大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女マヂカ・162『日光・1』

2020-06-26 13:47:37 | 小説

魔法少女マヂカ・162

『日光・1』語り手:マヂカ    

 

 

 

『これより日光市』の標識が見えてきた。

 

 標識を見上げながら三人とも立ち止まってしまう(ツンが人の姿になったので三人と数える)。

 標識が妙なのだ。

 畳二枚分はあろうかという白地の標識は地表から七メートルほどの高さに照らし出されている。高速道路で見かける奴で、普通は道路をまたぐポールに吊り下げられているものだが、この標識は、上にも横にもポールが見えない。

 それに、どこにも光源になるライトが見えないのに、薄闇の中に浮かび上がっているのだ。

 なんとも怪しい。

 それに、ここは高速道路はおろか、一般道でさえない。

 道なりに進んで行くうちに舗装もされていない道に変わり、道を見失わないように歩いていると、いつのまにか森の中に迷い込んでいるのだ。

「わ!?」

 ツンが驚くまで、一分近くも標識を見ていた。

「こんにちは」

 標識から視線を下ろすと、標識の真下に女の子が立っていた。

 赤いワンピースにショートヘアの頭には赤いリボン、かわいい顔で大きな目は少しつり上がっている。こいつは……。

「言っとくけど猫娘じゃないから」

「あ……そう」

「でも、見た感じ……」

「猫娘じゃないから」

「あたし、犬娘のツン」

「だから猫娘じゃないから」

「分かった、その猫娘ではない君が、なにか用なのかい?」

「ダメと言っても入って来るだろうから、わたしが案内役に出てきたの。これから日光に入ってもらうけど、全てわたしの指示に従ってもらいます」

「ああ……えと、そういうのは好きじゃないんだけど」

「断るのは自由だけど、その時は、この森の案内もしてあげられないから」

「案内してもらわないとどうなるのかな?」

「道に迷うわ、出るのに何年かかるか分からない。魔法少女はバカみたいに長生きだからへっちゃらでしょうけど、犬は十年、人間も八十年ほどが限度でしょ」

 魔法少女でも、そんなに迷っているのはごめんだ。

「困るでしょ、だから、わたしが案内。いいわね」

「こっちの正体は分かっているようだけど、こっちも、きみの正体が分からないんじゃフェアじゃないと思うよ」

「そ、そうよ」

「わん」

「わたしは、眠り猫娘」

「なんだ」

「やっぱり猫娘」

「わん」

「違うわ、猫娘の生みの親は水木しげるだけど、わたしのは左甚五郎だもん。ちょっと待ってね……」

 眠り猫娘はスマホを出すと誰かと会話し始めた。

「はい、はい……分かりました宮司様、ご指示の通りに。もう三歩前に進んでくれる」

「お、おう」

 三人おずおずと三歩進む。

 

 ガッシャーーーーン

 

 背後で音がしたかと思うと、鉄柵が現れて退路を断ってしまった。

「帰る時に開けてあげるから、じゃ、付いて来て……と、その前に、これを渡しておくわ」

 眠り猫娘が茶封筒を差し出した。『日光市内での開封を禁ず』と注意書きがしてある。

「なんだ、これは?」

「お土産よ、西郷さんの本名が書いてある。探していたんでしょ」

「ほんとなのか、わん!?」

「そうニャア……って、動物語は止めてくれる、こっちまで伝染ってしまうニャ」

「ネコなんだから、無理するなよ、わん」

「あんたとは口きかない!」

 

 眠り猫娘の案内……監視付きで日光での時間が動き始めた。

 

 

 

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ライトノベルベスト[お姉ちゃんは未来人・4]

2020-06-26 06:24:36 | ボクの妹

ライトノベルベスト
[お姉ちゃんは未来人・4]    



 

 数人前のところで悲鳴があがった!

 悲鳴の原因は直ぐに分かった。若い男がナイフを取り出し暴れまわっているのだ。

 以前他のアイドルグループで、握手の直前にナイフを出した男がアイドルを切りつける事件があったので、握手会のセキュリティーはかなり厳しくなったが、ただ並んでいる段階でのチェックは甘かった。列は蜘蛛の子を散らすようにバラバラになり、切られた数人の子が傷を庇いながら、彼方の方に避難した。

 あたしは、一瞬男と目があってしまった。

――次の目標はおまえだ!――

 あたしは蛇に睨まれた蛙のように動けなくなった。悲鳴さえ上げられない。男は手にしたナイフを腰だめにして、あたしに突進してきた――やられる!――そう思った次の瞬間、体全体に鈍い衝撃を感じた。

 なんと、お姉ちゃんが、あたしを庇って前に飛び出した!

 ナイフは深々と、お姉ちゃんのお腹に突き刺さった。

 スローモーションを見ているようだった。ナイフが刺さったままお姉ちゃんは仰向けに倒れ、ナイフを失った犯人は、あっさりとガードマンの人たちに取り押さえられた。

「お姉ちゃん!」

――あたしの言うことを落ち着いて聞いて――

 お姉ちゃんの言葉は、直接心に聞こえてきた。
――あたしは未来からやってきたの。竹子を守るために――
「あたしを……」
――竹子の玄孫が、アンドロイド愛護法を作るの。それまで、ただの道具でしかなかったアンドロイドに人間に準ずる人権を認める法律よ。22世紀の『奴隷解放令』と言われるものよ。ところが、それを阻止しようという組織があって、それぞれの時代に刺客を放った――
「それが、今の男?」
――刺客と言っても、ランダムに未来から想念が送られてコントロールされているだけ。未来からやってきた者なら、あたしには分かる。想念だけだから、あいつがナイフを出すまで分からなかった……他の時代でも犯人は捕まったみたい――
「他の時代も……?」
――アンドロイド愛護法を作る人物は、四代前までのDNAで決定される。遡ると42人になるわ。でも、その人物の性格を決定的に影響を与えるDNAを持っているのは5人だけ。その5人に、あたしのようなガードが付いているの――
「お姉ちゃん、死んじゃやだ!」
――アンドロイドは、死なないわ。でも……役割を終えたから、ここで消える。病院で検査されたら人間じゃない……ことがバレてしまうからね……――
 
 お姉ちゃんの反応が無くなってきた。

「お姉ちゃん!」

――いま、あたしに関する情報を消しまくってるの……ここにいる全員分も……消さなくっちゃね――

 握ったお姉ちゃんの手が、急にはかなくなって……そして、消えてしまった。

「君も、どこか怪我したのかい?」
 ガードマンのオジサンが声を掛けてくれた。
「あ……怖くって、動けないだけです」
「そう。でも気持ち悪くなったら声かけてね。救急車もすぐに来るから」
「はい、ありがとう……」

 けっきょく、あたしはショック状態ということで病院に運ばれた。ショックの原因は事件じゃない。みんなの記憶からお姉ちゃんは消えてしまったけど、あたしはインストールもできないかわりに、記憶も消えない。半年間だったけど、アンドロイドだったけど、松子お姉ちゃんは、しっかり、あたしの中でお姉ちゃんになっていた。

 このお姉ちゃんへの思いが、玄孫のDNAに影響を与えたのかもしれない。

 

※ 数年前に長編を書くためのプロットとして書いた短編の載録でした。

  明日から長編として再開いたします。ご愛読いただければ幸いです。応援ありがとうございます。

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あたしのあした・34『黒のローファー』

2020-06-26 06:06:52 | ノベル2

・34

『黒のローファー』      

 

 

 根拠が有ったわけじゃない。

 なんとかなるだろうと思っていただけ。

 
 ただ、マスコミへの対応を、みんながバラバラにやったら誘導されてしまってヤバイことになると思っていた。
 そして「あたしに任せろ!」と胸を叩いておけば、みんな安心するとも思った。
 毎朝テレビの女性レポーター姫野姫子に声を掛けられた時も、どう対応するかは考えていなかった。
 話しているうちに相手の意図をくみ取り、その意図を土台の所でひっくり返してやればいいと思いついたんだ。

 で、映像ではなくて、実際に補講の現場を見て判断させるのが一番だと思いついた。

 水野先生は実質的な謹慎処分にされている。
 あたしたちが、いくら騒いでも先生の謹慎が解けることは無い。どっちかって言うと逆効果だ。
 だから姫野のオネーサンを焚きつけて、補講が再開させれば開けてくる道もあるというものだ。

 あたしってば、いつの間に権謀術数の子になったんだろう……ほんのこの間までは、引きこもりの果てに死ぬことを考えていたのに。

「恵子、会ってもらいたい人がいるんだけど」
 昼休み、ネッチに声を掛けられた。
「うん、いいよ」
 相手がだれかも聞かずに返事する、ネッチの緊張が弛む。あたしに信頼されたことで気が楽になったんだ。
 意識はしていなかったけど、これは相手の心を掴むための手練手管なんだなあと思う。

 放課後連れていかれたのは、商店街にあるネッチのお店だ。

 商店街を西から入ると直ぐに爽やかなお茶の香りがする。
 ネッチの家である『創業安政六年 静岡茶 せきね屋』の看板が見えてきた。
「あら、いらっしゃいませ」
 ネッチのお母さんが、業務用半分親しみ半分の挨拶をしてくださる。
「こんにちは、茶々さんのクラスメートで田中恵子と申します……」
 頭の中では「この度は、学校のことでいろいろと……」などと長ったらしい挨拶が浮かんでいたが、らしく見えないと、高校生らしいところで区切った。
「お母さん、もうみえてる?」
「ええ、お座敷の方でお待ちしていただいているわ」
「じゃ、いこっか」
 暖簾をくぐって案内されると、坪庭を隔てた別棟の関根家の住居部分。

 玄関に入ると、それだけで真面目な人柄が偲ばれる黒のローファーが目に入った。

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プレリュード・11《ちょっと嬉しい春一番……》

2020-06-26 05:56:25 | 小説3

リュード・11
《ちょっと嬉しい春一番……》    



 

 うちの親は点と線。分かるかなあ……?

 一か月ちょっとしたら大学生。だから、それまでの人生にめったにない自由な時間を有意義に楽しむ。その記録が『奈菜のプレリュード』。大それた目的があるわけではない。何年かたって、この時期を振り返って、生きていく力……ちょっと大げさ。ヨイショぐらいになったらいいと、一日おきにパソコン叩いてます。

 今日は、うちの親が点と線という話。

 学部の選択、推薦入試、学費に通学経路などは真剣に考えてくれた。学部は将来の就職とあたしの特性を考えて心理学部。これからの四年間を思うと身が引き締まります。
 推薦入試は、高校三年の一年間を受験一色にしないように……これに応えられたかは自信が無い。演劇部のゴタゴタが、今思うともったいない半年だった。
 通学経路は、梅田を通るルートを勧められた。梅田は、大阪一番の繁華街。自然と寄り道もする。その寄り道の中から娘が何事か学ぶだろうという配慮。まあ、バイトも見つけやすいし、少しは自分で稼ぐだろうという気持ちも透けて感じられる。まあ、行き届いた親だけど、一つ抜けてた。

「奈菜、これ着て大学行き」

 お母さんが、恩着せがましく差し出した箱の中身はリクルートスーツ。
「これ、入学式用?」
「普段の通学にも使うたらええやろ」
「あのね、入学式用としては嬉しいよ。だけど、こんなん毎日着て学校なんか行かれへんわ」
「なんでえ。お母さんずっと制服やったよ」
「お母さんは、短大でスーツの制服やったからでしょ。うちのO大学は私服やのん」
 そう言って、スカスカのクローゼットを開けた。
 高校は、制服だから、私服は、それぞれの季節に二着ぐらいしかない。あんまり少ないので、季節ごとの入れ替えの必要もないくらい。

「なるほどね……」

 クローゼットの中身をみて納得の様子。大学生活の大事な点と線は押えてるみたいだけど、日常という面を考えていない。
 それで、お母さんから二万円もらって駅二つ向こうのショッピングセンターへ。
 お母さんは、昨日の新聞広告持ってきて「春一番大バーゲン」を指し示した。で、二万円で、とりあえず必要なもんを揃えなさいというご託宣。

 あたしは、改めてショッピングセンターのバーゲンをググった。共に1980円のスプリングジャケットと、重ね着風のレイヤードチュニックワンピを発見。これと手持ちのGパンを組み合わせたら、とりあえず手持ちのチュニックと合わせて夏まではもたせられる。
 バーゲン二日目なので、ちょっと心配だったけど、朝一番から並んで、目出度くゲット。SとかXOとかの特殊なサイズはなくなってたけど、標準のMサイズは、結構残ってた。
 BCDマートで、1980円のパンプスも発見。一万を超えない金額で上から下までゲット。

「やあ、奈菜やんか!」

 レジ済ましてエスカレーター乗ってたら、クラスの美津子に出会う。いや、買い物袋のハンガーと化した買い物モンスター!
「いや、あれこれ見てたら、ついね」
 コーヒーショップに入って、美津子は、あたしの五倍はあろうかと言うほどの服と靴を見せてくれる。
「うん、こういう買い方もありだと思うけど……」
「なにか?」
「美津子、あんた在学中に制服買いなおしたでしょ?」
「え……知ってたん?」
「あんた、現在進行形のデブ。ちょっと気をつけないと、来年は着られなくなるよ」
「そうか……分かった。これが来年も着られるように、ダイエットに励んだらええねん。ものは考えよう、シブチン転じて福となす!」
 で、美津子はダイエット本を探しに本屋さんへ。どのくらい効果があるか分からないけど、美津子の明るさと前向きな姿は好き。

 わたしは、中古ゲーム屋で『アナ雪・2』の中古を1980円でゲット。なんかイチキュッパ女になったみたい。

 今時周回遅れの『アナ雪』を買うのにはワケ有。それは、またいずれ……。

               奈菜……♡ 

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ライトノベルベスト[お姉ちゃんは未来人・3]

2020-06-25 06:17:39 | ボクの妹

ライトノベルベスト
[おちゃんは未人・3]       



 松子が覆いかぶさってきた……!

 松子は、あたしのおでこに手をかざして、こう言った。
「やっぱ、ダウンロードはされてるけど、インストールされてない……どうも特殊な体質のようね」
「で……あんた、なんなのよ!?」
「シー、世間で、あたしのこと松子だと思ってないのは、あんただけだから、騒いだら、おかしいのは竹子になっちゃうわよ」

 あたしは、それまでの状況からその通りだと思って、ビビりながら頷いた。

「あたしは、150年ほど未来からやってきたの。事情は、あたしの記憶もブロックされているからよく分からない。でも必要があってのことよ。けして悪いことをするためじゃないから、安心して。そして協力するの」
「記憶が無いのに、どうして悪いことじゃないって、言いきれるのよ?」
「さあ……でも、本人が言うんだから、そうじゃない?」

 それが、半年前の始業式。

 それから松子はお姉ちゃんとして、ごく自然に家にも世間でも通用してしまった。

 じっさい悪いことは何もなかった。ただ普通の蟹江家としての半年が過ぎた。
「松子、こんなのが来てたよ」
 夕食が終わった後、お母さんが、お姉ちゃんに封筒を渡した。封筒の下のロゴがAKR48になっていることを目ざとく発見。ちょっと胸がときめく。
「やったあ、AKRのライブのペアチケットが当たった!」
「え、ペアチケット!?」
 家族全員の視線が集まった。うちは家族全員がAKRのファンだ。
「お姉ちゃん、彼とかといっしょに行くんでしょ?」
 妬みと願望を隠し切れない声で、あたしは尋ねた。
「来週の金曜の夜……」
 お姉ちゃんは、壁のカレンダーを見に行った。我が家は、でかいカレンダーにそれぞれの予定を書いておく習わしがある。お母さんが食事の段取りなどに狂いが出ないようにと、子どものころからの習慣。
「あ……これは竹子で決まりだ。来週の金曜、お母さんたち結婚記念日でお出かけだよ」
「あ、そうだった。ホテルのフレンチ予約してあるんだった」

 というわけで、お姉ちゃんと武道館に行くことになった。

 二人とも学校が終わると真っ直ぐ家に帰って、私服に着替え、駅前のマックで燃料補給して、開場時間ピッタリに間に合った。マコとヨッコが偶然いっしょだったのにはびっくり。会場に入ってから、さらにビックリ。あたしたちの席は、真ん中の前から三列目。マコとヨッコは、ずっと後ろ。ちょっと優越感。
 オシメンの萌絵や、ヤエちゃんなんかが至近距離で見られて大興奮! 楽しい時間はあっという間に過ぎて行った。卒業した大石クララが特別ゲストで出てきたときなんか、もう失神しそう。クララの横には週刊誌のネタ通りの男性ボーカリストが付いていて評判だった交際を発表。会場は興奮のルツボ。
「おめでとう!」
 汗みずくで駆け寄る萌絵ちゃんの汗が飛んできて、お姉ちゃんのハンカチに付いた。
「ラッキー!」
 とお姉ちゃんは喜んだ。

 そのあとは、お決まりの握手会。オシメンの萌絵ちゃんかヤエちゃんかで悩んだけど、結局ヤエちゃんにした。なんでかっていうと、ヤエちゃんには卒業の噂がたっていて、ひょっとしたら……と思った。今日クララさんが来たのなんて、その伏線みたいに思えたから。

 でも、これが悲劇の選択だった……。

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あたしのあした・33『毎朝テレビの者なんですけど』

2020-06-25 06:09:58 | ノベル2

・33
『毎朝テレビの者なんですけど』
      

 

 学校を出て最初の角を曲がったところで声を掛けられた。

「ちょっといいかしら、毎朝テレビの者なんですけど」

「はい? なんでしょうか?」
 クエスチョンマークを二つも付けてトボケてはみたけど、水野先生のことだと直ぐに分かった。
「田中恵子さんですね?」
 人定質問をするとマイクを突き付けられた。
「水泳の補講でのセクハラについて聞きたいんですけど」
 本題に入ったところで囲まれてしまった。前にレポーター、左にカメラ、右に音声、後ろは駐車場のフェンスだ。
「水野先生に触られた時は、どんな感じでしたか?」
 セクハラ確定の物言いだ。
「もう何人にも聞いたんですね」
「ええ、いろいろ話してもらえました」
 どんな内容だとかは言わないけれど、眉のひそめ方でセクハラ被害に遭ったことを暗示して答えを誘導する聞き方だ。
「誘導にはひっかかりません。みんなには、あたし一人に一本化するように言ってあります。この件についてはなにも聞き出せていないと思いますが」
 あたしは自分の立位置をはっきりさせておいた。リスクはあるけど、みんなと先生を守るためだ。
「ええ、たしかに他の人たちは答えてもらえません。だから、田中さんに……」
「ここで何を言っても、そちらが結論を持っていたんじゃ意味がないと考えます」
 マスコミの扱いは毎朝新聞と毎朝テレビがいちばん厳しい扱いだった。
「予断とか結論とかは持ってないですよ、みなさんから教えていただいたことをもとにやってますから」
 その教えていただいたことは毎朝テレビが誘導して編集したものだけなんですけど。このことを言い出すと水掛け論になってしまって、争っているところだけを放送されて、いいように使われてしまう。

 あたしはカメラに向かって提案した。

「どうでしょう、あたしたちの補講をみなさんの目で見てもらって判断してもらえないでしょうか。話を聞いたりSNSの動画やコメントだけでは分からないと思うんですが」
「そいうのもあるかもしれないけど、まずは……」
 自分たちの間尺に合わないものは簡単にスルーしようとする。
「いいアイデアでしょう……でも問題があるんです。水野先生が身動き取れないということなんです」
「先生は体調不良でお休みになってらっしゃいますもんね」
 白々しいことを言う。
 だけど、学校がそうさせているんだなどと言うとぶち壊しになる。
「補講が再開できるということになれば、先生は、きっと元気になられます。ぜひ、毎朝テレビやみなさんから働きかけてください!」

 この提案はスタジオの方でも面白がられたようで、レポーターも、それ以上は突っ込んではこなかった。

 インタビューが終わってからレポーターさんに名刺をもらった。性格には似合わず姫野姫子というかわいらしい名前だった。
 メアドなんかも交換して機嫌よく別れたけれど、あたしは思った。

 もうひと押ししておかないと流れを変えることはできない。あたしの提案以外に、もう一つダメ押しがいる……。
 

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プレリュード・10《今日は名前について考えた……ぞ!》

2020-06-25 06:03:10 | 小説3

リュード・10
《今日は名前について考えた……ぞ!》   



 大阪の教育長がパワハラ認定された。

 わたしは、新聞はあんまり読まないけど、この人が教育長になったことは新聞で知った。
 U学院の入学式の日に教育長になった人だから、よく覚えてる。
 行動力があって小回りが利きそうな人だけど、第一印象は「嫌なやつ」。思い込みが強そうで、なんでも自分が一番。一番と違っても、そう人を言いくるめてしまいそうな強引さを感じて、あたしはいい印象を持たなかった。なんせ名前が、小学校の時に憧れてた先生と同姓同名だから、それだけで嫌だった。

 女の子の好き嫌いて、こんなものなんだけどね。

 感覚的に一回いやだと思ったら、なにをやっても嫌!
 で、今回は、それがドンピシャだったわけ。

 名前というと、大阪都構想。

 難しいことはよく分からない。だけど、街の境目やら名前をガラッと変えてしまうことは感覚的にイヤ。
 堺の市長さんが反対しておられた。いろいろ理由は言っておられるけど「堺市は堺市です」この一言がしっくりとくる。

 例えば、阪神タイガース。

 日本で、これだけ負けてボロカスに言われても愛される球団はない。「阪神」いう名前があるから、ボロカスに言われても愛される。これがJR西日本タイガースとか、ソフトバンクタイガースでは締まらない。どこかの知事さんやら市長さんの発想で、大阪タイガースにしてもだめ。ドーンと広く関西タイガースでも似合わない。

 むかし、近鉄バッファローズいう球団があった。オーナーは名前の通り近鉄。

 近鉄の駅中の立ち食いうどんの店のメニューに『バッファローうどん』いうのがあったらしい。肉うどんをしゃれて『バッファローうどん』言ってるのは直ぐに分かる。
 それが不当表示いうことで、ただの『肉うどん』になってしまったらしい。らしいというのは、お父さんからの又聞きだから。
 だけど気分としてはメッチャ分かる。

 前フリが長い。

 本題はここから。

 今日は亮介の彼女が来る。興味津々(この四文字打つまでは興味深々だと思ってた)
 彼女が彼の家に来るというのは特別な意味があることぐらい、わたしでも分かる。あんまり興味津々なんで、親友の直美まで呼んだ。
 初訪問に相応しく、アニキが迎えに行ってお昼して、やってきたのは二時前。親友の直美は昼前から来て、あたしといっしょに昼ご飯の焼きそばを作った。

 今日は、仕事のシフトの関係でお父さんが家にいる。もちろんお母さんも。

 この意味分かる?

 つまり、彼女を特別な存在として、うちの家族に認知させるために決まってる。
 お茶を運びに行って、しっかりチラ見してきた。三階の部屋から来るとこをスマホで撮ったけど、間近で見ると印象がオーラになって感じられる。ブルゾン脱いだ下は、エンジと薄い水色のセーターに思い切ったブルーのスカート。こんな際どい色使いが似あう人はめったにいない。全体から受けるイメージはアナ雪のアナ。ちょっと吊り目だけど瞳が大きいのでメッチャ可愛い!
 髪の毛は三つ編みじゃないけど、きりっとポニーテール。顎と耳の延長線上に結び目を持ってくるとこなんか、心憎いほどさりげないオシャレ。ポニーテールいうのは顔の造作からうなじまで全部見えてしまう。よっぽどの自信……それもミテクレと違って、内面に自信がないとできない。

 名前が「ゆうこ」さんやいうことは分かった。まだ苗字も名前の字も分からない。意外とお父さんと話が合ってる。

「大阪都構想、基本的には賛成です」
「二重行政の解消?」
「むつかしいことはわかりませんけど、一緒になって名前変わってもやっていこいう心意気が好きです」
「なるほど」

「奈菜、あんたとは合わんなあ」と、直美。
「直美は考えが浅い。あれは、さりげない間接話法だよ」と、わたし。

 ここまで読んだ、あなたには分かります?

                 奈菜……♡

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せやさかい・154『ギョウザパーティー・1』

2020-06-24 15:32:46 | ノベル

せやさかい・154

『ギョウザパーティー・1』頼子        

 

 

 

  新入部員が入るまでという約束にした。

 

 だって、もう高校生なんだから、いつまでも中学の文芸部に通うわけにはいかないでしょ。

 ソフィアは放課後は領事館で過ごしている。

 彼女の仕事は、学校に居る間は警護を兼ねた留学生としての勉強。放課後は領事館で諜報員としての訓練を受けている……らしい。

 らしいというのは、王女であるわたしが知ってはいけないことであるかららしい。

 知っていれば、いざという時に場合によっては、わたしも責任をとらなければならないことになるからという説明。

 

「どんな子が入って来るかなあ」

 

 ボールの中身をかき混ぜながら留美ちゃんに振る。

「さあ……」

「男の子だといいわね」

「はい!」 

 さくらは元気に返事してくれるけど、留美ちゃんは頬を染めて俯きながらボールをかき混ぜている。

 留美ちゃんは今のままがいいんだ。放課後お寺の部室に集まって好きな本を読んだり、三人でウダウダお喋りしたり、時には檀家のお婆ちゃんたちと昔話したりマッサージしてあげたり。そういう、しみじみとかホノボノした部活がいいんだ。

 でも、籠り気味の部活と言うのは感心しない。感心しないなんてはっきり言ったら、きっと留美ちゃんは傷つく。だからね、そっと間接的にね、時々言ってやる。

 

 今日はね、さくらの『葷酒山門に入るを許さず』のスカタンから出た瓢箪から駒で、お婆ちゃんたちとギョウザを作っている。

『葷酒山門に入るを許さず』のお寺でギョウザを作るのは罰当たりなことだと思うんだけど、浄土真宗と言うのは寛容な仏教で、「あ、檀家のお婆ちゃんらも好きやで!」とテイ兄ちゃんも賛成して、本堂の外陣でギョウザの具をかき混ぜている。

「葷酒山門にどーたら言うのんは、禅宗とかの古い仏教やねえ。檀家と坊主が楽しくやってたら、阿弥陀さんも喜んでくれはる」

「終戦後闇市でギョウザ屋やったら、よう売れてねえ(^^♪」

 手際よくギョウザの皮を包んでいくのは、今年95歳になる勲子(いさこ)おばあちゃん。

 フルネームは浜田勲子さんと言うんだけど、檀家の皆さんからは『イサネエ』とか『イサちゃん』と呼ばれている。「あんたらも『イサちゃん』でええよ(^▽^)/」って言うけど、田中さんのお婆ちゃんでさえ『イサネエ』なんだから、そう着やすくは呼べない。だから『勲子さん』。

「なんや、皇族のお嬢様みたいやなあ」

 と、照れているけどまんざらでもないようなので、これで通してます。

「イサネエの餃子は奉天仕込みやさかいなあ」

 檀家の婦人部ではボス格の田中さんが少し甘えるように勲子さんに接しているのも麗しい。

「奉天て、今の瀋陽のですか?」

 留美ちゃんも顔を上げる。

「信用はあったよ、奉天言うたら満州の都やったさかいねえ」

「え?」

 トンチンカンだけど、話は進む。

「ほんまの餃子は水餃子やねんよ、売れ残りの水餃子は硬なるから、二級品として蒸し焼きにして売ってたんよ。だれが発明したんか、十四師団の兵隊さんは『固くなったフランスパンをラスクにして売るようなもんだ』言うてはったけど、フランスパンなんちゃらハイカラなパンは食べたことないよって『きっと、そうですねえ!』なんてよそ行きの言葉で答えたりしてねえ」

「十四師団の兵隊さんて?」

「そら、猪口兵長に決まってるやんか! シューっとしてはって、そら男前のにいさん。『勲子ちゃんのキビキビしたところは江戸っ子みたいだねえ』言うてくれはってえ」

「ええ、ほんでイサネエは、どない答えましたんや?」

「うちは大阪生まれですけど、親は関東大震災でこっちに越してきたんです。だから、血統的には江戸っ子かもしれません」

「その話、初めて聞くわあ!」

 鈴木さんのお婆ちゃんも身を乗り出してきた。

「ほんの昨日までは、半ボケで寝てはったんやけどねえ、餃子で思い出さはったんやねえ……なんや、昔のイサネエに戻らはったみたい」

 田中さんのお婆ちゃんがかっぽう着の袖で涙を拭う。

「ほんまに、文芸部のみんなには感謝やねえ、こんな年寄りの相手してもろて、イサネエも元気になって」

「いや、あたしらがしたいことに、お婆ちゃんら巻き込んでるだけやしい(n*´ω`*n)」

 さくらが照れる。さくらも一年前に比べると柔らかい笑顔をするようになった。

 ピンポーン……

 ドアホンが鳴って、テイ兄ちゃんがお手拭きで手を拭いながら玄関へ。

「頼子さーん、ご学友が来てくれ張ったよー」

 たぶんソフィアだ、餃子焼くから、領事館に断ってからおいでよと言ってある。

 

 そのソフィアが真理愛の制服で入ってきた時に、ちょっと驚くことが起こった。

 

「いやあ、ソフィアやないのおおおおおおお!」

 

 なんと勲子さんが一大感激を発してしまった!

 え? なぜ? なんで?

 

 

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ライトノベルベスト[お姉ちゃんは未来人・2]

2020-06-24 06:36:05 | ボクの妹

ライトノベルベスト
[おちゃんは来人・2]    



 

 お姉ちゃんがうちにやってきたのは半年前の始業式。

 一学期最初の日で、たまたま持ち上がりでクラスが一緒になったヨッコと「前のクラスで一緒なの、あんただけね!」と互いに喜んだのは束の間。
 始業式で、演劇部の顧問の吉田先生が転勤になったことを知ると、同じ演劇部のマコと泣きの涙。二人はクラブでは仲が良くなかったけど、演劇部は吉田先生でもっていた。おまけに新三年生の部員はゼロ。演劇部は二人の双肩にかかってきたので、その心細さは良く分かる。で、以前のいきさつかなぐり捨てて互いにクラス一番の友だちになった。

 で、ホームルーム終わると、することも無いので、さっさと帰ってきた。

「I,m home!」

 元気良さげには玄関を開けた。新学年の学校は、あまり面白くなさそうだったけど、顔に出して文句言うほど浅はかでもない。たった半日の印象だし、学校は学校、家は家。あたし、そういう空気は切り替える方。
「ああ、腹減った!」
 と、パンのバスケットを物色。
「お姉ちゃん帰ってきたら、お昼にしてあげるから下卑たこと言わないの」
 お母さんの言葉に「あれ?」っと思った。

 あたしは一人っ子で、姉妹なんかいない……親類のイトコの顔を思い浮かべる。でもイトコの中で女の子はあたしが一番の年長だ。お姉ちゃんと呼ぶような存在はいない。近所にも気安く昼ご飯を食べにくるようなオネエチャンもいない。すると……。

「ただいま!」

 元気でしっかりした声が聞こえた。親しみの有りすぎる声だ。
「お帰り、ちょうどいいタイミングね、三人でお昼にしよう。松子、着替えたらパスタ作んの手伝って。さ、竹子も着替えといで」
「う、うん……」
 そう言って二階に上がって、びっくりした。部屋のドアを開けると6畳の部屋が12畳ほどに広くなり、あたしが全然知らない「お姉ちゃん」が着替え終わって下に降りるところだった。
「竹子、早くしな。パスタはスピードが命なんだから」
「う、うん……」
 有無を言わせぬ上から松子。ごく自然な姉としての親しみとしっかり者のお姉ちゃんの威厳があった。

「いったい、どーなってんの?」

 不思議に思ったけど、階下の明るく自然な母子の会話に流されて、あたしは「妹」を演じていた。これはテレビのドッキリかなんかで、みんなで、よってたかって、あたしのことを担いでいるんだろう……最初はそう確信した。
 夕方になってお父さんが帰ってきて、ふつ-に松子を娘として相手をしているのを見て、あたしの確信は揺らいできた。
 お父さんは、お芝居なんかできない。良くも悪くも嘘の言えないオッサンだ。それが、自然に学校の話とか、昔ばなしなんかして盛り上がってる。

 これは悪夢だ。なんかの間違いだ!

 破綻は日付が変わるころになってやってきた。

 いつもだったら、新学年の始業式の夜なんて、宿題も何にもないから、テレビ観たり、コミック読んだり、チャットをしたり。でも、この長いドッキリに、あたしはくたびれて、お風呂入るとさっさとベッドに潜った。
「そうだ!」
 あたしは、思いついてヨッコにメールを打った。
――遅くにごめん。変なこと聞くけど、あたしって一人っ子だったよね?――
――なに言ってんの、松子姉さんいるじゃんか。それよりクラブがさ――
――ごめん、それ明日聞くね――
 他にも五人の友達とイトコにメールを打った。みんな松子のことを知っている。おかしいのは、あたしだけだ……。

 もう頭がスクランブルエッグ! こういうときは直接当たるに限る。

 鼻歌まじりに風呂からあがってきた「お姉ちゃん」に聞いてみた。
「ねえ、あなた誰なのよ……!?」

 鼻歌が止まり、松子姉は、無機質な顔で振り返った。

「インストールエラー……かな」

 松子が、あたしの上に覆いかぶさってきた……!

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あたしのあした・32『セクハラになってしまった』

2020-06-24 06:27:55 | ノベル2

・32
『セクハラになってしまった』
      

 

 困ったことになった。

 早乙女女学院がプールの使用を断ってきたのだ。
 表の理由は「本校のクラブの使用と重なり、ご使用いただけなくなった」ということで、一応はお詫びの形をしている。
 だけど実際は違う。

 昨日のプール補講は熱が入っていて、水野先生が手取り足取り教えてくれて、プールの真ん中で挫折していたベッキーたちも二十五メートル泳げるようになった。
 あたしたちはプータレてはいたけど、うちの学校らしい和気あいあいの雰囲気の中で行われた。
 その雰囲気がとってもいいので、早乙女の水泳部の子たちは動画に撮ってネットで流した。
 むろん、事前に水野先生に学校を通して了解も得ている。

 でも、これが裏目に出た。

 撮った方も撮られたほうも和気あいあいなんだけど、観た方はそうは取らなかった。

 水泳指導に名を借りたセクハラ! になってしまった。

 スク水の女子を腹這いにさせ、その足を掴んでキックのフォームを教えているのは、そういう目で見ればセクハラに見えるのかもしれない。失敗すると太ももやらお尻をペシペシと叩かれもした。
 でも、うちはそういう学校ってか、落ちこぼれ十三人の補講女子と水野先生ってのは、それで普通なんだ。
 プールの更衣室に覗きやら下着泥棒が入った時、先生はしっかり対応してくれて、師弟で協力して犯人を捕まえたりした。
 プールのポンプが故障して「任せとけ!」と胸を叩いて借りたプールが男子校だったのには「ちょっと先生!」で、なんとかしてよ、このオッサン! ということもあったけど、先生のことを憎んだりセクハラオヤジとは思っていなかった。

「ねえ、水野先生しばらく休みだって」

 遅れて食堂にやってきたノエチンがマサミのフライドポテトを掠めながら報告する。
「学校の予防線だな……」
 あたしは爪を噛んだ。
「あたしのフライドポテト食べてもいいよ」
 勘違いしたマサミがフライドポテトの袋を差し出す。
「あ、ありがと」
 メンバーに芽生えた友情の芽を大事にしたいので一つまみ口に頬張る。
「このまま沈静化しなかったら、休職とかにして年度末には転勤とかで幕を引く気でしょうね。学校は関係なしってスタンスだ」
 智満子が冷静な声で呟く。さすがは横田不動産社長の娘、分析が鋭い。
「先生とばされんの?」
「こないだお母さんが亡くなったとこじゃん、身軽になった分、容赦ないだろうね」
「先生かわいそうだ……」
 ベッキーが目を潤ませる。
「ベッキーって、水野先生嫌ってなかったっけ?」
「う、うん。でもさ、プールでお尻叩かれてもセクハラとかは感じなかったもん」
「あたしも、鈍感でうるさいオヤジだとは思ってたけど、ハリはあったよね」
 ネッチが呟く。
「あのさ、ひょっとしたらマスコミとか来るかもしれないけど、そういう時は『田中恵子に聞いてください』って言ってくれない? みんながバラバラに対応したら揚げ足盗られたり、都合のいいとこだけ取り上げられたりするから」

 みんなに忠告した。

 根拠なんてないんだけど、あたしに一本化しておくのがベストだという気がしたんだ。

 それは正しい判断だった……。

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プレリュード・9《あべのハルカス ハルガスミ》

2020-06-24 06:19:42 | 小説3

リュード・9
《あべのハルカス ハルガスミ》   



 

 大阪は日本で二番目に狭いという嘘がよく分かる。

 貫ちゃんのお父さんの株主優待券で、あべのハルカスの展望台に来ている。
 南のすぐそこに関空が見える。大阪は、この関空が出来たので、香川を抜いて、日本で一番の狭さを克服した。

「なんや、奈菜ちゃんも知ってたんか」
 貫ちゃんがつまらなさそうに言う。
「うん、中学で習た。勉強苦手だけど、こういうことは覚えてる」
 なんかセコイ手段でブービーになったと思って、このエピソードは、よう覚えてる。
 なにも狭さ日本一を克服しようと関空作ったわけじゃないけど、作って測ってみたら、結果的に香川県を抜いてしまったらしい。

 一見肩の力の抜けた面白い話に聞こえるけど、大阪人の屈折した劣等感と優越感が両方出てるようで、わたしは好きじゃない。

 お互い知ってたいうことで、貫ちゃんの話の頭はすべった。すべったことを、二人でアハハと笑う。すべったことやら失敗したことを、笑いに変えるセンスは、やっぱり大阪人。
「こんな狭いとこに十八年間おったんやな……ガキのころは、けっこう広い街や思てたんやけどなあ」
「うんうん、関空と伊丹の二つも大きな空港があって、えらい街だってね」
「八尾空港まで入れたら三つになる。戦後しばらくはうつぼ公園も飛行場やったらしいでぇ、ジェット機の100機ぐらいに紐つけて飛ばしたら、飛んで行ってしまいそうに狭うて、ちっこい」
「天王寺公園て、あんなに狭かったのね」
「そら、内国勧業博覧会のときの名残やもんな。大阪的チープさ」
 
 アホな話で盛り上がった。わたしらは、その気になったらアホな話だけで半日ぐらいは潰せる。

 だけど、時間を潰しにハルカスに来たわけじゃない。

 口にはしなかったけど、もっと大事な話があることは予感してた。

「東京に行くんや……」
 予感していた言葉を貫ちゃんが言ったのは、けっきょく安倍地下のコーヒーショップ。
「そんなことだろうと思ってた」
「ハハ、ばれてたか」
「貫ちゃんの演劇は、大阪には収まらないから……そんな予感は、ずっとしてた。貫ちゃん、芝居の話はするけど、進路の話なんかはしたことないでしょ。余計に決心は強いと思ってた」
「これでもズルズル悩んでたんやで。気が付いたら、もう芝居の道しか残ってなかった」
「話してくれたら、背中押したげたのに、そうしたら、もっと気楽に決心できたと思うよ」

 貫ちゃんは、表情のつくりように困ったような顔になった。

「東京行ったら、しばらく帰ってこられへんけど、友達と思ててええか?」
 すごい遠まわしで気弱な台詞をやっと言ったのは、さっきチープだと言った天王寺公園。
「そういう言い方は、わたしららしくない。そんな確認しなくても、いい友達……」

 
 あたしは気持ちのままに言った……でも、大事な何かを切り落としたような気になった。
「そうか、ごめんな。つまらんこと言うた」

 つまらないことを言ったのは、わたしだという気がしてきた。

 さっきまで居てたハルカスが気の早い春霞の中に滲んでた。

 霞の向こうには、今はまだ見えないものがあるかもしれないよ、貫ちゃん。

                       奈菜……♡

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小説学校時代 22『小学校のニオイ 中学校のニオイ』

2020-06-23 08:11:44 | エッセー

 22 

『小学校のニオイ 中学校のニオイ』  

 

 

 就学前登校? 入学前登校?

 

 どちらか忘れましたが、中学入学前、春一番が吹くころに中学校に行ってテストを受けました。

 国数英の三教科だったと思います。

 入学式もまだだというのに、男子は学生服、女子はセーラー服であったように記憶しています。

 何の屈託もなく受けたテストですが、あれは、入学後のクラス分けのために行われたものです。

 高校ならば入試の成績でクラス編成をしますが、公立の中学に入試はありません。そのために学力を正確につかんで、均等にクラス編成をするために実施するテストです。

 

 大方の子が、初めて中学の校舎に入ります。

 その初めての中学校の印象に触れたいと思います。

 

 中学は小学校に比べると、ニオイがしません。

 小学校は尋常小学校時代からの木造校舎でしたので油の匂いがします。

 廊下も教室も板張りでしたので、年に二三回ほど油引きをします。

 小学校と言うと、この匂いです。

 大阪は戦災で焼けていますが、小学校は意外に焼け残っていました。その焼け残りの大半が木造校舎なので、どこの小学校に行っても同じ匂いがしました。

 校舎の一部、便所に近いところは汲み取り便所特有の香しいニオイが混じります。普通の家もほとんどが汲み取りで、映画館も同様で、まあ、人間が住むところは、おおむね便所のニオイがしました。

 中学では、その便所のニオイがしません。

 休憩時間中にトイレに行きましたが、水洗トイレなので小学校の便所とは異質のニオイです。

 このニオイの違いで、中学生になるんだと自覚しました。

 

 窓枠が違いました。

 

 中学の校舎の窓は鉄製なのです。鉄製の割にはガタついていましたが。

 鉄製の窓枠と言うのは、なんとも上等な感じがしたものです。窓辺に寄ると鉄のニオイがしました。

 机は小学校と同じ木製でしたが、小学校のようにニコイチの二人掛けではなく、一人掛けであったように記憶しています。

 教室にガス管が入っているのにも驚きました。

 小学校は石炭ストーブでしたので、ガス管はありません。

 そうです、中学はガス暖房だったのです。新鮮でしたね。

 

 ニオイとか、感覚的なところから中学を感じたという思い出でした。

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ライトノベルベスト・[お姉ちゃんは未来人・1]

2020-06-23 06:14:26 | ボクの妹

ライトノベルベスト
[おちゃんは来人・1]    


 

 

 文化祭も五回目になると飽きる。

 と言って、あたしは落第を重ねた高校五年生というわけではない。
 中学から数えて五回目。面白かったのは中一の時と高一の時。初めてだったから新鮮だった。厳密に言うと高一の時は昼で飽きた。中学校は、学年で合唱とお芝居だけ。そのどっちか。どっちも学芸会のレベルでつまらない。
 高校は、もっといろいろ面白いことがあるんだろう! と期待した。

 クラブとかの出し物や模擬店は新鮮で、それなりのレベルはあるんだけど、軽音にしろダンス部にしろ、身内だけで盛り上がって、あたしら外野はなんだか馴染めない。ネットで面白い文化祭を観すぎたせいかもしれないけどね。
 クラスの取り組みは、占いとうどん屋さんのセット。うどんは100円でミニカップ一個。原価はカップ込みで25円のボッタクリ。占いはタロットと手相の二つで、どっちも100円。担当は、この春に廃部になった演劇部のマコとヨッコ。一週間のアンチョコで、ハウツー本を読んだだけのインチキ。だいたいテストに実験台にされたとき、こんなことを言う。

「う~ん、あなたは珍しい!」
「どんなふうに?」
「生命線がない!」
「え……?」
「本当は、生まれてすぐに亡くなる運命……」
「違うよ、生まれてこない運勢」
「だったっけ……あら、ほんとだ(^_^;)」
「で、どーなのよ?」
「なにか、特別な使命を帯びてこの世に生まれた。その兆候は十六歳で開花する」
「あの……あたし、まだ何にも開花してないんだけど」
「え、そう?」
「芸能プロにスカウトされたとか、宝くじにあたったとか?」
「あたし、もう十七歳なんだけど……」

 ま、こんな調子。

 言っとくけど、あたしには生命線はあった……うっすらだけど。それが去年の冬ぐらいから消えてきた。ちょっと気になったので、ウェブで調べた。すると、二つのことが分かった。

①:生命線が無い、または薄い者はいる。だが他の線により補完されていて、特に問題は無い。
②:手相は、年齢や体調によって変化する。

 で、マコとヨッコが使っているハウツー本は全然違うことが書いてある。ようはいい加減ということだ。僅かに褒められるのは、元演劇部らしく小道具としての本には凝っていて、わざわざ神田の古本屋まで行って買ってきた、古色蒼然とした本だったこと。しかし、奥付の発行年を見ると昭和21年発行の雑誌の付録になっていた。終戦直後の何を出しても売れる時代の粗悪品。先生は「カストリものだな」と言っていた。ちなみにカストリとは三合(三号にかけてる)で潰れる粗悪な酒という意味。

 ま、適当に当番の時間をお勤めして、あとはテキトーに時間を潰して、終礼が終わったらさっさと帰った。まあどこにでもいる少ししらけ気味の高校二年生。あ、名前は蟹江竹子……ちょっと古風。亡くなったひい祖母ちゃんが竹のようにスクスクと育つようにと付けてくれた。愛称はタケとかタケちゃん。ま、普通。

「I,m home!」

 ちょっと気取って玄関を開ける。
「ああ、腹減った!」
 言いながらパンかごから、クロワッサンを出してぱくつく。
「もう、行儀の悪い!」
 お母さんがいつものように小言。
「はーい」と返事して、食べてから手を洗う。クロワッサンの油やパンくずが手について気持ち悪いから。

「ただいまー!」

 お姉ちゃんが元気に帰ってきた。「お帰り」と、あたしの時とは違う優しい声でお母さん。お姉ちゃんは優等の高校三年生だ。もう一時間もすればお父さんが帰ってきて、ごく普通の親子の夕食になる。

 普通でないのは、お姉ちゃんは未来人で、本来はうちの子ではないこと。そして、そのことは、あたししか知らないことなんだよ。

 びっくりした? 

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あたしのあした・31『平泳ぎのフォーム』

2020-06-23 05:56:32 | ノベル2

・31
『平泳ぎのフォーム』
      


 皮肉なことに早乙女女学院は飯館女子に惜敗してしまった。

 だから、あくる日の本選に早乙女女学院は出場できなかった。
 あたしたちは、はるばる滋賀県までやってきて、インターチェンジのテレビで予選の中継を観ただけで終わった。
「これなら学校の視聴覚室で観てるのとかわりないよ!」
 ぼやくことしきりだったが、早乙女の人たちに「ありがとうございました!」と揃ってお礼を言われると、十三人の補講女子たちはウルっときてしまい。やっぱ来た甲斐はあったとしみじみと感じた。

「人の為ならがんばれるのになあ」

 二十五メートルプールの真ん中で足を着いたベッキーがぼやいた。
 続いていたミャー、ノンコ、キララの三人も挫折する。
「こら、真面目に泳がんか!」
 プールサイドで水野先生が怒鳴る。室内プールとはいえ、メガホンも持たずに通る声にには脱帽だけど、もう怒られ慣れているので、ヤッコラセ~という感じでしか再開できない。
「チンタラやってんじゃねー!」
「「「「は~~~~~い」」」」
 かったる~い返事に、泳ぎ終わってプールサイドでヘバっているあたしたちは思わずクスクスと笑ってしまう。
「コラー!! 別役!!」
 再び足を着いたベッキーに雷が落ちる。

 キャ!

 プールの向こう側で悲鳴があがった。
 まっとうに練習をしていた早乙女水泳部の子たちがビックリしてしまった。
 早乙女女学院には、水野先生のような大声の先生はいないのだろう。
「お前らはなー、フォームがなってないんだよ。体力がないこともあるけど、フォームだ! 別役、こっち来い!」
 ベッキーは、小さなため息一つして前に出てプールサイドで腹這いになった。
「いいか、平泳ぎは足のキックが大事なんだ、お前らの足では推進力にならない。いいか、こうやって……」
 水野先生はベッキーの足を掴んで、平泳ぎのキックの形に動かした。たしかに先生が動かすと速く泳げているように見える。
「ほれ、自分で動かしてみろ」
 数回繰り返した後、先生は手を放した。ベッキーはヤッコラセと足を動かす。
「ちがうだろ、蹴るんだよ。こことここに神経集中!」
 ベッキーは太ももとお尻を叩かれる。ペシペシといい音がして心なしかフォームが良くなる。
「さ、今度は水の中でやるぞ。プールの縁に上半身俯せで腹から下だけ水に漬けろ」
 ノロノロと言われた通りにする。
「なんか、陸に上がりかけのムツゴロウみたいだね」
 ネッチが言うとみんなアハハと笑う。
「関根、余計なこと言うな」
 ネッチはペシリとお尻を叩かれる。いい音がしたので、またアハハと笑ってしまう。
 十五分ほどかけてみんなのフォームが直される。それから泳いでみると、半分ほどが上達……したような気がした。

 今日の水野先生は熱心だ。お母さんのお葬式を出したことで悟った……という噂があった。

 あたしは知っている。早乙女のダンス部の子たちが、あたしたちに助けられたことをSNSにアップしたのを、先生はこっそりと観ていた。
 で、あたしたちのことを少し見直したんだと思う。

 うちはパッとしない学校だけど、少しは見どころがあるんだ、少しはね。
 

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プレリュード・8《バレンタインとバンアレンタイ》

2020-06-23 05:46:49 | 小説3

・8
《バレンタインとバンアレンタイ》
        


 

「おはよう」と言っても返事が返ってこなかった。

 いつもなら「あ」とか「おお」ぐらいの兄妹としての最低の挨拶ぐらいは返ってくる。
 今朝の亮介は様子が変だ。

 あ……

 今日は、天下御免のチョコレートの日。セント・バレンタインデー……彼女からチョコをもらいそこねたか?
 そう思いつくのと、外で原チャの発車音がするのといっしょだった。

「あいつも、奈菜に負けんくらいのオッチョコチョイやなあ……」
 お父さんが、窓から去りゆくアニキを見ながらため息をついた。
「亮介、なにかやったん?」
「え、ああ、そこのパソコン見てみ」

 アニキの部屋は、ガレージを改造した一階の部屋。籠るのにはちょうどいいんいいだけど、うちはナンチャッテ三階建て。一階部分はコンクリートで出来ていて、電波の通りが悪い。で、パソコンの無線が通じにくいんで、パソコンだけは二階のリビングに置いてる。そのパソコンが不用心にも点けっぱなし。

――加藤くんの「バンアレンタイの心理学的考察」の着想は面白い。しかし、締め切りは守ろう。S大学 林道則――

「これって……?」
「ゼミのレポートの督促みたいやな」
「バンアレンタイの心理学的考察……?」
「これは、バレンタインの間違いやろな。バンアレン帯では心理学にも文学にはならんやろ」
「バンアレン帯て、なに、お父さん?」
「地球を取り巻く磁場のことや。宇宙ステーションの低高度と静止衛星の高高度の間にある」
「う、むずい」
「下敷きの下に棒磁石置いて上に鉄粉撒くと、N極S極の間にきれいな模様ができるやろ。あれが磁場。地球も大きな磁石で磁場がある。それがバンアレン帯や。これを文学的に考察……むつかしいやろな」
「で、亮介どこいったん?」
「図書館。ウィキペディアでは出てけえへんやろからな」

 オッチョコチョイは、うちの家系……とは思わんとってほしい。

 わたしは、今月に入ってから考えてた。チョコを渡すべきかどうか。
 わたしには、高校生活の終わりと同時に幕切れにしたない人間関係がある。チョコで迷うんやから当然男、せやけど、チョコを渡したら浮ついた、あるいは惚れた腫れたの関係になってしまう。で、うじうじ考えてるうちにバレンタインデー。
 みんなは、簡単にルビコン川を渡ってしまう。あたしは渡られへんかった。

 今からでも……いう気持ちもある。

 しかし、あたしはチョコを買いにいくことも作ることもしかった。亮介ほどのオッチョコチョイだったら……ちょっと後悔。
 スマホを手に取る。ちょっと考えてから、亮介のアホさをニュースとして送ってお茶を濁す。気弱さから、同じ内容のメールを直美にも送る。

 亮介は、いちおう大学生。閃いたのか単なる思い付きか、バンアレン帯とオーロラの関係から、世界のオーロラに関する歴史、心理、文学的な資料をいっぱいコピーして帰ってきた。

 わたしは、まだ気持ちを引きずったままです……。

                   奈菜……♡ 

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