映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

秒速5センチメートル

2024年10月05日 | 映画(は行)

失われた儚く美しい何か

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本作、松村北斗さん主演で実写映画化されるというニュースがありました。
新海誠監督作品でも、これはまだ見ていなかったなあと、慌てて見た次第。

全3話からなる連作短編集となっています。

貴樹と明里は小学校卒業と同時に、明里の引っ越しのために
離ればなれになってしまいます。
とにかく一緒にいることで気持ちが安らいでいた2人でした。
中学になってから、明里からの手紙が届き、
貴樹は明里に会いに行くことを決意します。

しかしその日は雪。
栃木までの列車の旅ではありますが、雪のために運行が遅れに遅れ、
なかなか目的の駅にたどり着きません。
本当に明里と会うことができるのだろうか・・・不安でいっぱいになる貴樹。(桜花抄)

やがて、貴樹も中学半ばで東京から鹿児島の離島に転校し、
そのままそこで高校生になります。
同級の花苗は、中学の頃からずっと貴樹を思い続けていました。
貴樹はいつも優しく接してくれましたが、どうも思い人がいるように思えて・・・。(コスモナイト)

社会人になり、東京でSEとして働く貴樹。
付き合っていた女性とも別れ、会社も辞めてしまいます。
季節が巡って春。
貴樹はある女性に気づき、振り返りますが・・・。(秒速5センチメートル)

 

 

純粋でみずみずしい、少年少女の恋。
けれどそれはあまりにも儚いものでした。

私が思うに、つまりあの時、唇と唇が触れ合うということで、
純粋だった“何か”が壊れてしまったということなのでしょう・・・。
もちろんそれは汚らわしいことではないのだけれど、
まだ名前のない美しい「思い」が、別のものに変わってしまうには十分な出来事だったのでは。
それは、互いに用意していた「手紙」をそれぞれ渡すことができなかった、
そしてその後も、手紙を交わすことは間遠になり、やがて途絶えてしまっていた
ことに現れているように思われるのです。

 

儚く美しいものが壊れ、苦い思いが残る・・・。
でも私たちは成長し大人になって、人生を続けなければなりません。
失われた美しいものは、桜の花びらが散るのを見て、かすかに思い出されるだけ・・・。

切なくも美しい物語。

「コスモナイト」では、種子島が舞台になっていて、
ロケットの打ち上げと思われるシーンがあります。
空へ向かってもくもくと伸び上がっていくロケットの白い航跡。
それを見上げる若い男女。
若い力、これからの人生への期待のようなものを思わせる
忘れがたいシーンでした。

そして、いつものごとく、水と光のなす透明なキラキラ感。
やはり美しいなあ・・・。
これぞまさに新海誠作品、という気がします。

こんな情景を、多分松村北斗さんは完璧に演じて表現してくれるのではないでしょうか。
実写版映画も楽しみです。
でも、松村北斗さんが演じるのは多分「青年期」だと思うので、
それほど出番はないのではないかな・・・?

<Amazon prime videoにて>

「秒速5センチメートル」

2007年/日本/63分

監督・原作・脚本:新海誠

出演(声):水橋研二、近藤好美、花村怜美、尾上綾華