コロナウイルスを詠う ②
痩せ細り母が母でないような……
移るより移すことへの恐れから人は優しく人を遠ざけ
…… (岐阜県) 箕輪富美子 朝日歌壇 2020-05-17
優しさゆえに、人を遠ざけなければならない現実が侘しい。
それを、「やさしい距離」という。新しい言葉の表現です。
「ソウシャルディスタンス」も最近よく耳にする言葉です。
新型コロナの感染拡大を防ぐためにsocial distance(社会的距離)を取る。人と人との物理的な距離を保って、濃厚
接触を避けようという取り組みです。国によってその距離は異なるようですが、日本の場合、1m~2m位です。
「すいません少し離れてください」と後ろの人に言うレジの列
…… (長岡市) 国分コズエ 朝日歌壇 2020-05-17
「やさしい距離」もちょっといきすぎると、「冷たい言葉」となって他人に向けられます。
「自粛警察」なんて嫌な言葉もあります。
自粛生活も長引くとストレスも溜まります。
「権威の後ろ盾のもと異端者に正義の鉄槌を下すことで、普段なら抑えている攻撃衝動」を発散してしまう
(甲南大学・田野大輔教授)。
「自粛警察」という言葉で連想されるのは、
感染拡大を防ぐために守らなければならない自粛の約束事を守らないものを排除しようとする人々のことです。
「何で営業しているんだ。休業しろ!」
4月、居酒屋の入口の前に貼った張り紙にそんな落書きが見つかった。
警察や行政機関への通報など、いずれも匿名で行われるところにも問題があります。
辻々に立ちてウイルス封じゐる道祖神へと菜の花を置く
…… (長野県) 千葉俊彦 朝日歌壇2020.05.10
道祖神は村の入口の辻に祀られ、村へ侵入する「悪霊」や「疫病」から村を守る願いが込められています。
素朴な道祖神に、菜の花を供えコロナウイルスの侵入を祈願する優しい振る舞いが漂っています。
四月に緊急事態宣言が出され、自粛生活も随分長い間強いられてきた。学校、図書館、公民館等公共施設が閉鎖さ
れ、多くのイベント、スポーツも中止になり、私たちの生活も閉塞感が漂い始めました。
病院や介護施設等への面会が禁止になり、心配する肉親もたくさんいました。
以下、面会禁止に伴う辛さを詠った歌を集めてみました。
面会の叶わぬ母の施設より笑顔のスナップ写真届きぬ
…… (宝塚市) 小竹 哲 朝日歌壇2020.05.10
介護職員の心づかいが、母の笑顔となって届いてきた。
痩せ細り母が母でないような哀しい写真施設より届く
…… (下松市) 内山春日 朝日歌壇 2020-05-31
すっかり痩せ細った写真。「お母さん、ごめんね」と、涙ぐむ作者の姿が浮かんできます。
一ヵ月以上面会できなくて元気だろうか病床の母
…… (川崎市) 小島 敦 朝日歌壇2020.05.03
母は元気だろうか。病院のベッドに横たわる母を思うと切なさと不安がわき上がってくる。
手短に夫の容体訊ねつつ着替えを託す病院の庭
…… (津山市) 横林明美 朝日歌壇 2020-05-24
せっかく病院まで来ているのに、面会できない辛さ。
せめて、夫の容体だけでも聞きたい……
「手短に」という言葉に介護する人への優しさと遠慮が浮かんでくる。
参考過去ログ
コロナウイルスを詠う
疫病に閉じ込められて過ごす日々…… の記事は2020.5.2付でアップしています。
(人生を謳う) (2020.6.12記)
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