老いをみつめる
手術しか手立ては無くて手術は耐えられぬ母の命の行方よ
(横浜市) 毛涯明子 朝日歌壇2018.01.08
「体力がないので手術ができません」と医者から告げられた時のやりきれない気持ち。
残された選択肢はあるのだろうか。
切なさがこみあげてきて、「どうしたらいいのだろう」。
逡巡する気持ちが、せつなさにかわり、老いた母の顔をみつめる。
再びは帰宅かなわぬ転院の母送りゆく氷雨ふるなか
(静岡市) 池ケ谷春雄 朝日歌壇2018.01.08
「お母さん、何にもできなくてごめんね」
安定期に入った母に下された診断は、転院だなんて。
何にもできない無力な私。
「お母さん、ごめんね」。
声にならない声が、氷雨のなかへ消えていく。
凩(こがらし)やあなたが眠るまで歌ふ
(熊本市) 池ケ谷春雄 朝日歌壇2018.01.08
せめてあなたが眠るまで、私は歌を歌う。
あなたが好きだったこの歌を……
外では木枯らしが吹いている。
深々とふけていく夜の中で
命の「ともしび」を温め、歌を唄う
人間っていいなー
次の二句は自分の現実を見つめた句です。
人いつか還る虚空に銀杏舞ふ
(鹿児島市) 青野迦葉 朝日俳壇2018.01.08
いつかは「土」に還っていく命。
他人事でなく自分の「命」。
虚空を被う大銀杏。
金色に輝く銀杏の葉が降ってくる。
厳選されたことばの19文字に広がる小宇宙
積もりゆく雪よ減りゆく吾(わが)が時よ
(青森市) 小山内豊彦 朝日俳壇2018.01.08
降りつむ雪に埋もれていく生きてきた歳月。
「歳を取ったな」
そう思いながら、あと何年元気でいられるのだろうと
行く末を自分の歳に重ね合わして思いにふける。
「そんなに悪い人生ではなかったぞ」
指に刻まれたシワの深さがそう語りかけてくる。
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