大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・422『毎朝テレビ』

2023-07-17 14:35:47 | ノベル

・422

『毎朝テレビ留美   

 

 

 生まれついてのコミュ障はだいぶマシになった。

 

 普通に学校に通えてるし、クラスメートとも普通に喋ることができる。

 ときどき来られる檀家の方々との応対でも「留美ちゃんがいちばんええなあ」とテイ兄さんに言ってもらえるようになった。むろん人あたりの良さとか元気さでは、さくらに敵わない。

 でも、お寺の応対って、法事や月参りのこと、時どきお葬式や報恩講などのお寺の行事やお付き合いの話。

 きちんと内容をお聞きして、メモを取って住職のおじさんや副住職のテイ兄さんにお伝えすること。あらかじめ分かっていることなら、それに沿ってご返事をしておくこと。連絡係り、大げさに言うと秘書的な感じ。

 それに、お寺の人間として対応の型というのがあって、それを身に付けてしまえば、さほど難しくはない。

 メインはもちろん坊守さんのおばさんと隠居されたお爺ちゃん。

 でも、この春にヤマセンブルグに留学中の詩(ことは)さんが大けがをして、その看病のため二か月近くお寺を留守にされ、その間実質おばさんの代わりを務めたことが大きかった。

 おばさんは、地域のコミュニティーや、ボランティアの仕事も引き受けて「そっちの方に力を注げるようになったわ」と喜んでくださっている。

 コミュ障のわたしがお寺や人の役に立ってると思うと、中学入学時までは考えられないくらい充実して自信がついた。

 

 でも、今日は無理!

 

 無理!って拒絶の言葉は使いたくないんだけど、やっぱり無理!

「だから、わたしたちが付いてきたんじゃない」「しっかりしろ!」

 メグリンとソニーが脇を固める。

 177センチのメグリン(高校に入って2センチ伸びたらしい)と、母国に帰ったら現役軍人のソニーに付いて来てもらうと、なんかVIP的な感じ。

 この二人が居なかったら毎朝テレビの正面玄関なんかには踏み込めない。

「本日、『たこやきテレビ』に出演を依頼された榊原留美のガードだ。本人は、あそこに控えている。ディレクターを呼んでもらいたい」

「は、はい、榊原留美さまですね。少々お待ちください」

 受付のオネエサンが笑顔のまま緊張している。

 ナリは女子高生だけど、現役軍人の押し出しに圧倒されている。メグリンの視線の方向に目をやると、女子高生戦士が悪をやっつけるアニメの等身大ポップが立っている。

「ちょっと、似てるかも……」

 ポップはデコボコの三人組で、ボレロ風の上着的なところが似てる。一人は外人風の三白眼、一人は高身長、一人は眼鏡のボブ。それが、そろって軍用拳銃を持ってポーズを決めている。

 慌てて眼鏡をはずす。

 受付のもう一人のおねえさんが「あ!」っという顔をする。

 やっぱり面が割れている。

 今日は、例の自転車ヘルメット啓発ポスターに関する出演。

 あのポスターが人気で、警察に問い合わせが殺到し、ネットでは背景の景色と一緒に写っている女性警官の瀬川さんの装備から所轄署を割り出した人も居て、一昨日はとうとう学校まで特定されてしまった。

『これは、もう露出した方が身を護れますよ』

 毎朝テレビは、テイ兄さんという搦手から攻めてきて、今日の出演となった。

 眼鏡を取ったのが薮蛇で、ロビーの視線が集中して来て昔のコミュ障に戻りそう!

 その時、ロビーにいる人たちの視線が微妙にズレた。

 視界の端で捉えると、女性警官の立ち姿。

「あ、瀬川さん!」

 ピシッと敬礼を決めると、わたしの傍に寄ってきた。

「榊原さん、申し訳ない。こんなに目立ってしまって(-_-;)」

「あ、いえ、瀬川さんは?」

「お仕事よ、うちにも一応要請が来てね。いちおう署長命令でね。ほんとうにごめんなさいね(-_-;)」

 ものすごく申し訳なさそうな瀬川さんに申し訳なくて、思わず空元気を発してしまう。

「あ、いえ、大丈夫です! わたしも、一度はテレビ出てみたかったですし!」

「いやあ、それは良かったぁ!」

 声に振り返ると、見覚えのあるディレクターが揉み手して近づいてくるところだった。

 

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら      この物語の主人公  聖真理愛女学院高校二年生
  • 酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念       さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)   さくらの従姉 聖真理愛学院大学三年生 ヤマセンブルグに留学中 妖精のバンシー、リャナンシーが友だち 愛称コットン
  • 酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美       さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子       さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 愛称リッチ
  • ソフィー        ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー         ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか       中二~高一までさくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり)  さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央)  高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下        頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
  • 江戸川アニメの関係者  宗武真(監督) 江原(作監) 武者走(脚本) 宮田(制作進行) 
  • 声優の人たち      花園あやめ 吉永百合子 小早川凜太郎  
  • さくらの周辺の人たち  ハンゼイのマスター(昴・あきら) 瑞穂(マスターの奥さん) 小鳥遊先生(2年3組の担任) 田中米子(米屋のお婆ちゃん) 瀬川(女性警官)
  •   

 

 

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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・040『サラダパスタとパストフィックス』

2023-07-17 10:05:39 | 小説

(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記

040『サラダパスタとパストフィックス』   

 

 

 葦船の話で盛り上がった帰り道。

 

 戻り橋を渡っていると、無性に志忠屋のサラダパスタが食べたくなる。

 サラダパスタと銘打ってるけど、まあ、冷やし中華のパスタ版、志忠屋の夏の限定メニュー。

 なんか秘密の薬味が入ってるとかで、ちょっとクセになる味。

 ちょっぴり汗は出るけど、食べた後、半日ぐらいは元気でいられる。

 戻り橋に差し掛かったところで、スマホが着信のシグナルを奏で、渡りながら見ると、音信不通と言っていいお母さんのボーナスが振り込まれ、わたしへのおすそ分けが振り込まれたというラッキーなお知らせ。それで、瞬間でサラダパスタが思い浮かんだわけ。

 戻り橋を渡って、一つ上の寿橋を渡って戻る。

 寿橋を渡れば令和の宮之森。

 MS銀行でお金を下ろして角を曲がると、銀行の通用口から猫又のアイさんが出てくる。

 志忠屋に入るまでは耳も尻尾も出さずに普通のOLさん。

 

 でも、なにかあったんだ。

 

 猫又さんたちにも慣れたので、その後ろ姿でただの昼食休憩じゃないことが分かる。なんとなくだけど。

「「サラダパスタ!」」

 オーダーの声が揃って、アイさんはわたしに気づく。

 ポニョン

 気づくと同時に耳と尻尾が出る。

「メグリには隠す必要ないもんね(^_^;)」

「ネコミミの方がかわいいのにね」

「リアルじゃ出せないからね、志忠屋はくつろぐわあ……」

「ハローウィンは一晩中出しっぱなしやけどな」

「年に一回っすよ」

「おまえらのオカンの時代はハローウィンでも出されへんかった」

「ええぇ、それってGHQとかが居た時代でしょ」

「ここまで来るには先人の努力があったちゅうこっちゃ。ほら、感謝して食え」

 ドン

「え、もうできたんですか!?」

 サラダパスタは時間がかかる。ちょっと早すぎ。

「ちょっとだけ魔法をつことる」

「ええぇ、調理に魔法を使うって、志忠屋のコンセプトから外れてません?」

「サラダパスタだけや。その分値上げはしてへんし」

「「あ!?」」

 二人でメニューに目を停めてビックリ、サラダパスタ以外は100円の値上げになってる。

 まあ、よそのお店はとっくに上げてるしね。

「あっちゃの方は終わったんかい?」

「マイとミ―は、まだ向こう」

「なにか幽世(かくりよ)の仕事だったんですか?」

 アイ・マイ・ミーの三人、表面はここらへんのOLだけど、本業は妖仕事の請負人。

「これですよ……」

 アイが指を振るとパスタの上に大海原が現れて、見覚えのある船がノロノロと進んでいる。

「あ、葦船ラー号!」

「またPFの仕事かい」

「PFって?」

「パストフィックス、過去の修理っちゅう意味や」

「過去って修理できるもんなんですか!?」

「ちゅうか、ほっとくと変わってしまうもんがあってな。放置してると違う歴史が分岐してしまうんや」

「まあ、小さいのはほっとくけどね。滝さんが魔法でパスタ作っちゃうとかね」

「文句あんのんか」

「ああ、無いっす無いっす!」

「ほんで、なんかお節介してきたんか?」

「お節介はないでしょ。みんな世のため人のためなんすから」

「滝さん、ほんとはパスタフィックとか嫌いなんじゃないですか?」

「パストフィックスにゃ!」

「あ、それそれ(^_^;)」

「あ、まあな」

「でも、今度はなんにもしてないっすよ。前回は失敗したんで、まあ、念のために付き添ったんすけど、人間は自分たちの力だけで大西洋横断したニャ」

「うん……せやったら、なんでマイとミーは残っとんねん?」

「え、ああ、帰りですよ。帰り道で沈没しちゃいけませんからね」

「帰りは船ごと貨物で運ぶんやろ」

「う~~ん『家に帰るまでが遠足』的な?」

「その念の入れ方は特務がらみの仕事やなあ」

「え、あ……」

 ほとんど食べ終わったパスタの上に制服姿のお祖母ちゃんが浮かび上がる。

「え、お祖母ちゃんが絡んでたんですか!?」

「あ、あはははは……」

 

 そのあと、ドッとお客さんが入ってきたので、お勘定を済ませて店を出る。アイさんは、滝さんに言われて洗い物とセッティングの手伝いをやらされてる。

 ちょっとオッサン一人で回すには大変、パートかバイトを雇えばいいのに。

 そう思って寿橋を目指すと、向こうの方に蜃気楼みたいなのが湧いて、みるみる人の形をとって、こっちに向かって来る。

 え……妖!?

「あ、メグリちゃん、お店行ってたの?」

 その女の人は親し気に話しかけてきた。

 え、誰だろ?

「ランチタイムには間に合うようにって、近道したら、道に迷っちゃって(^_^;)」

「あ、はい……」

「お客さんいっぱい?」

「あ、ちょうど入れ違いに……」

 そこまで言って、その人の笑顔で思い出した。

「ペコさん!?」

「あ、そうよね、立ち話してる場合じゃないわ。じゃあね(⌒∇⌒)」

 

 後姿を見送りながら、今の今までペコさんのことを忘れていたのを思い出した。

 

 多分、いや、間違いなく滝さんもアイさんも忘れていた。

 いや、世界が分岐し始めていたんだ。ペコさんが存在しない世界に。

 葦船ラー号は、世界と時空をぐるっと回ってこんなところにも影響を及ぼしていたのかもしれない。

 

 家に帰ると、お祖母ちゃんが鼾をかきながら絶賛昼寝中だった。

 

彡 主な登場人物

  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校一年生
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         1年5組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            1年5組 副委員長
  • 高峰 秀夫             1年5組 委員長
  • 吉本 佳奈子            1年5組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            1年5組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 藤田 勲              1年5組の担任
  • 先生たち              花園先生:4組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。

 

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RE・かの世界この世界:160『国民的大衆車フォルクスオーパー』

2023-07-17 06:13:19 | 時かける少女

RE・

160『国民的大衆車フォルクスオーパー』ポチ 

 

 

 

 二号戦車のゲペックカステンにソウルを入れてやると古いセダンに化けた。

「これは二世代前のフォルクスオーパーだ」

「フォルクスは国民的……オーパーは歌劇場だったっけ? 車が歌劇場?」

「丈夫で燃費もいいんだけど、走らせると、いろいろ賑やかでね。開き直って、そんな名前をつけたんだ。国民的大衆車だったんだけど、デザインも垢ぬけないし、社会が豊かになると売れなくなったんだ」

 フェンは、そう言うけど、カクカクしたボディーは四号や二号に通じるものがあって、とっても実直なイメージで好ましい。

 ドアを開けると銀行の金庫のような、閉めると大砲の尾栓を閉じるような音。シートにお尻を沈めると象さんがオナラをしたような音がして、体格に合わせてシートを前にやるとライフルがリロードするのにそっくりな音。エンジンをかけると、まるでSL。フェンがゆっくりとアクセルを踏むと、あちこち共振して、まさに歌劇場。

「でも、こういうの好きよ」

「ぼくだって好きだよ。ノイズも慣れると逞しいし、地に足が付いた感じは、いまの僕たちにも通じるところがある」

「フフ、そうかもね」

 そう応えると、フェンは目尻をシワクチャにして笑った。

 いまのわたしたちは、乗り慣れた車で定年後の旅に出た初老の夫婦という感じになっている。

「いこうか、ベス」

 運転席のフェンは、何十年も言い慣れたように、わたしをベスと呼んだ。

「首にスカーフを……巻いてあげる」

「くすぐったい」

「よしよし、五歳は若くなったわ」

「五歳かい、十歳は若いだろ」

「あつかましいわよ、ダグ」

「おれはダグかい?」

「ミスター・ダグラスって呼んで欲しい?」

「よせよ、他人行儀な」

 エンジンが暖まって街道に出たころには、ダグとベスのベテラン夫婦になりおおせていた。

 カーラジオから流れるオールディーズの曲に耳を傾けていると、前方の反対車線にエンコしたワゴンが見えてきた。

 いったん通り過ぎてからUターンしてワゴンの後ろに停車させる。

「あの車、棺を載せてるわ!?」

「訳ありなのかな……」

 一言呟くと、ダグは車から降りて、うちのより一世代若いフォルクスオーパーに声をかけた。

「どうかしましたか?」

「ブレーキの調子が悪くて、今度走り出したら停まりそうもないんで途方に暮れてるんです」

「JAFには?」

「電話はしたんですが、立て込んでて、半日はかかるってことで」

「半日なんて待ってられないわよ、やっととった休暇なんだから」

 どうやら、休暇を利用したドライブでエンコした中年夫婦のようだ……でも、ドライブに棺?

「よかったらみてみましょうか、多少は車が分かりますから」

 夫婦は、わたしたちの車を見て納得の表情。二世代前のフォルクスオーパーを乗りこなしているのは車のメンテにも長けていると判断したのだろう。

「ありがとうございます。よかったわ、これで間に合う」

 奥さんがバックシートの棺に話しかけた。

『ああ、頼むよ……おまえたち』

 

 ギョエ! 

 棺の中から声がした!

 

☆ ステータス

 HP:13500 MP:180 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・900 マップ:12 金の針:1000 その他:∞ 所持金:8000万ギル(リボ払い残高無し)
 装備:剣士の装備レベル38(勇者の剣) 弓兵の装備レベル32(勇者の弓)
 憶えたオーバードライブ:シルバーケアル(ケイト) シルバースプラッシュ(テル)
 スプラッシュテール(ブリュンヒルデ) 空蝉(ポチ)

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

 テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  テルの幼なじみ ペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          シリンダーの幼体 82回目に1/6サイズの人形に擬態
 ペギー         荒れ地の万屋 
 ユーリア        ヘルム島の少女
 ナフタリン       ユグドラシルのメッセンジャー族ラタトスクの生き残り
 フェンリル二世     狼族の王子

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・039『蝉と葦船』

2023-07-16 09:31:34 | 小説

(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記

039『蝉と葦船』   

 

 

 ミーーン ミンミン ミ――  ミーーン ミンミン ミ――

 

 弾道ミサイルの警報か!? というくらい、そいつらは突然に鳴きだした。

 セミ! セミですよ! セミ!

 

 セミなんて21世紀の令和でも鳴いてんだけど、こんな唐突なのは初めて!

 五月の中ごろから開けっ放しの教室の窓から、突然のセミの大合唱!

 1年5組の教室は二階で、五月の席替えで窓際になったわたしの真横、二メートルも離れていない中庭の木でセミが鳴きだした。

 全身がビクッとして、机がガタッって震えた。

 教室のみんなは全然ビックリしていない。

 ソロっと様子を見ると、お仲間のたみ子・真知子・ロコが――どうした?――という顔で、十円男は――バカか――という目で見ている。

 数学の先生は、そういう、わたしとみんなの反応も含めてセミを無視!

 こういう人たちは、どこかの国の核ミサイルが飛んできて、運悪く宮之森の街に落ちても、あっさり死ぬと思うよ。

 で、セミ。

 板書を写す手を休めて考えてみる。

 こんなに驚いたのは、小三の時、ぼんやり道を歩いていたら、十字路で突然原チャが飛び出してきてぶつかりそうになった時以来。

 そう、突然すぎなんだ、セミも原チャも。

 でも、わたしの知ってるセミは――ああ、今年もセミの季節か――って感じで、気が付いたら鳴いている感じで、こんなに暴力的じゃない。

 あ、そうか。

 セミの声って、たいてい部屋の中で聞いている。

 気が付いたらエアコンの音に混じって聞こえてるって感じ。

 そうだよ、窓が開きっぱなしだからビックリしたんだ。

 でも、みんなはビックリなんかしていない。

 慣れてるんだ、戦場の兵士がミサイルや爆弾の音に慣れるように慣れてしまってるんだろうね。

 ミサイルや爆弾に慣れるのは怖いけど、まあ、セミが爆発することはない。

 

 で、気が付いた。

 

 1970年の高校って、エアコンが付いていない。

 令和少女のわたしとしては耐え難いことなんだけど、教室中のみんなが――夏はこんなもんだ――って感じなんで慣れてしまった。

 むろん、放課後は戻り橋を渡って令和の家に戻って、当然エアコンかけまくりの生活してるんだけど、いつの間にか、この切り替えに慣れてしまっていたんだ。

 ああ……でも、思い出すと暑い。

 セミのお蔭でドッと噴き出した汗をなだめながら、一学期最後の数学を受けた。

 

 ちょっと感心した。

 

 例の光化学スモッグが出て体育が散々だった日からテスト一週間前になって、部活動は無し。

 建前的なものだと思ったら、大半の生徒は授業が終わったらさっさと帰る。あるいは図書室で勉強。あるいは教室に居残ってマジで勉強。

 たみ子と真知子が図書室で勉強するというので、ロコといっしょに覗きに行く。

 

 うわあ……

 

 いつもは閑散としている(らしい)図書室はいっぱいだ。いっぱいな割には静かで、鉛筆を走らせる音やらページをめくる音、それに天井の扇風機が穏やかに回る音が微かにするだけ。あいかわらずセミは鳴いているけど、ほとんど気にならなくなった。我ながら順応するのが早い。

 遠慮のない溜息が聞こえたのか、真知子が顔を上げて鉛筆を振った。

「もっと早く来ないと座れないよ」

「あそこ空いてるよ」

 ノッポのたみ子が二つ向こうのテーブルを指す。男子が4人勉強してて席が二つ空いてる。空いてると言ってもカバンや荷物が置いてあるんだけどね。

「あ、いい、いい。二人の様子見に来ただけだから」

「荷物だったら言ってあげる……」

「いいよいいよ、じゃね(^_^;)」

 椅子を立ちかけた真知子を制して図書室を出る。

 

「もっと要領のいい人は街の図書館に行ってる」

 

 図書室を出ながらロコが付け加える。

「え、そうなの?」

 街の図書館は、こないだ行った希望が丘の方で、ちょっと距離がある。

「図書館は冷房が効いてますからねえ」

「あ、そうか……でも、いっぱいなんじゃない。学校終わってからで間に合うの?」

「学校なんかブッチしてますよ」

「そうなの!?」

「三年は受験があるし、二年は内申上げる最後のチャンスですよ」

「あ……そうなんだ」

「夏休みを制する者は受験を制すっていいますからね」

「え、そうなの?」

「はい、この時期、教師の訓話の定番です。ま、じっさいそうなんですけど」

「ま、一年生は関係ないです。一年は好奇心の翼を広げる時期なんです! 好奇心こそ、明日への原動力!」

「あはは、そうだね」

「あ、これ見てください!」

 昇降口を出ようとした足を停めて、ロコは、いつものファイルを出した。

 バサリと一発で開いたページにはピラミッドの壁に描かれているような船の写真があった。

 

「葦船ラー号ですよ!」

 

「葦船?」

「正確にはパピルスです。パピルスは葦の一種ですから」

「え、パピルスって、エジプトとかで紙の原料になってたパピルス?」

「はい、その葦船で大西洋を横断したんです。今月の12日です」

「ええ!?」

 パピルスって丈夫な紙らしいけど、それで船作って、大西洋横断は無理でしょ!

「去年もやったんですけど、途中で水が浸み込んできて中断したんですけど、今年再チャレンジして成功したんですよ!」

「……え、この人日本人?」

 八人並んだ中に日本人の名前の男性がいる。

「はい、今年はモロッコと日本からも参加して、頑張ったんです」

「いやあ、大海原の葦船、なんか涼しそうね」

「乗ってみたら、暑いと思いますよ」

「あはは、そうだろうね」

「でも、葦船でできたということは、最初に大西洋横断を成し遂げたのはコロンブスではない可能性があるということです」

「え、あ……そうだね」

「一説によると、アメリカの西海岸で縄文式土器の欠片が見つかった事実があるそうです……」

「え、それって、太平洋横断は日本人が最初ってこと!?」

「はい、可能性はあります!」

「ムムム……」

 子どものように目を輝かせるロコ。

 こいつは、受験勉強には向かないだろうなあ……と思ったけど、口にはしない。

 

 

彡 主な登場人物

  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校一年生
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         1年5組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            1年5組 副委員長
  • 高峰 秀夫             1年5組 委員長
  • 吉本 佳奈子            1年5組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            1年5組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 藤田 勲              1年5組の担任
  • 先生たち              花園先生:4組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。

 

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RE・かの世界この世界:159『デミゴッドの墓地・2』

2023-07-16 05:53:06 | 時かける少女

RE・

159『デミゴッドの墓地・2』ポチ 

 

 

 いくつもお墓は見てきた。

 人と言うのは川沿いに住むもので、お墓も川を臨む丘の斜面とかに並ぶ。

 それにムヘン川は最前線になることが多くて、石を一個置いただけの兵士や犠牲者のお墓もある。

 霊魂と言うのは死んでもなかなか肉体から離れられないもので、お墓の傍に寄ると時どき頭が痛くなったりする。あたしはシリンダーだったので、そういう霊的なものには人よりも鋭いみたい。

 

 ところがデミゴッドの墓地というのはアッケラカンとしていて、霊的なものを何も感じない。

 

「デミゴッドは半神。つまり半分神さまだから、死んだら魂は神界に上って神になるんだ。だから、お墓は抜け殻の肉体だけが葬られている。だから怖くはない」

 うん、怖くはないよ、霊ってご近所の皆さんて感じだったし。

「でもね、中には神であるよりも人の属性を大事にしたいデミゴッドもいて、そう言う人の霊は残っているんだよ」

「え、どこに?」

 広大な墓地を見渡すと、ところどころで墓守さんたちが掃除をしているのを見かけるだけだ。

「おーい、一号さーん」

 彼方の墓守さんにフェンが呼びかけた。この距離じゃ聞こえない……と思ったら、フィルムのコマが落ちたみたいに、唐突に目の前に現れた。

「なんだいフェン、おや、今日は女の子連れてんのかい」

「ちょっと訳ありでね。この子妖精のポナっていうんだ」

「ポ、ポナです」

 ペコンと頭を下げてしまう。

「妖精さんねえ……」

 み、見破られたか!?

「みんな、いろいろ事情があるからね……わたしは墓守一号、よろしくね。昇天しなかった半神と言った方がいいかな?」

 は、半神さん……ど、どうしよう、握手なんかしちゃったよ!

「ここに来たってことは、やってくれるんだね?」

「うん、及ばずながら。逃げてばかりじゃ解決しないからね」

「うん、それでこそオオカミ族の束ねだ。しっかりおやり」

「それで、ソウルを借りに来たんだ」

「ああ、いいよ。こういうこともあろうかと三人分のソウルを用意してある。正体がバレそうになったら心の中で『チェンジ』と呟けばいい。ぜんぜん別の半神ということになるから」

「ありがとう、恩にきるよ。でも二人分あればいいよ」

「向こうの二号戦車で来たんだろ、一つは二号に使えばいい。そうすれば乗り物から足が付くこともない」

「そうか、目につかないように人里では隠しておくつもりだったけど、二号もチェンジできるのならありがたい」

「でも、一つだけ注意しとくよ。けっして三年は超えないこと。三年を超えると……」

「元に戻れない、だろ? 大丈夫、それまでにはスヴァルトアルムヘイムもヨトゥンヘイムも、いや、ユグドラシル全体をまともにしてみせるから」

「大きく出たね。ま、無理をせず、半神のできそこないどもをなんとかしてやっておくれ」

「分かった」

「そっちのお嬢ちゃんも。あんたも流転の星に生まれついてしまったみたいだしね」

「は、はい」

「自分が、なにに属するのか、フェンといっしょにお考え」

「はい」

「じゃ、二人とも目をつぶって口をお開け」

 フェンと並んで口を開ける……すると、なにか暖かい空気のようなものが入ってきて、すぐに体全体が暖かくなってきた。

 目を開けると、もう墓守さんの姿は無かった。

 

☆ ステータス

 HP:13500 MP:180 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・900 マップ:12 金の針:1000 その他:∞ 所持金:8000万ギル(リボ払い残高無し)
 装備:剣士の装備レベル38(勇者の剣) 弓兵の装備レベル32(勇者の弓)
 憶えたオーバードライブ:シルバーケアル(ケイト) シルバースプラッシュ(テル)
 スプラッシュテール(ブリュンヒルデ) 空蝉(ポチ)

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

 テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  テルの幼なじみ ペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          シリンダーの幼体 82回目に1/6サイズの人形に擬態
 ペギー         荒れ地の万屋 
 ユーリア        ヘルム島の少女
 ナフタリン       ユグドラシルのメッセンジャー族ラタトスクの生き残り
 フェンリル二世     狼族の王子

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

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銀河太平記・170『パスカルの原理』

2023-07-15 10:53:23 | 小説4

・170

『パスカルの原理』周温雷 

 

 

 おお! やったあ! なるほど! こんな手があったんだぁ! 温雷えらい!

 

「いやいや、ちょっと思いついたことが上手くいっただけ。さ、仲良く並んで手も顔も洗おうぜ」

 おお(^▽^)!

 三日前から続いている水道のトラブルを直して、みんなが喜んでくれている。

「いやあ、これで少しは落ち着いて食べてくれるでしょ」

 鉱山食堂のオバチャンたちも喜んでくれて、まあ、めでたくケリが付き、俺もトレーを持って列に並ぶ。

 

 俺が来たころからポンプの具合が悪くて、鉱山食堂は水圧が上がらずに困っていた。

 ようやく予算がついてポンプを交換したんだが、今度は水圧が高すぎて水しぶきがひどくなった。

 技師が来て、ポンプの調整をやったんだが、これが、なかなかうまくいかない。

「いやあ、この方法には思い至りませんでした(^_^;)」

 ハゲの技師は喜んで帰って行った。こんな荒くれの鉱山に長居はしたくないだろう。

「あれ、パスカルの原理っすよね」

 席が隣になった若いのがラーメンすすりながら笑顔を向けてくる。

「ああ、俺は難しいことは分からないから、ま、経験則でね」

「密閉された流体に圧力をかけると、圧力は密閉している容器全体に均質に伝わる。逆もまた真なり!」

「あはは、その説明がもう難しい。単に蛇口を太くさえすれば水は緩くなるってだけさ。子どもの頃にホースの口を指で押さえて遊んでなかったか」

「ああ、やりましたやりました! そうか、あれと同じ原理なんすねぇ」

「それだけのことさ」

「でも、それを思いつくっていうのが……」

 そいつのさえずりを聞きながら思った。

 

 人間にもパスカルの原理は当てはまる。

 

 劉宏は西之島に手を出すにあたって、フートンに目を付けてきた。

 西之島には三つのコアがある。

 マヌエリトのナバホ村、氷室のカンパニー、そして俺のフートン。

 コアのリーダーはいずれも個性的で、その個性で緩く結びついていた。コアの中でも島全体としても。

 俺を始めフートンの者には大陸出身の者が多く、三つのコアの中では一番漢明に親和性がある。

 劉宏は、そこに目を付けフートンに働きかけてきた。

 西之島を話題にするとき、三回に一回はフートンやこの俺、周温雷に言及した。

 あからさまにではない。

「周温雷もわたしも焼き餃子が好きだ。中華の伝統では水餃子だがね」

 劉宏も周温雷も主流からは外れているが、共に中華の伝統の中にいるというアピールだ。

 実際、ネットでは劉宏と周温雷の餃子を食べる姿が一時トレンドになった。焼き具合のこだわりや箸の使い方がソックリとか。

 俺は逆らって、餃子をシュウマイに換えてフォークで食べてみた。

 すると「箸の上げ下ろしまでとやかく言われるのは窮屈だ。わたしが言ったわけではないが、ご迷惑をおかけした」とコメントしてきた。

 その後、劉宏は事故に見せかけてPIをやってのけ、その外見は楊貴妃もかくあらんかという王春華(大統領秘書)になった。

 餃子の件はずっと前だが、その映像はPI後も新バージョンになって流れている。

 すると今度は、好きな女の子に意地になって反発してるガキみたいな感じになって、今でも劉宏の画像検索をするとベストテンに入ってくる。

 

 いずれ、劉宏は俺を取り込みにかかる。

 

 中華が敵を懐柔する手練手管はすさまじい。

 べつに国を挙げて取り込むようなことはしない。劉宏は、ほんの少し水圧を上げるだけで、小さなフートンの蛇口から出る時は奔流になる。まさにパスカルの原理。

 西之島はフートンから切り崩される。

 そうならないためには、俺自身が島から出ることだ。

 俺が居なければ、フートンは静かにカンパニーやナバホ村に吸収され、島は一つにまとまるだろう。

 あとは、ヒムロとマヌエリトがまとめてくれる。

 

 さて、そんな周温雷を漢明はどうするだろうか。

 

 おそらく、俺の予想は当たっている。

 それを確かめるために、俺は少しだけ目立つことにしてみたというわけだ。

 

☆彡この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス

 

 

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RE・かの世界この世界:158『デミゴッドの墓地・1』

2023-07-15 06:20:05 | 時かける少女

RE・

158『デミゴッドの墓地・1』ポチ 

 

 

 

 半神族ってどんなの?

 

 素朴な質問をしたよ。

 シリンダーの変異体であるあたしはモノを知らない。

 1/12の人型妖精に変異してから、ずっと四号戦車の五人といっしょだった。冒険の旅の中に居たので知らないことがいっぱいある。

 素朴すぎるかもと思ったけど、変に知ったかぶりしているよりもいいと思ったから。自分が変異体だというのを言いそびれてるだけで気持ち悪いもん。

「人と神さまの間に生まれた種族だよ」

「人と神さまの間?」

「その前に、乗り物が必要だな……この魔法石に乗り物のイメージを吹き込んで」

「どこかに行くの?」

「ああ、目標達成にために。とりあえず人里に出なくちゃ」

「うん…………」

 思いを込めると、魔法石は二号戦車になった。ずっと四号に乗っていたから乗り物と言うと戦車になってしまう。でも、最初から四号だとおっきいから失敗するかもって思ったから二号を思い浮かべた。

「こんなのでよかった?」

「無限軌道だから走破性がよさそうだね」

 フェンはチョイチョイと指を動かして二号を自動運転にした。

「運転は苦手だし、話の邪魔になるしね……意外に中は広いね」

 もともとは三人乗りだからね。

「デミゴッドの墓地へ」

 無人の操縦席に命ずるとブルンブルンとエンジンが起動して動き出した。

「お墓に行くの?」

「うん、このまま半神族の中には入れないからね、半神族のソウルを借りに行くんだ」

 よく分からないけど、質問を重ねると話が飛んで行ってしまいそうなので小さく頷いておく。

「神さまと人間はときどき恋をするんだ。異種族同士だけど時々子どもが生まれる。その生まれた子と、その子孫を半神というんだ。寿命が人より長かったり魔法が使えたりする。半神族同士の結婚を繰り返していけば神の属性は薄まることがないからね、半神族は半神族としか結婚しない。間違いが起こらないように、半神族は仲間の半神族を見抜く力を持っているんだ、だからね、ソウルを借りに行くんだよ」

 フェンは半神族の歴史と社会の話を面白おかしく話してくれる。オオカミ族の話も聞きたかったけど、いまはフェンのペース。

 途中、何度か半神族と思われる思念が飛び込んでくる。二人の行方を探っている感じ。その都度、フェンは反対魔法を唱えて打ち消す。三回目くらいからは一緒になって反対魔法を唱えているんだからビックリ。わたしは順応性が高いと言うか、どうも流されやすいようだ。というか、まだ自分でも分かっていないアビリティーがあるのかもしれない。

 峠を二つ超えたところで墓地が見えてきた……。

 

☆ ステータス

 HP:13500 MP:180 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・900 マップ:12 金の針:1000 その他:∞ 所持金:8000万ギル(リボ払い残高無し)
 装備:剣士の装備レベル38(勇者の剣) 弓兵の装備レベル32(勇者の弓)
 憶えたオーバードライブ:シルバーケアル(ケイト) シルバースプラッシュ(テル)
 スプラッシュテール(ブリュンヒルデ) 空蝉(ポチ)

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

 テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  テルの幼なじみ ペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          シリンダーの幼体 82回目に1/6サイズの人形に擬態
 ペギー         荒れ地の万屋 
 ユーリア        ヘルム島の少女
 ナフタリン       ユグドラシルのメッセンジャー族ラタトスクの生き残り
 フェンリル二世     狼族の王子

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

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くノ一その一今のうち・64『木村重成』

2023-07-14 10:44:30 | 小説3

くノ一その一今のうち

64『木村重成』そのいち 

 

 

 朝ごはんもそこそこにスタジオに行く。

 

 相変わらず、セットはてんでバラバラの方向を向いているけど、ケーブルや道具の置き方にはルールや法則があって、憶えてしまうと気にならなくなっていた。

 真っ先に机の上に目をやるけど、今回は小道具として置かれてる古いのばかり。

『あ、あそこです』

 えいちゃんがメモのありかを教えてくれる。

 こないだは机の上に置いてあったけど、今日は天井に貼り付けてある。

 ホームズの事務所らしく、その都度メモの場所が変わるみたい。

「よく見つけたわね」

『はい、付き人ですから』

「ありがとう」

 たぶん事前にチェックしていたんだ、よくできた付き人だ。

 

――五番のセットに行きたまえ――

 

 前回とは違って、スタジオ内のセットを指定してきた。

 

『五番のセット……』

 

 これは事前には分からなかったんだろう、えいちゃんもキョロキョロする。

 真剣に探してくれているので、お風呂の時のように補正ができなくて、時どきペラペラのまま横向きになって可笑しい。

『あっちです!』

 ペラペラのまま指さすと、二つ向こうのセットに照明が入る。

 

 ザワザワザワ……

 

 林を吹き渡る風の音がして竹林の小道が浮かび上がる。

 小道は少しうねって小高くなった空き地に出る。

 空き地には、鞍の上に立った若武者が小手をかざして北の空を窺っている。

 木村重成だ。

 二十歳そこそこ……なんだけど、すごく落ち着いた感じ。

 予想通りに悪い結果が出たけど、これから先のことを考えるとこれでいい的な。

 たとえば。

 廃校が決定した野球部が最後の試合でコールド負け寸前。でも、この先転校した学校や進学した大学で、これを糧にみんな頑張ってくれと願っている部長。野球って甘いもんじゃない。でも、青春を賭けるだけの価値はある。この敗北で、みんな分かっただろ、本当に大事なものは失ってから分かるものなんだ。それが分かっただけでも、この最終試合には価値があった……有力な野球部から誘いも来ていたけど、僕は部員と共に滅びの道を選んだ。最後まで寄り添って滅びの瞬間を見届けることが、真の野球への道を指し示すことになるんだ……そんな感じ。

 

「風魔か……」

 

 後姿のまま素性を当てられてギクリとする。

「大坂城にはいろんな人たちが入っているからね。忍びの者も結構いたよ。伊賀、甲賀、百地、そして風魔。徳川や諸大名の間者もいたし、豊臣に味方して、最後まで付き合おうとする者もいた。いろいろだけど、忍者には、それぞれの匂いがあってね、それで分かるんだ」

 ウ、夕べはちゃんとお風呂入ったのに。あ、そうか、木村重成って言えば兜に香を焚き締めていたっていうくらいの匂いフェチだった。

「太閤殿下がお亡くなりになってからこっち、豊臣の家臣は天下の匂いには敏感だからね、自然と鼻が利くようになったのさ」

「…………」

「君は風魔に違いないんだけど、害意は感じない。風魔と言えば北条の忍び。忍びは主家に忠誠など誓わなくてもいいんだろうけど、豊臣は北条を滅ぼして風魔の仕事を奪ったからね……ん……君には大和大納言様の匂いも?」

「昨日、秀長さんからお守りを……」

「そうか。君は、僕の時代の忍びではないね」

 どうしよう、ここまで見抜かれているなら……。

「今の豊臣は……」

 豊臣が木下・鈴木の二つに分かれていること、木下が信玄の埋蔵金を手に入れ、それを基に海外に手を伸ばしていて、埋蔵金のかなりの部分が大阪城に持ち込まれていることを話した。

「そうか……それなら、空堀の方はフェイクだろうね」

「そうなんですか?」

「お城の南側は、真田丸を始め、いろいろ防御を固め、徳川も手は焼いたけど対策は十分整えている。去年の冬の陣の後で、南の備えは全部壊されたからね」

「そうなんだ……」

「それに、敵が殺到する南側に抜け穴なんか作るわけないじゃないか」

「え、そうなんですか!?」

「ほんとうの抜け穴は、天守北側の山里曲輪から大川の方に向けて掘ってある……おお……」

「あ、天守閣が!?」

「心配することはない、あれはね、国松さまが無事に落ちのびられたという印しの大松明なんだ」

「そうなんですか!」

「ああ、僕は、あれを待っていたんだ」

 壮大な大坂城の天守閣が燃えれば、だれでも豊臣家の滅亡を思う。

 そうか、その隙に秀頼さんの息子を落ちのびさせる。

 そして、ここから、木下、鈴木の豊臣家が始まったんだ。その幕開きを示すのがあの天守閣を燃やした大松明なんだ!

「木下が埋蔵金を出し入れするとしたら、あの北側しかないよ」

「そうだ! そうですね!」

「あ、どこへ行くんだい!?」

「お城の北側」

「慶長二十年の大坂城だよ、そっちは。君が行くべきは令和の大阪城だろ」

「あ、そうでした(;゚Д゚)!」

「ハハハ、あわてんぼうだな令和の忍びは」

「失礼しました! では、これにて!」

「うん、元気でね!」

「はい! 木村さんも!」

 セットを出て、その足で撮影所を出て、思った。

 あのあと、木村さんは、木村重成は派手に戦って討ち死にするんだ。

 少しでも、敵の目を引き付けておくために。

 それに、木村さんは、あっさりと抜け道のことも教えてくれた。

 口に出してこそ言わなかったけど、木下がやっているような海外に手を出すようなことは反対なんだ。

 うん、これでいいんだ。

  

 勇気をもらったような気がして、再び大阪城を目指した。

 

☆彡 主な登場人物

  • 風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち
  • 風間 その子       風間そのの祖母(下忍)
  • 百地三太夫        百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
  • 鈴木 まあや       アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
  • 忍冬堂          百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
  • 徳川社長         徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
  • 服部課長代理       服部半三(中忍) 脚本家・三村紘一
  • 十五代目猿飛佐助     もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者
  • 多田さん         照明技師で猿飛佐助の手下
  • 杵間さん         帝国キネマ撮影所所長
  • えいちゃん        長瀬映子 帝国キネマでの付き人兼助手
  • 豊臣秀長         豊国神社に祀られている秀吉の弟

 

 

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RE・かの世界この世界:157『ポチからポナへ』

2023-07-14 06:21:49 | 時かける少女

RE・

157『ポチからポナへ』ポチ 

 

 

 

 目標って……?

 
 直球過ぎたのか、フェンリル二世はゴクンと息をのんだ。

 ヘタに答えると、その答えに質問が出てきて、その質問に答えると、さらに質問が出てくるという質問のラビリンスに落ち込みそうな顔をしている。まあ、仕方がない。わたしは、なんとしてもカテンの森のみんなのところに戻るんだから、フェンリル二世の目標を確かめても仕方のないことなんだ。

「えーと……ユグドラシルを救うのが目標……的な?」

「ありがとう、答えにくそうな質問に答えてくれて」

「きちんと答えようと思ったら、明日の朝くらいまでかかりそうなんでね」

「いいわよ、わたしも明日の朝くらいまでには戻りたいから」

「そうだね、戻れるように知恵を絞ろう……伏せて!」

「どうしたの?」

「半神の使い魔が……」

 這いつくばって息をひそめると、地面が振動し始めた。

 

 ……グゴゴゴゴゴ グゴゴゴゴゴゴ

 

「きみ、空を飛べる?」

 飛べるんだけど、シリンダーの変異体ぽいので返事ができない。彼とは正体を知られないうちに分かれたかった。

「じゃ、しっかりぼくに掴まって!」

 胴にまわされた手に力が入って体が密着する。オオカミ族だけあって意外に筋肉質!

 ドギマギしたのは一瞬で、直ぐに舞い上がって、反射的に狼王子の首にしがみ付く。

 あたしを抱えたまま、彼は空中で一周する。

 逃げる方向を探っているんだ。

 一周する間、石が砕けた時のようなキナ臭さが鼻を突く。

「こっちだ!」

 弾かれたように後ろ斜め上に移動。

 バチーーーン!!

 今まで居た空間で軽自動車ほどの岩同士が激突して、火花を発してバラバラになって落ちて行った。コンマ5秒遅れていたら、岩に挟まれてペシャンコになっていた!

 ブン! ビュン! ビュビュン!

 次々に唸りを上げて石やら岩やらが飛んでくる。狼王子は器用に躱すんだけど、逃げる方向が定まらない。

「岩が使い魔なの!?」

「半神はなんでも使い魔にする。なあに、飛んでいれば隙が見つかる……っさ!」

 ブン!

 唸りを上げて岩が間近を通り過ぎていく。いっしゅん目をつぶってしまい、目を開けた時に彼の頬に一文字の切り傷が走っていた。

「魔石を投げるから、考えられるだけの破壊力を籠めて!」

「う、うん」

 魔石を握った彼の拳に想いを籠める!

「いくよ!」

「うん!」

「トーーーーー!!」

 わたしを抱えているから、弱いスイングだったけど、思いのほかの勢いで魔法石が飛んだ!

 

 ドッゴーーーーーーーン!!

 

 太陽が爆発したのかと思った。

 前の方にはポッカリと岩石たちの居ない空間が広がり、すかさず彼はブーストをかけて突き抜けた。

 

 何十キロかを瞬くうちに飛んで、川のほとりに着地した。

 

「あんなに速く飛んだのは初めてだ」

「あ、ありがとう」

「何万て岩石が一瞬で蒸発した。きみの力がなきゃ逃げきれないところだった」

「とうぶん帰れそうにないかも……」

「協力して身を護っていこう」

「う、うん……それしかないかも。フェンリル二世」

「フェンでいいよ」

「フェン?」

「キミのことは、なんて呼んだらいい?」

 ポチとは言えない。

「ポ……ポナ」

 チからチョボ一つ取って、少しだけ女の子らしく言ってみた。

「ポナ……うん、いい名前じゃないか!」

 子供のような笑顔でフェンリル二世……フェンは喜んでくれた。

 

☆ ステータス

 HP:13500 MP:180 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・900 マップ:12 金の針:1000 その他:∞ 所持金:8000万ギル(リボ払い残高無し)
 装備:剣士の装備レベル38(勇者の剣) 弓兵の装備レベル32(勇者の弓)
 憶えたオーバードライブ:シルバーケアル(ケイト) シルバースプラッシュ(テル)
 スプラッシュテール(ブリュンヒルデ) 空蝉(ポチ)

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

 テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  テルの幼なじみ ペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          シリンダーの幼体 82回目に1/6サイズの人形に擬態
 ペギー         荒れ地の万屋 
 ユーリア        ヘルム島の少女
 ナフタリン       ユグドラシルのメッセンジャー族ラタトスクの生き残り
 フェンリル二世     狼族の王子

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

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鳴かぬなら 信長転生記 131『再び南へ三国志の空へ』

2023-07-13 10:36:28 | ノベル2

ら 信長転生記

131『再び南へ三国志の空へ信長 

 

 

 20ノットか……

 

 そう呟くと、信玄は背後の騎馬隊を振り返った。

 これから……川中島の合戦が始まろうというわけではない。

 実際、馬上の信玄は鎧兜の戦装束ではなく、赤のタンクトップにショートパンツ。暑さに耐えかねた女性騎手が規定ギリギリの薄着で天皇賞のレースに挑むような形(なり)だ。

 信玄の背後には、同じ装束の武田の騎馬娘50騎が二列で続いている。

 騎馬列の間にはロープがあって、ロープからは左右に25本ずつの枝が伸びて50騎の鞍壺に括り付けられ、先端は信玄の馬に連結されている。

 そして、ロープの末は俺たちが乗っている特大の紙飛行機に結わえられ、この双ヶ岡の南斜面には学院学園のスタッフや見送りの者が200人以上集まっている。

「すみません、信玄さん。御山の南斜面では滑走距離がどうしても足りんのです! 合成風力が30ノットを超えるのをお待ちください!」

 

 直立不動の軍服姿で応える二宮忠八。

 

 なんだか、これから203高地に突撃する兵隊のようだが、忠八が突撃するわけではない。

 忠八は、ギリギリの条件で離陸させなければならない紙飛行機の制作者として緊張の極みなんだ。

「緊張するな忠八。武田騎馬隊の中でも選りすぐりの五十騎だ。それも、来世でのさらなる戦功を決意し、儂同様に女子化して転生してきた者どもばかりだ。万に一つのしくじりも無い。ただ20ノットと言われて20ノットではつまらん、武田の騎馬隊は22ノットでこいつを牽引する。よいな、皆の者!」

「「「「「「「「「「オオ!!」」」」」」」」」」

「「「御屋形様あああ!」」」

 三人のジジイが駆け寄ってきた。

「おお、年寄どもか」

 そう、こいつらは武田騎馬隊の隊長を務めていた者どもだ。生まれ変わってなお勝頼を支え長篠の合戦で俺に撃ち勝とうとしている。

 ならば、女子化して学院で励めばいいのだが、それでは従来の武田軍の戦法やスキルを否定することになる。戦法やスキルはそのままに、勝頼に忠言し決戦の時期や作戦を変更し、来世で再び俺に挑んでこようというジジイどもだ。

 むろん所属は学園。生徒会長の乙女は、こういうジジイやババアも大事にしてやってる。

 学院にも女子部がある。俺たちのことじゃない。俺たちは区分されているわけではないが男子部だ。女子化した転生者は理念的には男子だ。女子部は生前女であったやつが男子化してやってきた奴らだ。まあ、日ごろ交流があるわけでは無いし興味も無いからな。

「こたびの上総之介殿御遠征、射出の任に就けず、まことに申し訳ござりませぬ!」

「気にするな、お前たちは討ち死にしたときの爺のままなのだ。十代の我々には並ぶべくもない」

「言葉もござりませぬ」

「そなたたちが、そのままというのは武田の戦法や仕置きが完成されたものであるという証である。そうであろう」

「「「いかにも!」」」

「しかし、いかに戦法や仕置きが優れていようとも、上に立つものがボンクラであっては詮方なきこと。儂も来世では子育てを考えてみる所存じゃ。お前たちも来たるべき時に備えて励め」

「フフフ、わたしも楽しみが増えるというものだな」

 謙信が不敵な笑みでエールを送る。

 

 こいつら勘違いしている。

 今日の主役は、俺たち三人だ。

 信長、妹のお市、そして魏王曹操の妹にして三国志最高の女将軍・曹茶姫。

 まあいい。俺たちに安っぽい承認欲求はない。この三人で、新しい転生の歴史の幕を切って落とすのだからな。

「風力10ノットを超えました!」

「射出!」

 風速係りの声に忠八の指令が即座に飛ぶ!

 

 ダダダダダダダダ

 

 信玄と武田騎馬隊の50騎が飛び出し、数瞬遅れて紙飛行機が浮き上がる。

 

 ググーーーーーン

 

 紙飛行機は一気に32ノットの合成風力を受け三国志の空を目指して飛び立った。

 

☆彡 主な登場人物

  • 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生  ニイ(三国志での偽名)
  • 熱田 敦子(熱田大神) あっちゃん 信長担当の尾張の神さま
  • 織田 市        信長の妹  シイ(三国志での偽名)
  • 平手 美姫       信長のクラス担任
  • 武田 信玄       同級生
  • 上杉 謙信       同級生
  • 古田 織部       茶華道部の眼鏡っ子  越後屋(三国志での偽名)
  • 宮本 武蔵       孤高の剣聖
  • 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
  • 雑賀 孫一       クラスメート
  • 松平 元康       クラスメート 後の徳川家康
  • リュドミラ       旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ  劉度(三国志での偽名)
  • 今川 義元       学院生徒会長
  • 坂本 乙女       学園生徒会長
  • 曹茶姫         魏の女将軍 部下(備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
  • 諸葛茶孔明       漢の軍師兼丞相
  • 大橋紅茶妃       呉の孫策妃 コウちゃん
  • 孫権          呉王孫策の弟 大橋の義弟
  • 天照大神        御山の御祭神  弟に素戔嗚  部下に思金神(オモイカネノカミ)

   

 

 

 

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RE・かの世界この世界:156『魔法石』

2023-07-13 06:17:04 | 時かける少女

RE・

156『魔法石』ポチ 

 

 

 

 ドドドドドドドドドーーーーーーーン!!!!

 

 小石一つ放り込んだだけとは思えない音がした(;゜Д゜)。

「なんか、とんでもない音がしたよ……」

「穴が崩壊した……」

「あんなチッコイ物で?」

「九つの世界は、好き放題に国境を固めたからね……ユグドラシルって、本来は樹木だろ。樹木と言うのはしなやかなものだけど、固めてしまうと柔軟性を失って、ちょっとした刺激で崩壊してしまうことがある……」

「そ、それにしても、凄すぎない?」

「きみが籠めた想いって、どんなの?」

「『スヴァルトアルムヘイムに来てしまったけど、すぐに戻ります』的な?」

「ごく普通だよね……ごめん、もう一度籠めてくれる?」

「う、うん……」

 
 さっきと同じように魔法石に「すぐ帰る」的な想いを籠めた。それを渡すと、フェンリル二世は目の前に仮想タブレットを出して分析し始めた。

 
「す、すごい……破壊値が五十キロ爆弾クラスだ!」

 五十キロ爆弾クラスの程度がどのくらいなのかは分からないけど、フェンリル二世の表情からスゴイと言うのは伝わってくる。

「ただのメールが、なんで、そんなことになるの?」

「僕にも分からないよ、きみは小型妖精のようだけど、どこの種族なんだい?」

「う、それは……」

 元々はクリーチャー、シリンダーの突然変異体だとは言えない。

「あ、ごめん。詮索することじゃないよね。いや、あまりに凄いから、ついね。キミには自覚は無いんだろうけど、魔法石との相性が飛びぬけていいんだと思うよ」

 ウウ、そんな相性は、ありがたくないよ。

「試してみよう」

 フェンリル二世はポケットから、色の違う魔法石を取り出した。

「魔法石のピュアストーン、まだ、僕の思いが籠っていない状態だ。これに、さっきと同じのを籠めてくれないか」

「これに?」

 危険物だと分かって手に取るのは気持ちが悪い。

「あとで解除すれば、ただの魔法石に戻るから」

「う、うん……」

 明るい押し出しに、ソロリと手を出して、さっきと同じようにする。

「これでいい?」

「うん、ありがとう……あれ?」

「どうかした?」

 変な結果がでるのは、ちょっと嫌だ。

「何も変わってないよ」

「ほんと?」

 正直言って嬉しいんだけど、フェンリル二世の期待を裏切るようなので、努めて普通に言う。もう一回やって欲しいと別の魔法石を渡されるんだけど、四回やって結果は同じだった。

「おかしいなあ……じゃ、僕の登録が済んでるので試して」

「う、うん」

 結果は直ぐに出た。

「やっぱりだ、僕の登録が済んだ魔法石に上書きすると起きる現象だ!」

「そ、そうなの?」

 フェンリル二世はズイと身を乗り出した。

「どうだろ、しばらく僕といっしょに居てくれないか!?」

「し、しばらくって……」

「ぼくが……ぼくの目的を果たすまで……」

 
 その瞳には、決して断れない切迫感が溢れていた……。

 

☆ ステータス

 HP:13500 MP:180 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・900 マップ:12 金の針:1000 その他:∞ 所持金:8000万ギル(リボ払い残高無し)
 装備:剣士の装備レベル38(勇者の剣) 弓兵の装備レベル32(勇者の弓)
 憶えたオーバードライブ:シルバーケアル(ケイト) シルバースプラッシュ(テル)
 スプラッシュテール(ブリュンヒルデ) 空蝉(ポチ)

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

 テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  テルの幼なじみ ペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          シリンダーの幼体 82回目に1/6サイズの人形に擬態
 ペギー         荒れ地の万屋 
 ユーリア        ヘルム島の少女
 ナフタリン       ユグドラシルのメッセンジャー族ラタトスクの生き残り
 フェンリル二世     狼族の王子

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

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せやさかい・421『王室名誉衛士ボビー』

2023-07-12 11:08:13 | ノベル

・421

『王室名誉衛士ボビー』詩(ことは)   

 

 

 宮殿で暮らしはじめて、ほとんど時計を見なくなった。

 

 宮殿には女王陛下を頂点として、王女のリッチ(頼子さん)、ガードのソフィー、それに、それぞれの部署や係りを担当する人たちが、分単位、秒単位の正確さで生活したり働いたりしている。

 5時半には、宮廷庭師のチャーリーさんが猫車(一輪車)を押しながら庭園の花や草木を見回る。

 6時には制服姿の衛士、これは当番制で日によって人は違うんだけど、どの衛士さんも同じ時間、同じリズムで同じ経路を通って巡回していく。窓を少し開けて耳を澄ますと、厨房や宮殿のあちこちで朝の準備をする声や物音がかすかに聞こえてきて、いとおかし。

 7時には、宮殿の親時計が時報の鐘を鳴らして本格的に宮殿の一日が始まる。

 そして、そこから始まる一日は、日本の鉄道並みの正確さで進行していって、そう言う正確さの中に身を置いていると、本当に時計を見なくなる。

 実家もお寺だったので、宮殿ほどでは無いけどルーチンがあって、そういうルーチンの中で暮らしているのは心地いい。

 

 サクサクサク……サクサクサク……

 

 音で陛下と秘書のイザベラさんだと分かるんだけど、時間がルーチンじゃないし、ちょっと急ぎ足。

『なに急いでるんだ、マリアは?』

 ナンシーが陛下を呼び捨てにしながら窓に張り付く。

『ああ、詰所の犬よ……たった今、くたばったみたいよ……』

 バンは興味なさそうに、板書をノートに写すふりを続ける。

『バン、おまえ仮にもバンシーだろ、チラ見ぐらいして涙の一つも流してあげたら』

『バンシーは人専門なの、犬がくたばるのには関わらないわ。それに、今は授業中よ』

 二人とも聖真理愛の制服姿で、日本の女子高生ごっこをするのが気に入ってる。

「詰所に犬がいるの?」

『居るよ、ボビー。躾がいいからむやみに吠えないし、決められた場所以外ではウンコもしないし立ち入らないし』

『十五年前にね、メグって女衛士が拾ってきて、ズーズーしく居ついたのよ』

「それに陛下が?」

『マリアは、そういう子なんだ。バン、おまえも行っていっしょに泣いてやりなよ』

『ナンシーこそ、愛情の妖精でしょ、あんたこそ行ってあげなさいよ』

「二人で行ってあげたら?」

『わたしたちに指図!?』

『なにを考えているのかしら、この東洋人は!?』

「指図なんかじゃないわよ。わたしの部屋に居るんだったら、優しい妖精でいてちょうだい!」

『え、追い出すつもり!?』

『鬼よ、この東洋人!』

「なんだってぇ……」

『わ、わかったわかった(;'∀')』

『行けばいいんでしょ行けば(;'∀')』

 窓を開けると二人は白いオーブになって詰所の方に飛んで行った。

 足元を見ると、ちょうどリッチも詰所の方に向かうところ。

 コンコン

 仮にも王女殿下、高いところから声をかけるのは憚られて、ちょっと強めにガラスをたたく。

「あ、コットン!」

 気づいてくれて、わたしも電動車いすをトップスピードにして詰所に駆けつける。

 

 ソフィーも駆けつけていて、ボビーは特製のベッドに寝かされて息を引き取っていた。

 枕もとにはバンとナンシーも来ていて、さっきの憎まれ口はどこへやら、肩を震わせて泣いていた。

 魔法使いのソフィーには分かってるはずだけど、気づかないふりをしてくれている。

 

 ボビーは正式に飼われていた犬ではないので、法律的な処遇では衛生局が引き取ってゴミとあまり変わらない扱いで火葬にされるんだけど、陛下のお言葉で王室墓地に葬られる。

 その墓誌には『王室名誉衛士ボビー』と記される。

 

 わたしは、チェストの上に『南無阿弥陀仏』のお念仏を置いてお線香をあげた。

 

『ちょっと!』『なによ、この悪魔の呪文は!』

 

 バンとナンシーに説明するのは、ちょっと骨が折れたけどね……。

 

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら      この物語の主人公  聖真理愛女学院高校二年生
  • 酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念       さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)   さくらの従姉 聖真理愛学院大学三年生 ヤマセンブルグに留学中 妖精のバンシー、リャナンシーが友だち 愛称コットン
  • 酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美       さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子       さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 愛称リッチ
  • ソフィー        ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー         ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか       中二~高一までさくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり)  さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央)  高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下        頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
  • 江戸川アニメの関係者  宗武真(監督) 江原(作監) 武者走(脚本) 宮田(制作進行) 
  • 声優の人たち      花園あやめ 吉永百合子 小早川凜太郎  
  • さくらの周辺の人たち  ハンゼイのマスター(昴・あきら) 瑞穂(マスターの奥さん) 小鳥遊先生(2年3組の担任) 田中米子(米屋のお婆ちゃん)
  •   

 

 

 

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RE・かの世界この世界:155『フェンリル二世の事情』

2023-07-12 06:40:22 | 時かける少女

RE・

155『フェンリル二世の事情』ポチ 

 

 

 トンネル小僧……フェンリル二世は静かに語った。

「世界樹ユグドラシルには、もともと世界の区別なんかなかった。九つの種族が、それぞれの習慣や個性をもって生きていて、人も聖霊もみんな自由に暮らしていた。おおざっぱに居住地は決まっていたけど、旅行や商売、聖地巡礼なんかでの往来はあった。まあ、旅行は見識を広めるために学者とか腕を磨く職人とかで、そういう人口は5%ほどだし、聖地巡礼は一生に一回、そんなに多い交通量じゃなかった。オオカミ族は放浪の種族で、九つの世界を行き来して自由に暮らしていた。他の部族たちが、それぞれに国を作っても『ま、そういう暮らし方もあるんだろう』くらいに思って、いちばん多くのオオカミ族が暮らしていたスヴァルトアルムヘイムに半神族が国を作っても、我々が自由に暮らせていれば好きにさせればいいと思っていた。ラタトスクたちは『オオカミ族も国を作った方がいい。これからは国を持たない者はのけ者にされていくよ』と忠告もしてくれた」

「ラタトスク……ああ、ナフタリンたちだね」

「でも、気が付いた時には遅くて、オオカミ族はスヴァルトアルムヘイムに小さな自治区での居住しか認められなくなった。父のフェンリル一世は神々に戒めを掛けられ、不遇なままに一生を終えた。このままでは、オオカミ族は絶滅すると気が気ではなかったんだ……そこに起こったのがヨトゥンヘイムの巨人どもの進撃だ。遠くまで進撃して帰れなくなった巨人たちの隙を狙って半神たちがヨトゥンヘイムを侵略し始めた。ラムノ、ノシホ、ノヤの三人の半神王はヨトゥンヘイムの経営のためにスヴァルトアルムヘイムを留守にすることが多くなって、多くの半神たちもヨトゥンヘイムに移り始めた。それで、ヨトゥンヘイムを偵察して、半神たちが当分帰ってこないようなら、スヴァルトアルムヘイムを僕たちの手に取り戻そうと思ったんだよ」

「ノヤってのは死んだよ」

「え……ノヤが死んだ!? ひょっとして、君たちがやっつけたの!?」

「ちがうちがう、事故だったんだ。ユグドラシルの近くまで来たら乗ってた戦車が吹き飛ばされて、落ちたのがノヤっていうのが居た神殿だったんだよ」

「え、たまたま落ちたのがノヤの神殿だったって言うのか!?」

「う、うん。最初はとんでもないことになったと驚いたんだけど、小さくなって若返った巨人族たちが喜んでくれて」

「そうか……それは、やっぱり君たちには力と神のご加護があるんだ。神殿と言うのはセキュリティー魔法がかかっていて、落下物なんかは避けられる仕組みになってるからな」

「そ、そうなんだ」

「キミたちには主神オーディンのご加護があるのかもしれないよ」

 ご加護どころか、オーディンの姫が乗ってるんだけど、話がとんでしまいそうなので、スルーする。こっちにも聞きたいことがあるしね。

「ヨトゥンヘイムでは、死んだノヤ以外に半神は見かけなかったんだけど、なんか訳あり?」

「辺境の征伐に出ているやつが多いんだと思う。むろん、街にも居たんだろうけど、君たちが来たんで、隠れているんだよ」

「そうなんだ……とりあえず、一度カテンの森に戻るよ。何をするにしても、あたし一人でなんにもできないし、みんなも心配するだろうから」

「ああ、それがいい。時間がたってるから穴が小さくなってるかもしれない」

「それって、ヨトゥンヘイムが縮んでることと関係あるの?」

「説明はあとだ、とにかく穴に!」

 穴の入り口に戻ると、小さくなっているような気がした。

「縮み始めてる、戻るのは危険だよ」

「どうしよう……」

「メッセンジャーを貸してあげるよ」

「メッセンジャー?」

「うん、ラタトスクたちにも気づかれずに通信できる、魔法石の小さい奴……」

 そう言うと、フェンリル二世は無造作に小石を取り出した。

「石ころ?」

「祈るとメッセンジャーになる。さあ、手に取って想いを籠めるんだ」

「う、うん」

 小石に想いを込めて、穴の中に、そろりと放り込んだ……。

 

☆ ステータス

 HP:13500 MP:180 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・900 マップ:12 金の針:1000 その他:∞ 所持金:8000万ギル(リボ払い残高無し)
 装備:剣士の装備レベル38(勇者の剣) 弓兵の装備レベル32(勇者の弓)
 憶えたオーバードライブ:シルバーケアル(ケイト) シルバースプラッシュ(テル)
 スプラッシュテール(ブリュンヒルデ) 空蝉(ポチ)

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

 テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  テルの幼なじみ ペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          シリンダーの幼体 82回目に1/6サイズの人形に擬態
 ペギー         荒れ地の万屋 
 ユーリア        ヘルム島の少女
 ナフタリン       ユグドラシルのメッセンジャー族ラタトスクの生き残り
 フェンリル二世     狼族の王子

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・038『光化学スモッグ』

2023-07-11 09:17:05 | 小説

(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記

038『光化学スモッグ』   

 

 

 前にも言ったけど、昭和の宮之森高校には朝礼が無い。

 

 令和の宮之森はやってると思うよ、小学校や中学じゃやってたしね、なんか常識って感じ。

 先生たちは「遅刻をしないように!」とか注意するけど、朝礼で点呼とれば遅刻は断然減ると思う。

「そりゃあ、朝礼なんかやったら、教師も遅刻できなくなるからなあ……」

 ロコとぼやいてたら、十円男がニヒルに呟く。

「あ、ああ……」

 七月に入って、わたしたち一年生も、少しずつ学校の事情が分かってきた。

 先生の半分は遅れて出勤している。

「そうだよねぇ、日直のとき出席簿や学級日誌取りに行っても、朝の職員室ってガラガラだもんね」

「ああ、うん……」

 教室の窓から見てても、一時間目の途中に校門入って来る先生って、けっこういる。

「知ってるか、一時間目と六時間目って講師の先生が多いんだぞ」

「え、そうなの? っていうか、講師の先生って、どうして分かるの?」

 先生と顔を合わせるのは、ほとんど授業だけだから、講師と正教諭の区別なんてつかない。

「住所録に書いてありますよ」

「え、そうだっけ?」

「ほら」

「ロコ、持ち歩いてるの?」

「データベースですから」

「ちびっこのクセに偉いなあ」

 チラッと十円男を睨んでから続けるロコ。

「ほら、最初に教職員が載ってて、左端に『教諭』『常勤講師』『非常勤講師』とかあるでしょ」

「あ、ほんとだ」

「出勤簿でもわかるんだぞ。正教諭と講師じゃ出勤簿別だしな」

「出勤簿って?」

「職員室入ったとこ、でっかい時間割の下にある」

「ラジオ体操の出席カードのでっかいやつですよね」

「講師って立場弱いからよ、なんだかんだ言って、正教諭の要望が通っちまう。みんな遅く来て早く帰りたいからな」

「でも、部活とかの指導あるんじゃないの、ね?」

「アハハハ……」

「ちびっ……宮田は分かってんのな。正直に付き添ってる顧問なんか、一部の運動部だけだ……」

 十円男が目配せした教室の隅で佳奈子が、なにやらノートに書いている。

「佳奈子、なにしてんの?」

「え、あ、ああ……」

 返事の代わりにバシっと見せてくれた表紙には『女バレ日誌1970』とマジックで書いてある。

「セッターって日誌も書くの?」

「うん、一年は勉強だからね。交代で書いて顧問の机の上に置いとくの」

「ああ……」

「ほんとは、家で書いて始業前に提出なんだけどね(^_^;)」

 邪魔しちゃ悪いので席に戻る。

「顧問のアリバイさ。ページの終りにハンコついときゃ監督してることになる」

「ふうん……」

「ねえ、加藤君は、このごろ遅刻しませんねえ?」

「え、ああ……ちょっと期するところがあってな」

 アゴに手をやって小さく笑う。耳が半分隠れる髪といい、カラーの無い学生服といい、ポケットから覗いている赤本といい、なんか胡散臭い。

 

「あ、そうだ!」

 

 急に立ち上がると、日誌をホッパラカシて佳奈子は教室を飛び出していった。

 佳奈子は体育委員でもあるので、体育のある日は始業前に授業の予定を聞きに行くんだ。

 七月は男子がグランド、女子はプールだから、この三日続きの晴れマーク(めちゃくちゃ暑そうだけど(^_^;))聞きに行くまでもないと思うんだけどね。

 でも、戻ってきた佳奈子は意外なことを言った。

「今日の体育は体操服で体育館!」

 なんで?

 絶好の水泳日和なのに、メチャ不思議……と思ったのはわたし一人、みんなは、チラッと窓の外を見て――仕方ないなあ――という顔をしている。

「なんで納得なの?」

「光化学スモッグですよ」

「コーカガクスモッグ?」

「ここからじゃ見えないけど、グランドに赤旗出てると思いますよ」

「え?」

 

 休み時間、購買にいくついでに覗いたら、ロコのいう通りグランドの真ん中に運動会で立てられてるみたいな赤い小旗が立っていた。

 

 廊下の隅でスマホで検索。

 

 オゾンとかアルデヒドとか硝酸塩とか硫酸塩とかオキシダントとか、オドロオドロシイのがどうのこうので、メッチャ健康に悪いので、この時代は警報だ出たらしい。

 知ってしまうと、急に目がシカシカして、微妙に気分が悪くなったような気がした。

 

 四時間目の体育、ブルマで体育館のフロアを10周! 反復横跳びにうさぎ跳び! でもってトスバレー!

 まるっきり罰ゲーム!!

 

 今までで一番昭和が嫌になった一日だった(-_-;)。

 

 

彡 主な登場人物

  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校一年生
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         1年5組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            1年5組 副委員長
  • 高峰 秀夫             1年5組 委員長
  • 吉本 佳奈子            1年5組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            1年5組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 藤田 勲              1年5組の担任
  • 先生たち              花園先生:4組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。

 

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RE・かの世界この世界:154『オオカミ王子フェンリル二世』

2023-07-11 05:45:28 | 時かける少女

RE・

154『オオカミ王子フェンリル二世』ポチ 

 

 

 

 なにを驚いてるの?

 
 トンネル小僧が不思議そうな顔で聞く。

「そ、それは(ついさっきまで1/12サイズだったなんて言えない)……おまえが、か、かわい……変わってるからだ! オ、オオカミの耳こそしてるけで、まだ、ほんのガキじゃない!」

「子どもでも立派なオオカミだ」

「どこがよ! あたしと目が合っただけで、ぶっ飛んで逃げちまうし、グニャグニャトンネルとラビリンスの区別もついてないし、あたしみたいな女の子に組み伏せられてるし!」

「おまえが怖すぎるんだろ! おまえ、目が合った時は人形みたいにちっこかったくせに……」

「ちっこいゆーーーな! あ、あたしは、最初っからこのサイズよ、あんたの目がおかしいんだ!」

「え? そ、そうなのか…………また見間違えたのか」

「え?」

「………………」

「簡単にしおれないでよ。だいたい、何者なのよ、あんた?」

「おれは、フェンリル二世だ」

「ニセ? おまえ、なにかの偽者か?」

「二世だ、に・せ・い、二代目って意味の二世だ!」

「二世? おまえ、田舎貴族かなんかか?」

「田舎貴族だと!? 失礼な! おれはオオカミの王子だ」

「オオカミの王子? お、おまえが!?」

「お、おう」

「オオカミの王子が、なんで、泥棒みたいにエスケープハッチから入ってくんのよ!?」

「森の出口が二重になってんのかと思ったんだよ」

 森の出口? 

「カテンの森も縮んでしまえば、ヨトゥンヘイム(巨人族の国)は完璧に縮んで、スヴァルトアルムヘイムがユグドラシルの中心の地位を取り返せるからな」

「取り返すだって?」

「そうだよ、世界樹ユグドラシルの中心は根っこのスヴァルトアルムヘイムだぞ。ヨトゥンヘイムの巨人たちじゃない。いや、もう巨人でさえないだろ。半神族にやられた上に、縮んでしまったからな」

 むかつく話だけど、疑問が大きくなる。

「ちょ、その半神族のスヴァルトアルムヘイムに、なんでオオカミ族のあんたが肩入れしてんのよ?」

「スヴァルトアルムヘイムは、元々はオオカミ族のものだ。半神族が大オオカミ王たるフェンリル一世を姦計にかけるまではな」

「大オオカミ王?」

「ちょっと長い話になるけど、いいか?」

「お、おう、聞いてやろうじゃないのよ」

 フェンリルは、記憶を整理するように空を仰いでから語り始めた……。

 

 

☆ ステータス

 HP:13500 MP:180 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・900 マップ:12 金の針:1000 その他:∞ 所持金:8000万ギル(リボ払い残高無し)
 装備:剣士の装備レベル38(勇者の剣) 弓兵の装備レベル32(勇者の弓)
 憶えたオーバードライブ:シルバーケアル(ケイト) シルバースプラッシュ(テル)
 スプラッシュテール(ブリュンヒルデ) 空蝉(ポチ)

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

 テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  テルの幼なじみ ペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          シリンダーの幼体 82回目に1/6サイズの人形に擬態
 ペギー         荒れ地の万屋 
 ユーリア        ヘルム島の少女
 ナフタリン       ユグドラシルのメッセンジャー族ラタトスクの生き残り
 フェンリル二世     狼族の王

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

コメント
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