映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「デパートへ行こう!」 真保裕一

2012年11月01日 | 本(その他)
深夜のデパートへようこそ!

デパートへ行こう! (講談社文庫)
真保 裕一
講談社


               * * * * * * * * * 

深夜のデパート。
普通なら人気がなく静まり返っているはずなのですが・・・。
この夜の鈴膳百貨店は、なぜか予期せぬ「客」がそこここに・・・・。

よからぬ企みを抱く女性店員。

生きる希望を失くした一文無しの中年男。

訳あり家出の高校生カップル。

道を踏み外した元刑事。

行き場を失くした悩める人々が、
明かりの消えた老舗デパートの中で、さまざまなドラマを繰り広げます。


真保裕一さんといえば
"不屈の魂を持つ主人公が繰り広げるアクション"
と言うイメージが強いのですが、
本作はちょっと趣が違って、人情物語風に仕上がっています。
それというのもこの舞台のデパート、創業100年の老舗。
しかし、昨今のデパートがどこでもそうであるように、
営業成績は振るわず斜陽。
おまけに贈収賄事件に絡んだことで世間から非難を浴び、
他社に吸収合併される寸前・・・。


この夜ここに居合わせた鈴膳百貨店の社長も含め、
老若男女の人生が交差します。
そして、この人々が微妙に関連しあっているというのが面白い。
ちょっぴり笑って、ほろりときます。


今作中でも描かれていますが、
私などの子供の頃、デパートは人々のハレの場だったのです。
おもちゃ売り場で夢心地になり、
最上階の大食堂で家族で食事をして、
屋上の遊戯施設で遊ぶ。
食堂で食べるのは大抵お子様ランチ。
休日のちょっと贅沢な過ごし方というのが、
デパートでこのように過ごすことだったわけ。
私はなぜか寝具売り場で、すべすべで肌触りのいい掛け布団を触るのが大好きだったのです・・・
(変な子ですよね・・・)。
そんなちょっぴり懐かしいレトロなデパートのイメージが、
この物語のデパートにはありまして、
まあたぶん、ご年配の方のほうが、今作を楽しめるかも知れません。

とは言え、ラストの離れ業、
さすが真保裕一作品。
大変楽しく読みました。

「デパートへ行こう!」真保裕一 講談社文庫
満足度★★★★☆