ハードバピッシュ&アレグロな日々

CD(主にジャズ・クラシック)の感想を書き留めます

モーツァルト/交響曲第30番、31番、32番、34番

2019-12-25 23:59:29 | クラシック(交響曲)
本日はモーツァルトの中期の交響曲を4曲取り上げたいと思います。生涯で41曲の交響曲を書き残したモーツァルトですが傑作は第35番以降に集中しており、それ以前で有名なのは第25番と第29番くらいであとはマイナーな作品ばかりです。今日取り上げる4曲もあえて言うなら第31番「パリ」はそれなりに知られていますが、第30番、第32番、第34番は演奏される機会もほとんどなく、よほどのモーツァルト・マニアでなければまず知らないでしょう。ただ、そこは天才モーツァルトだけあって聴き込めばそれなりに魅力がある曲ばかりです。今回はモーツァルトの一大権威であるカール・ベームがベルリン・フィルハーモニーを指揮した演奏をもとにこれらの曲を紹介しましょう。



まずは第30番から。モーツァルトが18歳の時に書いた曲で宮廷音楽的な華やかさの感じられる曲です。特に第1楽章が素晴らしく、冒頭から華やかで気品のある旋律が次々と現れます。第4楽章の軽快なプレストもなかなか良いですね。ただ、第2楽章アンダンティーノと第3楽章メヌエットは正直単調で、まだ成熟しきってない感じです。

続く第31番「パリ」はその4年後に書かれた3楽章形式の交響曲です。この時期モーツァルトはわずか半年ですがパリに滞在しており、その時に書かれた曲です。結局パリでのモーツァルトの演奏活動は成功とは言えず、すぐに故郷のザルツブルクに帰ることになるのですが、数少ない成果と言って良いのがこの曲です。特に第1楽章はスケールも大きく、後期の交響曲群と比較してもひけを取らない名曲と言って過言ではないでしょう。ただ、第2楽章は宮廷音楽風のアンダンテでやや平板かな。終楽章である第3楽章は再び力強いアレグロで締めくくります。

次いで第32番ですが、こちらは交響曲と題しながら全部で8分しかありません。なんでそんなに短いと思うかもしれませんが、交響曲の語源のシンフォニアはもともとオペラの序曲のことを指し、バロック時代はこのくらいの規模だったようです。ただ、18世紀も後半になると4楽章形式で20分以上の交響曲が主流になっていますので、なぜこの曲だけ古いシンフォニア形式にしたのかはよくわかりません。もともとオペラの序曲として書かれた説が有力ですが、それを交響曲として発表したことの説明にはなっていませんしね。とは言え、経緯はともかく曲自体はいかにもモーツァルトらしいめくるめく旋律で、8分あまりの中で急→緩→急の展開でうまくまとまっています。

最後は第34番。このCDではなぜか第33番が収録されていませんが、それはまた別の機会で聴くことにしましょう。この次の第35番「ハフナー」から続く後期の傑作群の前触れとでも言うべき作品です。第1楽章は勇ましい冒頭部で幕を開ける堂々とした曲。第2楽章は美しいアンダンテ。中期の交響曲は緩徐楽章が弱い傾向にありますがこの曲は素晴らしいですね。第3楽章のメヌエットはもともとなく、ベームがわざわざ別の曲を引っ張ってきたものだそうですがはっきり言って蛇足。ない方が良いですね。最終楽章はきびきびした弦楽アンサンブルが印象的で、フィナーレをビシッと締めくくります。以上、マイナーな交響曲ばかりですが、モーツァルトに駄曲なしをあらためて実感させてくれる1枚と言えます。
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チャイコフスキー/交響曲第2番「小ロシア」

2019-12-18 20:34:56 | クラシック(交響曲)
本日はチャイコフスキーの交響曲第2番「小ロシア」です。私の場合なぜかチャイコフスキーの交響曲は番号の後ろから順に聴いてきており、最初が第6番「悲愴」で、その後第5番第4番→番号なしのマンフレッド交響曲第3番「ポーランド」の順に聴いてきました。一般的には第4番以降が「後期3大交響曲」と呼ばれ、傑作とされていますが、個人的には第3番もかなり好きです。で、この第2番ですが、結論から言うと「まあまあ」と言ったところ。チャイコフスキーらしい歌心溢れる旋律が全編に散りばめられており、ツボを押さえた曲ではあるんですが、一方で耳について離れないような旋律もなく、チャイコフスキー作品の中で地味な存在なのもむべなるかなと言ったところです。



ちなみに副題の「小ロシア」は帝政ロシア時代のウクライナの呼び名で、第1楽章と第4楽章にウクライナ民謡をもとにした旋律が使われているからだとか。第3番「ポーランド」も同じような理由だったのでこの辺のタイトルの付け方は適当です。第1楽章冒頭にホルンが奏でる物哀しげな旋律がまさにウクライナ民謡で、そこにオーケストラが加わって壮麗なクラシック音楽に仕立て上げるところがチャイコフスキーの手腕ですね。第2楽章は穏やかなアンダンティーノで第3楽章は勇ましいスケルツォ。個人的にはこの中間楽章が他の交響曲に比べて弱い気がします。第4楽章は再びウクライナ民謡をベースにしながらも、いかにも交響曲のフィナーレらしく華やかなオーケストレーションを施し、最後はド派手なクライマックスを迎えます。曲全体の完成度はともかく最初と最後の盛り上がりはなかなかのものです。CDはムスティスラフ・ロストロポーヴィチ指揮ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団のものです。
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ヴォーン=ウィリアムズ/ロンドン交響曲

2019-12-12 20:55:36 | クラシック(交響曲)
本日はイギリスの作曲家レイフ・ヴォーン=ウィリアムズの「ロンドン交響曲」をご紹介します。クラシックの世界で「ロンドン交響曲」は2種類あり、ハイドンがロンドン滞在中に書いた12曲の交響曲、その中でも最も有名な交響曲第104番が「ロンドン交響曲」と呼ばれます。ただ、これはハイドン自身が名付けたわけではなく、後世の人が名付けたいわゆるニックネーム。一方、今日ご紹介する作品は作曲者自身が命名し、ロンドンの街の情景にインスピレーションを受けて書き下ろした正真正銘(?)の「ロンドン交響曲」です。とは言えリヒャルト・シュトラウスの「アルプス交響曲」のような純粋な標題音楽ではなく、形式的にはあくまで伝統的な4楽章形式です。ただ、作曲家自身がインスピレーションの基となった情景を書き残しており、それを頭に入れて聴くとより曲の理解が深まります。



まず第1楽章がロンドンの中心地シティの朝。夜明けの静寂のような始まりから、「オペラ座の怪人」そっくりのテーマが現れ(もちろん本曲の方が先ですが)、その後は活気にあふれた賑やかな展開となります。第2楽章は秋の午後の広場の風景で、澄み切った秋空を思わせる美しい旋律です。第3楽章はスケルツォで夜の盛り場を描いたそうですが、そんなに騒々しくはなく、旋律はあくまで素朴です。第4楽章は特に風景描写はありませんが、曲のフィナーレを飾る壮麗な雰囲気です。ゆったりした行進曲風の前半部分から力強い中間部を経て、最後は夜の帳が下りるように静かに幕を閉じます。CDはサー・エイドリアン・ボールト指揮ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団のものを買いました。と言うより国内盤で出回っているのはこれぐらいしかありません。本国イギリスはじめ欧米ではそれなりに人気のあるヴォーン=ウィリアムズですが、日本での浸透度はまだまだですね。でも、この曲なんかは旋律も親しみやすいですし、もっと人気が出ても良いと思うのですが・・・
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ショスタコーヴィチ/交響曲第10番

2019-11-19 23:24:23 | クラシック(交響曲)
本日はショスタコーヴィチの交響曲第10番を取り上げます。ショスタコーヴィチについては本ブログで取り上げるのは初めてですね。20世紀で最も偉大な作曲家と呼ばれ、交響曲を15曲、ピアノ、ヴァイオリン、チェロのための協奏曲を2曲ずつ、その他に室内楽、オペラ、映画音楽にいたるまで多くの作品を残したショスタコーヴィチですが、私のコレクションにはほとんどありません。過去にヴァイオリン協奏曲やチェロ協奏曲を聴きましたが前衛的で難解ですし、有名な交響曲第5番や第7番も全体的に重苦しくて親しみが持てませんでした。ただ、今日取り上げる第10番に関しては比較的すんなりと耳に馴染みました。それは私自身がいろんな作曲家の音楽を聴いて間口が広がったのもあるでしょうし、この作品自体がショスタコーヴィチの全交響曲の中で最も演奏機会が多く広く親しまれている作品ということもあるでしょう。今回購入したのはヘルベルト・フォン・カラヤン指揮ベルリン・フィルハーモニーのCDですが、実はカラヤンにとってこれが唯一録音したショスタコーヴィチ作品だそうです。レパートリーの広いカラヤンにしては意外ですが、カラヤンにとってショスタコーヴィチは同世代の作曲家(カラヤンが2歳下)ですのであまりにリアルタイム過ぎたのかもしれません。



肝心の曲の内容ですが、いくらショスタコーヴィチの中では聴きやすいと言っても甘美な旋律などは一切なく、暗く重苦しい旋律が全体を支配しています。第1楽章は22分にも及ぶ長大な楽章でこれだけで全体の半分くらいあります。基本的に同じような旋律の繰り返しですが、暗く物憂げな冒頭部分から徐々に盛り上がって行き、中間部で最高潮に達します。その後は暗い曲調に戻り再び静かに幕を閉じます。続く第2楽章は一転して4分ほどの短さのエネルギッシュな楽章で、後半への「つなぎ」のような役割を果たしています。第3楽章は終始不安げな旋律。第4楽章で爆発する前の「タメ」の部分と言って良いでしょう。第4楽章は文句なしに本曲のハイライトで、特に5分過ぎからフィナーレまでの怒濤の展開はそれまでの暗く陰鬱な展開を振り払うようなカタルシスを得られます。ショスタコーヴィチの交響曲と言えば第5番のフィナーレも有名ですが、同じ旋律の繰り返しがややくどい第5番よりこちらの方がすっきりした終わり方と思います。これまで苦手でしたがショスタコーヴィチの他の交響曲も聴いてみようかと思わせる1枚でした。
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エルガー/交響曲第1番&第2番

2019-10-03 22:20:22 | クラシック(交響曲)
本日はエドワード・エルガーの交響曲2曲をご紹介したいと思います。エルガーについては本ブログでもたびたび取り上げていますが、彼の場合「威風堂々」と言う超有名曲の存在が実像を掴みにくくしているような気がします。「威風堂々」は言うまでもない名曲で旋律もシンプルで分かりやすいのですが、エルガーにはどちらかと言うとチェロ協奏曲ヴァイオリン協奏曲のように最初は取っつきにくいが噛めば噛むほど味が出るタイプの楽曲が多いと思います。今日取り上げる2曲の交響曲も決して広範な人気を有しているとは言えませんが、地味ながら充実した傑作だと思います。

作曲時期は第1番が1908年、第2番は1911年で、どちらもエルガーが50代の円熟期に書かれた作品です。第1番は第1楽章冒頭から「威風堂々」第1番の中間部を思い起こさせる壮麗な旋律で幕を開けます。この旋律はその後もたびたび現れ、本曲のメイン主題とも呼べる重要な旋律です。第2楽章は勇ましい行進曲風で中間部は楽しげな舞曲風。第3楽章は哀愁を帯びた緩徐楽章で美しい弦楽合奏が印象的です。第4楽章は前半は不安げな旋律ですが、後半になると再びメイン主題が現れそのまま輝かしいフィナーレを迎えます。

第2番は第1楽章がvivace e nobilementeと記されており、文字通り活発でいて気高い旋律が魅力的です。第2楽章はラルゲット。全体的に哀調を帯びていますが中間部と後半に静かな盛り上がりを見せます。第3楽章はエネルギッシュなロンド。第4楽章は後半に向けて盛り上がり、そのまま華々しく終わるかと思いきや、最終盤で再び第1楽章冒頭の気高い旋律が現れ、消え入るように静かに幕を閉じます。余韻を残す美しい終わり方ですね。

 

CDはサー・ゲオルク・ショルティ指揮ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団のものです。第1番には序曲「南国にて」、第2番には序曲「コケイン」がそれぞれ収録されています。うち「コケイン」に関しては以前に当ブログでも紹介したので割愛します。「南国にて」は別名を「アラッシオ」とも言い、エルガーが旅行で訪れたイタリアの町の名前です。当時のイギリスのセレブ達は冬になると暗く寒い本国を抜け出し、イタリアやフランスの地中海で長期滞在するのが恒例でした。この曲もイタリアの陽気な雰囲気を表した色彩豊かな名曲です。
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