑・MOMOTO・🍑デブだって彼女が欲しい!

43『ゲフッ!!』


 学食というものは儲からないんだ。

 生徒相手のメニューなので高い値段設定はできない。薄利多売を目指すにしても、生徒の絶対数は昔に及ばない。
 ようするに儲からない。
 で、利益はジュースなどの自販機に頼っている。自販機の利益は飲み物1本あたり40円ほどになる。
 この情報は親父から聞いた。親父は捜査一課長なので、世間の裏事情に詳しい。
 2年前、隣町の高校に泥棒が入り、自販機を荒らすという事件があった。
 それまでに3回もやられているので、経営者のおっちゃんは、校舎の陰で張り込んでいた。夜中に4回目の現場を押えたおっちゃんは、犯人をぶちのめして怪我をさせてしまい、過剰防衛を取られて裁判にかけられてしまった。
 その折に、学食と自販機の関係を聞いたのだ。

 で、オレは学食の経営を助けるために、1000CCのコーラを2本買った。

「さすが先輩、コーラ1本にも、それだけの考えと想いがあるんですねえ!」
 デブの会の沙紀と野呂が、気前よく渡した1000CCのボトルを受け取って感心している。

 アハハハ……後ろで笑い声がした。コロッケを齧りながら桜子が笑っている。

 作戦成功……。

「コーラをがぶ飲みするために、そこまで理屈をこねまわして、後輩まで動員するんだ」
 帰り道、桜子は機嫌がいい。この月末に引っ越すことや、紀香のゴタゴタで塞ぎ気味になっていたので、オレは気にしていたんだ。
「オレさ、年が明けてからは体重増えてなんだぜ」
「110キロだよね」
「古い読み方したら、百十でモモト。ひょっとしてウケ狙い?」
「こんなことでウケようとは思わねえ。とにかく、この一年ほどで、体重の増加が停まったのは初めてだ」
「そんな自慢しながら、コーラ飲んでたんじゃね」
 そういうと、桜子は、オレの手からボトルをふんだくり、残っていたコーラを一気飲みした。
「お、おい、桜子!」
「プハー! 久々の間接キスだ!」
 前を歩いていた国富高校の生徒たちが笑っている。さすがに恥ずかしい。
「1/3ほど残っていたから、300グラムほど桃斗に近づいたね」
 桜子はオレの方を向いてウインクした。風向きの加減だろうか、懐かしい桜子のシャンプーの香りがした。
「ありがとう桃斗」
「え、なにが?」
「……コーラ、あたしの気持ちをほぐそうと思って、ピエロになってくれたんだよね」
「あ……バレてた」
「嬉しかった」
 心臓が跳ねた。チラ見すると、桜子は耳まで真っ赤になっている。オレも負けずに赤くなっていると思う。
 こんなに、桜子と居てドキドキするのは何カ月ぶりだろうか。
 その何カ月ぶりかの感覚が蘇って、二人顔を見合わせた。とたんに……。

 ゲフッ!!

 同時に盛大なゲップが出てしまった。

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高校ライトノベル・クリーチャー瑠衣・1《覚醒の兆し》

2019-02-17 08:25:45 | 小説3

クリーチャー瑠衣・1
《覚醒の兆し》



 Creature:[名]1創造されたもの (神の)被造物. 2 生命のあるもの 


 

 それは、突然瑠衣の心に飛び込んできた。

 地表に激突するしかない隕石のような絶望感!

 絶望感の発信源に吸い寄せられるように走り出した。
 校舎の角を曲がったところで、外階段の一番上を見上げる。

 !……悲しみの発信源は音楽の高坂麗花先生だ。

 


――先生!――

 

 声を上げる前に高坂先生は前のめりになり、そのまま鉄柵を鉄棒の前回りするように墜ちてきた。

 ダメーーーーーー!

 瑠衣は心の中で叫んだ。先生が地面に激突する音は聞こえなかった。ショックで意識が飛んだのかもしれない……恐るおそる目を開けると……目の前に高坂先生がよろめきながら立っている。
 瑠衣も高坂先生も言葉が出ない。
「先生……」
「あたし……」

 不思議さに気おされて、二人ともしばらく声が出ない。そして混乱と疑問が校舎周りの生垣の花々の香りと共に押し寄せてきた。

「高坂先生、飛び降りようとしたんですよ……ね?」
「あ、あたし……」
 高坂先生の混乱は、再び深い悲しみと入れ替わり、瑠衣の心に突き刺さってきた。

 内示書……岸本先生……校長先生……高麗花(コレイファ)という言葉の断片が悲しみの隙間から見えてきた。

「先生、内示書ってなんですか?」
「何でもないわ」
 先生は、そう言ったが、意味は高坂先生の心の痛みとして瑠衣の心に入ってきた。

 

――内示書というのは、来年度の教員人事の移動が都教委から校長に極秘資料として送られてきたもの。それは校長しか見られないこと……それが大量に印刷され職員室に積まれていたこと……そこには高坂先生の秘密にしていた本名高麗花と書かれていること……それを、心を寄せていた岸本武先生が見て表情が変わったこと――
 そんな諸々のことが、瑠衣の心で再構築されていく。

「校長先生、見せちゃいけない資料を増し刷りした……そして、先生の本名が分かっちゃって、岸本先生が、それを見て……心変わりした。それが先生が死のうと思ったほどの悲しみだったんですね……」

 春めいた風が二人の頬を撫でて行ったが、二人の心は凍り付いたままだった。

「どうして、そんなことが分かるの……」
「どうして……え……ええ? どうしてか、あたしにも分からない……」

 

 都立希望野高校一年生宇野瑠衣覚醒の兆しは、こんな風に訪れた……。

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高校ライトノベル・時かける少女・12『エスパー・ミナコ・7』

2019-02-17 06:32:33 | 時かける少女

時かける少女・12
『エスパー・ミナコ・7』
       



「ジーンの様子はどうだ!?」

 GHQから宿舎にしているアメリカ大使館に着くまで、マッカーサーは平然としていた。
「閣下、どちらまで?」
 そう聞いてきた警備司令にも軽口をたたいていた。
「いや、ジーンの犬が風邪をひいたんで、ドラッグストアまで」
 車の中では無言だった。
 いつものサングラスにコーンパイプだが、煙は出ていない。

 で、大使館の居住スペースに着いて、軍医を見つけると、食いつかんばかりの近さで聞いた。いや、怒鳴った。
「今朝、わたしを見送るまでは、いつものように元気にしていた……!」
 最後の言葉は、ベッドの上のジーン夫人の姿を見て飲み込まれてしまった。
「閣下以外は部屋から出てくれ」
 軍医の言葉で、ジーン夫人の部屋は、ドクターと大尉階級のナースが残っただけである」
「ジーン、もう大丈夫だ、わたしがいるからな」
「わたしのことなんて……お仕事が大事だわ」
「今は、これが一番の仕事なんだ。あとのことはホイットニーがうまくやってくれる。GHQは、わたし一人が抜けても機能するように作ってある」
「……でも、あなた」
「まあ、何日もというわけにはいかんがね、GHQの最高司令官の頭を髪の毛以外正常に保つのが、ジーンの大事な仕事だからね。つまり……わたしはGHQの一番大切な仕事をしているわけだ。気に病むことはないよ。なあに、慣れない日本で疲れが出たんだろう。いや、思ったより元気だ。こんなに話もできるし。ゆっくり休みなさい」
「閣下……」
「ああ、分かった。ちょっと心配性の軍医殿を安心させてくるよ」 

「ケリー、どういうことだ、あの様子はただ事じゃない!」
 ジーンの寝室から二つ離れた部屋で、マッカーサーは軍医のケリー大佐に詰め寄った。
「心臓がとても弱っています。今は、量を加減しながら強心剤を打っていますが、正直言って、奥様の心臓は八十代の後半です」
「そりゃ、ジーンの母親の年齢だ。病院に搬送は出来ないのか?」
「病院まで、持たせる自信がありません……正直、今夜が山です」
「そこまで……」
 マッカーサーはGHQの最高司令官としてではなく、妻の突然な死病になすすべのない、ただの初老の男として、ソファーにくずおれた。

――閣下、お話があります――

 ミナコの声が、直接心に飛び込んできた。
 声に誘われ、マッカーサーは廊下に出た。廊下にミナコが立っていることを不思議に思った。
「わたしも、マッカーサーの一族。成り立てですけど」
「ああ、そうだったな」
 ミナコの不思議な優しさに、マッカーサーは自然に頷いた。
「サングラスの視力を良くしておきました。それで、もう一度奥さんを見て上げてください」
「部屋の中で、これじゃ……いや、そうしてみよう」

 三十秒で、マッカーサーは戻ってきた。

「あいつは、誰だ? ジーンの枕許にいる薄汚い奴は!?」
「サングラスを外すと見えなくなるでしょ?」
「ああ、つまみ出そうとしたが、手応えがなかった」
「あれは、死神ですから」
「死神……?」
「あいつが、奥さんの枕許に居る限り、奥さんは今夜中には亡くなります」
「なんとか、ならんのか?」
「わたしに任せていただけますか?」
「悪魔払いでもやろうってのか。ミナコはエクソシストか!?」
「そんな、力はありません。ただ死に神を騙すことは出来るような気がするんです」
「……任せよう。ただし看護婦のジェシカは同室させるよ」
「ジェシカさん、少々のことでは驚いたりしませんよね?」
「大戦中は、ずっと最前線にいた奴だ。かわいい顔をしているが、平気で男の手足を切り落とせる奴だ」
「じゃ、それでけっこうです」

 このミナコは、オリジナルな湊子ではない。しかし、その同質な意識を十分に持っていた。具体的な方法は見つからなかったが、何とかなるだろうという、根拠のない楽観があった。もう四五十年先なら、立派なアイドルになれたかもしれない。

 ミナコは、ゆっくりと部屋に入り、看護婦のジェシカと目が合った。

 この人となら、上手くやれそう。ミナコは、そんな気がした……。

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高校ライトノベル🍑MOMOTO🍑デブだって彼女が欲しい!・42『……そうか』

2019-02-17 06:27:07 | ノベル2

🍑・MOMOTO・🍑デブだって彼女が欲しい!

42『……そうか』


「どうせなら、朝に現れてくれないかな」

 背中でヒッツキ虫になっている桃に言う。
「幽霊に、朝に現れろって言う、ふつー?」
「ここんとこ起きにくいからさ、朝に現れて起こしてくれたりすると嬉しい」
「桃は目覚まし時計じゃないよ!」
「イテ!」
 思い切りわき腹をつねられる。
「ハハ、デブでも痛いんだ」
「あたりまえだろ」
「でも、体の表面積はこんなに広いじゃん。その分単位面積当たりの痛覚って少なくなるんじゃないのかな……?」
「ならねーよ」

 ため息一つついて大人しくなる。今夜も桃の寝息をたっぷり聞いて眠りにつく。

「いいかげんに起きなさい」

 三回目のお袋の声で起きる。冬よりも春の方が圧倒的に起きにくい。

「またナポリタン……」

 特盛のナポリタンにお袋が眉を顰める。
「大盛り二人前じゃないし」
 不毛な言い訳をする。
「ハー」
 盛大なため息。オレの朝食ナポリタンにことよせていることは分かっている。ここんとこ親父は家に帰ってこない。捜査一課長だから仕方ないんだ。
 でも、なにくれと時間を都合して親子三人の食事の時間を作ってくれていたのも無くなってきている。
 あればあったで、気を遣うお袋だけど、いざ途絶えてしまうと不安なようだ。もどかしいもんだ。おれは受け止める時間も余裕もないので、気づかないふりをして家を出る。

 角を一つ曲がって、前方を桜子が歩いているのに気付く。

 ゆったり歩いているように見えているのに桜子に追いつかない。なんとか次の角を曲がったところで追いつきたい。少し駆け足して、感覚的には8メートルぐらい縮めて次の角を曲がる。
「あれ?」
 桜子の姿が見えない。全速力で走っていたとしても見えているはずなのに。

「「ワ!」」

 驚かす方と驚かされた方の声が重なる。
「びっくりするなあ」
「桃斗が後ろから来ると、空気の圧で分かる」
 どうやら、曲がって直ぐの自販機の陰に隠れていたようだ。こういうのは小学生だったころのノリだ。
「ガキの頃みたいだな、桜子」
「楽しかったね、あのころは……」
 そう言ったきり、二人とも沈黙になる。
「もうじき桜だ、黙ってちゃもったいない」
「プ、どういう関連よ?」
 瞬間、桜子はペースを取り戻すが続かない。駅の改札が近づいてくる。
「三十日に引っ越す」
「……そうか」
 こみ上げてくるものがあるが、言葉にならない。
「あ、お昼ご飯買っていくんだった!」
 そう言うと、出しかけたパスケースを持ったまま立ち止まる。
「ごめん、パン屋さん寄ってくから、先に行って」
 ポニーテールをぶん回して、桜子は道の向こうに走っていった。

 パスケースを取り出した鞄には、ちゃんとランチボックスの巾着が見えていたのに……。

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紙模型 戦艦扶桑製作記・2

2019-02-16 18:42:16 | イレギュラーマガジン

紙模型 戦艦扶桑製作記・2

 

 困った紙模型です。  「戦艦扶桑」の画像検索結果  

 

 よくある冊子形式の紙模型なのですが、乱丁で同じページが幾つもあって、かつページナンバーが打ってありません。

 新聞紙大の図面ととじ込みの図面があるのですが、不親切です。作業工程の順番がありませんし、少ない図面の指示も不十分なうえポーランド語なのでチンプンカンプンであります。

 これまで作った紙模型の知識と技術で、数万点ある部品の中から必要なものを見つけ出し、切り取って作ります。

 

〔外板の貼り付け〕

 指定の骨格を組み終えると、いよいよ艦底部から外板の貼り付けです。

 外板は、縦方向の肋材(ろくざい)の間を埋めるようにして貼り付けますが、印刷された外板を切り出して貼り付けると、喫水線のところや、肋材のところが合わなくなってきます。

 そこで、一肋材間で一枚になっている外板を、艦底・左舷・右舷と三分割して貼り付けて行きます。

 まあ、このくらいは今までペーパークラフトを作ってきた勘で見通しが尽きます。

 しかし、艦首部分を八ブロック仕上げたところで問題にぶつかりました。

 紙の張力で痩せ馬が出てしまうのです。肋材があるところをエッジとして内側に凹んで見っともなくなります。

 

       

 

〔肋材の追加〕

 最初、横方向の肋材を自作追加してやってみましたが、痩せ馬を細分化するだけです。

 そこで、スチレンボードを買い足して、エッジになったり痩せ馬になったりしそうなところを自作の外板で、あらかじめ艦底のフォルムをつくっておきます。結果的には、艦体の七割あまりをスチレンボードで形成することになりました。

 三ブロックぐらい貼り終えると、サンドペーパーで削って形を整えます。

 そして、ようやく本来の外板を貼り付けて行きます。

 

〔外板を貼り終えてからの修正〕

 それでも、ガタが出ます。0・3~0・1ミリほどの隙間や段差ができてしまいます。

 0・3ミリで、200倍の実寸にすれば6センチの狂いです。特に喫水線下の部分が気になります。

 そこで、実際の船のように外板に段差を付けます。当時の船は外板は内側と外側を互い違いに張って鋲止めしています。

 ただ、外板の厚さは15ミリほどなので、スケール通りやれば、0・075ミリでティッシュペーパ並みになって、貼り付けてもエッジや段差を埋めることはできません。

 そこで、古ノートの表紙の紙を細く切って貼り付けます。

 ちょっとオーバースケールになりますが、エッジなどは緩和され、雰囲気は出ます。

 

    

 

 次回は、上部構造に取り掛かる前のさらなる修正について書きます。

 

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高校ライトノベル・時かける少女・11『エスパー・ミナコ・6』

2019-02-16 06:52:44 | 時かける少女

時かける少女・11
『エスパー・ミナコ・6』
       



「君かね、カリー少佐がお気に入りのミナコは?」
 
 思ったほどの威圧感はなかった。トレードマークのスクランブルエッグと言われる軍帽も、コーンパイプも、サングラスさえしていない。
 それらは、マッカーサーの自己演出であることがよく分かった。
 素で見るマッカーサーは、かなり額の禿げあがった、よく言って初老のおじさんだった。ただ、やたらに背が高く、一見優しそうな目は、奥の方で鋭く光っている。

「初めまして、元帥。お会いできて光栄です。海兵隊第五師団第一大隊の軍属ミナコです」
「ファミリーネームは?」
「それが、横浜に来てから、全てが思い出せないんです」
「不思議だな……」
「はい、自分でもそう思います」
「しかし、君の身のこなしや言葉には日本人らしさがない。どちらかというとアメリカの北東部……いや、イギリスのトラディショナルなものを感じる」
「まるで自覚はありませんが。光栄です」
「軍属の行方不明者や、抑留されていた外国人の中に、それらしき該当者はいないのかい?」
「一通りは当たったようですが、海兵隊の司令部じゃ、イギリス人とのハーフかクォーターではないかと言っています」
「だろうね、この控えめな気品と、筋の通った気概は、日本とイギリスのエスタブリッシュなものを感じる」
「閣下、それで、わたしへのご用は?」
「すまん、ホイットニー。わたしのこの子への個人的な興味だ。ミナコ、いま不自由していることはないかね」
「ポーカーです。海兵隊のお友だちにいろんなコツを習うんですけど、ちっとも上手くなりません」
「ハハ、奴らの一番得意な攻撃手段だからね。わたしでも、海兵の二等兵にもかなわないよ。まさか、やつら、妙なものを掛けろとか言わんだろうね?」
「ええ、ポーカーの後、ちょっとお喋りするだけです」
「ハハ、海兵を、ボーイスカウト並みにしつけてしまったか。しかし、やつら油断がならないからね。わたしが後で、仮のファミリーネームを付けてやろう。その間、なにかこの年寄りの相手をしてくれんかね」
「うーん、チェスとビリヤードなら自信があります」
「おもしろい、一番やってみるかね?」

 チェスは十分で、マッカーサーが二回連続で負けた。ビリヤードに至っては、五分でケリがついた。
「かなわんなあ。最高司令官の面目丸つぶれだ。よし、ポーカーで最後の勝負だ」
「元帥の手を読んでもいいですか?」
「ハハ、読めるものなら、読んでみたまえ」
 で、ミナコは元帥の心を読んだ。正直、会ってから一度も元帥は心を読ませなかった。相当孤独や駆け引きに耐え、また長けてきた人間だと思った。それがゲームとなると簡単に読めてしまう。ポーカーも二分ほどでミナコの勝ちになった。
「なんだ、ちっとも弱く無いじゃないか」
「これなら、一晩で海兵隊一個大隊ぐらいは丸裸にできるよ」
 いっしょに加わったホイットニーも、笑って喜んだ。
「今のは、心を読んだからです。普段はやりません」
「本当に、心が読めるのかい?」
「じゃ、ジャンケンしましょう」
 
 副官も含めて百回ほどやったが、ミナコが全勝。同室のみんながあきれた。ただマッカーサーは釘を刺した。
「ここで、ミナコが読んだことは、誰にも内緒だよ」
「元帥の仕事に関することは読めません。この部屋に来るまでに日本人と会ってらっしゃったようですが、内容はさっぱり分かりません。あ……」
 ミナコは、一瞬閃いたことで窓から外を見た。で、見えた人物で答えた。
「白州二郎さん!」
「ハハ、本当に分からないんだな。会っていたのは吉田茂だよ。話の中身は?」
「……分かりません。吉田さんが部屋に入ってくるまでの情報は解放してくださいましたけど、そこからは……車の中で、吉田さんが不機嫌なのも、今分かりましたが、なんで不機嫌なのか、吉田さんも読ませてくれません」
「吉田もなかなかのタヌキだ」
「白州さんが言ってます……」
「ほう、なんと?」
「あ、あの……」
「かまわないから、言ってごらん」
 マッカーサーがニンマリして言った。
「あ、ええ……『そんなにカッカしちゃ、マッカーサーのじじいよりも早く禿ちまうぜ』」
 白州そっくりな言い回しに、マッカーサーは大笑いし、ホイットニーは真面目な顔で聞いてきた。
「ミナコは、白州と知り合いなのかい?」
「いいえ、たった今、白州さんが言ったことを、そのままマネしただけです」
「英語でかね?」
「ええ、運転手に内容が分からないように。あ……今のは国家機密だって言ってます」
「ハハ、お互い国家機密級の禿頭というわけだ!」
「でも、それ以上は読めません。たいしたお爺様方です」
「ミナコ、今度は心を読まないで勝負しよう」

 で、次の勝負は、ミナコの大負けだった。

「こんなもんです。わたしの実力は……」
「なんとなく分かったよ、ミナコが人の心を読む瞬間というのが」
「え、どんな風に違うんですか。わたしは自覚が無いんですけど?」
「ミナコが、読むときは鼻が膨らむんだ」
「あ、それなら、元帥もいっしょです。チェスでもビリヤードでも鼻が膨らみっぱなしでした」
「ほんとうかい。子どものころから、オヤジに叱られていたクセだよ。なるほど、そういう意味があったんだ!」
「閣下やミナコと喋るときは、鼻を隠して話すことにします」
 ホイットニーが真面目な顔で言ったのがおかしかった。

「ミナコに、ファミリーネームをやろう。おそらく世界最強だ」
「え、どんな!?」
「たった、今から、ミナコ・マッカーサーと名乗りなさい。彼女の書類はみんな、そう書き換えるように指示してくれ」
「アイアイアサー」
 副官が部屋を出ようとすると、他の副官が飛び込んできて、マッカーサーに耳打ちした。

 みるみるうちに、マッカーサーの顔が曇っていった……。

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高校ライトノベル🍑MOMOTO🍑デブだって彼女が欲しい!・41『紀香2号からのメール』

2019-02-16 06:44:38 | ノベル2

🍑・MOMOTO・🍑デブだって彼女が欲しい!

41『紀香2号からのメール』


 生物教室の大掃除に当たってしまった。

 学年末の授業もほとんど終わっているので、今週は行事と大掃除で埋められている。
 で、その二日目の大掃除に、オレは生物教室が当たった。メンバーは他に大輔と紀香2号。
「すまん、地区の研究授業をやることになったので、急きょ頼むことになった。百戸は準備室を、島田と三好は教室を頼む」
 先生の指示で、準備室と教室に別れた。
 
 床掃除が終わったところで準備室のモニターが点いた。モニターには隣の教室が映っている。

 大輔と紀香2号が床を掃いている。互いに背中合わせ……だが、紀香は明るい南側に居て、そのシルエットが北側の陳列ケースのガラスに映っている。
 ときどき机の下を掃く。そのときに腰をかがめる姿がS字になって、とても女の子らしい姿になっている。三つめの机の下を掃き終り、可愛くため息をつき、肩にかかった髪を背中に払う。ガラスに映る姿がチラチラと気になるようだ。
 四つ目の机に差し掛かった。ブラウスの胸元をパカパカやって、またため息。けして掃除を嫌がってのため息ではなく、慣れない掃除に集中し、ホッと息をついた風情で、とても甲斐甲斐しい女の子の仕草になっている。
 瞬間、ガラスの中で大輔と目が合う。紀香2号は照れ笑いをすると、俯いて最後の机にかかる。大輔はドギマギしながら机の間を掃き続ける。

「よいしょっと!」

 可愛く掛け声をかけて椅子に乗り、紀香2号はロッカーの上を拭き掃除しようとした。大輔は、そのタイミングで紀香2号の真後ろに差し掛かった。
「……あ!」
 ロッカーの手前を拭こうとして、バランスを崩して紀香2号は真後ろに倒れこむ。
「危ない!」
 箒を放り出して大輔は、倒れこんできた紀香2号を受け止めた。
「あ……あ……だいじょうぶ?」
「あ、ありがとう、島田くん」
 大輔は、紀香2号を抱きかかえたまま固まっている。突然のことで、つぎの行動に移れないようだ。

 紀香2号はモニターの中で、オレに向かってピースサインをした。

――どう、こんなあたしでも、その気になれば、カレの一人ぐらいはできるのよ――
 帰りの電車の中で、紀香のメールが入ってきた。
――それから、あたしのことを紀香2号って呼ぶのは止めて。あたしは紀香なんだから!――

 どうも、オレへの面当てに、大輔をハメたようだ。恐ろしいとも、子どもじみているとも思った。

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高校ライトノベル・時かける少女・10『エスパー・ミナコ・5』

2019-02-15 06:44:20 | 時かける少女

時かける少女・10・
『エスパー・ミナコ・5』
      



「え、そんな偉い人に会うの!?」
 
 ミナコは、頭のテッペンから声が出た。
 大隊長のカリー少佐(こないだ昇進した)が直々に伝えにきた。
「そうだ、ミナコの噂を聞いて、ぜひとも会いたいそうだ。明日の朝、護衛付きのパッカードが迎えに来る」
「あ、このセーラー服でもいいの?」
「この服を着てくれ。オレは、それでもいいと思うんだが、連隊長が軍属らしい身なりにしろってさ。じゃ、明日。GHQ本部まではコワルスキーが付いていく。なんせ、あそこは、オレでもチビっちゃいそうなエライサンで一杯だからな」

 会いに行く相手はホイットニー准将。民政局のトップで、マッカーサーの懐刀。今は日本の憲法の改定で目の回るように忙しいはずだ。それが、なんでわたしなんかに……。
 よく似合う軍服を複雑な気持ちで鏡に映した。中尉待遇の軍属票が場違いだった。コワルスキーの口の利き方が上官に対するそれに変わったのには閉口した。

「やあ、いらっしゃい。軍服がよく似合ってる……ほう、立ち居振る舞いはまるで、十年も海兵隊にいるようだね」
「はい、わたしって影響受けやすいんです。でも、格好だけですから、とてもSemper Fi!という自信はありませんが」
「いや、君なら、今日からアナポリスの教官が務まりそうだ」
「ワオ、まさか、それをやれって、わたしをお呼びになったんじゃないでしょうね?」
「ああ、それもアイデアだな!」
 ミナコは、ホイットニーといっしょに笑った。いつの間にかホイットニー好みの控えめなギャグのトバシカタも覚えてしまった。
「で、陛下のご巡幸はいつごろからと考えておられるんですか?」
「驚いたな、わたしは、まだ、その話題には触れていないよ」
「あ……もう聞いたような気になっていたものですから」
「それが、君の力なんだね……会って正解だったよ」
「二月……ですか?」
「そう、天皇じきじきの願いでね」
「ですか……」
「なにか不安でもあるのかい?」
「准将のお考えに似ていますが、少し違います」
「どういうことかね?」
「GHQが認めたのは。物理的に陛下のお姿を国民の目にさらすためです。天皇とは、こんな貧相な中年男だったと。そして石の一つも投げられればいい……でしょ?」
「言っておくが、これを言い出したのは天皇自身なんだよ……君の心配は分かる。行く先々で天皇が酷い目に遭うことが心配なんだね。ミナコはいい子だ」
「そうじゃ、ありません。『オズの魔法使い』に、シャ-リー・テンプルじゃなくて、ジュディーガーランドを起用したよりも正解です。アメリカの子供たちは夢中ですものね」
「彼女は、これでスターになったんだもんね」
「大きな違いは、ジュディーガーランドは演技ですが、陛下はそのまま、あるがままです。国民は、そんな陛下を熱烈に歓迎します。イタリアのエマヌエレ国王のようなわけにはいきません」
「誤解しないで欲しい。天皇の力は、たった一日で戦争を終わらせたことで十分知っているよ。ただコミュニズムの影響も無視できないからね」
「准将がご存じなのは、ヨーロッパの王室です。日本は違います」
「どうちがうのかね?」
「イギリスを筆頭に、ヨーロッパの王族の方々は容姿端麗で、スピーチをされても一流です。ユーモアの感覚も。日本の皇室は、その点、まるでダメです」
「ハハ、上げたり下げたり。君の話は興味深いよ」
「ヨーロッパの王族は、基本的に国民と対立した存在です。例えば、イギリスの国王が議会に出るときは、議会は人質を王室に預けます。でしょ?」
「よく勉強しているね」
 勉強なんかじゃない、ミナコの心には、相手が思ったことが、そのまま読み取れる。准将は、一歩先で同意されているようで、心地よかった。
「日本の皇室は、この二千年近く、民衆と対立したことは一度もないんです」
 准将は、なにか閃いたような表情をした。
「あ~あ、答を教えたようなもんですね。あなたは、憲法草案を作るにあたって、今のをアイデアにしようと思いましたね。まあ、ソ連なんてのもいますから、いい落としどころにはなりそうですね。分かりました、お引き受けします」
「え、なにを?」
「陛下のご巡幸に付き添って、日本国民の本当の反応が知りたいっておっしゃるんでしょ?」
「あ、ああ、そうだ。よろしく頼むよ」
「こちらこそ」
 ミナコは、にこやかにホイットニー准将と握手した。

 その時、ドアがノックされ、副官を連れただけの男が現れた。

 マッカーサ-元帥!

 思わず、ミナコは起立してしまった……。

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高校ライトノベル・🍑MOMOTO🍑デブだって彼女が欲しい!・40『時計が12時を打つまで』

2019-02-15 06:37:50 | ノベル2

🍑・MOMOTO・🍑デブだって彼女が欲しい!

40『時計が12時を打つまで』


 試してみたら成功した。

 妹とはいえ、素っ裸で現れてはたまらないので、ベッドの中にジーパンと厚手のセーターを入れておいた。
 出現したら「それを着ろ!」と言うつもりだった。少なくとも素っ裸で出現されることを嫌がっているという意思表示にはなる。

「もう、なによこれ!?」

 出現した桃は、最初に文句を言った。桃はジーパンとセーターを着た姿で現れた。どうやら服を置いておけば、身に着けた姿で現れるようだ。
「裸で出てこられたらかなわないからな」
「意識しすぎ! 素肌にこれじゃ、チクチクして気持ち悪い」
「あ、それもそうだな」
 オレは、起き上がると、桃の部屋に行って下着をとってきてやった。戻ってみると桃の姿がない……桃は、オレがいっしょにベッドに居なければ実体化できない。ベッドに潜り込むと、すぐに現れる。
「あの……」
「早く着ろよ。こっち向いててやるから」
「ベッドの中で、ジーパンというのがね」
「注文が多いなあ……」
 もう一度桃の部屋に行って、パジャマをとってきてやる。
「ほれ」
「ありがとう」
 礼を言うと、オレの背中でゴソゴソやって、ジーパンとセーターを放り出した。
「桃さ、どうせなら、お袋のとこなんかに現れてやったらあ。きっと喜ぶぜ」
「ダメなんだよ。お兄ちゃんのところにしか出てこられないの」
「じゃ、前みたいに、姿だけってのは? あれなら、どこにでも出てこられるし、壁とかも素通りできるじゃんか」
「それだと、こんなふうに温かみとか感じられないし、触ることもできないよ」
「ちょ、触んなよ!」
「嫌がんのって、生きてる人間の傲慢だよ」
 傷ついた声で桃が言う。
「そうなのか……」
「お兄ちゃん……」
 桃は、ピッタリと背中に貼りついてきた。互いのパジャマを隔てているだけなので、裸で抱き付かれているのと大差ない。
「こっち向いて、ギューってしてくれるの……だめ?」
「そ、それは勘弁してくれ」
「……分かった」
 そう言うと、腕と脚を大きく回して、オレの背中を抱え込むように密着してきた。桃のあちこちのデッパリを背中に感じる。
「あ、あのう……」
「……ん?」
「紀香のソックリが戻って来たんだけどさ。なんか情報ないかな、こないだみたいに」
「……こうやって実体化するのってエネルギーがいるの。前みたいに情報とってくるのはむつかしいんだ」
「そ、そうか」
「ごめんね」
 オレは腕を回して、桃のお尻をホタホタと叩いてやった。

 時計が12時を打つのを6っつまで聞いて眠りに落ちた。
 

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高校ライトノベル・堕天使マヤ・第三章 遍路歴程・21『「す」市・2・スイッチ町前編』

2019-02-14 12:01:09 | ノベル

堕天使マヤ・第三章 遍路歴程・21
『「す」市・2・スイッチ町前編』

 

 

 恵美は心細い。

 

 これまでマヤと旅をしてきたが一人になるのは初めてなのだ。

 おまけに「す」市には戒厳令が出ていて物騒だ。駅のアナウンスは――駅の構内は安全です――と言っていたけど、アナウンスが終わるやいなや男の人が流れ弾に当たって死んでしまった。

 やっとホームに入ってきた電車はスイッチ行き。この電車は恵美一人で乗った方がいい。静かに、でもキッパリした声でマヤが言う。自己主張が苦手な恵美は「でも」も「だって」も言えずに六両目の一番後ろに座っている。

 やがて列車は『スイッチ町』に着いた。

 前方の一両目二両目からゾロゾロと乗客が下りていく。改札が前の方なのだろう、六両連結の分だけ人より余計に歩いて改札を潜る。

 一人だけ同じ車両だったオバサンは、とっくに先に行ってしまった。

――最後尾でいい、どうせ時間つぶしなんだし――

 ほとんど溜息みたいな独り言をこぼして駅前の名ばかりの広場に立つ。

 ちょっとしたデジャブ。

 広場は幼稚園の運動場ほどで、分度器を寝かせたような半円形。三十度刻みに道が六本伸びている。

 駅を中心に放射状に道が伸びていて、放射状を同心円に道が交差している様子、田園調布の街に似ている――わたしって、田園調布に住んでたのかなあ――思ったけど確信は無い。

 パチンと音がして「正解、正解」の声。

「幸先がいいわ、いきなり正解スイッチだったわ!」

 さっきのオバサンが、三番目の道のところでガッツポーズしている。

「なにが正解なんですかあ?」

 間抜けな声に、自分でも恥ずかしくなる恵美。

「知らないの? この町は、あちこちにスイッチがあって、自分に合うスイッチを押すと運が開けるのよ。願い事が叶うとも言ううわ」

「そうなんだ」

「でもね、一個じゃダメなのよ。十個はスイッチ押さないと効き目が無いの」

「じゃ、わたしも……」

「どーぞ」

 ニコニコのオバサンのところまで行く。

「えと、どこにスイッチが?」

「交差点がスイッチ。どっちかに行ってごらんなさい」

「はい」

 試してみるが手ごたえがない。

「ああ、やっぱりね」

「なにが、やっぱりなんですか?」

「人それぞれに合ったスイッチがあってね、適応してないところは反応しないのよ。まあ、交差点はいっぱいあるから試してみるのね」

 そうなんだ……元気をなくしてため息つくと、町のあちこちからパチンパチンと音がしているのに気付く。

「わたし、こういうのダメ……」

 当てものとか福引とか当たったことが無い恵美は気力がわかない。マユがいっしょなら、後ろからついて回ることもできるんだけど……。

「最低一個でもスイッチ見つけないと、帰りの電車には乗れないわよ」

「え、そうなんですか!?」

「そうよ、気を落とさずにがんばってね」

 そう言うと、オバサンは次の交差点に向かった。オバサンが角に差しかかると小気味よくパッチンの音、「ヤッター」と少女のような声を残して角を曲がった。

 もしかしたら……オバサンが曲がった交差点まで行ってみるが、恵美にはなんの手応えもない。

 無反応な交差点を十いくつ通ったところで心が折れてうずくまってしまう恵美だった……。 

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高校ライトノベル・時かける少女・9『エスパー・ミナコ・4』

2019-02-14 07:00:19 | 時かける少女

時かける少女・9
『エスパー・ミナコ・4』
        


 進んでポリグラフにかけてもらった。

 自分のことは「ミナコ」という名前しか分からない。着ていたセーラー服から学校を探してもらったが、校章や名前に関わる物がいっさい付いて居らず、そこからの捜索の道も絶たれた。
 ただ、知識だけは信じられないくらい持っていた。スラングも含め英語は完ぺき。独、仏、中、それに、ロシア語、中国語、朝鮮語も話せた。
 まだ、試してはいないが、他の外国人でも、わたしの目の前に立てば、その人物の言語中枢とリンクして、どんな言葉でも喋れそうだった。
 アメリカを含む外国の知識は、同席した外国人の知識が、そのままミナコの知識になった。日本人についても同様である。だからミナコは数日のうちに、自分の世話をしてくれているポーランド系アメリカ兵、コワルスキーが水虫で悩んでいることも分かった。
 コワルスキーは、陽気なポーランド人で。水虫のことも戦友だと喜んで人に見せては面白がっている。
 二日目にあった陸軍大佐が、フィリピンで、日本兵捕虜の殺害を部下に指示したことが分かったときは衝撃だった。

「ヘンドリック大佐、メモを落としましたよ」

 わたしは、彼の記憶のままに、彼の筆跡で、捕虜処分の命令書を書いて渡した。
 ヘンドリック大佐は、動揺したが、そのメモを黙って握りつぶした。
 ほんの悪戯のつもりだったが、その時、彼の日本人への拭いがたい蔑視と敵意、そして日本人捕虜処刑の情景がまざまざと湧き上がり、気が付いたら、大佐自身が書いた命令書が手許にあった。
「こんなもの、行くべきところに行くがいい!」
 そう思うと、その命令書は、ミナコの手から消えた。

 そうやって、ミナコの言語能力と知識は膨大なものになった。

 ただ、自分のことはサッパリ分からない。エスパーとしての自覚は生まれつつあったが、その能力は、戦車と橋を元通りにしてからは、手品程度のことしか人には見せない。

 で、情報部が持っているポリグラフに、自分からかけてもらうように頼んだ。情報部もおもしろがって様々な質問を用意した。
 ポリグラフは、基本的に「NO」で答える。その時の心拍数や発汗の変化でウソを見抜くのである。
 情報部長の趣味で、ニューヨ-クヤンキースの質問が多く、結局、ヤンキースのこれまでの成績、選手の癖を全部答えさせられ、今シーズンの成績の予想までさせられた。数か月語、ヤンキースの成績がドンピシャだったので、情報部長と仲良くなり、知らない方が良かった情報まで知ることになった。

「コワルスキー、妹さんが重病よ!」

 ある日、コワルスキーが好きなポーランド語で喋っていると、急にコワルスキーの妹の情報が、頭の中に飛び込んできた。
「ユリア、十七歳。セント・ホプキンスハイスクールの二年生ね。一昨日雨の中をオープンカーで走って、肺炎、一晩平気そうな顔して寝ていたのが手遅れの原因」
「ほ、ほんとかよ!?」
「今、見せてあげる……」
 日頃封印しているエスパーの力を使って、廊下の鏡にユリアの姿を映してあげた。
「ユ、ユリア……!」
――今夜が山です――
 ドクターが、人の良さそうなお母さんにそう告げた。
――先生、なんとかならないんですか。息子は日本に行ったままだし。あたしは、どうしたら――
「ママ、ユリア!」
「ペニシリンが使えればね……」
 ペニシリンは特効薬で、軍事医療用が優先され、民間への使用は、この秋になってようやく認可されたが、バカのように値段が高く、シカゴのポーランド系移民の手の届くシロモノでは無い。ドクターも知っていながら、母には伝えなかった。
 いつも陽気なコワルスキーが、身をよじりながら泣いている。普段陽気にしている分、その悲しみの深さは言葉では表せないくらいだ。
 ミナコは、自分の力でできることを考えた。飛行機にコワルスキーを乗せて、アメリカに帰してやることは容易かった。大隊長のカリー大尉か、情報局の部長に頼めばできるだろう。でも、それでは、妹さんの葬式に間に合うのがやっとだ。ドクターの心を動かしてペニシリンを使わせようとしたが、ドクター自身もペニシリンは持っていない。日本から、アメリカ人の心を操作し、ペニシリンを使わせるには、何人もの心を動かさなければならず、それでは間に合わない。

「そうだ、コワルスキー、戦友と別れてちょうだい」
「え、戦友……?」

 というわけで、わたしは、コワルスキーの長年の戦友である水虫の白癬菌をペニシリンに変えた。水虫の原因菌もペニシリンの原料も、もとは青カビ、白癬菌と、似たような菌である。
 ミナコは、コワルスキーの足の表面の白癬菌をペニシリンに変態させ、そのまま、ユリアの体の中にテレポートさせた。大きな物は無理だが、ペニシリン程度のものなら送ることができる。

――信じられん。こんな回復、ペニシリンでも使わなきゃあり得ないのに!――

 海の向こうのドクターは驚きの声をあげ母娘は泣いて喜んでいた。
「あ、ありがとうミナコ!」
 日本でも、コワルスキーがミナコを抱きしめて喜んでいた。

「わたしってば、バカだ。日本の米軍が持っているペニシリンを転送すればすんだのに!」
 この独り言は、日本語だったので、コワルスキーには通じなかった。
「なにか、お礼がしたいよ、ミナコ」
「ん~……じゃあね、今度コワルスキーのポーカー必勝法を教えて」
「ようし、オレの一番の弟子にしてやる!」
 ミナコは、ポーカーなどをするときには、絶対自分の力を使わなかった。フェアじゃないからだ。
 だから、元々の博才の無さがもろに出て、勝った試しが無く、米軍の仲間からは、そういう点でもかわいがられた。

「う~ん、ミナコの血は半分か四分の一、アングロサクソンの血が混じっているね。アゴや額の線、目の形に表れているよ」
 中佐の階級を持つ人類学者の先生がそう言った。
 わたしの記憶が戻らないので、カリー大尉が、軍属の先生を二人連れてきて調べてくれた。
「わたしは、相当な高等教育を受けていたと思わ。この気品と立ち居振る舞い、それに教養が、それを物語っている」
 居合わせた……というより、押しかけてきた米兵たちは大喜びした。無論、コワルスキーのような友情もあるが、優れたモノは、みんな自分たちの仲間だという、白人優位主義が感じられたが、ミナコはおくびにも出さず、ただみんなといっしょに驚いておいた。

 その中で、ただ一人面白くない顔をしている将校がいた。日本人捕虜を殺したヘンドリック大佐が……。

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高校ライトノベル・🍑・MOMOTO・🍑デブだって彼女が欲しい!・39『百戸君おはよう』

2019-02-14 06:49:10 | ノベル2

🍑・MOMOTO・🍑デブだって彼女が欲しい!

39『百戸君おはよう』


 このところ、親父が食事に誘ってくれない。

 捜査一課長の身でありながら、親父は、ほんの1時間でも余裕ができれば、オレとお袋を食事に誘っていた。
 たいがい県警本部の近所で間に合わせていたが、職業柄なのか、元来マメなのか、食事をする店はいろいろだった。店はいろいろだったが、食事中の話題は親子三人の身の回りのことが多く、多い割には、その背景にある事情に興味が薄い、あるいは詳しくない。だから準備不足のトーク番組のように空々しい。
 オレもお袋も、この家族ごっこは、ヘタクソな教師の授業を受けているように苦痛だった。
 でも苦痛だと口に出して言ったことは無い。言ってしまったら、この仮面家族はあっけなく崩壊する。

 妹の桃が生きていたころは、こうではなかった。

 桃は、学校や友だちのこと、ファッション、好きなテレビ番組、SNSやネットでのあれこれ、果てはご近所で子猫が生まれたことなど、いろんなことに興味があるやつだった。また、桃が興味を持っていることだから、オレたち家族には新鮮だった。
 ご近所の子猫のときなんか、桃が撮ってくる写メを見ながら、どんな名前が付けられるか、みんなでワイワイ楽しめた。
 その子猫は成長して2回子猫を生んだが、うちの家族は、もう関心を示さない。

 桃が死んでから、親父は食事会をやるようになった。生真面目な先生の授業のような食事会。

「お父さんも忙しいんだよね」
 お袋は、そう言ってため息をつくが、どこかホッとした響きがある。

 で、じっさい親父は忙しい。

 紀香一家が失踪したことは、背景に国際的製薬会社が絡んだクローン人間の開発と、開発にともなう様々な事件が背景にある。
 オレは巻き込まれて知ってはいるが、なにも証拠はないので喋るわけにもいかないし、言ったところで信じてももらえないだろう。

「百戸君おはよう」

 上履きに履き替えたところで声を掛けられた。
「……紀香」
 振り返ると、紀香でないことはすぐに分かった。目の光が違う。
「2号か……?」
「え、なにそれ? しっかりしてよ百戸くん。心配かけたけど、今日から復活。よろしくね」
「待てよ、紀香じゃないことは直ぐに分かる。みんなを混乱させるだけだ、すぐに帰れ」
「なに言ってんの、紀香は紀香よ。あ、レイカ、ごめん心配かけて!」
 紀香のソックリは、下足室に入って来たお仲間たちに駆けよっていった。

 どうなるかハラハラの半日だったが、紀香はちょっとやつれたということで簡単に溶け込んでしまった。 
 

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高校ライトノベル・時かける少女・8『エスパー・ミナコ・3』

2019-02-13 06:52:11 | 時かける少女

時かける少女・8
『エスパー・ミナコ・3』
      



 気づくと、わたしは男の子を庇って電柱の陰に隠れていた。

 電柱からは、火薬の臭いがした。十メートルほど先には、銃を構えた米兵たちが怯えと敵愾心をむき出しにして、自分たち以上に怯えた日本人たちと対峙していた。

「ケリー、撃つんじゃない。イイ子だからな」
「しかし、大尉、このガキは、オレのことを『くそオクラハマ』ってバカにしやがった!」
「相手は子どもだ、それよりも、周囲を警戒し、状況を把握しろ!」
「状況なんて見てのとおりだ。卑怯なジャップが橋を落として、俺たちの命を狙った。で、このガキが、オレのことバカにして、その女セーラーが、邪魔をしたんだ!」
 大尉は、ケリーが再び上げた銃口を下げさせた。
「ジョン、後続の部隊に連絡。日本人の妨害に遭遇。目標ブラボー手前の橋が落とされ、戦車一両が転落。負傷者四名。目標地点に着くまでは、警戒を厳となせ」
「イエッサー!」

 落ち着いて見ると、橋が壊れて戦車が川に落ちている。幸い戦車は横倒しになることもなく、衝撃で負傷した戦車兵が、ハッチから救出されている最中だった。どうやら米兵たちは日本人が、戦車の通過に合わせて橋を破壊したと思いこんでいるようだった。

 ミナコは、自分が時間と場所を飛び越えてしまったと、すんなり理解した。電柱の住所は、先ほどまで居た鹿児島ではなく、横浜であること。米軍の進駐が始まっていることから、数週間はたっていると理解した。
 二つだけ不思議だった。自分が、なぜ新品のセーラー服を着て、お下げにしていないのか。そして、なんで米兵たちの英語が分かるのか。

 でも、混乱することは無かった。氷室一飛曹たちを助けてから、自分には不思議な力がついていることが分かっていたから。

「大尉さん、これは妨害行為じゃないわ、ただの事故よ」
「君は、英語が分かるのか」
「そうみたい。ちょっと東部訛りだけど、いいかしら」
「かまわん。しかしなんで、そんな水兵の服を着ている。軍属か?」
「これは、女学校の制服なの。それより、そこの橋の注意書きを読んであげるわ」
「注意書き……ああ、これか?」
「注意、重量制限25トン」
「え……25トンだと?」
「ええ、そのシャーマン戦車は30トン。橋は落ちて当然ね」
「大尉、こんな怪しい女の言うこと聞いちゃいけませんよ」
「しかし、こんな街中の橋が25トンしか耐えられないのか?」
「そういう国を相手に戦争したのよ、あなたたちの国は」

 米兵たちの間からは、安心からくる失笑が浮かんだ。

「笑い方には気を付けて、日本人は侮辱には敏感よ。表情には出さないけど」
「でも、そのクソガキは、オレのことを侮辱したんだ!」
「ケリー、ささいなことだ、気にするな」
 大尉が、たしなめた。
「いえ、はっきりしておきましょう。この子は、ケリー、あなたのことを侮辱なんかしてないわよ」
「でも、確かに、このがきは『オクラホマのクソ野郎』って、言いやがった!」
「それって、『オーキー!』でしょ?」
「おまえまで!」
「頭にこないの、ケリー。『オーキー』というのは、日本語で『大きい』という意味なの。この子は、いきなり見た、あなたの姿を見て、『大きい人だ!』って、感心してびっくりしただけなのよ。そうでしょオオニシ伍長」
 わたしは、日系米兵のオオニシさんに言った。
「そうなのか、ゴロー?」
「は、自分はオクラホマ弁には慣れておりませんので」
「ま、とにかく誤解なんだ。キミ、済まないが日本語でこの人たちに説明してあげてくれないか」

 わたしは日本語で説明した。表情は変わらないが、あきらかに安堵の空気になった。

「どうやら、少しは分かってくれた……かな」
「日本人の感情表現は、こうなんです。それより、この戦車と橋をね……」
「工兵隊を呼ぶ。仮設の橋も含めて二日もあればできるだろう」
 大尉の言葉には、微妙な優越感があった。わたしは無用な対抗心を出してしまった。

「わたしなら、二分でやる。この橋が二日も使えないんじゃ迷惑だわ」
「に、二分だと!?」
 米兵は笑い、日本人たちは意味が分からず、ただ当惑した。
「ちょっと、そこ空けてください」
 橋のこちら側にいた横浜の人たちに頼み、わたしは、オモチャの戦車を持ち上げるような仕草をした。戦車は、その動きに合わせて、ソロリと持ち上がり、橋のこちら側に着地した。その一分ほどの間に橋も元の場所に戻って落ち着いた。
 橋に関しては、時間をまきもどしただけ。どうやら三十分ぐらいなら、物の時間を戻せるようだ。

 米兵からも横浜の人たちからも賞賛の声があがった。

「スゴイ、キミはエスパーだ。よかったら、私たちの駐屯地まで、きてくれないか。ゴローもよくやってくれるが、キミが居てくれたら、百人力だ。あ、わたしは、海兵第五大隊のカリー大尉だ。キミは?」
「ミナコって、呼んでください」

 わたしは、笑顔で握手をした。

 実のところ、苗字も思い出せないほど、わたしの記憶は薄くなってきていたのだ……。
  

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