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質問に対する答え:tPA静注療法の禁忌事項

2009年05月03日 | 脳梗塞
OTさん、質問ありがとうございます。以下の質問にお答えします。
「私の母親は去年、脳梗塞になりました。病院に着いたのは早かったと聞いていますが、血栓を溶かす薬は危ないからやらない方がいいと言われてしまいました。こういう治療は何を基準にして行われているのですか?」

そうですか。発症後早く到着されたということですが、残念でしたね。その後の経過がよいといいのですが、いかがでしょうか?

さて、到着時間について説明します。
まず第一に、「発症後」というところにポイントがあります。
特に「朝起きてから麻痺がある」というような場合です。この場合には、確実に症状のなかった最終時刻を発症時間とします。
例えばある患者さんが「朝7時に起きたら麻痺が出ていた」とします。
この患者さんが元気であったことを確認できたのが前の晩の寝る直前の夜11時であれば、朝7時にはすでに8時間経過していると計算します。
この患者さんが、「朝6時にトイレに起きたときには何ともなかったが、7時に麻痺が出ていることに気づいた」のであるなら、それは朝6時を発症時刻としますので発症後1時間ということになります。
分かりましたか?
ですから最初は「前の日の夜が最終確認時間!」として搬入されてきた患者さんが、途中から「朝6時にトイレに自分で行ったのを家族がみていた」となると、治療に間に合うことになるのです。

さて次に患者さんが病院に到着されてからの経過時間について考えます。
患者さんが救急車で到着されると、まずどの程度の症状があるかを診察し、それまでの病歴を聴取します。それと同時並行で、採血や心電図、胸部レントゲン、頭部CTやMRIが行われます。

これらの検査を経て、以下の条件を満たしたときにtPA静注療法の適応となります。
1)発症時間が特定されて、発症から3時間以内に投与開始できる場合
2)治療前のCT/MRI検査にて、脳梗塞の所見が全くないかごく軽微な場合
3)脳梗塞の症状が軽症から中等症ぐらいの場合
4)tPA使用の禁忌となる血液検査の異常や、過去に重大な病気のない場合
5)脳卒中の専門医が常駐する、治療体制の整った施設である

これらを満たすためには、採血や検査の結果が出ないといけないので、病院到着後、だいたい1時間程度を要します。
このため発症後2時間以内に病院に到着しないと治療に間に合いません。

またtPA静注療法が危険と考えられる下記のような条件があり、使用しないよう「禁忌(きんき)事項」とされています。お母様はこの条件があったのではないかと想像します。

既往歴   
頭蓋内出血既往
3ヶ月以内の脳梗塞(TIAを除く)
3ヶ月以内の重症な頭部脊髄の外傷あるいは手術
21日以内の消化管あるいは尿路出血
14日以内の大手術あるいは頭部以外の重篤な外傷
治療薬の過敏症
臨床所見  
痙攣,くも膜下出血
出血の合併(頭蓋内,消化管,尿路,後腹膜出血,喀血)
頭蓋内腫瘍,脳動脈瘤,脳動静脈奇形,モヤモヤ病
収縮期圧 185mmHg以上 拡張期圧 110mmHg以上 
血液所見  
ワーファリン服用中でPT-INR 1.7以上      
ヘパリン投与中でAPTTが前値の1.5倍以上または正常以上      
重篤な肝障害 急性膵炎
画像所見  
CTで広汎な早期虚血性変化,CT/MRI上の中心構造偏位  

たくさん条件があるのをご理解いただけましたか?
こういったことを1時間以内にすべてクリアーして、はじめて治療が可能となるのです。

長くなりましたので、もう一つの質問の、「基準」については次回お話ししますね。
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