胸の奥にしまったままの思い
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朝は牛乳配達、昼はスーパーで働く大場美奈子(田中裕子)独身50歳。
毎夜の読書を楽しみにしています。
また、同じ街の市役所に勤める高梨塊多(岸部一徳)は、
末期がんで余命わずかな妻を自宅で介護していました。
この2人は高校時代交際していたのですが、ある時から疎遠になり、
互いにあえて距離を置くようにしてこれまで30年が過ぎていたのです。
自宅でベッドに横たわる高梨の妻は、
いつも牛乳を届けに来る美奈子が夫と同級生だったと端から聞き、
その鋭すぎる勘で2人の気持ちをくみ取ってしまいます。
そして、美奈子に会いたいと言うのですが・・・。
どこにでもいそうな中年の冴えない女と男。
けれど彼女らにもみずみずしい青春時代はあった。
でもそんな思いが一度そこで断ち切られたとしても、
胸の奥で生き続けるというのは、十分にあり得るなあ・・・と、
この年になってこそ納得できます。
時の流れにしたがい薄れるものもあるけれど、
そうではないものもあるなあ・・・と、実感することがあるので。
2人の交際が終わってしまった事情というのもショッキングで、
なるほど、それならば致し方ないのかな・・・とも思えます。
互いが相手を嫌いになってしまったというわけではなかったのです。
だからといって塊多がずっと心の中で妻を裏切っていたというわけではない。
妻は妻として愛おしむ。
だからこそ、妻を自宅で介護もします。
並み以上の優しい夫。
でも心中のみずみずしい思いは消えずにそこに残っている。
それは仕方のないこと。
美奈子は、心の底のその思いをやはり消し去ることができず、
そしてその思いを上書きするようなことも始めからあきらめていたわけです。
ずっとこのままで十分、と。
同じ街にいて、時には顔を合わすこともあるのだけれど、
そして2人は心中で必要以上に互いを意識しているのだけれど、
決して言葉を交わそうとしない。
余計な波風を立てた先のことが恐いのですね。
いい大人だからこそ、余計臆病になってしまう・・・。
塊多は市役所の児童福祉課にいて、ある児童虐待を受けている子供と関わりを持つようになります。
そのサイドストーリーもなかなかよくて、
そしてそれが思いがけないラストに繋がるというのも秀逸。
20年以上も前の作品で、たまたま候補にあがっていたので見たのですが、
これは見て良かったと思える作品。
<Amazon prime videoにて>
「いつか読書する日」
2004年/日本/127分
監督:緒方明
原作・脚本:青木研次
出演:田中裕子、岸部一徳、仁科亜季子、渡辺美佐子、香川照之
静かな想い度★★★★★
満足度★★★★☆
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