スピノザの『エチカ』と趣味のブログ

スピノザの『エチカ』について僕が考えていることと,趣味である将棋・競馬・競輪などについて綴るブログです。

区別&現実的本性と現実的存在

2019-07-13 19:02:17 | 哲学
 書簡六十三書簡六十五でのチルンハウスEhrenfried Walther von Tschirnhausの主張のうち,スピノザにとって同意できない点がどこにあったのかということの私見は説明できました。では,思惟以外のXという属性attributumにAという様態modiがあり,同様に思惟以外のYという属性に,Aと原因causaと結果effectusの連結connexioと秩序ordoが同一であるA´という様態があるとき,Aの観念ideaとA´の観念はいかにして区別することが可能であるとスピノザは考えているのでしょうか。
                                        
 スピノザの哲学では,ふたつあるいは複数の事物が明確に区別されるとき,その区別distinguereのあり方はふたつしかありません。すなわち実在的区別と様態的区別です。これを示すのは第一部定理四で,属性の相違によって区別される場合が実在的区別で,変状affectioの相違によって区別されるのが様態的区別です。
 AはXの属性の様態で,A´はYの属性の様態です。したがってこれらは属性の相違によって区別されます。よってAとA´の区別は実在的区別です。一方,Aの観念とA´の観念は共に思惟の属性Cogitationis attributumの様態です。ですからAの観念とA´の観念の区別は様態的区別であると思われます。ですが僕の考えではこれは成立しません。なぜなら,もしAとA´が様態的に区別されるのであれば,それらは思惟の属性という同一の属性を原因として発生し,かつ同一の原因と結果の連結と秩序で発生することになり,この場合はAの観念とA´の観念は記号の上で区別されているだけで,実際は同一のものであるとみなさなければならないからです。いい換えればこの場合は,チルンハウスの主張の方が成立し,第二部公理五は誤りであることになります。
 区別はふたつしかないのですから,よってAの観念とA´の観念は実在的に区別されなければなりません。つまり観念の対象ideatumが実在的に区別される場合は,観念もまた実在的に区別されるのです。スピノザが書簡六十四書簡六十六でいっているのは,実際にはこのような意味のことであると僕は解します。

 ほかのだれでもない僕の身体corpusの現実的本性actualis essentiaがなければ,僕の身体が現実的に存在し得ないことは,第二部定義二の意味から明らかだと僕は考えます。ここから分かるように,何かが存在するためにはその何かの本性がその存在を鼎立する必要があります。したがって,一般的に人間の身体の本性が存在するなら,一般に人間の身体は存在することになります。ですがほかならぬ僕の身体が現実的に存在するためにはそれだけでは十分ではありません。そのためにはほかならぬ僕の身体の現実的存在を鼎立する本性がなければならないからです。僕はそれをほかならぬ僕の身体の現実的本性といっているのですから,僕の身体の現実的存在は,僕の身体の現実的本性なしにはあることも考えるconcipereこともできないのです。そしてこのことは,僕の身体の現実的存在に特有のことではありません。現実的に存在する個々の身体は,ほかならぬ個々の身体として現実的に存在しなければならないのですから,そのためにはほかならぬ個々の身体の存在を鼎立するような個々の現実的本性が存在しなければならないからです。よって一般に,あの身体この身体と個別的に峻別することができるどの人間の身体の現実的存在も,個別的に峻別することができる現実的本性なしにはあることも考えることもできません。
 一方,ほかのだれでもない僕の身体の本性が,僕の身体の存在existentiaなしにはあることも考えることもできないということは自明であると僕はいいました。当然ながらこのこともまた,僕の身体の現実的本性に限ったことではなく,個別的に峻別することができるすべての人間の身体の現実的本性に妥当しなければなりません。よって,現実的に存在するある人間をひとりだけ抽出したとき,その人間の身体の現実的存在はその人間の身体の現実的本性なしにはあることも考えることもできないし,逆にその人間の身体の現実的本性は,その人間の身体の現実的存在なしにはあることも考えることもできないものです。よってこの関係は第二部定義二でいわれているある事物とその事物の本性の関係と完全に合致します。よって,第二部定義二は,本性といわれ得るものであればそのすべてに妥当します。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする