脳卒中をやっつけろ!

脳卒中に関する専門医の本音トーク
 最新情報をやさしく解説します 

日本脳神経外科コングレス

2009年05月16日 | 学会/研究会
今、日本脳神経外科コングレス参加のため大阪に来ています。
今日のランチョンセミナーで講演を依頼されたのです。
講演はばっちり準備しましたし、発表もうまく行きましたが、とても気にかかっていることがありました。
それはこの学会の運営委員に立候補していたからです。

この学会は脳神経外科の学会で2番目に大きく、主に脳神経外科医の生涯教育を目的としています。
http://wwwsoc.nii.ac.jp/jcns/
自分が大学病院の研修医だった頃、はじめて参加した大きな学会がこのコングレスでした。
千葉の幕張メッセで行われていましたが、日本のトップレベルはこんなすごいんだと感激した記憶があります。
国循に行った頃から、この学会で講演することに何となくあこがれを抱いていました。
だから去年の学会で国循の宮本 享先生(現 京都大学)にはじめて依頼して頂いた時には、すごく感激したのです。

当科の岩間教授はこれまでこの学会の運営委員をされていましたが、年齢が50歳までという規定があるため今回は私に立候補するように言われました。
しかしコングレスです。「自分には荷が重い」と正直思いましたが、年齢制限のある学会です。
任期は三年。自分のチャンスは今回と次回の2回しかない。出てみることにしました。
先輩達には「出るからには当選しろ!」と檄を飛ばされ、同門の先生はもちろん、全国の知り合いの先生に自分でメールや電話をしてお願いしました。
皆さん、わざわざ予定を変更して投票に来てくださる先生や、「自分は今回参会しないので」と知り合いに頼んでくださる先生がおられました。
皆さんのあまりの温かいお言葉に、ぐっと来てしまうこともありました。

しかし投票会場に入るとすごい人です。見渡しても自分の直接の知り合いなどわずか。とても無理と思いました。
「その場で開票されると格好悪いな」と思いましたが、マークシートです。
普段の試験委員の経験から数分で結果が出ることを知っています。
でもその場では結果は公表されませんでした。ちょっとほっとしました。
その後、会場にいましたが、連絡なし。
やっぱりダメだったかなと思い始めた頃、岩間教授から電話があり、なんと当選したとのこと!
「同門の先生達と全国の友達の力だ」。そう思いました。
持つべきものは友。本当にありがたいです。

直接お礼を言えなかった先生方、本当にありがとうございました。
また普段、講演の機会を頂いている企業の方達にも感謝します。
みなさんのご厚意に答えるためにも一層がんばろうと思います。
どうぞよろしくお願いいたします。
コメント (2)
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手術動画掲載

2009年05月14日 | 閑話休題
皆さんお元気ですか?
久しぶりにホームページの方に修正を加えました。
頸動脈内膜はくり術
脳動脈瘤クリッピング
脳動脈瘤コイル塞栓術
の3つをナレーション入りで新たに掲載しました。
ぜひ一度みてください。
http://www.e-oishasan.net/doctors_site/yoshimura/
のトピックスのところにあります。

自分のした手術ですが、解説のナレーションを入れるのに、この3つで一晩かかってしまいました。
しかも改めて聞くと、下手なナレーションだなあ(^^;)
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脳梗塞の治療:発症6時間以降

2009年05月10日 | 脳梗塞
OTさんの質問にお答えします。
発症後6時間を過ぎると、もう普通の点滴しかできないというのが一般的な常識です。
しかし私たちはこの時間制限にも挑戦しています。

以前にお話しした脳梗塞の最も鋭敏な検出法はMRIの拡散強調画像です。
6時間を超えた症例でもこの検査で脳梗塞が広い範囲でなければ治療のチャンスがあるはずです。
実際これまでの私たちの経験では、どうやらこの考えは正しいようで、良くなる患者さんが多く存在します。

人の体は一人一人違う。
だから「脳の血管が詰まる」という状態でも、どのぐらい脳の血流が残っているか、脳梗塞になるまでどのぐらいかかるかというのは、一人一人違うのです。

このため私たちは「6時間を過ぎた症例」「発症時刻不明な症例」に対して、MRIで脳梗塞がないか狭い範囲の場合に血栓溶解療法(この場合はカテーテルを用いる方法です)を行う臨床研究を、当院の倫理委員会に申請中です。
おそらくは効果がある、私たちはそう考えていますが、ひょっとしたら運が良かっただけかもしれません。
まず承認後に少数例治療してみて、もし効果があるようなら継続していこうと思います。

前にも紹介したうちのチームの榎本先生がプロトコールを作ってくれていますよ!(写真 真ん中)


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日本におけるtPA静注療法の基準:J-ACT

2009年05月05日 | 脳梗塞
tPA静注療法が行われるようになった「基準」について説明します。

米国でのtPA静注療法に関する臨床試験の結果は、1995年に発表されました。
この研究では発症3時間以内の脳梗塞を対象にして、体重1kg当たり0.9mgのtPA製剤(アルテプラーゼ)が投与されました。
その結果、3か月後に「障害なし」であった患者さんは、tPA群39%、偽薬群26%とtPAのほうが良い結果でした<上図>。
これを受けて、tPAは1996年に米国で承認され、その後、世界40か国以上でも使われるようになりました。

一方、日本では6年後の2002年から、J-ACT(Japan Alteplase Clinical Trial)という臨床試験が行われました。
発症後3時間以内の脳梗塞103人が対象で、日本人では脳出血が元々多いことを勘案して、体重1kg当たり0.6mgと海外用量の3分の2が投与されました。
量を減らしたのですが、上図のごとく、3か月後の「障害なし」はJ-ACTでは37%、「軽~中等度障害」は20%と、米国の試験よりわずかに劣りますが、死亡例は日本での臨床治験の方が少ないという結果でした。

以上の結果から、厚生労働省に承認申請が行われ、2005年10月11日から、tPA製剤であるアルテプラーゼが脳梗塞に使えるようになったのです。

これがtPA静注療法の日本における基準です。

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質問に対する答え:tPA静注療法の禁忌事項

2009年05月03日 | 脳梗塞
OTさん、質問ありがとうございます。以下の質問にお答えします。
「私の母親は去年、脳梗塞になりました。病院に着いたのは早かったと聞いていますが、血栓を溶かす薬は危ないからやらない方がいいと言われてしまいました。こういう治療は何を基準にして行われているのですか?」

そうですか。発症後早く到着されたということですが、残念でしたね。その後の経過がよいといいのですが、いかがでしょうか?

さて、到着時間について説明します。
まず第一に、「発症後」というところにポイントがあります。
特に「朝起きてから麻痺がある」というような場合です。この場合には、確実に症状のなかった最終時刻を発症時間とします。
例えばある患者さんが「朝7時に起きたら麻痺が出ていた」とします。
この患者さんが元気であったことを確認できたのが前の晩の寝る直前の夜11時であれば、朝7時にはすでに8時間経過していると計算します。
この患者さんが、「朝6時にトイレに起きたときには何ともなかったが、7時に麻痺が出ていることに気づいた」のであるなら、それは朝6時を発症時刻としますので発症後1時間ということになります。
分かりましたか?
ですから最初は「前の日の夜が最終確認時間!」として搬入されてきた患者さんが、途中から「朝6時にトイレに自分で行ったのを家族がみていた」となると、治療に間に合うことになるのです。

さて次に患者さんが病院に到着されてからの経過時間について考えます。
患者さんが救急車で到着されると、まずどの程度の症状があるかを診察し、それまでの病歴を聴取します。それと同時並行で、採血や心電図、胸部レントゲン、頭部CTやMRIが行われます。

これらの検査を経て、以下の条件を満たしたときにtPA静注療法の適応となります。
1)発症時間が特定されて、発症から3時間以内に投与開始できる場合
2)治療前のCT/MRI検査にて、脳梗塞の所見が全くないかごく軽微な場合
3)脳梗塞の症状が軽症から中等症ぐらいの場合
4)tPA使用の禁忌となる血液検査の異常や、過去に重大な病気のない場合
5)脳卒中の専門医が常駐する、治療体制の整った施設である

これらを満たすためには、採血や検査の結果が出ないといけないので、病院到着後、だいたい1時間程度を要します。
このため発症後2時間以内に病院に到着しないと治療に間に合いません。

またtPA静注療法が危険と考えられる下記のような条件があり、使用しないよう「禁忌(きんき)事項」とされています。お母様はこの条件があったのではないかと想像します。

既往歴   
頭蓋内出血既往
3ヶ月以内の脳梗塞(TIAを除く)
3ヶ月以内の重症な頭部脊髄の外傷あるいは手術
21日以内の消化管あるいは尿路出血
14日以内の大手術あるいは頭部以外の重篤な外傷
治療薬の過敏症
臨床所見  
痙攣,くも膜下出血
出血の合併(頭蓋内,消化管,尿路,後腹膜出血,喀血)
頭蓋内腫瘍,脳動脈瘤,脳動静脈奇形,モヤモヤ病
収縮期圧 185mmHg以上 拡張期圧 110mmHg以上 
血液所見  
ワーファリン服用中でPT-INR 1.7以上      
ヘパリン投与中でAPTTが前値の1.5倍以上または正常以上      
重篤な肝障害 急性膵炎
画像所見  
CTで広汎な早期虚血性変化,CT/MRI上の中心構造偏位  

たくさん条件があるのをご理解いただけましたか?
こういったことを1時間以内にすべてクリアーして、はじめて治療が可能となるのです。

長くなりましたので、もう一つの質問の、「基準」については次回お話ししますね。
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