映画と本の『たんぽぽ館』

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「源氏物語と日本人 紫マンダラ」 河合隼雄

2016年11月24日 | 本(解説)
自立した女の“物語”とは

源氏物語と日本人〈〈物語と日本人の心〉コレクションI〉 (岩波現代文庫)
河合 俊雄
岩波書店


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心理療法家・河合隼雄から見た、日本屈指の王朝物語である
『源氏物語』とはどんなものであったのか?「
これは光源氏の物語ではなく、紫式部の物語だ」と気づいたことから、
心理療法家独特の読みが始まる。
そこには、どのような日本人の心の世界が描かれているか。
古代から続く男と女の関係は、さながらマンダラのように配置される。
現代に生きる日本人が、個として生きるための問題を解く鍵を提示する。


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物語を通して、日本人の心を探る、というところでこの本を手にしましたが、
よく考えてみたら、私、まともに「源氏物語」を読んだことがありません。
もちろん現代語訳のものも・・・。
ということで、読み始めてから実は無謀なことだったのでは?
と思ったのですが、でも、
河合隼雄氏は親切に登場人物などの解説を入れてくれているので、なんとか読めました(^_^;)


通常「源氏物語」は光源氏の物語だと誰もが思うわけですが、
著者は、『「光源氏」は生きた一個人としては描かれておらず、
これは、彼を取り巻く女たちの物語、
そしてそれはすなわち、紫式部の物語だ』といいます。


女性には娘、妻、母、娼の4つの立場があるといいます。
光源氏と関係した多くの女性達を、この中のどれかに当てはめることができる。
紫式部が実際にそのようなことまでもを意識したかどうかはわかりませんが・・・。
しかし特筆すべきなのは「紫の上」で、
彼女は一人でこの4つの立場を経験している、というところ。
彼女自身は出産はしていないのですが、養女を引き取り育てるという「母」の役割をもこなし、
しかし、挙句には源氏が正妻を迎えることになり「娼」の立場に追いやられるという・・・。


物語の中に、自己を投影していった紫式部は、
最終の「浮舟」で、個としての女性の姿を見出した、と言います。
浮舟は、光源氏の死後の物語「宇治十帖」の中で薫との関わりで登場する女性ですが、
薫と匂の間でどうにもならなくなり、自殺を試みますが失敗。
しかしそこで気持ちを切り替えた彼女は出家し、二度と薫とはかかわらなかった。
現代に通じる独立した女の生きざまが確かにそこにありますねえ・・・。


冒頭で著者は言うのです。
現代の女性は「男の物語」の中で生きている、と。
「会社に勤めて、仕事が認められ、ある程度の地位を得る。」
これは男性中心の社会の中での一般的な「男の物語」。
今の女性はそれを追い求めているのだけれど、本当にそれでいいの?と。
確かに、そうだと思いました。
私もずっと共働きを続けていた女として、よく思ったものですが、
「ダンナはいらないから、奥さんがほしい・・・」と。
だからといって、著者が女は家で家事をせよ、と言っているのではありません。
このような現代社会で、新しい「女の物語」があるべきなのではないか、というのです。
その答えは私にもわかりません。
今は男とか女ではなくて、ただ「個」としてのあり方が問われるのかもしれません。
だけれど、そうはいっても「子どもを生む」のは女にしかできないことですしねえ・・・。
現代の「女の物語」。
もう少し考えてみたいです・・・。
が、私はすでに手遅れ・・・?

<物語と日本人の心>コレクション1
源氏物語と日本人 紫マンダラ   河合隼雄 岩波現代文庫
満足度★★★★☆
図書館蔵書にて