読書案内「小ぬか雨」藤沢周平著 ①
短編集「橋ものがたり」所収 新潮文庫
人生の中で、出会いはその人の生き方を左右するような大きな出来事になる。
ほとんどの出会いは、
永い人生行路のなかのありふれた一シーンとして、
時間が過ぎれば消えていく出会いかも知れない。
短編「小ぬか雨」に描かれた世界も出会いを描いて秀逸である。
「橋ものがたり」に収められた短編は「橋」が重要なキーワードになっており、
「小ぬか雨」も例外ではない。
長い人生行路には、
渡らなければ次の一歩が踏み出せない「橋」(決断の橋)、
渡ってはいけない橋(禁断の橋)、出会いの橋等がある。
橋を隠れたキーワードとして書かれた作品を探して読んで見るのも読書の楽しみである。
(読書案内「傾いた橋」2015.08.02① 08.21②にもアップしています。興味のある方はどうぞ読んでください)
偶然の出会いが若い男女の心を惹きつける
(時代劇専門チャンネル・「小ぬか雨」のラストシーン)
おすみは孤独だった。
早くに両親を亡くし、おそらく楽しい思いなどしたことのない女だった。
伯父に任された履物屋で商いをしながら一人で暮らす「おすみ」は、
伯父が世話してくれた「勝蔵」という職人と所帯を持つことになっていた。
勝蔵は訪ねてくれば、おすみの気持ちなど構わずに体を求めるようながさつな人だった。
好きでもないこの男と一緒になって、
一生を終わることを想像すると、希望のない人生だった。
ある日の夜、裏口の戸を閉めに行った「おすみ」は、
土間の隅にうずくまっている若い男を見て、
思わず叫び声をあげるところだった。
「追われているんです。すぐに出ますから」。
小奇麗な身なりをしたその男は、
おすみを「お嬢さん」と呼び、
その響きにおすみは心の揺らぎを感じていた。(つづく)
(2018.01.18記) (読書案内№118)
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