本日はチェコの作曲家ヨセフ・スークをご紹介します。チェコと言えば思い浮かぶのがドヴォルザーク、スメタナ、ヤナーチェク、人によってはマルティヌーの名前を挙げる人もいるかもしれません。スークは彼らに比べるとマイナーで録音も少ないです。同名の孫が世界的ヴァイオリニストとして活躍していましたのでむしろそちらの方が有名かもしれません。1874年生まれで10代の頃よりドヴォルザークに師事し、長じてはドヴォルザークの娘と結婚するなど公私にわたってドヴォルザークと関係の深い作曲家です。作風的にも当然のことながら強い影響を受けており、特に初期の作品はいかにもチェコ国民楽派と言った感じの民族色を強く感じられる作風です。中期以降はドヴォルザークの影響下から脱し、よりモダンで複雑な作風に移行したようですが、今日取り上げる3曲はいずれも20代の時に書かれた曲で民族色豊かで旋律的にもわかりやすい曲ばかりです。CDはナクソス盤で、演奏はジョアン・ファレッタ指揮バッファロー・フィルハーモニー管弦楽団です。ファレッタとナクソスの組み合わせはレスピーギの「教会のステンドグラス」でも取り上げましたが、隠れた名曲の発掘に力を入れているようです。
まず、「幻想曲」から。こちらは単一楽章で23分半ほどの作品でヴァイオリンソロを大きくフィーチャーしています。ナクソス盤のソリストはミヒャエル・ルートヴィヒと言うあまり聞いたことないヴァイオリニストですが見事な演奏を披露しています。曲はスペクタキュラーなオーケストラサウンドと情熱的なヴァイオリンソロが融合した佳曲で、中間部では民族舞踊的な旋律も随所に盛り込まれています。
続く「おとぎ話」はタイトル通り「ラドゥースとマフレナ」と言う古い民話を下敷きに作られた曲です。敵対する2つの国の王子ラドゥースと王女マフレナが禁断の恋に落ち、艱難辛苦を乗り越えて結ばれると言うストーリーで、4つの曲で構成される組曲です。1曲目は「ラドゥースとマフレナのまことの愛と苦悩」で2人が運命の恋に陥る様が甘美な旋律で描かれます。とりわけ美しいヴァイオリンソロが絶品です。2曲目「白鳥と孔雀の戯れ」は陽気なスケルツォで、スラヴ風の楽しい民族舞曲です。3曲目は「葬送音楽」で文字通りやや暗め。冒頭の旋律がドヴォルザークの序曲「自然の中で」によく似ています。4曲目「ルナ王妃の呪いと愛の勝利」は前半がラドゥースが呪いをかけられる場面の描写でオーケストラがおどろおどろしく鳴り響きますが、後半は呪いが解けて2人が結ばれる様が美しく壮麗な旋律で表され、感動的なフィナーレを迎えます。
最後を飾るのは「幻想的スケルツォ」。こちらは15分弱の小品で、スケルツォと言うだけあって軽快なリズムの曲です。基本的に同じ旋律の繰り返しですが、耳について離れない印象的な旋律です。以上3曲とも魅力的な曲ばかりで、特に「おとぎ話」は個人的にはスメタナの「わが祖国」にも劣らないチェコ音楽の傑作と思います。