大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・169『ピタゴラスゴールデン街・3』

2023-07-10 14:03:22 | 小説4

・169

『ピタゴラスゴールデン街・3』緒方未来 

 

 

「まぁた、おまえらかぁ」

 

 警務の班長は、そう言うと二人の部下に酔っ払いを連行させ「先生も大変だねえ、でもまあ、一応……」と簡単な事情聴取をして行ってしまった。

「さっきは、ありがとうね」

 路地から出てきたそいつに一応の礼は言っておく。

「分かってるんだな。あのキックが入ったら事情聴取で済まなかったぜ」

「うん、下手したら半身まひ、古い型式だから義体の修繕費高そうだし」

「診療所の給料なら三か月分くらいはとんでしまうだろうね」

「ああ、知ってんだぁ」

「先週見かけた時は救急の制服だったけど」

『ねえ、中に入んなよ、今日は二人とも驕りにしとくからー』

「ラッキー!」「それはありがたい!」

 女将さんの声に同時に反応して店の奥に収まる。むろんスリッパに履き替えて。

 

「いやあ、ご活躍!」「たいしたもんだよ!」「二人とも!」「いっぱい奢らせてくれ!」「スッとしたぜ!」

 

 席に着くまで酔っ払いたちが喝采してくれるのを「やあやあ」「どもども」「またねえ」「ありがと」といなしながら……「プライベートの奥使っていいよ」と女将さんの言葉に「こっちでいいよ」と、そいつが言うので奥にあるというだけの四人掛けに収まる。

 

「プライベートの奥も時々使わせてもらってるのよ」

「ああ、でも、俺は新参者だし」

「見かけによらず硬いのね。でも、嫌いじゃないわよ、そういうの」

「ただの不器用者だよ、先生」

「じゃあ、不器用者の器用な助太刀に感謝して、ほらほら、グラス持って!」

「あ、ああ(^_^;)」

 かんぱーーーい!!

 店中の酔っ払いが唱和してくれて、気分のいい乾杯。

「みんないい人みたいだね」

「うん、みんな穴掘りだから、見てくれはいかついけど、ちゃんとスリッパに履き替えてるしね。酒の勢いでウザがらみしてくるのも居ないし」

「うん、いいね、こういうのは」

「ん……そのニュアンスは、以前同じようなところに居た?」

「ああ、地球の鉱山に居た」

「漢明? 骨柄は大陸系とお見受けしたんだけど」

「中国だよ」

 中国……という人間は少ない。けど、初対面で深入りしていい話題ではない。

「周温来」

「周恩来?」

「そんな歴史的人物じゃないさ、字はこう書く」

 ハンベをモニターにしてきれいな漢字で書いてくれる。

「……どこかで聞いたような……見たような」

「俺も、先生のことは見たような気がする……」

「おや、二人ともお安くないねえ。はい、どうぞ」

「え、こんないいお酒!」

「ヤマザキの百年物じゃないか、女将さん!」

「ここ一番てとき用にね、まだ何本か残ってるから遠慮なく」

「すみません!」「いただきます!」

 

 あらためて乾杯して、思い出した。

 

「あなた、西之島の周温来!?」

「あ、声大きいよ(^_^;)」

「あ、ごめん。だよね、西之島の周温来って言えば氷室、マヌエリトと並ぶエライさん!」

「今は、ただの流れの坑夫さ」

「いや、でもさ……」

「先生こそ、姉妹とか居ないの?」

「ううん、一人っ子だけど」

「ああ……他人の空似かなあ」

「エヘヘ、周さんのいい人だったの?」

「先生のいい人になら、なってもいいけど」

「プ……もう、噴いちゃうじゃないの!」

「いやあ、申しわけない。島では、いつもこんな感じだったんで」

「お手柔らかにお願いしますよ、まだ、大学出て間が無いんだからあ」

「え、この道十年選手ってオーラがするんだけど」

「そこまで歳じゃありません。まあ、火星の出身なんで、地球の女の人よりはワイルドかもしれませんけど」

 昨日もパスカルの荒くれどもの治療をやって死体検案書まで書いたんだけど、それは言わない。

「よし、じゃあ、俺も挨拶代わりに中華のワイルドやっちゃおうかなあ!」

「え、なに!?」

 立ち上がっただけで120%って感じの周さんに、声がひっくり返ってしまう。

「女将さん、ちょっと舞わせてもらうよ!」

「え、なにが始まんの?」

 ドワアア~~~~~~~ン!!

 すごい銅鑼の音がしたかと思うと、京劇のようなサウンドが店内に満ちた。周さんが自分のハンベを店のコンピューターに同期させて、ワンマンショーのステージを作ってしまう。

「アチョーー!」

 大げさな身振りでハンベをタッチすると、周さんは鐘馗様のような姿になった!

 

 

☆彡この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地

 

 

 

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

RE・かの世界この世界:153『カテンの森のトンネル小僧』

2023-07-10 05:57:43 | 時かける少女

RE・

153『カテンの森のトンネル小僧』ポチ 

 

 

 

 横に伸びる穴をトンネルというんだ。

 当たり前のことを思い出したのは二分くらいガスマスクを追いかけた時よ。

 トンネルだとは思えないくらいに地底の穴はグニャグニャなのよ。でも、トンネルと推測するのは間違っていないと思う。

 だって、いっこうに枝分かれというか分岐が無い一本道だから。

 これは、落ち着いてアナライズすれば簡単に分かると思ったよ。

 

 地べたに座り込んで、両方の壁に手を伸ばす。

 グヌヌヌ……体がちっこいので、両方いっぺんにタッチすることができない。

 
 エイ! エイ! エイ!

 
 仕方なく、反復横跳びみたく壁をタッチしながら前に飛ぶ。

 グニャグニャになっている訳が分かった。ここはカテンの森の地下なので、カテンの巨木の根っこが深くまではびこっているんだ。

 トンネルは根っこを避けて掘られているのでグニャグニャなんだ。もし、横穴とかを掘っていたらラビリンスになって、もっと迷ったことだろう。

 地中だから捜索には時間がかかるけど、反復横飛び1000回で分かった。やっぱり分岐も横穴も無い。

 トンネルは、カテンの森の地下一面に及んでいるみたい。みたいなんだけど、出口は意外に近い気がする。

 

 一メートルほど行ったところに縦に下る穴がある。

 

 そうか、横ばかり気にしていたから気づかなかったんだ。

 そこを下りて行った形跡がある。そうなんだ、横穴ばかり気にしていたけど、縦穴というのもあるんだ。ちなみに、そのまま足跡をたどっていくと、ぜんたいの長さは100キロを超えてしまい、大変なロスをするところだったよ。

 縦穴の底は青く光っていた。海かなあ? とりあえず飛び込んでみる。

 
 エイ!

 
 勢いをつけてダイブ、すぐに光が見えて、突き抜けたとたんに引力が逆さまになって、三メートルほど飛んで逆に落ちる。そのまま落ちては、また穴の中に落ちてしまうので、穴の縁を蹴って、ドサリと着地。

 一面の草が生えていて痛くはなかった。

 あ、こいつ!

 目の前に、探検隊みたいなコスで、脇にガスマスクを転がして寝ている男の子がいる。

「おい、起きろ!」

 馬乗りになって、頬っぺたをペシペシ叩いてやると「ギョエ!」っとカエルみたいな悲鳴を上げて目覚めやがった。

「あんたでしょ、デバガメみたくエスケープハッチから覗いていたのは!?」

「な、なんでえ( ゚Д゚)!?」

 目をまん丸にして驚いた顔は意外に可愛い……んなことはどーでもいい!

 はずみで、緩くかぶっていたしょうちゃん帽がポロリと脱げて、立派な耳がピョコンと現れた。

 オオカミサンの耳だ! 

 それが、ひどく似合っていて、自分でも目尻が下がるのが分かった。下がった目尻なんて観られたくないから、両手の人差し指で目尻を上げて起った時のヒルデみたいに問い詰めた!

「お、おまえ、正直に言え! 何者なんだあ!」

「な、なんで、来れたんだ!? あんなグニャグニャのラビリンスに掘ったのに!?」

「ああいうのはラビリンスとは言わん!」

 トンネルの単純さを指摘してやると、ガックリと肩を落とす。

「とりあえず、お腹の上から降りてくれないかなあ、ちょっと苦しいよ」

「あ、あ、ごめん」

 慌てて降りて、びっくりした。

 
 あたしってば、普通の大きさになっていたよ!

 

☆ ステータス

 HP:13500 MP:180 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・900 マップ:12 金の針:1000 その他:∞ 所持金:8000万ギル(リボ払い残高無し)
 装備:剣士の装備レベル38(勇者の剣) 弓兵の装備レベル32(勇者の弓)
 憶えたオーバードライブ:シルバーケアル(ケイト) シルバースプラッシュ(テル)
 スプラッシュテール(ブリュンヒルデ) 空蝉(ポチ)

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

 テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  テルの幼なじみ ペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          シリンダーの幼体 82回目に1/6サイズの人形に擬態
   ペギー         荒れ地の万屋 
 ユーリア        ヘルム島の少女
   ナフタリン       ユグドラシルのメッセンジャー族ラタトスクの生き残り

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

くノ一その一今のうち・63『撮影所の大浴場』

2023-07-09 10:30:48 | 小説3

くノ一その一今のうち

63『撮影所の大浴場』そのいち 

 

 

 グヌヌ……

 

 思わず唸ってしまった。

 撮影所の自室に戻って、もらったマップを開いてみると、そこに地下通路の出入り口がいっぱい書かれていた。

 つまり、どこから侵入しようとお見通しということだ。

『今日は、もうお風呂に入ってお休みください。晩ご飯はお部屋の方にお持ちします』

 えいちゃんの言葉に甘えてお風呂をいただく。

 部屋にもお風呂はあるんだけど、あえて、大浴場にいく。

 大部屋俳優用の大浴場は、けして豪華ではなく、昔のお風呂屋さんという感じ。

 大浴槽にはジャグジーも付いていて、凝った背中を当てるとめちゃくちゃ気持ちがいい。

『ジャグジーなら、お部屋のお風呂にも付いてるんですよ』

 最初は『いっしょに入るなんてとんでもないです(;'∀')!』と言っていたのを説得して、わたしの横に浸かってもらっている。えいちゃんは、付き人というよりは、もう同志だ。

 二次元のペラペラなので、そのままわたしの横に浸かると紙のポスターを横から見たようなので、ちゃんと横向きの二次元になってくれる。

「でも、正面の鏡には、ちゃんと前向きに映ってるね」

『切り替えてるんです』

「わたしの視線に合わせて?」

『はい、カメラに合わせるのは役者の基本です』

「すごい!」

 ブンブンブン

『あ、ブンブン首振るの止めてもらっていいですか、ちょっと追随するの大変なんで(^_^;)』

「あ、ごめん。忍者なんで、つい試したくなって(^_^;)」

『お風呂の水は表の長瀬川から引いてるんですよ』

「そうなんだ」

『長瀬川は昔々は大和川だったんです。江戸時代に今の大和川に付け替えられて、その名残が長瀬川なんです。だから、源流は大和の奥の方で、とってもゆかしい水なんですよ』

「じゃあ、このペンキ絵?」

『はい、そのころの江戸時代の景色を描いてあります』

「きれいに描けてるわねえ……」

『美術さんが描いたんです。反対側は西の景色で、古き良き大阪が偲ばれるんですよ』

 なるほど、単に東洋一の撮影所であるだけでは無くて、大阪の地理や文化を偲ばれるように出来ているんだ。

『大部屋の役者さんは日本各地や外国から来てる人も居ますからね、お風呂に浸かりながら大阪のあれこれを勉強できるようになってます』

「あ、なんか光ってるところがある」

『大阪城と空堀商店街ですね。見ている人の興味でクローズアップされる仕掛けになってます』

「どれどれ……」

 ちょっと目を凝らすと、今日、半日かけて走り回ったところの映像や資料が浮かび上がってくる。

 でも、まあ観光案内程度のことで、むろん地下通路のことなどは出てこない。

 

 おや、あれは……?

 

 長瀬川沿いを北に行ったところが仄かに光っている。

『関心のある場所に関連したところが光る仕掛けなんです……たぶん、小阪のあたりですね。長瀬の前は小阪に撮影所があったんですよ』

「そうなの?」

『はい、でも微妙にズレてるかなあ……』

 

 と言うので、お風呂を上がってから所長の杵間さんに聞いてみた。

 

「ああ、あれは、撮影所の資料に直結してるからねえ、きっとロケハンしたときの……ああ、ここは『木村長門守』ってのを撮った時の資料だ。木村重成って豊臣方の若い大将なんだけどね、討ち取られて首実検したら、兜に香が焚き染めてあったんだ。討ち死にを覚悟して、臭い消しにしたんだね。なんせ夏の陣は暑い盛りだったからねえ」

「討ち死にした場所ですか?」

「いいや、討ち死にしたのは若江っていって、もうちょっと東。ここは、大坂城から煙が上がるのを見た重成が、馬の背中に立って秀頼に別れを告げた場所だよ『馬立』って言ったと思う」

「そうですか……」

「お、なにか閃いたって顔だね」

「ちょっとだけですけど」

「うん、明日の朝、またホームズの事務所を覗いて見るといいよ。なにかヒントがあるだろ」

 

 よし、果報は寝て待て!

 

 ベッドに入ったら五秒で寝てしまった。

 

☆彡 主な登場人物

  • 風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち
  • 風間 その子       風間そのの祖母(下忍)
  • 百地三太夫        百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
  • 鈴木 まあや       アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
  • 忍冬堂          百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
  • 徳川社長         徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
  • 服部課長代理       服部半三(中忍) 脚本家・三村紘一
  • 十五代目猿飛佐助     もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者
  • 多田さん         照明技師で猿飛佐助の手下
  • 杵間さん         帝国キネマ撮影所所長
  • えいちゃん        長瀬映子 帝国キネマでの付き人兼助手
  • 豊臣秀長         豊国神社に祀られている秀吉の弟

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

RE・かの世界この世界:152『カテンの森』

2023-07-09 06:38:02 | 時かける少女

RE・

152『カテンの森』ポチ 

 

 

 

 ちょっと怖い。

 
 なにがって、カテンの森よ。

 ハンシン族とかにやられて、縮んでしまったヨトゥンヘイムの中で、このカテンの森だけが昔のままにおっきい。

 低い木でも80メートルほど、高い木になると300メートルもあるそうよ。

 そうだと言うのは、自分で確かめたわけじゃないから。案内してくれた巨人族の少年が言ったことなんだけどね。

 メスシリンダーの変異体であるあたしは身の丈が人間の1/12しかない。だから、森から受ける圧は人間の12倍。300メートルの木は3600メートルなのよ(≧0≦)!

 そんなのが何千本、何万本もおっ立ってるんだから、あたしはテントの設営も勘弁してもらって、四号の中に留まった。通信機の上のお布団が一番よ。

 

 ハッチが半開きになってるんで外の様子は分かるんだ。

 

 巨人族の少年(お爺さんが縮んで若返った)が、いろいろとレクチャーしてくれている。

――ラムノ、ノシホ、そしてみなさんが押しつぶしたノヤが半神の三傑です。ノヤは孤高の神官でしたが、ラムノは実戦派、ノシホは魔導士で黒魔法に長けています。カテンの森は木々が神性を帯びていて、森全体として強力な結界になっています。全てが縮んだヨトゥンヘイムの中で、ここだけが元の大きさを保っていることでお分かりの事と……そして、付け加えておかなければならないのは……であって、特に……さらに……こういうことも……ああいうことも……でして……――

 レクチャーは微に入り細を穿つって感じで続いている。少年はかなり口うるさいと言うか、くだくだしい年寄りだったんだろうなと思う。ま、それだけハンシン族をやっつけて欲しいという願いが強いんだろうけど。

 あたしは、カテンの森は性に合わないから、ここを出るまではお昼寝を決め込むの。

 
 少年の説明が、心地よい子守唄になったころ、戦車の底の方から音がし始めた。

 
 コツコツ コツコツ カチャカチャ カチャン

 
 通信手席と砲塔のターレットの間からだ。

 えーと……四号戦車の仕様を思い出す。たしか、非常脱出用のハッチがあったはず。

 首を捻って覗いてみる。

 
 あ……ああ!?

 
 ハッチが半分ズレて、ガスマスクをかぶった怪しい奴が、半身を車内に覗かせている。

「ブハ!」

 空気が漏れる音をさせると、アタフタとハッチの下に落ちて行った。

「待て!」

 飛び起きると、そのまま開いたままのハッチに飛び込んだ。ハッチの下は地面なんだけど、ハッチと同じ大きさで穴が開いていて井戸のようになっている。

 勢いのまま飛び込んで、あとを追いかける。穴は二メートルほど落ちると水平になって、闇の中を逃げていく姿が感じられた。

 
 え、なに? あいつ、だれ!?

 

☆ ステータス

 HP:13500 MP:180 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・900 マップ:12 金の針:1000 その他:∞ 所持金:8000万ギル(リボ払い残高無し)
 装備:剣士の装備レベル38(勇者の剣) 弓兵の装備レベル32(勇者の弓)
 憶えたオーバードライブ:シルバーケアル(ケイト) シルバースプラッシュ(テル)
 スプラッシュテール(ブリュンヒルデ) 空蝉(ポチ)

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

 テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  テルの幼なじみ ペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          シリンダーの幼体 82回目に1/6サイズの人形に擬態
   ペギー         荒れ地の万屋 
 ユーリア        ヘルム島の少女
   ナフタリン       ユグドラシルのメッセンジャー族ラタトスクの生き残り

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

鳴かぬなら 信長転生記 130『シフォンケーキの型』

2023-07-08 10:21:58 | ノベル2

ら 信長転生記

130『シフォンケーキの型信長 

 

 

 ただいまぁ……の声に返事はない。

 

 市も茶姫も、まだ学校から帰ってきていないんだ。

 時計を見ると下校時間にはだいぶある。

 よし、二人が帰ってくるまでに焼きプリンを作っておいてやろう!

 兄妹愛とスィーツ愛がないまぜになって、俺をキッチンに急がせる。

 ペコポコボックスから焼く前のプリンを取り出してオーブンにぶち込む。

 じんわりとオーブンの中が幸せ色に染まる。

 要は、ヒーターに電気が通っただけなんだが、この穏やかな朱色は、まさに幸せ色。

 何十分か後に、美味しい焼きプリンが食べられるのかと思うと、唾が湧くどころではない。体中が美味しさを予感してフワフワしてくる。

 俺は、本当の意味で恋などしたことがないんだが、ひょっとしたら、このフワフワ感は恋に似ているのかもしれない。

 この感覚は男には無いものなのかもしれん。

 女に転生して、最初にビックリしたのは内股の感触だった。小袖にしろスカートにしろ、女と言うのは内股が直に擦れ合う。これは、実に妙な感触で、女としての自意識を刺激する。

 何事かを思考するにせよ感じるにせよ、その核になるのは自分の体と、その感触なんだ。

 フフ……こんな無駄な思索をするのも、焼きプリンへの期待が大きいからだろう。

 

 グゥ~~~~~~~

 

 いかん、腹が鳴る。

 そう言えば、桃太郎の世界では、ろくに食っていなかった。

 虫やしないになにか口に入れよう……冷蔵庫を開けるが、あいにく間に合うものが無い。

 仕方がない、コーヒー牛乳でも飲んでおこう。

 パックに残っていたのを一気飲み…………トイレに行きたくなった(^_^;)。

 

 カチャ…………え?

 

 トイレのドアを開けて驚いた。

 トイレの中は、御山の、あの神域なのだ。

「いやあ、ごめんね」

 天照が現れた。

「ちょっと忘れてたことがあって」

「なんだ、こっちも忙しいんだ」

「あ、手間は取らせないから。これなんだけどね」

 なにやら炊飯器の内釜みたいなのを取り出した、それも一合炊きくらいの小さいのを。

「シホンケーキの型なんだけどね」

 シフォンケーキだ、もう指摘しないけど。

「お兄ちゃんが作ってくれたんだけどね……」

「天照にお兄ちゃんがいたのか?」

「居るわよ。わたしはお父さんのイザナギが黄泉の国から帰って来てから生まれたんだけど、お母さんのイザナミが黄泉の国に行く前に、いっぱい子供を作ってる」

「ああ、思い出した。最後に火の神を生んで焼け死んでしまうんだったな」

「お母さんのイザナミはすぐには死なななかった。お父さんが必死で火を消したからね。でも、苦しんで、いろいろ漏れたり吐き出したり。吐いたものから金山彦って金属の神さまがうまれたのよ」

「ああ、知ってるぞ。美濃の国の金山神社だな。岐阜に移った時に美濃全域の神社を調べさせて、そんなのが入ってたぞ」

「うん、出来はいいんだけど、まだ初心いのよ」

「ああ、調理器具は使い込んでなんぼというからな」

「うん、足りないものと余計なものがあって、このままじゃ、おいしいシホンケーキができない」

「それは残念だな」

 言葉に偽りはない。おいしいスィーツを作るのは天下を取るくらいに大事なことだ。

「これを連れて行ってもらいたいの」

「三国志にか?」

「うん、時どき開いてくれたら、型が自分で呼吸する」

「しかし、三国志はドロドロでろくなもんじゃないぞ」

「それがいいのよ。人間と同じ、清濁併せ呑み、取捨選択してこそ器は大きくなる」

「……で、あるか」

「あ、それから、こんどのお供はね」

「あっちゃんと思金でいいぞ」

「思金は歳だからね、今度は、これだ」

「指輪か……なにが籠められている?」

「一言主(ひとことぬし)」

「あの、なんでも一言で済ますという、鋭いのか横着なのか分からん神か?」

「信長にかかると神も仏も形なしだなあ(^_^;)」

「まあ、ペチャクチャ喋るよりはいい」

「一言主はコスプレの神でもあるんだぞ」

「コ、コスプレに神がいるのか!?」

「ああ、八百万の神だからね。念ずればたいていのコスプレをさせてくれる。コスに見合ったアビリティーもインストールしてくれるし、重宝するぞ」

「そうか」

「それと……」

「すまん、トイレに行きたいんだけどな」

「女の子が『トイレに行きたい』などと言ってはいけません」

「あ、その、お花摘みな……めんどくさい」

「ん? なんか言ったぁ?」

「あ、いや、そういうことだから、なにかあったら夢にでも出てくれ」

「ええ、信長の夢、覗いちゃっていいのぉ(¬o¬)?」

「うっさい!」

「めんごめんご、じゃあ、よろ~(⌒▽⌒)」

 

 軽いノリで消えていくと、神域は我が家のトイレに変わり、やっと無事に用を足せた。

 焼きプリンも無事に出来上がり、帰宅した市と茶姫と三人で美味しくいただいたぞ。

 

☆彡 主な登場人物

  • 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生  ニイ(三国志での偽名)
  • 熱田 敦子(熱田大神) あっちゃん 信長担当の尾張の神さま
  • 織田 市        信長の妹  シイ(三国志での偽名)
  • 平手 美姫       信長のクラス担任
  • 武田 信玄       同級生
  • 上杉 謙信       同級生
  • 古田 織部       茶華道部の眼鏡っ子  越後屋(三国志での偽名)
  • 宮本 武蔵       孤高の剣聖
  • 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
  • 雑賀 孫一       クラスメート
  • 松平 元康       クラスメート 後の徳川家康
  • リュドミラ       旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ  劉度(三国志での偽名)
  • 今川 義元       学院生徒会長
  • 坂本 乙女       学園生徒会長
  • 曹茶姫         魏の女将軍 部下(備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
  • 諸葛茶孔明       漢の軍師兼丞相
  • 大橋紅茶妃       呉の孫策妃 コウちゃん
  • 孫権          呉王孫策の弟 大橋の義弟
  • 天照大神        御山の御祭神  弟に素戔嗚  部下に思金神(オモイカネノカミ)

   

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

RE・かの世界この世界:151『大神官の住まい』

2023-07-08 06:08:39 | 時かける少女

RE・

151『大神官の住まい』テル 

 

 

 広場に面した三階建てのアパルトメントだった。

 
「半神がやってくるまでは役目がら神殿に住んでいたのですが、いまは単身者用の2DKです。狭いところですが気楽になさってください」

 気楽と言われても、そもそも椅子が二脚しかなく、姫にお座りいただくと、我々は立っているしかない。

「大神官様、椅子をお持ちしました!」

 元気な声が廊下や階段からしてきたと思うと、少女たちがズカズカと入ってきて、要領よく全員分の椅子を並べてくれた。

「ありがとう。みなさんに神のご加護があらんことを」

 マシガナ大神官が礼を言うと、少女たちは見かけの可憐さには似合わない豪快さで笑った。

「ガハハハ、神のご加護は半神どもが居なくなってからいただきますよ」

「あんたたち、大神殿ごとノヤをやっつけてくれた人たちだろ?」

「その皆さんが集まって、ヨトゥンヘイムにはびこった半神どもをやっつける作戦会議をぶつんだから、期待してるよ!」

「じゃね、なにか必要なことがあったら言ってくださいな」

「じゃ、わたしらは、瓦礫の片づけに行ってますから」

 ガハハハハハ

 豪快に笑いながら少女たちは広場に向かった。

「ギャップに驚いたでしょうが、あの子たちは定年で引退した神殿護衛隊の女戦士たちなんです」

「あんなに若いのに引退?」

 姫の驚きにマシガナ大神官は微笑みを返すのみだ。

「あの子たちは、大神官様同様に若返ったんですね」

「はい、もう腰の曲がった者もおりましたから、あの変化を喜んでおるようです」

 わたしには分かった。喜んで見せることでヨトゥンヘイムの人々が落ち込まないようにしているのだ。あれ以上若返ったら幼女戦士になってしまって瓦礫どころか小石一つ持てなくなってしまうだろう。

「ひとつ聞いていいですか?」

 ロキの肩に止まっていたポチが手を挙げた。

「なにかな、可愛い妖精さん」

「もともと若かった人たちはどうしたんですか? 街の空を飛んでも見かけないんですけど?」

「居なくなってしまいました……若い者が、その年齢以上に若返ってしまったら……」

「存在そのものが無くなってしまう……ということですか?」

「ヨトゥンヘイムの人口は半分に減ってしまいました。減った分だけ半神たちが入り込み、いずれは半神族が取って代わるでしょう。ぶしつけなお願いですが、半神族を駆逐してはいただけますまいか」

「お気持ちは分かりますが、少し考えさせていただけませんか」

 
 思ったのだ。

 巨人族が衰退したのは巨人族が無謀な進撃をしたからだ。いわば自業自得。

 我々が成し遂げたいのはユグドラシルの復活なのだ。特定の種族の肩入れをすることではない。

 かと言って、人も街も際限なく若返って、いずれは消えてしまうというのも見過ごしにはできない。単に人道上の問題であるだけでなく、ヨトゥンヘイムが滅びるということは、ユグドラシルの大きな部分が死ぬことで、いずれは世界樹ユグドラシルを枯死させてしまうことにならないだろうか。

 その迷いが分かったのか、ヒルデが大人びた口調で告げた。

「どこか野営に適したところはないでしょうか、広場では落ち着かないので、我々だけで考えてみたいと思うのですが」

「いやはや、ごもっともです。わたしも、つい余計なことを喋ってしまいました。町はずれにカテンの森があります。野営にも適しております。人を呼んで案内させましょう」

 大神官は、広場の瓦礫撤去をしている少女戦士に向かって手を振った。

 

☆ ステータス

 HP:13500 MP:180 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・900 マップ:12 金の針:1000 その他:∞ 所持金:8000万ギル(リボ払い残高無し)
 装備:剣士の装備レベル38(勇者の剣) 弓兵の装備レベル32(勇者の弓)
 憶えたオーバードライブ:シルバーケアル(ケイト) シルバースプラッシュ(テル)
 スプラッシュテール(ブリュンヒルデ) 空蝉(ポチ)

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

 テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  テルの幼なじみ ペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          シリンダーの幼体 82回目に1/6サイズの人形に擬態
   ペギー         荒れ地の万屋 
 ユーリア        ヘルム島の少女
   ナフタリン       ユグドラシルのメッセンジャー族ラタトスクの生き残り

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

せやさかい・420『ヤマセンブルグの七夕祭』

2023-07-07 17:49:54 | ノベル

・420

『ヤマセンブルグの七夕祭』詩(ことは)   

 

 

 なんだかクリスマスツリーの感覚(^_^;)

 

 宮殿の前に建てられた笹……という触れ込みの孟宗竹は12メートルを超える高さで、ちょっと怯んでしまう。

「一万人分も短冊が集まったんじゃしかたないわねぇ……」

 わたしの車いすを押しながら、呆れたように、それでも楽しそうに頼子さんが動画を撮る。

「ごめんなさい、こんな時にバッテリー切れちゃって」

「いいのよ、この方がゆっくりできるし」

「ふふ、まあ、そうね」

 

 女王陛下の発案で、七夕の短冊を募集した。

 

 陛下が思いつかれたのは、ほんの一週間前。

 もともとは、七夕に備えて、わたしの部屋で笹を立ててささやかにやるつもりだった。

「いいわねえ! どうせなら、みんなに呼びかけて元気にやりましょう!」

 そうおっしゃって、陛下は王室のホームページで『7月7日に七夕をやります』と提案された。

 日本の七夕の紹介と、デジタル短冊を載せられ、希望者は6日までにネットで応募してくださいと書かれた。

 その結果、七万以上のデジタル短冊が集まって、それをプリントアウトして付けるのは笹では不十分で、急きょ日本の京都から孟宗竹が軍の輸送機で送られてきた。

 朝から宮殿の人たちが総出で取り付け、大型のドローンを使って、ついさっき立ち上げたところ。

 

『世界が平和になりますように』『女王陛下が長生きされますように』『戦争のない世の中にしてください』というのが多く、『背が高くなりますよう』『彼女と結ばれますように』『給料が上がりますように』とかの個人的なお願いまで、穏やかなものが多かった。

 中には特定の国や人物を中傷するようなものもあったけど、それは、あらかじめ注意してあったのでそんなには無かった。

 陛下の説明には――日本の伝統行事の一つで宗教的なものではありません――とあったので、抑制がきいたんだと思う。

「アニメの影響もあるんです」

 ソフィーが指を立てる。

「「アニメ?」」

「ええ、日常系アニメを中心にして、七夕をモチーフにしたのがけっこうあるんです。ほら……」

 タブレットを覗いてみると、この笹飾りのコメントにアニメの資料が、いっぱい添付されていた。

「そうだ、サザエさんとか、毎年出てたし……へえ、ロボットアニメにも出てるんだ、あ、このアニメにも……」

「ゴルゴ13にも七夕出てるかなあ?」

「え、あ、さっそく調べて観ます!」

 頼子さんの質問にソフィーは、すぐにググる。

「ムムム……ちょっと、作品にあたってみます!」

「あ、ちょ……行っちゃった」

「ソフィーはゴルゴ13には目が無いからね」

「ねえ、リッチ」

「なに、コットン?」

「今夜、浴衣着て花火しない?」

「あ、いいわねえ!」

 

 提案したんだけど、考えたら肝心の花火が無い(^_^;)

 

 ドッカーーーン! ドッカーーーン!

 

 で、ジョン・スミスが調達してきたヤマセンブルグの花火を上げたんだけど。

「いやあ、これしかなかったから」

 打ち上げに使ったのは、陸軍の迫撃砲(;'∀')。

 いやはや。

 

 でも、頼子さん、ソフィーと三人、浴衣を着てスイカを食べながら花火を見られて、よきかなよきかな(⌒∇⌒)。

 

『ねえ、織姫と彦星って、どうして年に一度しか会えないのよ?』

『こんな悲劇がお目出度いわけ?』

『『ありえなーーい!!』』

『あたしなら死ぬ!』

『あたしなら殺す!』

 

 部屋に戻ったら、バンとナンシーがプリントアウトしてあげた『織姫と彦星』を読んでご立腹。

 いや、二人とも愛情にかかわる妖精だから手厳しい。

 

 寝る前にメールをチェック。

 さくらから、一つ入っていた。

 

―― ビッグニュース! 留美ちゃんがモデルデビューした! ――

 

 添付資料を開けると、大阪府警の『自転車ヘルメット』のポスターに三種類の留美ちゃんの写真が載っていた! 

 

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら      この物語の主人公  聖真理愛女学院高校二年生
  • 酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念       さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)   さくらの従姉 聖真理愛学院大学三年生 ヤマセンブルグに留学中 妖精のバンシー、リャナンシーが友だち 愛称コットン
  • 酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美       さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子       さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 愛称リッチ
  • ソフィー        ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー         ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか       中二~高一までさくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり)  さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央)  高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下        頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
  • 江戸川アニメの関係者  宗武真(監督) 江原(作監) 武者走(脚本) 宮田(制作進行) 
  • 声優の人たち      花園あやめ 吉永百合子 小早川凜太郎  
  • さくらの周辺の人たち  ハンゼイのマスター(昴・あきら) 瑞穂(マスターの奥さん) 小鳥遊先生(2年3組の担任) 田中米子(米屋のお婆ちゃん)
  •   

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

RE・かの世界この世界:150『進撃NO!巨人!!』

2023-07-07 07:11:52 | 時かける少女

RE・

150『進撃NO!巨人!!』テル 

 

 

 

 大神官……?

 
 四号のみんなが驚いた。

 どう見ても十二三歳の少年だ。ヴァルハラの神官でも最年少は三十歳のベルクだ。大神官ともなれば六十歳以下では考えられない。

「よく分かったな、ナフタリン」

「ラタトスクはオーラで区別しているんだ。妖精や聖霊は姿が変わるやつも多くて、見かけで判断していてはメッセンジャーは務まらねえしな」

「そうか、オーラでな……オーラであっても神官の属性が残っているのなら嬉しいことだよ」

「いったい、なにが起こったんだよ?」

「ヨトゥンヘイムは国ぐるみ縮んでしまったんだよ」

「縮んだ?」

「巨人の国であるヨトゥンヘイムは図体が大きいので莫大なエネルギーを必要とする。エネルギーの源泉は、我々巨人族に向けられる畏敬の念だ。それが失われてきて、何とかしなければと考えあぐねているうちにこうなってしまった」

「畏敬の念が失われた?」

「十年くらい前から『進撃する巨人』が流行して、ユグドラシル中で大人気になった。ズシンズシンと地響き建てて進撃する姿、踏み出す足の確かさ、振動、風圧、そこに人々は神を見た。我々は神ではないと互いに戒めてはいたが、いつしか、そう見られることに喜びを感じて進撃することを止められなくなってしまった。しかし、あの図体で歩けば意図せずにモノを壊してしまう。通過する街や村の家々にはヒビが入ったり傾いたり、時には倒壊させてしまうこともある。道路には巨大な足跡が穿たれ亀裂が走る。畏敬は畏怖へと変わり、ついには、ただの怖れになってしまった。我々は、それに気づくのが遅すぎたのだ……気づいた時にはヨトゥンヘイムは遠く彼方、地平線の向こう。帰ることも覚束なくなり、振り返ると、人々は高い塀を巡らし『進撃NO!巨人!』と叫んで拳を振り上げた。畏敬の念どころか怖れと憎しみを向けられ、仲間の多くは巨体を維持することが出来なくなって縮こまって、ついには命を落としていった。そうすると、巨人族揺籃の地、ヨトゥンヘイムそのものも縮み始め、このような有様になった……かいつまんで言うとそういうことだ」

 話し終えると、大神官マシガナは遠くの空に魂を浮かべているような目になった。

 遠く、地の果てで儚くなった同族に想いをいたしているようにも、話の中には籠められなかった熱を放散しているようにも見えた。じっさい、内容は凄惨なのだけど、どこかドラマの解説をしているように冷静にお話をされた。

「ひとつお伺いしてもよいだろうか、大神官殿」

「なんなりと」

「縮んでいった経緯は理解できましたが、若返ってしまうというのはどういうことなのでしょうか?」

 ヒルデの質問はもっともだ、若返ると言うのは、それほど悪いことではないと思う。

「これを見ていただこう」

 大神官が指を動かすと、目の高さに映像が浮かび上がった。

「保育所?」「病院?」

 ベビーベッドが並んでいて、ようやくつかまり立ちできるようになった赤ちゃんから、まだ寝返りもうてないような、でも、いずれも元気そうな赤ちゃんたちが、半分は起きて、半分は可愛い姿で眠っている。

「ようやく進撃することは思いとどまらせたのだが……思いとどまった者たちも、若返りが進行して、もう人に世話をしてもらわないと日常の生活ができないほどに若返っている」

 次に映し出されたのは、病院の新生児室のようなガラス張りの部屋だ。奥には保育器の中で眠っている赤ちゃんも居る。

「なるべく、人と接することができるようにしておるのだが、これ以上に若返ると……」

 次に見えたのは、標本のように液体に漬けられた、へその緒が付いた胎児たちだ。

「戻すべき母体がないので、人工羊水の中に入れている。この先は、ご容赦いただきたい……」

 さすがに言葉も無くなってしまった。

「質問。マシガナさま、神殿の下敷きになっているのは?」

 ロキが手を上げた。

「それは半神の神官だよ」

「「「半神?」」」

「神と人の属性を持った種族で、我々巨人族の天敵だ。我々の衰退に乗じて、このヨトゥンヘイムに現れ、ついには大神官たるわたしを追い出した。半神三傑の一人ノヤ。君たちが、こいつを押しつぶしたのは啓示なのかもしれない……あなたは姫と呼ばれて……主神オーディンの姫君ブリュンヒルデ殿下ですな」

「いかにも、大神官どの」

「やはり……これも何かの縁……というには唐突に過ぎるでしょうが、とりあえず我が家にお運びください」

「しかし、この始末はどうしたらいいのでしょうか。仮にもヨトゥンヘイムの神殿を壊してしまったのですから」

 タングリスが言うと、乗員みんなの目がマシガナに注がれた。

「おまかせを」

 そう言うとマシガナは瓦礫の上に上がって、周囲に呼びかけた。見かけは人の少年に縮んでしまったが、その声は巨人に相応しい大音声だった。

「ヨトゥンヘイムの人々! 神殿を占拠していたノヤが打ち取られた! 打ち取ったのは、主神オーディンの姫君、ブリュンヒルデ殿下であるぞ!」

 ホォーーーーーーーーー

 家々から安堵のため息が立ち上った。

 

☆ ステータス

 HP:13500 MP:180 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・900 マップ:12 金の針:1000 その他:∞ 所持金:8000万ギル(リボ払い残高無し)
 装備:剣士の装備レベル38(勇者の剣) 弓兵の装備レベル32(勇者の弓)
 憶えたオーバードライブ:シルバーケアル(ケイト) シルバースプラッシュ(テル)
 スプラッシュテール(ブリュンヒルデ) 空蝉(ポチ)

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

 テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  テルの幼なじみ ペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          シリンダーの幼体 82回目に1/6サイズの人形に擬態
   ペギー         荒れ地の万屋 
 ユーリア        ヘルム島の少女
   ナフタリン       ユグドラシルのメッセンジャー族ラタトスクの生き残り

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

RE・かの世界この世界:149『ここはどこだ・2』

2023-07-06 05:44:18 | 時かける少女

RE・

149『ここはどこだ・2』タングリス 

 

 

 路上に降りて驚いた!

 四号は石造りの小屋を押しつぶしていた!

 

「しまった! 不可抗力とは言え、まずいことになったな……」

「……ヨトゥンヘイムの神殿……かぁ?」

 ナフタリンもたよりない。

「神殿なのか?」

「ヨトゥンヘイムの真ん中は広場で、真ん中に神殿があるんだ。ヨトゥンの巨人たちがリカちゃん人形に見えてしまうほど巨大な神殿なんだぞ、下敷きのペシャンコになっているのは番小屋ほどの大きさしかねえし……」

「ヨトゥンの街に似せたミニチュアのテーマパークとかではないのか? ヴァルハラには縮尺1/24のワールドパークあるぞ」

「んなの聞いたこともねえ。他のと同じように縮んでも、並のカテドラルくれえはあるぞ」

 不思議がっていると、四号の向こう側がざわついた。他の乗員も目覚めたようだ。

 

 キャーーーー!!

 

「どうした!?」

 急いで反対側に周る。真っ先に飛び出したのだろう、ユーリアが腰を抜かしている。

「ひ、人が押しつぶされてる!」

 あ!?

 瓦礫の下から人の脚がはみ出して、おびただしい血が流れている。他の者には見せてはいけない!

 が……手遅れだった(-_-;)。

 カチャ カチャ カチャ

 あちこちのハッチが開く音がして、他の乗員たちも顔を覗かせた。

「……華奢な脚だけど、これは男だな」

 姫が冷静な判断を下す。

「ローブのようなものを着ている、身分のある者のようだ」

「なにか掛けてあげたほうが良くない?」

「なにか、探そう」

 テルの呼びかけで、みんなが周囲を見回した。

「ア! 誰かいる!」

 ロキが指差す家の陰に何者かが身を隠した。

「待てっ!」

 姫がジャンプして、あっという間に捕まえてしまった。

 

 それは、粗末な法服を着た少年だった。

 

「なぜ逃げるのだ!?」

「姫、わたしが聞きます」

「……頼む、このままだと絞め殺しそうだ」

「ムヘンブルグの戦車隊のものだ。わたしは副官のタングリス。指揮官はおまえを掴まえた人だ。ここに着いたばかりで当惑している。ここはヨトゥンヘイムではないのか?」

「……ヨトゥンヘイムだったところだ」

「だったところ?」

 少年は、我々の顔を順繰りに眺めまわすと、深いため息をついて俯いてしまった。

「え……ええ!? ま、まさか、マシガナさま? マシガナさまなのか( ゜Д゜)!?」

 ナフタリンが腰を抜かした。

 我々も驚いた。

 誰に対してもため口ばかりのナフタリンが『さま』を付けて畏敬のこもった口調で呼びかけたのだ。

 

☆ ステータス

 HP:13500 MP:180 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・900 マップ:12 金の針:1000 その他:∞ 所持金:8000万ギル(リボ払い残高無し)
 装備:剣士の装備レベル38(勇者の剣) 弓兵の装備レベル32(勇者の弓)
 憶えたオーバードライブ:シルバーケアル(ケイト) シルバースプラッシュ(テル)
 スプラッシュテール(ブリュンヒルデ) 空蝉(ポチ)

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

 テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  テルの幼なじみ ペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          シリンダーの幼体 82回目に1/6サイズの人形に擬態
   ペギー         荒れ地の万屋 
 ユーリア        ヘルム島の少女
   ナフタリン       ユグドラシルのメッセンジャー族ラタトスクの生き残り

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・037『再びの希望が丘』

2023-07-05 11:30:45 | 小説

(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記

037『再びの希望が丘』   

 

 

 自習が二つも出て、委員長の高峰君と副委員長のたみ子が走り回って午後の授業を無しにした。

 

 ロコも今さらのクラブ見学なので、一人で帰る。

「あ、そうだ」

 戻り橋を渡っている最中に思い立つ。

 令和の希望ヶ丘に行ってみよう!

 玄関上がるのももどかしく、框にカバンを置くと制服のまま自転車に跨って希望が丘を目指す。

「ちょ、めぐり?」

 お祖母ちゃんの声がしたけど、お構いなし。

 

 三十分はかかるかと思ったけど、十七分で着いてしまう。

 

 こんなに近かったんだ。

 我が家のある寿町とは丘一つ隔てていて、せいぜい自転車しか乗らない子どもには生活圏外。

 丘のこっち側に公民館がある感じ。

 とりあえず、目の前の希望が丘ニュータウンにハンドルを向ける。

 

 あれ?

 

 めちゃくちゃ静か。

 こないだ公民館の屋上から見た賑わいがどこにもない。

 子どもたちのさんざめき、干したお布団をパンパン叩く音、チリ紙交換、宣伝飛行機の爆音とアナウンス、配達の車やバイクの音、犬がワンワン、ネコがニャンニャン……そういった音や気配がまるでない。

 といって、閉鎖されているわけじゃない。

 空室らしいのもポツポツ見えるけど、ベランダに洗濯物を干してある家もある。植え込みや花壇も手入れされている。

 街路樹や植え込みの木は二回りも大きくなってるけど、枝打ちもしてあるし、掃除もされている。

 でも、店舗棟のお店は、どこもシャッターが下りて、開いているのは米屋さんが一軒だけ。

 バス停は現役のようだけど、近寄って見ると、時刻表のパネルは中に雨が染み込んだのか黒やらピンク色のシミが浮き出して見づらい。じっくり見ると、どこの過疎地かっていうくらいに便数が少ない。

 

 チャリリリィ………………

 

 ペダルを空回りさせながら、ゆっくりと団地と団地の間を抜ける。

 

 あ…………

 

 抜けたところに学校の抜け殻があった。

 希望が丘第二小学校

 校舎は、まだしっかりしてるけど、グランドの半分は草で覆われている。イメージはさっきのカビの生えた時刻表。

 回り込むと、校舎の反対側に不自然な空き地。

 あ、そうか。

 空き地の正面に向かうとフェンスが途切れたところに門扉があって、門柱に『希望が丘高台幼稚園』の名板がかかっていた。

 幼稚園が先に閉鎖されたんだ。

 

 もうちょっと行ってみよう、この先も団地は続いている。

 チャリリリィ………………

 

 わぁ…………

 

 さっきと同じかと思ったら、そこから先は団地の建物ぐるみフェンスで囲まれている。

 間の道は通れるみたいなんだけど、草も生えてるし、人気も無いし、ちょっとおっかない。

 

 チャリリリィ………………

 

 ハンドルの向きを変えて公民館への坂。自転車を押して上ってみる。

 もう一度屋上に上がって、三日前に見た景色と比べてみたかった。

 

 ああ、ここも……

 

 石碑みたいな看板はそのままだったけど、建物は閉鎖されていた。

 なんか、VRの映像を見ているようで現実感が無い。

 駐車場に周る、直美さんのホンダN360を停めたところに立てばスイッチが入るような気がした。

 意外にも車が停まっていた。

 車種は分からないけど軽自動車。ピカピカだから今の車だと思う。

 確かめてみようかと思ったけど、駐車場の隅だし、そこまではしない。

 振り仰いで結婚式場があったあたりに見当をつける……分からない。

 

 視線を感じて振り向くと、四足歩行のおばあさん。

 

 いっしゅん妖怪かと思ったら、両手にストックのお婆さん。

 ペコリとお辞儀をすると笑顔が返ってきた。

「宮之森の生徒さん?」

「あ、はい」

 普通なら五時間目の時間なので、つい付け足してしまう。

「昼から自習だったので(^_^;)」

「授業入れ替えたのね」

「は、はい」

「昔は、よくやったわ。あ、わたしも宮之森の出身なのよ」

「え、先輩ですか!?」

「もう何十年も前だけどね……あなたのそれ、昔の制服よね?」

 あ……しまった。令和の宮之森は今年から制服が変わったんだ(;゚Д゚)。

「あ……新しいのは新一年からで、ニ三年は昔のままで……」

「……そうよね、人には事情があるわよね」

「あ、えと……」

「ちょっと、そこに掛けない?」

「あ、すみません!」

 ストックを突いてらっしゃるんだ、足がお悪いのに、気の利かない子だ、わたしは。

 植え込みの石垣に腰を下ろす。

「わたしね、ここで結婚式を挙げたの」

「え、そうなんですか!?」

「大台を過ぎたころから足が弱くなって、少しでも元気なうちに見ておこうと思って」

「歩いてこられたんですか!?」

「ホホ、まさか、ここまでは、あの車」

「あ、ああ、そうですよね!」

「そろそろ免許も返納しようかと思うんだけど、ブレーキとアクセル間違えるまえに」

「アハハハ……」

 返事に困って、必殺の愛想笑い。

「あなた、自転車なんでしょ、そこに置いてあった?」

「あ、はい」

「わたし、この公民館が出来た時に自転車で見に来て、結婚式場があるのに嬉しくなって。料金も安いし、将来式を挙げるるんならここだって。なんか、あの時のわたしが居るみたい。ちょうど、今のあなたみたいに、昼からの授業が無くなった午後にね見に来たの」

「え、そうなんだ!」

「だから、一瞬、昔のわたしがいるみたいで、ビックリしちゃった」

「アハハ、すみません驚かせて」

「旦那といっしょに見に来ようって言ってたんだけど、去年、先に逝っちゃって。人間、やっぱり思いついたが吉日よね」

 そうなんだ……ここに来るっていうことは同じだけど、背負ってるものは違うんだよね。

「シゲさん、ここですよ、わたしたちの人生が始まったのは……」

 そう言って、リュックから写真を取り出すお婆さん。

「腕のいい写真屋さんに撮っていただいて、わたしとシゲさんのいちばんの宝物なの」

 

 あ!?

 

 それは、三日前に直美さんが撮った写真だった。

 

 家に帰って、着替えようとして気が付いた。

 制服の胸に付いていた学年章は一年のエンジ色。

 お婆さんは、きっと留年した子だと思ったよ。

 

 

彡 主な登場人物

  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校一年生
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         1年5組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            1年5組 副委員長
  • 高峰 秀夫             1年5組 委員長
  • 吉本 佳奈子            1年5組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            1年5組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 藤田 勲              1年5組の担任
  • 先生たち              花園先生:4組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。

 

 

 

 

 

 

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

RE・かの世界この世界:148『ここはどこだ・1』

2023-07-05 06:55:51 | 時かける少女

RE・

148『ここはどこだ・1』タングリス 

 

 

 ほんの0.1秒見えた気がする。

 
 視界の端から端までグレートウォールのように広がるゴツゴツの樹皮、一枚一枚が神殿の絨毯ほどに大きな葉っぱ、それが幾重にも重なって陽の光をさえぎる圧迫感…………これが世界樹ユグドラシルか?

 思った瞬間に衝撃がきたんだ。

 

 数瞬か数時間かたって意識が戻る。

 

 おぼろに視界が戻ってくると、四号の車内は傾いでいる……いや、どこか傾いたところに着地したので、意識が四号の傾ぎと認識しているのだ。俊敏な意識と感覚の回復はトール元帥親衛隊の訓練の賜物か、姫をヴァルハラまでお連れしなければならない役目の自覚からなのか。いずれにしろ、他の乗員よりも早く意識が戻ったのは幸いだ。

 目視できる範囲で乗員を見渡す。

 ショックで気絶はしているが、重篤な怪我などはしていないようだ。とりあえず、すぐ横のユーリアを起こそうと手を掛けて、ハッとした。

 キューポラのハッチが開いているのだ。

 混乱した。

 車内には本来の乗員五人とヘルムからの仲間であるユーリア……全員そろっている。

 だのにハッチが開きっぱなし……締め忘れはあり得ない。軍に籍を置いてから配置の変わらぬ戦車兵だ。戦車の扱いは自分の体と変わらない。ハッチを閉め忘れるなど呼吸を忘れることに等しい。

 ならば、外敵によってこじ開けられたか!?

 

 思った瞬間、腰のワルサーを引き抜いた。

 

 すぐにハッチから首を出すようなヘマはしない。一秒とかからずにキューポラ全周のペリスコープを確認する。

 一番(正面)のペリスコープが真っ暗だ。なにかが視界を塞いでいる。

 車載機銃のカートリッジを掴んでハッチの外に放り出す。敵の注意がカートリッジに向いた瞬間、0.3秒でキューポラの外に飛び出しゲペックカステンの後ろに隠れるとともに両手でワルサーを構える。

 敵は砲塔の上に居るはずなのに動きが無い。

 音を立てずに砲塔の側面にまわって、下方から、そいつに銃を構える!

 

「なにやってんの~?」

 

 間延びした声に記憶が戻って来る。

 砲塔の上でぼんやり体育座りしているのは小柄な少女……こいつは、ラタトスクのナフタリン。

「な、なんだナフタリンか」

「アハハハハハ……」

「なにが可笑しい?」

「だって、タングリス、あたしが乗ってたの忘れてただろ」

「そんなことはない(^_^;)」

「でもよ、そんなに怖い顔して銃を構えてるんだもん。ついさっき、やってきたばかりのあたしを忘れたんだ。だろ?」

「そういうナフタリンは何をしているんだ?」

「どうやら、ヨトゥンヘイムに着いたような気がするんだけど、どうもおかしいんだ」

「ヨトゥンヘイムだと?」

 ヨトゥンヘイムと言えば巨人の国だ。ところが、目に映る家々は我々人間にとっての原寸大で、とても巨人族が使うようなものには見えないのだ。

「メッセンジャーで何度も来てるんだけど、街も家も見覚えたヨトゥンヘイムなんだけどな、なんだか小さすぎるんだ」

「これは、普通の人間の町だ。ミッドガルドではないのか?」

「ミッドガルドはありえない。だって、雲は流れてるし、鳥だって空を飛んでる」

 
 あ……時間が停まっていない!?

 
 人間界はヘルムの女神が力を失ったことで時間が停まっているはずだ……。

 

☆ ステータス

 HP:13500 MP:180 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・900 マップ:12 金の針:1000 その他:∞ 所持金:8000万ギル(リボ払い残高無し)
 装備:剣士の装備レベル38(勇者の剣) 弓兵の装備レベル32(勇者の弓)
 憶えたオーバードライブ:シルバーケアル(ケイト) シルバースプラッシュ(テル)
 スプラッシュテール(ブリュンヒルデ) 空蝉(ポチ)

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

 テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  テルの幼なじみ ペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          シリンダーの幼体 82回目に1/6サイズの人形に擬態
   ペギー         荒れ地の万屋 
 ユーリア        ヘルム島の少女
   ナフタリン       ユグドラシルのメッセンジャー族ラタトスクの生き残り

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

銀河太平記・168『ピタゴラスゴールデン街・2』

2023-07-04 14:35:16 | 小説4

・168

『ピタゴラスゴールデン街・2』緒方未来 

 

 

 扶桑の月面領土(正確には管理地)を3PAと書く。

 

 三つのPカルデラ(パスカル・プラトン・ピタゴラス)で3P。それにアルキメデスのAを合わせて3PA。

 英語読みしてスリーパ。

 月面開発勢力として後発組の扶桑は、他の勢力からは警戒されて先代将軍さまのころまでは、これをもじってスリーパーと呼ばれていた。

 まあ、眠れる獅子的な感じ。

 それが、御当代の道隆さまが将軍位に就かれてからはスリッパと呼ばれるようになったんだよ。

 

 これにはエピソードがある。

 

 将軍位に就かれた道隆さまは、最初に征夷大将軍の大礼服でお写真をお撮りになったんだけど、誤ってスリッパのまま撮影されてしまった。黒皮のスリッパだったので、前の方から写したお写真では、ほとんど靴と区別がつかない。

 そのお写真が、全火星、全地球に配信されてから奥女中御年寄(御年寄と言ってもお婆さんじゃない、役職がそういう名前)が気づいて、ちょっと問題になった。

 一時は「撮り直し!」とか「担当女中を処分しろ!」とかの声が内外で起こった。

「いいよいいよ。僕の不注意だし、あのスリッパは気に入ってもいたし。一人ぐらい、こんな将軍がいてもいいでしょ」

 と、笑って済ませられ、その後も、上さまは、この黒スリッパを奥で使われている。

 この話が評判になると、それまでスリーパーと通称されていた扶桑の月面管理地はスリッパと親しみを籠めて呼ばれるようになった。

 

 そして、月面宙返りのポップな曲を聴きながら向かっているのが、ゴールデン街で一番古い居酒屋のスリッパ。

 もともとは、そのまんま3PAだったけど、道隆さまのエピソード以来『スリーピーエー』とは読まれずにスリッパと呼ばれている。

 慣れるまでに五回も迷った路地を拾ってスリッパの見える通りに出てきた。

 ちょっと、店の中で言い争っている。

 

「ちょいと、うちはスリッパに履き替えてもらうのが決まりなんですよ。靴箱はそこですから、どうかお履き替えになって、ご入店くださいまし」

「ふん、なんで扶桑人でもない俺たちが扶桑のしきたりに倣わなきゃなんねえんだ!」

「そうだ、バカ将軍の言い訳が、ちょっとウケたからって、下衆な真似して、みっともねえじゃんよ」

「うちはね、四代さまのころから店出してるんですよ。そのころからご入店の際は下足を履き替えてもらうことにしてるで、よろしく願いますよ」

「俺たちゃ、人手不足のスリッパに来て生産性をあげてやってるんだ、四の五の言うんじゃねえ!」

「それなら、このゴールデン街には、他にもお店はございますから、どうぞ、そちらの方へ」

「んだとぉ、客を締め出そうってか!?」

「入店拒否たあ、いい度胸してんなあ」

「……………(-_-;)」

 

 だめだ、女将さんキレる!

 

「ねえ、ちょっと、あんたたち」

「あん?」

「なんだぁ?」

「女の出る幕じゃねえ!」

「あたし、ここの客で、医者なの。女将さんがお客に履き替えさせるのはバイ菌持ち込ませないためなのよ。月面は無菌だけど、人間が生活してるところには地球並みの雑菌がいっぱいいるんだからね」

 理屈が通る相手じゃないとは分かってるけど、いちおう筋道は通しておく。

「ああん……おまえ、俺たちのことを雑菌だっていうのかあ!」

「はいはい、じゃあ、表に出なさい」

「未来ちゃん、相手にしちゃダメよ!」

「大丈夫よ女将さん、わたしも火星育ち、ちゃんと相手を見て喋ってる。いちおう警務には連絡しといて」

「フン、警務が来る前にはぶっ倒して売り飛ばし……グホ( ゚Д゚)!」

「やると決めてから、能書き垂れてんじゃないわよっ!」

 ドゲシ!

「このあまぁ!」

「しつこい!」

「いっ、イデデデ」

「火星の医者はね、みんな一度はこういうとこで働くから、一応のスキルは持ってんのよ!」

 半分はウソ、もともと並みのちょっと上くらいにケンカはできる。ダッシュほどじゃないけど。

 ドス!

「ゲボ!」

「あんたは、関節外しとこう……ねっ!」

 グギ

「ウオオ!」

「こっちは、もう一発!」

 ドゴ!

「こっちもっ!」

 セイ!

 ……と、次にぶん回したキックは空中で停まってしまう。

 いや、だれかに掴まれてる!

「こういうじゃじゃ馬は、俺の好みだ……」

 しまった、もう一人いたんだ! ゴリラみたいに大きい、それも腕が立つ!

「ほれ」

「ウワアア!!」

 

 天地が180度ひっくり返った……

 

☆彡この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

RE・かの世界この世界:147『ユグドラシルの時霧』

2023-07-04 06:58:15 | 時かける少女

RE・

147『ユグドラシルの時霧』ケイト 

 

 

 ユグドラシルというのがよく分からない。

 
 途方もなく巨大な世界樹で、その葉っぱの茂みや幹や根っこ中に八つの世界があって、その中には我々の住む人間界も含まれているらしい。

 だったら、その八つのうちの一つに過ぎない人間界の海に浮かぶユグドラシルってなんだ? 

 ユグドラシルの中にユグドラシルがあるってことにならないか? そのユグドラシルの人間界の海にはまたユグドラシルがあって、その中にまた人間界があって、そのまた中に……はあぁ、もう分からん(╥﹏╥)。

 
 ため息をつくとベンチで横になったナフタリンと目が合った。

 
「海に浮かんでいるユグドラシルはデバイスさ」

「デバイス?」

「ごめん、分からない言葉を使っちゃった」

 いや、一瞬パソコンとかスマホとかが頭に浮かんだけど、それが何なのかは分からない。

「たとえばな……これ」

 乗客の忘れ物だろうか、週刊ヘルムという雑誌を手に持った。表紙には『日帰りで行けるヘルムの名所100選』の見出しがある。

「ここにヘルムの海や山のグラビアが載っている。これを見ると、人はヘルムの海や山を思うだろ。潮騒や山を吹き渡る風を感じるやつもいるかもしれない。でも、このページにあるものは紙とインクだけなんだ。人は雑誌というデバイスを通してヘルムの世界を感じたわけだ」

「ああ、そうだよな」

「つまり、海に浮かんだユグドラシルを通して、本物のユグドラシルに入るわけさ」

「うーーーーーん」

「分からんちんだな、てめえは( ̄д ̄)」

「う、うっせえ(≧皿≦)」

「これなら、どうだ?」

 ナフタリンはページの端に100×35と書いた。

「3500」

「正解。つまり、そういうことさ。ページに書いた数字と記号で3500という世界に、ケイトは入ったんだ」

「あ、ああ……」

 分かったようで分からない。

 

「見えてきたーー!」

 

 マストの上の方からポチの声がした。ポチは見張りの役をかってくれていたのだ。

 水平線の向こうだからデッキにいる我々にはなかなか見えない。ロキがスルスルとマストに上ってみるがまだ見えない。ポチはマストのさらに十メートルほど上でホバリングしているんだ。

「見えた!」

 ロキが叫んだのは、さらに五分後で、もう十分もすればデッキのわたし達にも見えるだろう……と思っていたら、急に霧が湧いてきて視界を遮った。

「時間が停まっているのに……」

「なんで霧……」

 時間が停まった海はマーメイド号の周囲だけが液体で、その向こうは3Dの写真のように波さえフリーズしいる。

「よかったぁ……」

 ナフタリンが腰砕けになった。

「霧がいいことなのか?」

「ユグドラシルの時霧(ときぎり)。ユグドラシルが、まだ生きている証拠だぜぇ」

「それで、ユグドラシルのどこの世界に向かっていくんだ?」

 タングリスが目を凝らしながら聞いた。

「近づいてみないと分からない、取りあえず引き寄せられたところから入ってみるしかねえ」

「そうか……」

「それじゃ、車体と装具の点検をして乗り込んでおかないか? 着いた時にバラバラになったら困るぞ」

「姫のおっしゃる通りだ、今のうちにやってしまおう」

 姫が提案しタングリスが指示して作業に入った。

 

 慣れたもので、二分ほどで点検を済ませて全員四号に乗り込んだ。定員五人のところに七人が乗っているのでギュウギュウだ。

「ナフタリンはテルの背中に掴まって」

「うん」

 ナフタリンが車長のハッチから入って器用に砲手席に周ったところで衝撃が来た。

 
 ドーーーーーーーン

 
「ユグドラシルの重力場に捕まった!」

「みんな、しっかり掴まれ!」

 
 ゴーーっと風吹きすさぶ音がして船も戦車もギシギシ揺れる。

 
 貼視孔(てんしこう=砲塔のスリット)から覗くと、四号を縛着していたフックやらワイヤーやらが外れてしまって景色がグルンと回った!

 マーメイド号のデッキが遠のいて、すぐに船の全景が見えたかと思うと、グルグル回って、さらに遠のき時霧に包まれて見えなくなった。

 

 ウワアアアアアアアアアアアアア!

 ギョエエエエエエエエエエエエエ!

 オワアアアアアアアアアアアアア!

 ウヒョオオオオオオオオオオオオ!

 グガガガガガガガガガガガガガガ!

 オオオオオオオオオオオオオオオ!

 アアアアアアアアアアアアアアア!

 
 七つの悲鳴が尾を引いて、四号はいずことも知れず吹き飛ばされていく……。

 

 グワァッシャーーン!!

 

 世界が壊れたような衝撃がやってきて、気が遠くなっていった……。

 

☆ ステータス

 HP:13500 MP:180 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・900 マップ:12 金の針:1000 その他:∞ 所持金:8000万ギル(リボ払い残高無し)
 装備:剣士の装備レベル38(勇者の剣) 弓兵の装備レベル32(勇者の弓)
 憶えたオーバードライブ:シルバーケアル(ケイト) シルバースプラッシュ(テル)
 スプラッシュテール(ブリュンヒルデ) 空蝉(ポチ)

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

 テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  テルの幼なじみ ペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          シリンダーの幼体 82回目に1/6サイズの人形に擬態
   ペギー         荒れ地の万屋 
 ユーリア        ヘルム島の少女
   ナフタリン       ユグドラシルのメッセンジャー族ラタトスクの生き残り

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

くノ一その一今のうち・62『地下通路に映る影』

2023-07-03 14:46:35 | 小説3

くノ一その一今のうち

62『地下通路に映る影』そのいち 

 

 

『左に抜ける通路は無視していいと思います』

 

 えいちゃんがはっきりと言う。

 

「そうなの?」

『はい、空堀は大阪城の南西の位置にあります。だからお城は北東の方角、いま、わたしたちは北に向かっていますから』

「なるほど、右側になるんだね」

『お守りに紐を付けておきました、腕に通して握っていてください』

「いつの間に?」

『ノッチさんの付き人なんです、これくらいのことは当たり前です』

「そ、そうか……変わったストラップね?」

『真田紐です』

「な、なるほど(^_^;)」

『真ん中を歩くと目立ちます』

「よし、左端」

『正解です。右側の枝道がよく見えますからね』

 

 ヤモリが壁に張り付く感覚で前に進む。これなら、普通に歩いてくる者には気取られない。

 ここを通る者が普通だったらね。

 

『影が映りますねえ、ボンヤリとだけど』

「ム……?」

 照明は天井だけではなく、壁にも等間隔に付けられていて、反対側の壁に影を映している。

「気を付けて行こう……」

 気息を半分にする。走ることはできなくなるけど、これなら駆け出しの忍者には感じさせないほどに気配を消せる。

『さすがです、影の気配も半分になりました!』

「えいちゃんも、息を潜めて」

『あ、失礼しました……』

 映画人を目指すだけあって、えいちゃんはベテランの脇役が出番を待つように気配を消した。

 

 ?

 

 300メートルも進んだろうか、壁に映る影が不自然にクッキリしてきた。

 

『おやおや、大和大納言様のご加護を被っているんだね……これでは無下に扱うこともできないか……』

 

 影が喋った!

 

 影は壁を抜け出すと、わたしの5メートほど手前で多田さん(照明技師で佐助の手下)の姿を為した。

「甲府以来だね……」

 多田さんが口を開くと、背後と横の枝道からも忍びの気配。

「さすがですね、多田さんに気を取られ、囲まれていることに気が付かなかった」

「ここでは話もできない、付いて来て下さい」

 この状況では、わたしに選択権はない、大人しく右側の枝道に入って行く。

 

 え、学校?

 

 出てきたところは、学校の、たぶん昇降口。

 下足ロッカーが並んで、振り返ると掃除道具のロッカーの戸が開いていて、そこから出てきたことが分かる。

 でも、変だ。

 平日の放課後だと言うのに人の気配が無い。

 それどころか、空気が淀んで、微妙にかび臭い。

 ロッカーの戸は閉まっているんだけど、中に物が入っている様子が無い。

「府立空堀高校、この三月に閉校したんだよ」

「ああ…………え?」

 おかしい、商店街では下校途中の高校生をたくさん見かけた。

「あれは、みんなうちの手の者たちだ。ここらあたりは、木下家にゆかりのある者たちが大勢住んでいる」

 ぬかった(-_-;)。

「きみの上司、百地党も神田に似たようなものを持っているじゃないか」

「あ……」

 神田の古本屋街で採用テストを受けたことをことを思い出す。

「忍冬堂のオヤジ、あれは百地三人衆と言われた忍冬伝衛門の十八代目。まあ、その百地も徳川の配下に入ったんだねえ……ここだよ」

「え……」

 いつの間にか多田さんの後について視聴覚室の前に来ていた。

 パチン

 多田さんが指を鳴らすと暗幕が閉められ、照明がフェードアウトして、正面のスクリーンに映像が映った。

 5……4……3……2……1……

 カウントの数字が切り替わって、大柄な白人の爺さんと小柄な眼鏡のアジア人が立っているのが映った。

 二人とも見たことがある。

「当時は外務大臣だったよ、大柄な方は今でもそうだけど」

 言われてハッとした。

 眼鏡のアジア人は、今の総理大臣だ!

 なにかの会見なんだろうか、双方の通訳が両端に見える。記者会見だろう。

 

『本日は有益な会談が持てたことを感謝いたします』

『閣下も、わざわざ日本からお越しいただいて、感謝いたします』

――さっそくですが、会談の中身についてお聞きします。どのようなことをお話になって、なにか合意に至ったことはあるんでしょうか――

 どちらが喋るかで紳士的な目配せがあって、大柄の――どうぞ――というジェスチャーで日本の外務大臣が切り出す。

『本日は、両国にとって重要かつ有益な話ができました。いくつかのポイントがありますが、重要なことは、両国にとって、まだ領土問題が存在していることを確認し合えたことであります』

 日本の外務大臣が喋り終えると、通訳が訳すのを待って、にこやかに話しだした。

『おっしゃる通り、両国にとって重要かつ有益な話ができました。日本政府並びに外務大臣閣下に感謝いたします』

 うんうんと、日本の外務大臣が頷く。

『しかし、領土問題については話し合われなかった。領土問題の存在について合意したことはありません』

 ある程度、相手の言語の分かる外務大臣なんだろう『え?』と顔色を変えるが、大人しく通訳が訳すのを待って、こう言った。

『いや、両国の間には領土問題が存在し、これからも、継続して協議することで合意した……』

『そんな事実はない』

 通訳も待たずに否定すると、大柄はにこやかにグローブのような手を差し出して握手を求めた。

 小柄な方は、ムッとして、差し出された手と大柄の顔を交互に見る。

 十秒ちょっとして、大柄は催促するようにさらに手を突き出す。

 さらに数秒、小柄は手を伸ばして、大柄に振り回されるようにして握手を交わした。

 

 映像は、そこで終わって、画面は白くなったが灯りは点かない。

 

「小柄な方は、知っているよね」

「いまの総理大臣……ですね」

「頭領に言わせると『逮捕権も拳銃も取り上げて、警察にがんばれというようなもんだ』だそうだよ」

「ぐぐ……」

 

 その後、屋上に上った。

 

「あっちが空堀商店街、向こうが大阪城。こうやって見ると、本来の大坂城の大きさ凄さがよく分かる。日本にやってきた宣教師たちは、この大きさ凄さに腰を抜かしたそうだ。信長の安土城にも目を剥いた宣教師たちだけど、大坂城は規模的にも防御の堅牢さにおいても桁違い。それに、周囲を見晴るかせばヴェニスの十倍ほどに広がる商業都市。敵わないと思っただろうね」

「なにが言いたいんですか」

「太閤殿下は、この大坂を見せつけるだけでなく、それを背景にして世界に打って出られた。世界が理不尽なのは、さっきの外務大臣の百倍もご存知であった。力を持って外交に務め、世界を導いてこそ、理非明確、公明正大で豊かな日本が作れると考えられた」

「…………」

「それを受け継ぎ発展させていくのが、木下豊臣家の道なんだ」

「…………今すぐにとは、御当主も頭領も思ってはおられない。が、いつかは鈴木豊臣家とも手を取り合って前に進みたいと考えておられる。それが実現するまで、よろしくまあや様をお守りしてあげてください……せっかくだ、晩御飯食べて行きますか、空堀商店街には美味いお店がいっぱいあるよ」

「今日は帰ります」

「そうですか…………うまいお店も面白い店も新旧取り混ぜていろいろあるから、また来るといい。商店街のマップをあげよう」

 

 その後、昇降口のロッカーから地下通路に戻り、もとの郵便ポストから出た……かと思ったら、地下鉄谷六駅の用具ロッカーの扉から出ていた。

 

☆彡 主な登場人物

  • 風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち
  • 風間 その子       風間そのの祖母(下忍)
  • 百地三太夫        百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
  • 鈴木 まあや       アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
  • 忍冬堂          百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
  • 徳川社長         徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
  • 服部課長代理       服部半三(中忍) 脚本家・三村紘一
  • 十五代目猿飛佐助     もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者
  • 多田さん         照明技師で猿飛佐助の手下
  • 杵間さん         帝国キネマ撮影所所長
  • えいちゃん        長瀬映子 帝国キネマでの付き人兼助手
  • 豊臣秀長         豊国神社に祀られている秀吉の弟

 

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

RE・かの世界この世界:146『ケイトのシルバーケアル』

2023-07-03 06:45:24 | 時かける少女

RE・

146『ケイトのシルバーケアル』ケイト 

 

 

 リスの化身だとは思えなかった。

 
 ロキが抱きとめた体は華奢だったけど、同性のあたしが見てもきれいだ。

 見たことは無いけど、月の女神アルテミスが居たとしたらこんな感じ。

 腕も脚も細いんだけど、駆けたり跳んだりする機能が集約された美しさはカモシカみたい。チュニックに包まれた胴はロキの腕の中でグッタリしているけど、かえってしなやかで美しいラインを顕わにしてトールボウ(あたしの武器の弓)のしなりを思わせた。

 でも、感動したのは一瞬だ。

 ええ!?

 みるみるナフタリンの体は、ロキが握っている手の先を除いて透け始めた。この世界の事には疎いあたしでも、ナフタリンに危機が迫っているのが分かった(;'∀')!

「ケイト、ケアルを!」

 テルが叫ぶのとケアルの呪を唱えるのと同時だった。

「……ブローンズケアル(≧▢≦)!」

 最弱の回復術しか使えないあたしは、せめて渾身の力を籠めた!

 ホワワワーーーーーーン!

「……シルバーケアルだ!!」

 テルに言われるまでもない、あたしの手から湧き出したオーラは赤みを帯びたブロンズケアルではなく。白光に近いシルバーケアルのそれだった!

「すごい、いつの間にレベルアップしたのだ!?」

 ヒルデが自分のスキルが上がったように感動してくれている。いろいろ我儘なお姫さまだけど、こういう時に素直に感激できるのは、ヒルデの魅力でもあるし、本人も自覚しない品性のようなものだと思うよ。むろん、ロキもテルも驚いているし、ユーリアは涙を流してさえいる。

 

 そして、いちばん驚いているにはナフタリンだ。

 

「回復した……こんな状態で回復するなんて……ありえねえ……やっぱりブリュンヒルデのお仲間……スッゲー! 礼を言いうよ!」

「それで、ナフタリン、ユグドラシルに行ってはならないと言うのはどういうことなのだ?」

「それは……ユグドラシルの八つの世界はバラバラなんだ。シナプスは断ち切れちまって、血管を失った臓器みたいに壊死していくのを待つばかりの状態なんだ」

「そんなに悪いの?」

 あたしが聞くと、タングリスとテルから――よせ――という空気を感じた。

「わたしに遠慮することは無い。心にあるままに言え」

 ヒルデが促す。

「時の流れが滞ってんだ。ラグナロクが起こらないって噂が立って勢いを失ってるんだ……時の女神は新しいユグドラシルを芽吹かせるために地に潜っていやがる。地上の光を持ちこたえさせるためにヴェルサンディだけはヘルムに向かったんだけどな」

「そういう事情だったのか……」

「世界樹と言ってもユグドラシルも植物だ。植物には水以外にも栄養が必要、いろんな災害や戦争で壊れたのを栄養にしてるんだけど、図体が大きすぎて、今度はラグナロクの栄養でなきゃ復活できねえって話だ」

「姫のせいではありません!」

「いいんだタングリス。ナフタリン、続けてくれ」

「うん、ユグドラシルの八つの世界は、いまや骸に湧くウジ虫のようなクリーチャーだけが暴れまわる世界になり果てちまった。だから、次のユルドラシルが芽吹くまで待たなきゃなんねえ」

「そうか、そういうことであるならば、いっそう行かなければ! わたしは、オーディンの娘だ、主神オーディンの娘にして堕天使の宿命を背負いし漆黒の姫騎士、ブリュンヒルデなのだ!」

「姫!」

「あきらめるな! ラグナロクでぶち壊しにした世界を肥やしにするなどもってのほか! ヴェルサンディもナフタリンも生きているではないか! みんな付いてこい! このブリュンヒルデは諦めん! 進路を指示しろ、ラタトスクなら容易いことだろう。タングリス、操船を任せる!」

 

 姫の決意にタングリスもテルもロキも頷くしかなかった……。

 

☆ ステータス

 HP:13500 MP:180 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・900 マップ:12 金の針:1000 その他:∞ 所持金:8000万ギル(リボ払い残高無し)
 装備:剣士の装備レベル38(勇者の剣) 弓兵の装備レベル32(勇者の弓)
 憶えたオーバードライブ:シルバーケアル(ケイト) シルバースプラッシュ(テル)
 スプラッシュテール(ブリュンヒルデ) 空蝉(ポチ)

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

 テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  テルの幼なじみ ペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          シリンダーの幼体 82回目に1/6サイズの人形に擬態
   ペギー         荒れ地の万屋 
 ユーリア        ヘルム島の少女
   ナフタリン       ユグドラシルのメッセンジャー族ラタトスクの生き残り

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする