読書紹介「共喰い」田中慎弥著 第136回芥川賞 受賞作品 集英社刊
生活雑排水が流れ込み、悪臭を放ち、
鯔(ぼら)の子が塊になって泳いでいる河口付近の集落が小説の舞台になっている。
町の停滞ぶりを体現するようなこの川は、女性の「割れ目」にたとえられている。
時代背景は昭和63年。
どうして今、この時代を生きる者を書くのか理解できない。
17歳の遠馬の生活環境も劣悪である。
怪しげな仕事をしている父とその愛人と同居する遠馬。
戦争時に右手を失った別れた母は近くで魚屋を営み、
かぎ爪のついた義手でウナギをさばく。
川が女性の「割れ目」であるなら、頻繁に登場するウナギは、男性の「シンボル」としてのイメージなのか。
女と交わるときに必ず暴力をふるってしまう父のサディズムの血が、
自分にも流れているのではないかと恐れる遠馬。
抑えがたい性への欲求は、
同じ学校の会田千種(ちぐさ)との性交にのめりこんでいく。
台風が近づき、町が水にのまれる中、
父を取り巻く女たちや、遠馬、千種、愛人、魚屋の母たちが、
どのように描かれていくのか。
表現力豊かな文章で、物語はクライマックスを迎える。
経済の低迷、行く先不透明の不確実性の時代。
地震、津波、原発事故と次々に出現する社会的不安。
この混沌とした時代に、
船を乗り出し舵を切るべく政治の力もまた衰退し、
社会は疲弊し、希望を見いだせないまま私たちは閉塞感にとらわれてしまう。
このような社会の中で性に溺れていく構図は、
「共喰い」や先に紹介した「光あれ」などに現れている。
あまりに暗く、陰鬱な内容に、読後感はよくない。
こういう内容の小説は好きではない。
好きか嫌いかは個人的な好みの問題であるが、
しかし、小説は読んで面白くなければ、
貴重な時間を割いて、読書する意味がなくなる。
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