未破裂脳動脈瘤の治療法として最も有名なもの、それはこのクリッピング術です。
この方法は歴史があり、長期の成績も安定していることが知られています。
具体的には、全身麻酔で頭の皮膚と頭蓋骨の一部を空けて、脳と脳のすきまを少しずつ剥離(はくり)し、動脈瘤の根元を「クリップ」ではさむ方法です。
こう聞くと、まず「おそろしい!」と思ってしまいますよね。私も医者になりたての時にはそう思いました。テレビで手術の場面を見るのも怖いという方が多いと思います。
しかし「頭をあけるのは怖い!」という直感的なことだけで、手術法を選択してはいけないのです。脳の重要な動脈にできたこぶです。もしあやまって動脈自体がつまってしまったりしたら、キズぐらいでは済みません。一生、手足の麻痺や言語障害などに苦しむことになるのです。また最近では小さなキズから手術をする「カギ穴手術」や「脳血管内手術」がよく行われ、テレビや雑誌に出ています。脳血管内手術と普通の手術、さらにはカギ穴手術、のどれが一番良いのでしょうか?
答えは、実は一つではありません。それぞれの動脈瘤の位置やサイズ、形、患者さんの年齢などによりベストチョイスは変わります。しかしここで重要なことがあります。決して一つの方法(クリッピングのみ、または、血管内手術のみ)でしか治療していない施設で治療法選択をしないでください。どうしてもそのドクターが得意とする治療法に偏ってしまいます。ドクターにも悪気はないのです。患者さんを、目の前にいるあなたを助けてあげたいのです。しかしそれぞれの方法をバランスよく行うのが最も良い成績につながることが知られています。最初の選択が偏っていては、良い結果が得られないかもしれません。
さてここで本音トークとして面白いのは、もし私自身に動脈瘤があったらどういう治療法を受けるかということです。正直に言いましょう。まず血管内手術が安全にできる「ネックのせまい」動脈瘤であったら、迷わず血管内手術を行います。「行います」と書いたのは、よほど難しくなければ局所麻酔で自分自身でやりたいと考えているからです。血管内手術では自分自身を最も信頼しているということかもしれませんし、自分自身ならあきらめもつくということかもしれません!(笑)
しかし、もしネックが広い、手術の比較的安全な動脈瘤だったら...?その時は開頭手術を受けます。そして正直なことをいえば、どうせ手術をするのならカギ穴手術ではなく通常の手術を選びます。広い術野で多方向から動脈瘤とその周囲血管を確認し、MEPというモニター(後で説明します)を使って術中に麻痺が出ているかどうか確認をしながら進める手術を受けたいと思います。皮切は髪の毛がはえているところで行うため、どうせキズは見えません。とにかく開頭する以上、キズのことよりも脳に対して一番やさしく安全な方法を選ぶと思います。また、クリッピング術の経験が多く、治療成績がいいドクターを選びます。何でもそうですが、慣れていることは大切ですし、それまでの治療成績がいいことは「無理をしない」、「引き際が良い」、「腕が良い」ことを連想させます。今回は「基本編」ですので、これは基本的な動脈瘤手術についての見解です。難しい動脈瘤はそれほど単純ではありません。また改めてお話しします。
ということで、自分に通常の動脈瘤があって治療を受けるなら、1)ネックが狭いものなら血管内手術、2)ネックが広く手術が比較的安全な場所ならMEPモニター下での通常の手術、を選ぶということです。実は以前、小さな開頭や眉毛の近くの小さなキズから手術をするカギ穴手術も経験しましたが、動脈瘤の場合には観察する方向性が限られることが、どうしても安全性の低下につながってしまうと感じました。カギ穴手術によるクリッピング手術をたくさん行っている先生、ごめんなさい... m(_ _;)m
さて、先程述べたMEPですが、これは手術中に麻痺が出ているかどうかを知ることが出来る優れたモニターです。術野では一見うまく行っているように見えても、実は裏側で細い血管をつまんでしまっているということもあります。その血管があまり重要でなければいいのですが、手足の動きに関係する血管だったりすると手術が終わってから麻痺に気付く...!、という恐ろしいことになります。そうなるともう修正不可能です。手術中に麻痺の有無がわかるMEPモニター。私ならこれがある施設で信頼できるドクターに通常のクリッピング手術を受けます。実はこの方法で広い術野で手術するようになってこの数年間、私自身は未破裂脳動脈瘤クリッピング術において永久合併症を起こしていません。何よりの証明だと思います。
以上、基本的な脳動脈瘤クリッピング術について、私見を交えてお話ししました。参考になりましたでしょうか?ご意見があればぜひコメントを入れてくださいね。
この方法は歴史があり、長期の成績も安定していることが知られています。
具体的には、全身麻酔で頭の皮膚と頭蓋骨の一部を空けて、脳と脳のすきまを少しずつ剥離(はくり)し、動脈瘤の根元を「クリップ」ではさむ方法です。
こう聞くと、まず「おそろしい!」と思ってしまいますよね。私も医者になりたての時にはそう思いました。テレビで手術の場面を見るのも怖いという方が多いと思います。
しかし「頭をあけるのは怖い!」という直感的なことだけで、手術法を選択してはいけないのです。脳の重要な動脈にできたこぶです。もしあやまって動脈自体がつまってしまったりしたら、キズぐらいでは済みません。一生、手足の麻痺や言語障害などに苦しむことになるのです。また最近では小さなキズから手術をする「カギ穴手術」や「脳血管内手術」がよく行われ、テレビや雑誌に出ています。脳血管内手術と普通の手術、さらにはカギ穴手術、のどれが一番良いのでしょうか?
答えは、実は一つではありません。それぞれの動脈瘤の位置やサイズ、形、患者さんの年齢などによりベストチョイスは変わります。しかしここで重要なことがあります。決して一つの方法(クリッピングのみ、または、血管内手術のみ)でしか治療していない施設で治療法選択をしないでください。どうしてもそのドクターが得意とする治療法に偏ってしまいます。ドクターにも悪気はないのです。患者さんを、目の前にいるあなたを助けてあげたいのです。しかしそれぞれの方法をバランスよく行うのが最も良い成績につながることが知られています。最初の選択が偏っていては、良い結果が得られないかもしれません。
さてここで本音トークとして面白いのは、もし私自身に動脈瘤があったらどういう治療法を受けるかということです。正直に言いましょう。まず血管内手術が安全にできる「ネックのせまい」動脈瘤であったら、迷わず血管内手術を行います。「行います」と書いたのは、よほど難しくなければ局所麻酔で自分自身でやりたいと考えているからです。血管内手術では自分自身を最も信頼しているということかもしれませんし、自分自身ならあきらめもつくということかもしれません!(笑)
しかし、もしネックが広い、手術の比較的安全な動脈瘤だったら...?その時は開頭手術を受けます。そして正直なことをいえば、どうせ手術をするのならカギ穴手術ではなく通常の手術を選びます。広い術野で多方向から動脈瘤とその周囲血管を確認し、MEPというモニター(後で説明します)を使って術中に麻痺が出ているかどうか確認をしながら進める手術を受けたいと思います。皮切は髪の毛がはえているところで行うため、どうせキズは見えません。とにかく開頭する以上、キズのことよりも脳に対して一番やさしく安全な方法を選ぶと思います。また、クリッピング術の経験が多く、治療成績がいいドクターを選びます。何でもそうですが、慣れていることは大切ですし、それまでの治療成績がいいことは「無理をしない」、「引き際が良い」、「腕が良い」ことを連想させます。今回は「基本編」ですので、これは基本的な動脈瘤手術についての見解です。難しい動脈瘤はそれほど単純ではありません。また改めてお話しします。
ということで、自分に通常の動脈瘤があって治療を受けるなら、1)ネックが狭いものなら血管内手術、2)ネックが広く手術が比較的安全な場所ならMEPモニター下での通常の手術、を選ぶということです。実は以前、小さな開頭や眉毛の近くの小さなキズから手術をするカギ穴手術も経験しましたが、動脈瘤の場合には観察する方向性が限られることが、どうしても安全性の低下につながってしまうと感じました。カギ穴手術によるクリッピング手術をたくさん行っている先生、ごめんなさい... m(_ _;)m
さて、先程述べたMEPですが、これは手術中に麻痺が出ているかどうかを知ることが出来る優れたモニターです。術野では一見うまく行っているように見えても、実は裏側で細い血管をつまんでしまっているということもあります。その血管があまり重要でなければいいのですが、手足の動きに関係する血管だったりすると手術が終わってから麻痺に気付く...!、という恐ろしいことになります。そうなるともう修正不可能です。手術中に麻痺の有無がわかるMEPモニター。私ならこれがある施設で信頼できるドクターに通常のクリッピング手術を受けます。実はこの方法で広い術野で手術するようになってこの数年間、私自身は未破裂脳動脈瘤クリッピング術において永久合併症を起こしていません。何よりの証明だと思います。
以上、基本的な脳動脈瘤クリッピング術について、私見を交えてお話ししました。参考になりましたでしょうか?ご意見があればぜひコメントを入れてくださいね。
さて、今回の「自分がオペを受けるとしたら?」ですが、ブログを拝見させていただき(仮に、拝見させていただかなかったとしても)、ネックが狭いものだったら、是が非でも吉村先生にお願いしたいと思います。
お忙しい中を時間を割いて、一般人にもわかりやすい表現と一般論を教えて頂いた後で先生の見解を述べていただいてとても好感がもてます。
さて、ネックが広い、狭いの『ネック』というのが少し判りづらいのですが、また教えて下さい。
実は当方、術中MEPを施行しているコメディカルの人間です。
脳表電極にてクリッピング術をしているのですが、上肢ターゲットとしては私たちの教科書的には20~30㎜A刺激は許容であると書かれていました(確かに まだ確立しきれてない分野ではありますが)
しかしながら Drからは20㎜A以上は危険であると伺いました
色々調べたのですが 刺激閾値についてのしっかりした文献を見つけることができずにいます。
よろしければ ご教示くださると幸いです
合わせて 筋弛緩剤の影響は どの程度(体内濃度)で許容なのかも教えてください
長期の成績が安定しているクリッピング術。逆に言えばこれ以上の進歩はないということか。それに対してこの4年で大きく発展したコイリング術。新しいコイルや専用ステントなど画期的なツールも登場しましたよね!?
この基本編での本音トークにも変化が生じるのか「教えてほしい、、、」私がそうだったように、きっとこれからも参考になさる方が大勢いらっしゃるはずです!
最後に血管内手術はもちろんのこと、開頭手術も受けるならやはり先生だ!と確信を持ちました。
Posted by MRK @2012/1/28