映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

アメリカン・フィクション

2024年07月24日 | 映画(あ行)

黒人らしさが足りない、黒人小説家

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黒人の小説家モンク(ジェフリー・ライト)は、
作品に「黒人らしさが足りない」と評され、
半ばヤケになって冗談のようなステレオタイプな黒人小説を書きます。
ところがなんとその小説がベストセラーに。
その本は本名を伏せ、「脱獄囚の黒人」というウソのプロフィールで出版したのでしたが、
思いもかけない形で名声を得てしまうのです。

一言一句選びながら構成を練って仕上げた小説がほとんど売れず、
適当に書いた、いかにもウケそうな小説が売れてしまう。
モンクはこんなことで心穏やかなはずはないのですが、
認知症の母を施設に入れるためにもお金が必要で、
本が売れるのは正直ありがたい。
そんな複雑な状況。

しかも、自身が忌み嫌う「黒人=下品、粗野」という思い込みを
そのまま利用してしまった安っぽい本。

まあこれは、実際に出版業界や黒人作家の作品の扱われ方がこんな風である、
ということを暗に示しているわけなのですね。
いっそ始めから黒人であることを伏せた方が良かったのかも・・・などと思ってしまいました。
それじゃダメなんですけれど・・・。

おまけに、モンクはとある文学賞の審査員に抜擢されたのですが、
その授賞候補に彼のインチキ本「ファック」があがってしまった。
もちろん、モンクはその授賞には反対したのですが、
他の審査員がなぜかそれを推す。

「ファック」なんて言うのは映画などではよく聞きますが、
アメリカの実社会ではほとんど禁止用語。
特に白人の有識者層ではほとんど放送禁止用語なんですね。
だからこの本の題名を付けるときに、
モンクは編集者への嫌がらせのつもりで「ファック」といったのですが、
始め難色を示していた女編集者も最後には承諾。
いかにも黒人作家の小説的題名ということでそれがまた大ヒット。

モンクにとっては何もかもがバカバカしい・・・。

そんな狂騒的な状況を綴ったユニークな作品。

 

<Amazon prime videoにて>

「アメリカン・フィクション」

2023年/アメリカ/118分

監督・脚本:コード・ジェファーソン

原作:パール・エベレット

出演:ジェフリー・ライト、トレイシー・エリス・ロス、エリカ・アレクサンダー、
   イッサ・レイ、スターリング・K・ブラウン

皮肉度★★★★★

満足度★★★★☆


大いなる不在

2024年07月16日 | 映画(あ行)

別世界の住人

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役者をしている卓(森山未來)の元に、
警察から父・陽二(藤竜也)を保護しているとの連絡が入ります。

卓がまだ子どもの頃に両親が離婚して以来、父とは長らく疎遠になっていました。
父は認知症のため施設へ入ることになりましたが、
久しぶりに会った父は卓のことを認識はしたものの、
まるで別世界の住人のようになっています。

また、卓にとって義母になる父の再婚相手・直美(原日出子)は行方不明。
片付けのため父の家を訪れた卓は、
そこら中に日常生活に必要なことの父のメモが残っているのを見ます。
そんな中に義母の日記があり、そこには父が直美に宛てた
おびただしい数のラブレターが貼って残されていたのでした・・・。

一体彼らには何があったのか。
卓は父と義母の生活を調べ始めます。

父と卓の母が離婚して間もなく、父と義母は結婚したようです(義母にとっても再婚)。
多くのラブレターを見て分るように、陽二は始めから直美を愛していた。
だからなのか、陽二は卓にとって親しみを感じるような父親ではなかった。

しかし、陽二の2度目の結婚はさすがにうまくいって、
以来30年以上長らく連れ添っていた・・・。
けれど、陽二が壊れていくのですね。

元々独善的で、一方的に妻を従えようとするタイプ。
だから愛しているとは思いつつ、直美にとっては「耐える」部分も多かったはず。

が、しだいに陽二は「別人」になっていく。

ついには妻のことを妻と認識することもできなくなって、
直美はこれまでの人生の意味を見失ってしまったのではないでしょうか・・・。

ラストは極めて曖昧な描き方がされているのですが、
冒頭近くの陽二の言葉が思い出されるのです。

「お義母さんは、どこにいるの?」との卓の問いに、
何も知るはずのない陽二が言います。
「あれは、自殺した。」と。

 

誰が悪いわけでもない、単に脳が正常な機能を失うという老いによる病。
その残酷さがひしひしと身に迫ります。

でも、もともと父には近寄り難い印象を抱いていた卓が、
父のこれまでの心の変化を知るにつけ、
逆に少し自分と近づいたような気がしたように思えました。

じっくり考えさせられてしまう作品です。

<シアターキノにて>

「大いなる不在」

2023年/日本/133分

監督:近浦啓

脚本:近浦啓、熊野桂太

出演:森山未來、藤竜也、真木よう子、原日出子

 

人格崩壊度★★★★☆

満足度★★★★☆

 


イヌとイタリア人、お断り!

2024年07月03日 | 映画(あ行)

イタリアからフランスへ移住した一族のアニメ

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アラン・ウゲット監督の祖父、ルイジ・ウゲットの人生を
歴史に絡めて描くストップモーションアニメです。

 

20世紀初頭、北イタリア、ウゲッテーラ。
村人は皆ウゲット姓という一族が住む山間の貧しい村。
この地で生活することは非常に困難になってきています。
冬には出稼ぎに行ったりしてなんとかしのぐ年月。
そんな中でもルイジ・ウゲットは出稼ぎ先で出会った妻を連れ帰り、
たくさんの子供を得ます。
時代はやがてファシスト台頭の時。
ルイジは家族を連れてアルプスを越え、
フランスで新しい生活を始め、愛する家族の運命を永遠に変えたのです。

 

祖父ルイジの経験を祖母チェジーラから伝え聞いた監督が、
それをアニメ作品に仕立てたわけですが、
ストップモーションアニメながらドキュメンタリーを見ている感じ。
村の暮らしは貧しく、つらいこともあるのですが、
どこかほんのり温かみを感じるのは
やはりこのユーモラスなフィギュアのおかげですね。

そして家は段ボール、森はブロッコリー、岩は木炭だったり栗だったり、
そしてレンガは角砂糖。
舞台や小道具が身近なモノで表現されていて、柔らかな手触り。
なんとも良い味が出ています。

 

題名の「イヌとイタリア人、お断り!」というのは、
彼らがフランスへ移民した頃、店に張り出されていた告知の文面。
つまりはイタリア人に対してかなり差別的な風潮があったということでしょう。

きつい労働のこと、戦争のこと、移民のこと、
そんな困難も家族とともに乗り越えてきた・・・。
そんな祖父の気概と、その祖父への敬愛の念がにじみ出ています。

彼らの移住先が、ツール・ド・フランスのコース近くらしいというのにも興味を引かれます。

 

ステキな作品でした。

 

 

2022年/フランス、イタリア、ベルギー、スイス、ポルトガル/70分

監督:アラン・ウゲット

歴史発掘度★★★★☆

満足度★★★★☆


いつか読書する日

2024年06月26日 | 映画(あ行)

胸の奥にしまったままの思い

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朝は牛乳配達、昼はスーパーで働く大場美奈子(田中裕子)独身50歳。
毎夜の読書を楽しみにしています。

また、同じ街の市役所に勤める高梨塊多(岸部一徳)は、
末期がんで余命わずかな妻を自宅で介護していました。

この2人は高校時代交際していたのですが、ある時から疎遠になり、
互いにあえて距離を置くようにしてこれまで30年が過ぎていたのです。

自宅でベッドに横たわる高梨の妻は、
いつも牛乳を届けに来る美奈子が夫と同級生だったと端から聞き、
その鋭すぎる勘で2人の気持ちをくみ取ってしまいます。
そして、美奈子に会いたいと言うのですが・・・。

 

どこにでもいそうな中年の冴えない女と男。
けれど彼女らにもみずみずしい青春時代はあった。

でもそんな思いが一度そこで断ち切られたとしても、
胸の奥で生き続けるというのは、十分にあり得るなあ・・・と、
この年になってこそ納得できます。
時の流れにしたがい薄れるものもあるけれど、
そうではないものもあるなあ・・・と、実感することがあるので。

 

2人の交際が終わってしまった事情というのもショッキングで、
なるほど、それならば致し方ないのかな・・・とも思えます。
互いが相手を嫌いになってしまったというわけではなかったのです。

だからといって塊多がずっと心の中で妻を裏切っていたというわけではない。
妻は妻として愛おしむ。
だからこそ、妻を自宅で介護もします。
並み以上の優しい夫。
でも心中のみずみずしい思いは消えずにそこに残っている。
それは仕方のないこと。

美奈子は、心の底のその思いをやはり消し去ることができず、
そしてその思いを上書きするようなことも始めからあきらめていたわけです。
ずっとこのままで十分、と。

 

同じ街にいて、時には顔を合わすこともあるのだけれど、
そして2人は心中で必要以上に互いを意識しているのだけれど、
決して言葉を交わそうとしない。
余計な波風を立てた先のことが恐いのですね。
いい大人だからこそ、余計臆病になってしまう・・・。

 

塊多は市役所の児童福祉課にいて、ある児童虐待を受けている子供と関わりを持つようになります。
そのサイドストーリーもなかなかよくて、
そしてそれが思いがけないラストに繋がるというのも秀逸。
20年以上も前の作品で、たまたま候補にあがっていたので見たのですが、
これは見て良かったと思える作品。

 

<Amazon prime videoにて>

「いつか読書する日」

2004年/日本/127分

監督:緒方明

原作・脚本:青木研次

出演:田中裕子、岸部一徳、仁科亜季子、渡辺美佐子、香川照之

 

静かな想い度★★★★★

満足度★★★★☆

 


ONODA 一万夜を越えて

2024年06月07日 | 映画(あ行)

長い孤独な戦争

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太平洋戦争終結後も任務解除の命令を受けられず、
フィリピン、ルバング島で孤独な日々を過ごし、
約30年後1974年51歳で日本に帰還した小野田旧陸軍少尉の物語。

前から見たいと思ってはいたのですが、
全体で174分という長さに怖じ気づいて、これまで見ないでいました。

私くらいの年齢だと小野田さんの帰還は当時リアルタイムでニュースで見ていまして、
実際驚いたものです。
今の若い方なら「小野田さん」と聞いても分らないのでしょうね。
であればなおさら、見る価値がある作品だと思います。

陸軍中野学校二俣分校で秘密戦の特殊訓練を受けた小野田寛郎。
フィリピン、ルバング島で援軍部隊が戻るまで、ゲリラ戦を指揮するようにと命じられます。
彼は出発前に教官から「玉砕は許されない。必ず生き延びなくてはならない。」
と言われたのです。

1945年8月。
終戦となってもこの島でその情報を得ることができず、
島内の日本兵は戦争のゲリラ戦を続けます。

小野田は4人のチームとなり、ジャングルに潜みながら
ときおり島民の畑や民家から必要なものを調達して生き抜き、
しかしおよそ30年後には彼1人となっていたのでした・・・。

本作はフィクションを交えているようですが、
事実に基づいている部分も多いようです。

小野田さんの帰還当時、私はごく一般の兵士と思っていたのですが、
陸軍中野学校と言えばエリートですよね。
その辺も、当時はニュースで伝えられたのでしょうけれど、
私自身にそこまでの理解が足りなかったというか
興味も持っていなかったというのが実のところかも知れません。

作中最後に任務解除の命令書が読み上げられるのですが、
その中で「別班」という言葉があって、おっと思いました。
つまり彼は陸軍「別班」の任務に当たっていた。
だからこその異常なほどの思い込みで仲間を引き連れて「戦争」を続け、
生き抜くことに執着していた・・・。
そうでなければとっくに投降していたのかも知れません。

それにしても、こんなところで「VIVANT」に繋がるとは・・・驚き。

 

結局、この島で生き抜いた30年を表わすのに、
約3時間の長さはやはり必要だったのです。
納得。

 

それとこの作品が日本人ではなくフランス人監督によって作られたというのは、
少し残念な気がするのです。
でも日本人には若干敗戦コンプレックスみたいなところがあって、
なかなか客観的にこの出来事を捉えられない気もします。
だからこれはこれで良しですね。

 

<Amazon prime videoにて>

「ONODA 一万夜を越えて」

2021年/フランス・ドイツ・ベルギー・イタリア・日本/174分

監督:アルチュール・アラリ

出演:遠藤雄弥、津田寛治、仲野太賀、松浦祐也、千葉哲也、カトウシンスケ、井ノ脇海、イッセー尾形

 

歴史発掘度★★★★★

不屈の魂度★★★★☆

満足度★★★★☆


エンドロールのつづき

2024年06月01日 | 映画(あ行)

情熱が道を開く

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パン・ナリン監督自身の実話を基にしています。

インドの田舎町ニクラス、9歳のサマイ。
学校に通いながら、父のチャイ店を手伝っています。
父は厳格で、映画などは低俗なものと考えていますが、
信仰するカーリー女神の映画だけは特別として、家族で映画を見に行きます。

初めて経験する映画の世界にすっかり心を奪われてしまったサマイ。
それが忘れられず、後に映画館に忍び込みますが、
バレて追い出されてしまいます。
それを見た映写技師のファザルがサマイに声をかけます。
料理上手なサマイの母の作ったお弁当と引き換えに、
映写室から映画を見せてくれるというのです。

サマイは映写窓から様々な映画を見て圧倒され、自分も映画を作りたいと思うのです。

映写室から多くの映画を見て、映画に魅せられる・・・。
「ニュー・シネマ・パラダイス」を思い出しますが、
インドのこの作品、これはこれで実に面白い。

サマイは、映画は「光」が物語を紡ぐのだと思います。
映画館を離れても、色ガラスの破片や、色のついた空き瓶を通して
風景や人々を眺め、映画を思う。

サマイは頭が良くて、そして近所の子供たちのリーダー格でもあるのです。
仲間たちをも、映画の魅力にひきずり込んでしまいます。

驚くべきは、廃品の中から使えそうなものを寄りだして、
映写機のようなモノを創り上げてしまう。
はじめ彼は、フィルムに光を当ててそのままフィルムを動かしてみたのですが、
それだと全く「動く」映像にならないのです。

そのわけを教えてくれたのはファザルで、
フィルムのコマとコマの間に暗闇がなければならない。
私たちは気づかずに、映画の半分は暗闇を見ているのだ・・・と。
この話、私が知ったのは、なんの本を読んだ時だったっけ・・・? 
まあともかく、サマイはそこも工夫して、
なんとか映像が動くマシン(手回しですが)を作り上げます。
スバラシイ!!

 

サマイの学校の先生は言うのです。

「インドの身分の違いには二つある。英語が話せる者と、話せないもの」

「なにかになりたいのなら、この地を出なければならない」

・・・そうは言っても、チャイの売り上げで日銭を稼ぐ貧乏な自分の家。
そんなことはとてもムリと、サマイは思う・・・。

映画が好きで好きで・・・映画を作ってみたくて・・・。
でもどうして良いか分らない。
そんな少年の憧れ、挫折、何もかもがみずみずしく、そして力強いのでした。

いい作品だなあ・・・。

それと、サマイのお母さんが作るお弁当がと~ってもおいしそうでした!!

<Amazon prime videoにて>

「エンドロールのつづき」

2021年/インド・フランス/112分

監督・脚本:パン・ナリン

出演:バビン・ラバリ、リチャーミーナ、ディペン・ラバル、バベーシュ・シュリマリ

憧れ度★★★★☆

創意工夫度★★★★☆

満足度★★★★★


アイデア・オブ・ユー 大人の愛が叶うまで

2024年05月21日 | 映画(あ行)

アイドルとオバサン

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40歳シングルマザーのソレーヌ(アン・ハサウェイ)。
10代の娘の付き添いで野外音楽フェスに出かけます。
そこで運命的出会いをしたのは、人気のボーイズユニット「オーガスト・ムーン」
リードボーカルのヘイズ・キャンベル(ニコラス・ガリツィン)24歳。
ヘイズはソレーヌを見初め、ソレーヌはあまりの年の差に戸惑いながらも
ヘイズに推しまくられて付き合い始めます。

やがて互いの心は燃え上がりますが、スーパースターとして常に注目をあびるヘイズとの交際は、
ソレーヌにとっては予想以上に厳しい状況となり・・・。

秘密裏に交際しているうちはまだ良かったのですが、
一緒にいる場面がSNSで投稿され、
開き直って交際宣言をすれば、たちまちに炎上。
大いにバッシングを受けることになってしまいます。

ここでのヘイズの立ち位置というのは、
旧ジャニーズのチームメンバーみたいなところなんですね。
歌とダンスで若い女の子を魅了する。
特別な音楽的才能は必要とされていない。
ソレーヌの娘も、かつてこのグループの大ファンだったのだけれど、
高校生の今はすでにファンを卒業している、というくらいの。
でも逆にそういうのが、母親世代の女性に受けるというのも分るなあ・・・

そりゃね、憧れの「推し」が15も年上の人と交際してます、
なんて話になったら私だって穏やかではいられません・・・。
いやこの際、年齢は関係ないか・・・。

でもね、やっぱり本作はアン・ハサウェイだから成り立つ話。
そこらの普通のオバサンでは話にならない。
ということが身にしみる作品でありました!

でも、ソレーヌがプールサイドで水着姿の20歳前後の女の子たちを見て、
とても自分は水着姿などさらせないと思うあの敗北感は、切実。
そうなのよねえ・・・。
でもあと20年もすれば彼女たちも同じことになるのだから
・・・と、そういうことです。

花の命は短いけれど、その後でどれだけ充実した実を結ぶかが大事! 
と思うほかない。

 

<Amazon prime videoにて>

「アイデア・オブ・ユー 大人の愛が叶うまで」

2024年/アメリカ/117分

監督:マイケル・ショウォルター

出演:アン・ハサウェイ、ニコラス・ガリツィン、エラ・ルービン、リード・スコット

 

年齢差度★★★★☆

満足度★★★.5


イコライザー THE FINAL

2024年05月18日 | 映画(あ行)

安住の地?

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イコライザーシリーズの最終章となる第3弾。
そういえば「イコライザー」は嫌いではなかったな
・・・と思ってこの度拝見。

デンゼル・ワシントン演じるロバート・マッコールは、言ってみれば闇の仕事請負人。
瞬時に周りの状況を把握し、空間や使える物体を最大限に活用、
そして最小のムダのない動きで相手を倒す。
相手は1人に限らず数人でも。
かかる時間は9秒・・・と言う凄腕なのですが、
そこのアクションが実にカッコ良くて、シビれます。

さて本作冒頭では、イタリアのシチリアにて、
そんな感じで一仕事を終えるマッコール。
しかしその後ほんの一時の油断で、背後から銃弾を受けてしまいます。
なんとかたどり着いた車の中で倒れ込んでしまったマッコール。
しかし彼は全く見ず知らずの警官に助けられ、医師の元に担ぎ込まれました。
マッコールはこの医師の元でしばらく療養することになります。

風光明媚な土地。
警官も医師も銃創を負ったマッコールには何かがあったことは一目瞭然なのに、
詮索することなく、やさしく親しげです。

他の土地の人々もいかにも純朴でやさしい。
マッコールは次第にこの土地が好きになり、
もう仕事は引退してここに住みたいと思うように・・・。

さてところがこの土地で、麻薬密輸組織が国際的テロ組織と手を組み、
大がかりな裏の流通網を築こうとしているのでした。
そのことに巻き込まれそうな人々を救うために、マッコールは立ち上がる・・・。

シチリア島と言えばマフィア発祥の地なので、
こんな恐ろしげな組織があるのも肯けます。
けれど多くの人々は、美しいこの土地で平和を望んで暮らしている。
そんな島の情緒もたっぷりで、私は気に入りました。

マッコールの正体をつかみながらも、彼に協力しようとするCIAエージェント・エマが
なんとダコタ・ファニング(お久しぶり!)で、これも興味深かったです。

<Amazon prime videoにて>

「イコライザー THE FINAL」

2023年/アメリカ/109分

監督:アントワン・フークア

出演:デンゼル・ワシントン、ダコタ・ファニング、デビッド・デンマン、レモ・ジローネ

 

異国情緒度★★★★☆

サスペンス度★★★★☆

満足度★★★★☆


あしやのきゅうしょく

2024年05月08日 | 映画(あ行)

作る側の視点で

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給食がテーマの物語といえば、やはり「おいしい給食」なのですが、
本作は食べる側の楽しみよりも、作る側、栄養士さんや調理員さんの視点から描かれています。

 

舞台は兵庫県芦屋市の小学校。
芦屋市では自校式給食が運営されていて栄養士によるオリジナルメニューの展開など、
学校給食への取り組みが注目されているのです。

物語は、芦屋の小学校に新人栄養士、野々村菜々が赴任するところから。
彼女は、退任するベテラン栄養士から給食のイロハを引き継ぎます。

 

栄養士は単に給食の献立を立てるだけでなく、
予算のこと、子どものアレルギーのこと、子どもの親の宗教による食物の禁忌など、
考慮しなければならないことが多々。
そのような事を子供たちの様子を交えながら丁寧に描いていました。

大きな調理釜での調理は、へたをすると「エサ」のように見えてしまうものですが、
本作を見る限りは、それを見てもおいしそうなのです。
もちろん学校の規模にもよりましょうが、ここの学校では、
オムライスの卵焼きをフライパンで一枚ずつ焼いていまして、その手間が大変そう。
一つ一つ形を作らねばならないスコッチエッグなどというモノもありまして、
こういうのは栄養士さんのやる気だけではダメで、
調理員さんの思いも共になければ、できあがらないと思います。

こうして作られたモノはきっとおいしくて、食べるのも楽しそうだなあ・・・。

 

私もかつては学校職員(教員ではないよ)で、数十年間給食を食べ続けていたので、
学校の給食事情のことはよく分ります。
札幌市も割と学校給食のコンセプトは芦屋市に近いと思います。

今時の給食事情を知るにも、良い作品です。

 

<Amazon prime videoにて>

「あしやのきゅうしょく」

2022年/日本/86分

監督:白羽弥仁

出演:松田るか、石田卓也、仁科貴、宮地真緒、赤井英和、秋野暢子

 

今時の給食事情度★★★★☆

満足度★★★★☆


アラビアンナイト 三千年の願い

2024年05月04日 | 映画(あ行)

呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃん

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古今東西の物語や神話を研究する学者アリシア(ティルダ・スウィントン)。
講演先のイスタンブールで、美しいガラスの小瓶を購入します。
ホテルの部屋に持ち帰り、ビンを洗おうとブラシでこすると
中から巨大な魔人<ジン>(イドリス・エルバ)が飛び出しますが、
すぐにサイズ変更して通常の人間状の大きさに。
<ジン>は、ビンから出してくれたお礼に「三つの願い」をかなえるといいます。
物語の専門家アリシアは、願い事を描いた物語に
ハッピーエンドがないことを知っていて、素直に願い事をしようと思いません。
<ジン>は彼女の考えを変えさせようと、3000年に及ぶ自らの物語を語り出します。

「アラビアンナイト」を基にしたストーリーなのかと思えば、
基にしているのはツボから魔人が現れて願いを叶えるというところのみ。

アリシアが生きているのは現在で、
そして<ジン>が語る遠い過去の物語を聞くという筋立てです。
かつて<ジン>が封じ込められている小瓶を手にし、
<ジン>を呼び出した女たちと<ジン>とのストーリー。

シックな色調の画面と不可思議な映像が美しい。
なんとも粋なファンタジー。

それにしても現代は、医療やら科学技術の進歩も著しく、
これは中世以前の人々から見れば「魔法」ですね。

しかしこのような魔法の力を手に入れたものの、
人類は相変わらず戦争やテロを繰り返し、
平和とか幸福を手に入れられずにいるのです・・・。

<Amazon prime videoにて>

「アラビアンナイト 三千年の願い」

監督:ジョージ・ミラー

原作:A・S・バイアット

出演:イドリス・エルバ、ティルダ・スウィントン、アーミト・タラム、ニコラス・ムアワッド

ファンタジック度★★★★☆

満足度★★★☆☆

 


陰陽師0

2024年04月30日 | 映画(あ行)

若き安倍晴明の物語

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安倍晴明が陰陽師になる前の物語。
原作者夢枕獏の全面協力のもと製作された完全オリジナルストーリー。

呪いや祟りから京を守る陰陽師の学び舎であり、行政機関でもある
「陰陽寮」が政治の中心だった平安時代。

青年安倍晴明(山崎賢人)は、天才と呼ばれるほどの呪術の才能を持つも、
陰陽師になる意欲も興味もない変わり者。

ある時そんな清明の基に、貴族の源博雅(染谷将太)が訪れます。
皇族の徽子(よしこ)(奈緒)女王のもとで起こる怪奇現象を解明してほしいというのです。
清明と博雅は徽子の基を訪れ、衝突し合いながらも共に真相を追っていきます。

またそんな頃、陰陽寮ではある若者の変死があり、
それをきっかけに平安京を巻き込む凶悪な陰謀と呪いが動き出します。

まだ学生時代の安倍清明ということで、孤高でちょっとやんちゃでもある
清明のたたずまいが山崎賢人さんにピッタリ。
「キングダム」のシンも良いけれど、こちらももっと良いなあ・・・。
アクションシーンもありますがこれまた「キングダム」とは全く別物で、美しく魅力的です。

陰陽師といっても彼が行うのは魔法のような全くの絵空事ではなくて、
心理の隙を突くようなこととか、
また時には科学的根拠を見せるようなところもあって興味深いのです。

そして博雅と徽子の思いというか絆が美しい・・・。
人によっては不満に思うことがあるかも知れないけれど、
私はこういうのがあってもいいと思う。
好きです。

 

平安時代は現代以上の格差社会。
そもそも制度的にそうなっている。
制度がないのに、ほとんどがんじがらめになっている現代の格差社会の方が
どうかしているような気もします。

陰陽師の社会も帝付きの陰陽師こそがその最高峰。
それを目指して必死に努力するもの、あらゆる手段で這い上がろうとするもの・・・、
そうしたもの者たちの執念が世の中を狂わせていくわけで・・・。

万人受けするエンタメ作品、と、実はあまり期待していなかったのですが、
思いのほか興味深く見てしまいました。

 

<シネマフロンティアにて>

「陰陽師0」

2024年/日本/113分

監督・脚本:佐藤嗣麻子

原作:夢枕獏

出演:山崎賢人、染谷将太、奈緒、安藤政信、村上虹郎、板垣李光人

 

陰陽師の魅力度★★★★★

満足度★★★★☆


おまえの罪を自白しろ

2024年04月26日 | 映画(あ行)

政治家の罪とは

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政治家一族である宇田家の次男・晄司(中島健人)。
建築会社を設立したものの倒産し、
国会議員の父・清治郎(堤真一)の秘書を務めています。
しかしその父も今は政治スキャンダルの渦中に。

そんな時、宇田家の長女・麻由美(池田エライザ)の幼い娘が誘拐されます。
犯人の要求は身代金ではなく、
翌日の17時までに清治郎が記者会見を開いて「犯した罪」を告白するように、と。

宇田家は父と長男(中島歩)、娘婿(浅利陽介)が政治の道へ進み、
晄司はそれとは関わらず自分の道を歩もうとしていたのですが、
いやいやながら父の秘書をすることになってしまっていたのです。
それなので、政界の当たり前のように横行する不正めいたことも、
いちいち引っかかりを覚えてしまう。
父がもし後ろめたい行為に及んでいたのなら、
犯人の要求に応えて、本当のことを話したほうが良いと思うのです。

そして父も、孫娘のためならやむなしと思い、覚悟を決めるのですが・・・。
実は「罪」と言うべきなのは一つだけではなかったのです。

 

また、ことは清治郎1人に関わる問題ではない。
清治郎が白日の下に真実をさらけ出せば、他所の欺瞞もさらけ出され、
政界を揺るがすこととなってしまいます。
そのために様々な妨害が・・・。

こんなことで、真実を明かしてくれるのなら、実際にやってみたくなったりする
・・・などと過激なことを考えてしまいました。

 

尾野真千子さんが妙に地味な役をやっていると思ったら・・・。
おっと、これ以上は秘密・・・。
というか、配役でバレバレのパターン。

ケンティだから見たので、そうでなければみるほどのモノでもなかったかも。

 

<Amazon prime videoにて>

「おまえの罪を自白しろ」

2023年/日本/101分

監督:水田伸生

原作:真保裕一

脚本:久松真一

出演:中島健人、堤真一、池田イライザ、中島歩、山崎育三郎、美波、浅利陽介、尾野真千子

 

サスペンス度★★☆☆☆

満足度★★★☆☆


アフターサン

2024年04月17日 | 映画(あ行)

当時の父と同じ年齢になった自分

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11歳の夏休みを迎えたソフィ(フランキー・コリオ)。

両親は離婚し、普段は母と暮らしていますが、
この夏休みは父・カラム(ポール・メスカル)と共に
トルコのひなびたリゾート地で過ごすことになりました。

ユニークなのは、この作品が、このひと夏の様子を
そのままソフィの視点で描いているのではなく、
20年後、当時の父・カラムと同じ年齢になったソフィが、
その時に撮影した懐かしい映像を振り返り、
父との記憶を蘇らせていくという体で描かれているところです。

その当時、子どもの自分にはよく分っていなかった父の内面が、今なら分る。
とはいえ、11歳といえばすでに思春期の入り口にはあるわけで、
当時整理がつかなかった自分の感情をもまた、同時に思い起こしてもいるわけですね。

当時の父は、離婚後孤独で仕事も順調ではなかった。
けれど、大事な娘のために、なけなしのお金をはたいて
このバカンスに挑んだのでしょう。

夜、1人で海へ歩み入っていくカラム。
いやあ、私はてっきりそのまま帰ってこないのでは?と思ってしまいました。
けれど、11歳の娘を1人残して行ってしまうほど無責任なヤツではありませんでした。
よかった、よかった・・・。

ただ楽しいだけではなくて、物憂くてけだるくもあるリゾート地の夏。
普段は離れて暮らしている父と娘。
特別な時間。
見事にそのような状況が切り取られていました。

<Amazon prime videoにて>

「アフターサン」

2022年/アメリカ/101分

監督・脚本:シャーロット・ウェルズ

出演:ポール・メスカル、フランキー・コリオ、セリア・ローソン=ホール

 

夏の倦怠感度★★★★☆

郷愁度★★★☆☆

満足度★★★★☆


オッペンハイマー

2024年04月02日 | 映画(あ行)

原爆の父の真実

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アカデミー賞7部門受賞の注目作。
「原爆の父」と呼ばれるロバート・オッペンハイマーの物語です。

第二次世界大戦中、核開発を急ぐ米政府のマンハッタン計画において、
才能あふれる物理学者・オッペンハイマーが原爆開発プロジェクトの委員長に任命されます。

彼は実験で原爆の威力を目の当たりにし、そしてまた実戦で投下されると、
恐るべき大量破壊兵器を生み出してしまったことに愕然とし、衝撃を受けます。
そのため、戦後さらなる威力を持った水素爆弾の開発に反対するようになりますが・・・。

まずは本作、モノクロ映像とカラー映像が入り乱れて出てきます。
私は始め、過去のことがモノクロでカラーが実際に原爆のプロジェクトに取りかかった時のこと?
などとぼんやり思いながら見ていたのですが、
どう見てもそれは違う。
明らかに戦後のことがモノクロで表わされたりしています。

本作で重要なのは、原爆の製造に関わる部分ではありますが、
もう一つ、米国における「赤狩り」のことでもあるのですね。
オッペンハイマーは水爆推進という国の方針に異を唱えたことから
政府の反感を買います。
かつてオッペンハイマーの妻や兄弟が共産党員であった。
それでオッペンハイマー自身も共産党につながりがあるのでは?と疑念を抱かれ、
あろうことか元々ソ連のスパイとして原爆開発に関わっていたのでは・・・?
などと言われてしまう。
そんなバカな・・・?

何が何でもそういう事実をでっち上げてしまおう、という諮問会(?)のような
薄ら寒い会議の様子がかなり長く描写されます。

 

結局帰宅後に調べて初めて知ったのですが、
本作はつまり、オッペンハイマーの視点によるものがカラーで、
そして、オッペンハイマーの視点によらないものがモノクロで描かれているとのこと。

うーむ、だからか。
過去現在が入り乱れている上に、カラー・モノクロも入り乱れているものだから、
私はよくわからなかったというのが正直なところです。

しかも全180分。
もう、降参・・・。

そんなわけで、私には赤狩りの馬鹿馬鹿しさの部分よりも、
原爆製造から投下までにいたる道筋と、その都度のオッペンハイマーの意中部分の方が心に残りました。

ときおり鳴り響く耳障りな効果音が、こちらの感情まで破戒されるような気がします。

原爆の投下シーンは、実際にオッペンハイマーが目にしてはいないということなのでしょう、
映像はなくて、ラジオのニュースでそのことを知るのみ。

 

核分裂が強大な破壊力を持つ兵器になる。
理論的にはすでに広まっている話。
ではどの国がその実用化にこぎ着けるのか、というのが当時の緊急課題だったのでしょう。

ドイツ、ソ連・・・。
日本でもその研究が進められていたというのは映画「太陽の子」にもありましたっけ。

結局アメリカが一番乗りとなったのは、
砂漠の真ん中に町を作り上げ、すべてをそこに集中させて原爆の製作に当たったという
財力のなせる技なのでは、と納得しました。
ともあれ、ナチスが先でなくてよかった・・・。

<TOHOシネマズ札幌にて>

「オッペンハイマー」

2023年/アメリカ/180分

監督・脚本:クリストファー・ノーラン

出演:キリアン・マーフィー、エミリー・ブラント、マット・デイモン、
   ロバート・ダウニー・Jr、フローレンス・ビュー、ジョシュ・ハートネット

 

歴史発掘度★★★★☆

震撼度★★★☆☆

満足度★★★☆☆


唄う六人の女

2024年03月20日 | 映画(あ行)

森の奥深くで

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父の訃報を受け、山奥の実家に帰省した萱島(竹野内豊)。
萱島の父が所有していた土地を売却するため、不動産業者・宇和島(山田孝之)と会います。
手続きを終え、2人同乗の車で山道を走る途中、事故に遭い、意識を失います。

目を覚ますと、2人は謎めいた6人の女性たちに、
森の奥深くの屋敷に監禁されていたのでした。

彼女らは、言葉を話しません。
が、何かを萱島にさせたがっているようでもある。
萱島には幼少期にこの場所へ来たことがあるような・・・おぼろげな記憶が蘇ります。
一方、一刻も早く町へ戻りたい宇和島は、森の中をさまよい歩きますが・・・。

 

山奥の美しい場所。
不可思議な女たち・・・。
幻想的で妖艶。

いってみればここは、「自然」自体が心を宿す聖地のようなもの、でしょうか。

「それ」は、萱島にある思いを託そうとしているのですが、
それと敵対するのがまさに宇和島なのです。

この地を巡って、どすぐろい陰謀がはかられている・・・という
人間界の生臭い問題が浮かび上がってきます。

人間の欲望が、どれだけ自然の調和を壊しているか。
いろいろなことが思い巡らされますね。

 

<Amazon prime videoにて>

「唄う六人の女」

2023年/日本/112分

監督:石橋義正

脚本:石橋義正、大谷洋介

出演:竹野内豊、山田孝之、水川あさみ、アオイヤマダ、服部樹咲、萩原みのり、桃果、武田玲奈

 

幻想度★★★★☆

不可解度★★★★☆

満足度★★★☆☆