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映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「六月の夜と昼のあわいに」 恩田陸

2012年11月09日 | 本(その他)
イマジネーションの世界に遊ぶ

六月の夜と昼のあわいに (朝日文庫)
恩田陸
朝日新聞出版


             * * * * * * * * *  

この本には、杉本秀太郎さんの序詞(詩であったり俳句であったり短歌であったり)を元に
恩田陸さんがイメージをふくらませて作った
10の短編ストーリーが収められています。
もともとこれは朝日新聞出版の季刊誌「小説トリッパー」に
一篇ずつ掲載されたものだそうですが、
さすが恩田陸さんの素晴らしいイマジネーション、
その型にはまらない奔放さに魅了されます。
また、本作ではそれぞれにドローイングも加えられていまして、
恩田陸作品集にして、詩集であり美術集でもある、
まことにお得な作りです。


まず、ひとつの物語を読んでみます。
いつものことながら、私たちは恩田ワールドの不思議な空間に投げ出されたような気がしてしまうのですが、
読み終えてから、冒頭の序詞とイラストに戻ってみます。
するとおやまあ、確かに、
この物語はこの序詞とイラストの世界観に一致している。
あまりのその一体感に驚かされてしまいます。
恩田氏は前書きで
「先生が毎回送ってくださるモチーフを前に、
真っ青な顔で固まっていたことを思い出す。」
と述べていますが、いやいや、そうではあっても、
やはり自分の世界を自由に構築していく恩田氏の手腕、感服です。


Y字路の事件
あるY字路で時空の歪みが起こるという、SF仕立てのストーリーですが、
どこかひなびた味がある。
その昔、祖父がなくしたという片方の下駄の行方は・・・?


窯変・田久保順子
「田久保順子が己の才能を確信したのは、まだこの世に生まれる前のことであった」
というところから始まるこのストーリー。
田久保順子には、生まれ落ちる以前から運命づけられた、類まれな音楽の才能があった。
けれども、凡庸と言うよりは凡庸以下の母とその夫の育児放棄により、
才能を発露することができず、
そしてその行末が世界の破滅につながる・・・という、
一風変わった風刺的な物語です。
・・・子供は親の私物ではない。
世の宝である、と思うべきですね。



夜を遡る
本作中では最もファンタジックな世界が現れます。
山がモコモコと緑色に膨れ上がる5月。
田んぼの泥の中には雨ん婆がいて。
川沿いには真っ白で胸のところが透きとおったペドロさんがいて。
土手の草地には顔が錆びたスコップでできているガラガラドンがいる。
不思議な子どもの世界。
それは実は、誰もが子供の頃に住んでいた心のなかの風景なのかも知れません。

「六月の夜と昼のあわいに」恩田陸 朝日文庫
満足度★★★★☆