映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

蜜のあわれ

2016年11月06日 | 映画(ま行)
金魚の目を通して語られる老作家の老いと孤独



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原作は室生犀星。
晩年の1959年、会話のみで構成されるシュールレアリズム小説。
ということで、一風変わった雰囲気を持つ作品です。



自分を「あたい」と呼ぶ赤子(二階堂ふみ)は、
老作家(大杉漣)が安く買ってきた金魚の化身。
夜になると体を寄せ合って寝るなど、仲睦まじく暮らしているのです。
ある時、老作家の過去の女・ゆり子(真木よう子)が幽霊となって現れます・・・。



本作はつまり、金魚の目を通して語る作家の老いと孤独の物語。
この老作家とはすなわち作者自身でありましょう。
昔交友のあった芥川龍之介は若いうちに自死。
その芥川(高良健吾)が、若いときのままの姿で現れたりします。
高良健吾さんの芥川というのが滅茶苦茶カッコイイ!!のですが、
ちょっぴりアンニュイで、人を見透かすような視線を老作家に投げかけます。

溢れる才能を持ちながら若くして亡くなった彼に弾き比べ、
このように老いて衰えるまでに長く生きてしまった自分を作家は省みる。



この老作家に対して、金魚の赤子は、
若く、ウブでいながらコケティッシュな魅力たっぷり、
好奇心に満ちていて、行動的。
老作家の失くしたものを蘇らせるかのような存在。
そしてなおかつ謎に満ちていて、女の残酷さをも持ち合わせているという・・・。
う~む、この役は正に二階堂ふみさんのためにあるような。
ゆったりしたペースでありながら、
なかなか目の離せない作品なのでありました。



この先室生犀星の作品など読むこともなさそうですし、
こういう形で純文学に触れるというのも悪くありません。


「蜜のあわれ」
2016年/日本/105分
監督:石井岳龍
原作:室生犀星
出演:二階堂ふみ、大杉漣、真木よう子、高良健吾、永瀬正敏

コケティッシュ度★★★★★
(というか、「コケティッシュ」の意味がやっと具体的に納得できたような気がする・・・)
満足度★★★★☆