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映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

まともじゃないのは君も一緒

2021年07月18日 | 映画(ま行)

普通って何?

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人とのコミュニケーションが苦手、数学一筋の予備校講師・大野(成田凌)。
このままずっと一人でいることに不安を覚えますが、
世間知らずで、「普通」がどういうことなのかわかりません。

教え子の香住(清原果耶)は、そんな大野をズバリ「普通じゃない」と指摘します。

香住は、近頃テレビ番組の出演なども多い文化人・宮本(小泉孝太郎)に憧れているのですが、
しかし、宮本には恋人・美奈子(泉里香)がいる。
この際、大野に恋愛体験をさせるという名目で、
美奈子と接近するよう策略を巡らしますが・・・。

香住は、大野が自分と話しているときは
トンチンカンな物言いをしてまともな会話にならないのに、
美奈子と話すときには会話もスムーズで楽しそうなことに嫉妬してしまいます。

なんだかんだ言っても、大野はやはり大人だし、
大人びたことを言っても、香住は高校生。

そんな様子が見えてくるあたりが、いい感じです。
そして、香住の憧れる宮本はそもそもしょーもない人物だった・・・と。
(ただし、香住が高校生であることを知って、手出しを止めるあたりは、
一応の良識を持っているわけで、そこはよかった。)

香住と大野はそれぞれに気づいていきます。
普通ってなんだ? 
普通じゃなくたって、自分は自分でいいじゃないか。

そうなんですよね。
けれど、普通じゃなくたっていい、と自分は思うのに、
世間がそれを認めないからつらくなる。

「普通」の壁を打ち壊すのはそう簡単じゃないけど、
互いをその人のままに受け入れられるような
世の中でありたいものです。

清原果耶さん、これまでのイメージと少し違うのですが、こういうのもいいです。

 

<WOWOW視聴にて>

「まともじゃないのは君も一緒」

2021年/日本/98分

監督:前田弘二

脚本:高田亮

出演:成田凌、清原果耶、山谷花純、小泉孝太郎、泉里香

 

ラブコメ度★★★★☆

満足度★★★★☆

 


マーウェン

2021年06月19日 | 映画(ま行)

フィギュアの世界で

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実話に基づく物語。

5人の男から暴行を受け、瀕死の重傷を負ったマーク(スティーブ・カレル)。
昏睡状態から目覚めると自分の名も覚えておらず、歩くこともままならない。
そして体の状態が落ち着いてからも、暴力的なことを目にすると
パニック状態になるというPTSDに苦しみます。
そんな彼が、リハビリのためにフィギュアの撮影に取り組むようになります。

それは、第二次世界大戦下のベルギー、架空の町「マーウェン」。
そこではGIジョーのホーギー大佐と5人のバービー人形が、
ナチス親衛隊と日々戦いを繰り広げているという設定で、
マークの中でストーリーが進みます。
そんなシーンを人形で描き出して写真を撮るのです。
そしてそんな風変わりな写真が評判となり、評価されて、
やがて個展を開くまでに。

マークには、女性用の靴に非常に愛着があって、
ハイヒール等の何百足ものコレクションがあります。
時にはそれを履くことに喜びを感じることも。
ある日酒場で自分のそんなことを口にして、
LGBTに嫌悪を抱く連中から暴行を受けてしまった、ということのようです。

マークの住む町の人々はそんな事情を良くわかっていて、
何かと彼のことを気にかけ、助力しようとします。
特に、様々な女性たちが。

だから、「マーウェン」の世界のホーギー大佐は、マークの分身でもあって、
ヒーローではああるけれど、いつも女性たちに囲まれ、守られてもいるのです。
しかし、この世界を本当に牛耳っているのは一人の「魔女」。
どうやら、マークの恐怖の根源はここにありそうで・・・。

フィギュアの世界で物語を作る、というのは一種の「箱庭療法」なのかもしれません。
自分でもよくわからない心の奥底の不安を、「物語」を作ることで浮かび上がらせて行く。

なかなか興味深い話なのでした。

本作はそのフィギュアの物語世界を、映像として表わしているのです。
モーションキャプチャーで、人の動きを人形が動いている様な、不思議な感じに表現しています。
そこはロバート・ゼメキス監督ですからね。

でも始めはちょっと面白いと思ったそのようなシーンも次第に飽きてきて、
全体的にはなんだかとりとめなくピンと来ない感じになってしまったような・・・。

 

<WOWOW視聴にて>

「マーウェン」

2018年/アメリカ/116分

監督:ロバート・ゼメキス

出演:スティーブ・カレル、レスリー・マン、ダイアン・クルーガー、メリット・ウェバー

 

CG活用度★★★★☆

満足度★★★☆☆

 


マイ・プレシャス・リスト

2021年06月14日 | 映画(ま行)

知能指数ばかりが重要じゃない

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ニューヨークに住むIQ185のキャリー・ピルビーは、ハーバード大学を飛び級で卒業しました。
しかし、人とのコミュニケーションが苦手で、仕事もなく友人もなし。
セラピスト、ペトロフの元に通っています。

ペトロフはキャリーのために幸せになる6つのリストを提案。
キャリーは別に自分は不幸ではないと思いながらも、
とりあえずリストを実行してみることに・・・。

死ぬ前のいくつかの「やりたいことリスト」などは良くドラマ化されていて、
本作中も誰かがそのことを挙げて揶揄していたのが面白かった。

キャリーが人との交流が苦手になってしまったというのは、
14歳で大学に入学してしまったということに原因があります。
確かに知能は並みの大人以上、でも精神年齢は14歳だし、
大学にいきなり入学してきた14歳の少女と周囲は、
そう簡単に打ち解けられるとも思えない。
どうしてもギクシャクしてしまうので、彼女は引きこもりがちになってしまうのですね。
そして大学を卒業してもまだ18歳。
そして彼女のために父親がみつけたバイトは、人と関わらなくてもいい夜の仕事。
これではますます孤独が募る・・・。

そこで医師は彼女にリストを提案するわけです。

・ペットを飼う
・友だちを作る
・子どもの頃好きだったことをする・・・など。

悪戦苦闘するキャリー。
金魚は死なせてしまうし、
新聞の交際希望欄の男性と会ってみたり・・・

まあ、お定まりの成長譚ではあります。
IQと精神年齢とは別物。
いかに多くの知識があっても、
人とのふれあいの中で得る体験こそが重要ということですね。

<Amazonプライムビデオにて>

「マイ・プレシャス・リスト」

2016年/アメリカ/98分

監督:スーザン・ジョンソン

原作:カレン・リスナー

出演:ベル・パウリー、ガブリエル・バーン、ネイサン・レイン、ウィリアム・モーズリー、ジェイソン・リッター

 

少女の成長度★★★☆☆

満足度★★★☆☆

 


mellow

2021年04月24日 | 映画(ま行)

ありがとう。でも、ごめんなさい。

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以前から録画してあって、なんとなく見そびれていた本作品は、
そもそも洋画なのか、邦画なのかもわからず、とりあえず見てみて驚いた。
今泉力哉監督作品じゃありませんか。
前日「街の上で」を見たばかり。
本作はその一つ前の作品ということのようです。

花屋を営む夏目誠一(田中圭)を中心とした恋愛群像劇。

独身で彼女ナシ、「恋人は花」と人には言う夏目。
そこにはいろいろな人がお客としてやって来たり、
また個人の家へ花を配達して活けたりもしています。
夏目に憧れているらしい中学生の女の子や、
変な恋愛感情を持ってしまったらしい人妻。
花を扱う男性に、ちょっと憧れた気持ちを抱いてしまう感じ、
なんとなくわかる気がします。

そんな夏目が、実のところ最も意識しているようなのは、
父親から代替わりして廃業寸前のラーメン屋を切り盛りする、木帆。
さて、この恋模様はいかに・・・?

作中、様々な人々の不器用な片思いを描き出していきます。
概ね、女子たちは果敢に告白をします。
そして、「ありがとう、でも、ごめんなさい。」そんな言葉が返ってくる。
それでも、皆、結構満足そう。
気持ちを伝えるということで、大方のエネルギーを使い果たしてしまうのかもしれません。
夏目は実に大人の男性で優しくて、確かにいい感じです。

が、いい男過ぎるし、全体にもほんわか良い話すぎる気もします。
それだから私はやはり、「街の上で」の方が好き。

が、改めて考えてみると私、今泉力哉監督作品、ほとんど見ています。

少し前の「his」や「愛がなんだ」もよかった。

今後も注目します!!

<WOWOW視聴にて>

「mellow」

2020年/日本/106分

監督・脚本:今泉力哉

出演:田中圭、岡崎紗絵、志田彩良、松木エレナ、白鳥玉季、ともさかりえ、山下健二郎

 

それぞれの片思い模様度★★★★☆

満足度★★★★☆

 


街の上で

2021年04月23日 | 映画(ま行)

ゆる~い日常のおかしみ

 

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下北沢を舞台に、一人の青年と4人の女性たちの出会いを描きます。

古着屋で働く荒川青(若葉竜也)は、仕事帰りに居酒屋へ行ったり
ライブをのぞいたり、古本屋へ行ったり、
ほとんどこの下北沢内でだる~い日々を過ごしています。
そんな彼が恋人の雪(穂志もえか)から一方的に別れを言い渡されてしまいます。
どうにも納得がいかず未練たらたらの青。
そんなある日、青が自主映画の出演依頼を受けるという非日常的出来事が・・・。

特別な事件が起こるでもなく、ほとんどが何気ない会話のやりとりで、
ゆる~い日常が描かれていきます。
その会話のやりとりを聞いているだけでなんだか面白い。

始めの方で、古着屋のカウンターで、
客の男女ペアの変な会話を聞いている青が描かれています。
ただ聞き逃せない、なんだか変な引っかかりを覚えるような日常の会話。
それを私が傍らでただ黙って聞いているような、
全体がそんな雰囲気の作品なのです。

終盤の路上で繰り広げられる4・5人のこんがらがった会話にはもう、笑うばかり。
随所にクスッと笑えるシーンがちりばめられていますが、
ここばかりは本当に笑ってしまいます。

成田凌さんが『「朝ドラ」に出演している有名俳優』役で登場したのにも笑ってしまいました。
しかも、ちょっとトホホな役柄なんですよ。

エンディングとなったときには、このゆる~いストーリーをもっとずっと見ていたかった、
と残念な気がしたくらいです。
こんな気持ちになるのはめずらしい。

今泉力哉監督、ファンになりました!

 

<サツゲキにて>

「街の上で」

2019年/日本/130分

監督・脚本:今泉力哉

出演:若葉竜也、穂志もえか、古川琴音、萩原みのり、中田青渚、成田凌

 

ゆるさ★★★★☆

満足度★★★★★

 

 


木曜組曲

2021年04月06日 | 映画(ま行)

女たちの競演



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恩田陸さんの原作は確か読んだことがあるのですが、
例によって内容はほとんど覚えていませんでした。
でも実のところ、あまりピンとこなかったような印象が残っていまして、
そのため映画化された本作も見ていなかった次第。

 

 

4年前、謎の自殺を遂げた女流作家・重松時子(浅丘ルリ子)。
時子を偲び、5人の女たちが今年も集まります。

時子の長年の編集者で、同居して身の回りの世話をしていた、えい子(加藤登紀子)。

編集プロダクションを営む靜子(原田美枝子)

ノンフィクションライターの絵里子(鈴木京香)

ミステリ作家の尚美(富田靖子)

純文学作家のつかさ(西田尚美)

皆、書くことに関わる仕事をしていて、えい子以外は時子の親類でもある。
皆時子には一目おかれる新進気鋭の立場で、
毎年時子の家に集まり、食事やワインを楽しむ気のおけない関係なのでした。

ところがこの日、送り主不明の花束が届き、
「みな様の罪を忘れないため、この花束を捧げる」というメッセージが・・・。
時子の死は、自殺ではなかったのか?
女たちは食事をとりながら、4年前の出来事を思い返していきます。

 

きっぱりと証拠固めで結論の出るミステリとはちょっと違う。
言ってみれば心理劇に近い。
本格ミステリにハマっていた私は、そういうところで本作、
物足りなく感じたのだと思います。
でも、今にしてみればこれもまた良しかな、と。

何より本作、実力派女優陣が豪華ですよね。
共演、というか競演。
一見和やかな食事風景でありながら、
どこかそれぞれ胸中に何かを秘めているようなひんやりした部分も感じられる。
いい感じです。
だから本を読むよりも、むしろこちらの方がオススメ。

そしてほとんど20年前の作品なのですが、
皆さん「若いな~」という感じがほとんどしない。
つまり、今も20年前の美しさをほとんど変わりなく保っていらっしゃる。
さすが女優。驚きです。

 

作っている料理がどれもおいしそうで、これも楽しみの一つでした!

 

<WOWOW視聴にて>

「木曜組曲」

2002年/日本/113分

監督:篠原哲雄

原作:恩田陸

出演:鈴木京香、原田美枝子、富田靖子、西田尚美、加藤登紀子、浅丘ルリ子

 

豪華女優競演度★★★★☆

満足度★★★.5

 


MISS ミス・フランスになりたい!

2021年04月05日 | 映画(ま行)

自分らしさのままで

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なんで今時ミスコンの話なのか・・・と思ってよく見たら、
そう思っているのは男子でした!

 

9歳の少年アレックスは、ミス・フランスになることを夢見ています。
でも級友たちはそのことをバカにするのです。

そして24歳になったアレックス(アレクサンドル・ベテール)。
幼なじみのエリアスと偶然再会しますが、
彼は努力の末、子どもの頃の夢をかなえていました。
アレックスには彼が輝いて見えます。
そこで、アレックスも忘れかけていたミス・フランスの夢に向き合おうと思うのです。
下宿先でそのことを明かしたアレックス。
母親のような家主・ヨランダや、ドラァグ・クィーンのローラ等、
個性豊かな仲間たちに支えられ、
男であることを隠したまま、コンテストに出場します。

ミスコンなんて、セクハラの象徴のようなもの・・・という向きもある昨今、
でもこんなふうに美しいものをより美しく見せる催しと思うと、悪くない気もします。
性別も、ミスかミセスも抜きにしてしまえば。

とにかく、このアレックスがキレイなんですよ。
うっとり。
このアレクサンドル・ベテールさんは、パリでジェンダーレスモデルとして活躍しているそうです。
ジェンダーレスモデル! 
今時はそういうのもありなんですね。
日本でもいないのかな?

作中で「あなたはどう頑張っても女にはなれない。でもより女らしくはなれる」
というような言葉がありました。
そうなんですね。
女性は自分の「おんならしさ」を意識しないけれど(意識しすぎると単にいやらしくなる)、
男性だからこそ「おんならしさ」を演出できるのかもしれません。
歌舞伎の女形が、女性以上に女らしさを感じさせるのと同じこと。

アレックスの下宿の皆さんが実にバラエティ豊か。
ドラァグ・クィーンやアラブ系、インド人、アフリカ系・・・
それぞれが個性豊かなので、
アレックスがいきなりミスフランスになりたいといいだしても動じません。
自分らしさのままで、皆生きています!

 

<シアターキノにて>

「MISS ミス・フランスになりたい!」

2020年/フランス/107分

監督:ルーベン・アウベス

出演:アレクサンドル・ベテール、パスカル・アルビロ、イザベル・ナンティ、
   ティボール・ド・モンタレンベール、ステフィ・セルマ

 

自分らしさ★★★★★

満足度★★★★☆

 


ママレード・ボーイ

2021年03月15日 | 映画(ま行)

甘酸っぱさに押しつぶされそう

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吉沢亮さんが見たくて視聴。
気になり出すと、アイドル映画でも少女漫画映画でも見てしまいます。

ある時、2組の夫婦がそろって離婚&ペアを入れ替えて再婚。
こんな嘘のようなところからストーリーは始まります。
互いの夫婦の娘・光希(桜井日奈子)と息子・遊(吉沢亮)は
両親の勝手な言い分のままに、二家族6人の同居に同意せざるを得ません。

光希は遊を「本当は苦いのに、甘さでくるんでいる」ママレードみたいだと思います。
というのも、遊は人知れず父が本当の自分の父親ではないことを悩んでいたのです。

光希と遊は次第に惹かれ合うようになりますが・・・。

 

さすが原作が少女漫画。
いい年したおばさんも、なんだか甘酸っぱさに押しつぶされそうになってしまいました。
純粋な2人の気持ちがねえ・・・。

ストーリーを振り返ってみれば、
この二組の夫婦が何でこんな破廉恥な離婚・再婚・同居をすることになったのか、
というのは一応の説得力もあるように思えるから不思議。

でも、事情は始めから子どもにきちんと説明しなきゃダメじゃん、と思います。
少なくとも子どもたちは高校生なんだからさ。

それにしても、吉沢亮さんはキレイ♡♡♡

 

<WOWOW視聴にて>

「ママレード・ボーイ」

2018年/日本/127分

監督:廣木隆一

原作:吉住渉

出演:桜井日奈子、吉沢亮、佐藤大樹、優希美青、藤原季節、筒井道隆、谷原章介

甘酸っぱさ★★★★★

満足度★★★★☆

 


マイ・エンジェル

2021年02月11日 | 映画(ま行)

育児放棄、その残された子

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南仏コート・ダジュールの美しい海岸の町。
シングルマザーのマルレーヌ(マリオン・コティヤール)は、
8歳の娘エリー(エイリーヌ・アクソイ=エテックス)とその日暮らしをしています。

しかし、自らの失態で結婚が破談となったマルレーヌは、
ますます生活が荒れ、あるときエリーの前から姿を消してしまいました。

一人取り残されたエリーは・・・。

 

何しろマルレーヌは結婚式当日の夜、
他の男とヤッているところを新郎に目撃されてしまった・・・。
それであっという間に破談です。
彼女が身持ちの悪い女であることを初っぱなから突きつけるエピソード。
エリーについては一緒にいればベタ甘。
常に酒浸りでむら気はあるけれど、概ね優しい母なのです。

エリーに「マイ・エンジェル」と呼びかける。
そんなマルレーヌは夜な夜な出歩いて留守にすることはいつものこと。
それでもさすがに、こんなに幾日も帰ってこないことはこれまでなかったのです。

元々お金のない家だから、食べ物もエリーが使えるお金もほとんどない。
どこかに助けを求めれば、たちまち母とは引き離されて施設送りになるだろう。
それがわかっているので、何気ないフリをして学校には通います。
時にはサボってしまうけれど・・・。
というのも、エリーは学校では孤立していて、楽しいことは何もありません。
いじめまでとはいわないけれど、嫌がらせを受けることも・・・。
気丈に孤独に耐えるエリーが、一人の青年に気を引かれます。
それはトレイラーハウスに住む孤独な青年。
なぜか自分と同じ匂いを嗅ぎつけたのでしょうか、
エリーはフリオと徐々に心を通わせていきますが・・・。

是枝裕和監督の「誰も知らない」を思い出しました。
あの母親も、子どもたちといるときは妙に優しいのでした。
まるで「私は本当はいい母親」と自分自身に言い聞かせるかのように。
しかしすぐにそれにも飽きて、また育児放棄していなくなってしまいます。
幼児性丸出し。

しかし、取り残された子どもは、自分が生きるために精神は老成していくのです。

 

エリーについてはその憂さを晴らすためにアルコールに頼ったりもする。
いくら精神が老成していくとはいっても、やはり人のぬくもりは欲しい。
そこで、フリオをまるで父親のように慕い始めます。
エリーは自分の本当の父が誰であるかすら知らないのです。
私、フリオが幼女誘拐とか性犯罪者という疑いを持たれるのでは?と、
若干ハラハラしてしまいましたが、幸いそういう展開にはなりませんでした・・・。
ほっ。

エリーの母親への強い思慕が、絶望へ、
そして拒絶へと変化していく様が見事に描写されています。

この、マルレーヌこそが、どんな育ち方をしたのかが気になるところです。

 

<WOWOW視聴にて>

「マイ・エンジェル」

2018年/フランス/108分

監督:バネッサ・フィロ

出演:マリオン・コティヤール、エイリーヌ・アクソイ=エテックス、
   アルバン・ルノワール、アメリ・ドール

 

育児放棄度★★★★★

満足度★★★★☆

 


前田建設ファンタジー営業部

2021年02月05日 | 映画(ま行)

実現しないとわかっていても

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ダムやトンネルなどの大プロジェクトに携わってきた、前田建設。
アニメやゲームに登場する建造物を実際に作ったらどうなるかを、
本格的に検証するWEBコンテンツ、「前田建設ファンタジー営業部」を始めます。

驚いたことにこれって、実話なんですね。
プロジェクトX並みに心躍るお仕事ドラマです。

アニメ、マジンガーZの出撃シーンに登場する地下格納庫を
現状の技術と材料で建設したらどうなるのか? 
という一人の思いつきがはじまり。
実際に設計図を作り、費用の見積もりまでしてしまおうというものです。

光子力研究所、弓教授からの依頼という想定で、プロジェクトは始まる・・・。

広報グループ若手社員ドイ(高杉真宙)は、
いやいやながらこのプロジェクトの一員となったのですが、
架空のものにどこまでも真剣に向き合う
社内外の技術者たちの姿を目の当たりにして、
次第に引き込まれ、のめり込んでいきます。

格納庫の掘削やプールの底が割れる仕掛け、
そしてマジンガーZを載せたまま台がせり上がる仕組み。
様々な技術者が自分の持てる知識や技術を駆使。
実現はしないとわかっていても、可能性を追求することに
皆何らかのロマンを感じたようです。
それで結局工期は6年5か月、工事金額72億と出る。
多いのか少ないのか、見当もつきませんけれど・・・。

つまりはこのことをWEBで公開、自社のPRとしたわけですが、
この映画化でもわかるとおり、すごい反響があったわけです。
前田建設さんはこのマジンガーZ にとどまらず、
引き続き様々なファンタジー的開発に取り組んでいるようです。

世の中って面白い。
なかなか捨てたもんじゃないよね、と思わせてくれる作品。

<WOWOW視聴にて>

「前田建設ファンタジー営業部」

監督:英勉

出演:高杉真宙、上地雄輔、岸井ゆきの、本多力、町田啓太

想像力度★★★★★

チャレンジ度★★★★☆

満足度★★★★☆

 


みをつくし料理帖

2020年10月26日 | 映画(ま行)

料理人と花魁と友情と

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原作は高田郁さんで、先にNHKで連続ドラマ化されていました。
それは見ていたので、およそストーリーはわかっていたのですが、
配役が全く別なので興味を持ちまして・・・。

仲のよい幼なじみだった8歳の澪と野江。
享和2年、大坂を大洪水が襲い、
澪は両親を亡くし、野江も行方知れずとなってしまいます。

それから10年後。
澪(松本穂香)は、江戸のそば処「つる屋」で働いていました。
そしてそこで、天性の料理の才能を見出され、店の看板料理を生み出すようになっていきます。

そんなある日、吉原・翁屋の又次(中村獅童)がつる屋を訪れ、
吉原で頂点を極めるあさひ太夫(奈緒)のために、
澪の看板料理を作ってほしいと言います・・・。

吉原の花魁は外出などできないので、又次が澪との間を取り持つわけですね。
そして、後にわかってくるのは、そのあさひ太夫というのは、実は・・・。
もうおわかりですね。

この二人のことが大きな縦軸ではありますが、
そのほか、料理の心構え的なことを教えてくれるお侍(窪塚洋介)や、
親身にしてくれるお医者様(小関裕太)、つる屋の店主、澪と共に暮らしている御寮さん、
つる屋の常連のお客など、さまざまな人々の織りなすドラマでもあります。

映画は2時間程度なので、いくつかのエピソードが省かれていますが、
まあ、それは仕方ないですね。

子どもの頃占い師に、野江は「旭日昇天」の相、 
澪は「雲外蒼天」の相と言われます。

野江は、ものすごい強運の持ち主で、最高の地位を手にする。
澪は、とても苦労が多いけれど、努力すればその後、幸せを手にする。
・・・と、そんなことだったわけ。

野江は花魁として確かに最高位の地位を得ますが、
それとて、外出もままならず会いたい人にも会えない、
・・・それが果たして幸せなのかどうか。

でも互いを思いやる二人が、自らの運命を切り開いていく様、
なかなか心地よい物語なのです。

2017年NHK版の配役は、黒木華さん、成海璃子さん
あ、私は知りませんでしたが、2012年にテレビ朝日でもやっていたのですね。
そちらは北川景子さんと貫地谷しほりさん。
うーん、私の中ではNHK版版がいちばんしっくりくる感じですが・・・。
まあ、この度の松本穂香さんも悪くはありません。

<シネマフロンティアにて>

「みをつくし料理帖」

2020年/日本/131分

監督:角川春樹

原作:高田郁

出演:松本穂香、奈緒、若村麻由美、窪塚洋介、小関裕太、藤井隆、中村獅童

 

友情度★★★★☆

精進度★★★★☆

満足度★★★.5

 


ミッドナイトスワン

2020年10月08日 | 映画(ま行)

自分らしく在ることが、こんなにも難しい

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故郷を離れ、新宿のニューハーフショークラブのステージに立つ、トランスジェンダーの凪沙(草なぎ剛)。
ある日、実の母に育児放棄されている親戚の少女、一果(服部樹咲)を預かることになります。
二人は全くなじめず、ぎこちない日々。
一果はバレエに憧れ、全く独自で練習していたのですが、
スクールに通うようになり、めきめきとその才能を開花させていきます。
しかし、バレエを続けるためにはひどくお金がかかるのです・・・。

LGBTの問題は昨今いろいろなところで取り上げられ、
多少なりとも理解は進んでいるようでもありますが、
でも実際上の大きな壁について、とてもリアルに語られていると思いました。

凪沙が実家には隠しているトランスジェンダーのこと。

通常の会社勤めなどは難しいので、ショーに出るような稼ぎ方しかできないこと。

実際上の性転換には大金がかかること。

そしてその手術は必ずしも安全ではないこと・・・。

何よりも世間の人々が彼女を見る好奇の目・・・。

でも、一果は「おじさん」と聞いていたのに、女装した人物であったことに驚きはしたものの、
そのことについては嫌悪を感じていなかったようなのが救い。
そして彼女は凪沙の「孤独」をくみ取ることができる。
それは、行き場をなくした自分も同じなので。
そして凪沙は、一果を「ただの生意気なガキ」から、「守らなければならない大切なもの」へと意識を変化させていきます。
それは、凪沙の中の母性の芽生えのようでもありますが・・・、
私は、凪沙が一果に「そうありたかった」自分を見ているような気がするのです。

白鳥の湖を完璧に踊る、美しく、無垢な少女。
こんな風に生まれてきたかった・・・、と。

実際、この子が素晴らしかったです。
オーディションで選ばれたという新人、服部樹咲(みさき)さん。
もちろん、バレエで実際に活躍している方なんですね。
ステキです♡ 
本作だけでなく、また別の作品でも見てみたい。

<シネマフロンティアにて>

「ミッドナイトスワン」2020年/日本/124分

監督・脚本:内田英治

出演:草なぎ剛、服部樹咲、田中俊輔、水川あさみ、田口トモロヲ

 

トランスジェンダーの現実度★★★★★

満足度★★★★☆

 


ミッドサマー

2020年10月07日 | 映画(ま行)

白日の下で起きる恐怖

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たまにはホラーもよかろうかと・・・。

不慮の事故で家族を失ったダニー(フローレンス・ビュー)。
心の傷がようやく少し癒えた頃に、
大学で民俗学を研究する恋人・友人たち5人でスウェーデンのとある村を訪れます。

それは、人里離れた奥地にある村というよりも、
特殊な古来からの風習を信奉する人々のコロニーのようなもの。
花が咲き乱れ、人々は皆白い衣服をまとい、穏やか。
一日のうち数時間薄暗くなるだけの夏至の日、90年に一度の祝祭が行われるのです。
9日間続くといわれるその儀式とは・・・。

北欧の、夜がない夏至という舞台とホラーは
なんだか相容れないような気がしていましたが、
いやいや、そんなことはない。
白日の下、くっきりと目に映る怖ろしいものというものも、あるものですねえ・・・。
それは白昼夢のようでもあり、現実と悪夢の境目が次第にぼやけていくような感じです。

ダニーは、実のところここを訪れる以前に「地獄」を見ている。
悲惨な家族の死。
そのため、ほとんど狂気の淵をさまよった彼女が、
こんなところに来て、ますますその狂気を増大させていくのかと思いきや・・・。

そうではない。
なんだか彼女は次第にここになじみ、落ち着いていく。
一方理性的であったはずの他のメンバーのたどる運命はいかにも悲惨。
特にダニーの恋人・クリスチャンは、普通ならヒロインを救う役割を担うはずなのだけれど、
残念ながら彼の心は始めからダニーから離れ始めている。
ま、そこが最後の悲惨な結末につながるわけだけれど。
考えてみたら、ここには悪魔とか魔女的なものは登場しないのです。

真に怖ろしいのは人の心。
外の明るさや夜の闇とも関係がない・・・。

じわじわ来ます・・・。

<J:COMオンデマンドにて>

「ミッドサマー」

監督・脚本:アリ・アスター

出演:フローレンス・ビュー、ジャック・レイナー、ウィリアム・ジャクソン・ハーパー、
   ウィル・ポールター、ウィルヘルム・ブロングレン

 

恐ろしさ★★★★☆

満足度★★★.5

 


Mid90s ミッドナインティーズ

2020年10月03日 | 映画(ま行)

みずみずしい、少年の日々

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俳優ジョナ・ヒルの初監督・脚本作品。
自身が少年時代を過ごした1990年代、ロザンゼルスが舞台です。

13歳の少年スティーヴィー(サニー・スリッチ)は、
シングルマザーの母(キャサリン・ウォーターストン)と兄イアン(ルーカス・ヘッジズ)と暮らしています。
兄は横暴で乱暴。
どうにもかなわないと思っています。
そんなスティーヴィーが、町のスケートボードショップに出入りする少年たちと知り合い、親しくなっていきます。

スティーヴィーから見るとクールでカッコイイ彼ら。
でも母から見れば、付き合うべきではない少年たちと見えることは、
スティーヴィーにもわかっていたのです。
彼らといて、家に帰るときには消臭剤を振りまいてたばこのにおいを消したり、彼なりに苦労しています。
でも、家にいるとみそっかす扱いのスティーヴィーも、
彼らといるとちょっぴり大人に近づく感じがするのです。

いつもバカなことを言って笑っている彼らだけれど、
でも、実はそれぞれに問題を抱えていることがスティーヴィーにもわかってきます。
そしてまた、家では威張り散らしている兄が、外では孤独で案外気弱であることも・・・。

父親不在の家なので、通常父親が担うべきストーリー上の役割をここでは「兄」が持っているわけですね。
乗り越えるべき存在、それが本作での兄でした。

ともあれ、一見「自由」な外の世界には、
もっと複雑で強大な“ままならぬもの”があることを彼は知っていく。
だけれども、そこへ踏み出すこと。
少年から大人への道ですね。

みずみずしい少年の感覚が郷愁にも似た切なさを呼びます。

<シアターキノにて>

「Mid90s ミッドナインティーズ」

2018年/アメリカ/85分

監督:ジョナ・ヒル

出演:サニー・スリッチ、キャサリン・ウォーターストン、ルーカス・ヘッジズ、ナケル・スミス、オーラン・プレナット

少年のみずみずしい感性の日々度★★★★☆

満足度★★★★☆

 


マイ・バッハ

2020年10月01日 | 映画(ま行)

不屈の魂で、音楽に向かい合う

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実在のピアニスト、ジョアン・カルロス・マルティンスの半生を描きます。

ブラジルに生まれ育ち、幼少期にピアノと出会い、才能を開花させたジョアン・カルロス・マルティンス。
20歳でカーネギーホールでデビューを飾ります。
順風満帆だったはずの彼のピアニストとしての人生。
ところが、不慮の事故で右手3本の指に障害が残ってしまいます。
しかし、不屈の闘志でリハビリに励み、ピアニストとしての活動を再開するも、
やがてさらなる不幸が・・・。

20世紀最高のバッハの演奏家と称された彼は、間違いなく天賦の才を持っていたのです。
その激しい指使い故に、障害が出たのか?と私、予想しながら見ていたのですが、
そうではなくて、事故による負傷が元だったのですね。
けれどそんなことで彼は諦めない。

不屈の魂で這い上がった先にさらにまた不幸が。
そしてその先にさらにさらにまた・・・と、
実は彼が乗り越えたハードルは一つだけではなかったのです。
まるで神に試されているかのようです。
彼の音楽=芸術を希求する心は、生ある限り誰にも止められない。
いよいよ指がダメになり、ついにピアノを諦めなければならなくなっても、
その魂はなおも芸術の高みへ行こうとする。

こんな方がいるものなのですねえ・・・。
作中のピアノ曲はすべて彼の演奏の録音が使われていたということで、
もちろん、音楽も堪能しました。

<シアターキノにて>

「マイ・バッハ」

2017年/ブラジル/117分

監督・脚本:マラロ・リマ
出演:アレクサンドロ・ネロ、ホドリゴ・パンドルフォ、カコ・シオークレフ、フェルナンダ・ノーブル

不屈の魂度★★★★★

満足度★★★★☆