「逝きて還らぬ人」を詠う
② 悲しみは深爪に似て……
大切な人が逝ってしまう。 |
珍しく酸素マスクがない朝のあのおはようが最後の言葉
………交野市 杉尾文子 朝日歌壇2017.04.03
最後の朝を迎えたのでしょう。
「マスクをはずしましょう」と、これは主治医の優しさなのでしょうか。
しばらくぶりの素顔で、「おはよう」と答えてくれた。
「おはよう」は、逝く人の「ありがとう」であり「さようなら」だったのでしょう。
死者のこゑ未だ瓦礫より冬すみれ
………えびの市 川野一広 朝日俳壇2017.03.27
あの震災から生かされて6年目を迎えた今でも、あなたの声が瓦礫の中から聞こえてきます。
また、春が巡ってきました。あなたの居ない春は淋しいけれど、瓦礫の隅に春を待ちわびたように
冬すみれが一輪顔をのぞかせています。
苦しくないかと問う我に寒くはないかと答えて老母は旅だてり
………佐野市 阿部忠雄 朝日歌壇2017.03.06
母はいくつになっても、母であり、「お母さん」、私はいくつになってもお母さんの子どもです。
秋は湯のぬくもりにまたよみがえる雪崩で逝きし吾子の冷たさ
………千葉市 有村妙子 朝日歌壇2016.11.07
湯のぬくもりにつかるたびに、思い出す。どうして親の私より先に逝ってしまったの。
「ほら見て!」と言う相手亡きさみしさよ秋明菊が咲き始めたのに
……京田辺市 藤田佳予子 朝日歌壇2016.11.13
喪って初めて知るあなたの存在の大きさ。
庭の片隅に咲いた「秋明菊」があなたの居なくなった秋の寂しさを深める。
悲しみは深爪に似て日に幾度触れては痛む失ひしもの …………奈良市 山添聖子 朝日歌壇2016.09.26
残された者のやりきれないの心の痛みが、深爪の痛みとなって蘇ってくる。
何気ない日常の出来事の中に、いやされない悲しみが見事にとらえられていますね。
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(2019.2.27記) (人生を謳う)
※ 参考ブログ 2018.11.04 「逝きて還らぬ人」
① 永遠に座る人なき椅子ひとつ……
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