伝統芸能と今様の恋愛模様
* * * * * * * *
文庫化を心待ちにしていた作品ですが、
三浦しをん作品にして思い切り題材が渋いです。
文楽=人形浄瑠璃に情熱を注ぐ青年のストーリー。
そもそも、私は文楽など見たこともない・・・。
それで、物語にはついて行きがたいかもと少々不安でしたが、
その心配はぜんぜんありませんでした。
最近、何かの映画に文楽の1シーンがオーバーラップで使われていたなあ、
と思いだしたのは「最後の忠臣蔵」でした。
そうそうあのときに、人形浄瑠璃って、一度きちんと見てみたいとは思ったのでした。
題材は渋いのですが、現代のストーリーです。
健が文楽の道に入ったきっかけは高校の修学旅行。
伝統芸能といっても全く関心がなかった健は、居眠りしていたんですね。
けれども「突然、だれかに石をぶつけられたように感じて」目をさます。
石のように感じられたのは、義太夫を語る老人の発するエネルギーだったのです。
舞台上のその老人こそ、現在の健の師匠であります。
そのときに彼は、文楽の世界に引き込まれてしまった。
文楽は、語り手と三味線、人形遣い、この三者の息がぴったりと合って作り出されます。
今作は、健がいきなり兎一郎という無愛想で変人とおぼしき三味線と組むようにいわれて、
戸惑ってしまうところから始まります。
古来の伝統芸能ですから、世襲となることが多いこの世界。
健は研修所を経てこの世界に入ったわけですから、
対人関係の気の使いようも並大抵ではありません。
でも、彼のキャラがいいですね。
前向きで元気で、苦労を苦労と感じさせない。
そうして、文楽の様々な演目や、その解釈を、
駆け出しの健の思いを通して、私たちに知らせてくれる手法はありがたいです。
そして、その実演シーンの迫力ある描写、
さすが三浦しをん氏の力量を感じるところでもあります。
こんな風で、渋くて堅いストーリーかと思えばご心配なく。
ちゃんと恋愛話も絡んでおり、楽しく読むことができます。
いきなり子持ちの女性に一目惚れ。
今も結婚しているのかいないのか、
それも聞き出せないままに、気持ちが燃え上がってしまいます。
また、健の住居も非常にユニークです!
伝統芸能に対して、この猥雑さたっぷりの生活感の取り合わせが何ともいえません。
なんにしても、一つのことに正面から粘り強く取り組む。
そういう人の姿は美しく、すがすがしいのです。
駅伝でも。文楽でも。
「仏果を得ず」三浦しをん 双葉文庫
満足度★★★★☆
仏果を得ず (双葉文庫) | |
三浦 しをん | |
双葉社 |
* * * * * * * *
文庫化を心待ちにしていた作品ですが、
三浦しをん作品にして思い切り題材が渋いです。
文楽=人形浄瑠璃に情熱を注ぐ青年のストーリー。
そもそも、私は文楽など見たこともない・・・。
それで、物語にはついて行きがたいかもと少々不安でしたが、
その心配はぜんぜんありませんでした。
最近、何かの映画に文楽の1シーンがオーバーラップで使われていたなあ、
と思いだしたのは「最後の忠臣蔵」でした。
そうそうあのときに、人形浄瑠璃って、一度きちんと見てみたいとは思ったのでした。
題材は渋いのですが、現代のストーリーです。
健が文楽の道に入ったきっかけは高校の修学旅行。
伝統芸能といっても全く関心がなかった健は、居眠りしていたんですね。
けれども「突然、だれかに石をぶつけられたように感じて」目をさます。
石のように感じられたのは、義太夫を語る老人の発するエネルギーだったのです。
舞台上のその老人こそ、現在の健の師匠であります。
そのときに彼は、文楽の世界に引き込まれてしまった。
文楽は、語り手と三味線、人形遣い、この三者の息がぴったりと合って作り出されます。
今作は、健がいきなり兎一郎という無愛想で変人とおぼしき三味線と組むようにいわれて、
戸惑ってしまうところから始まります。
古来の伝統芸能ですから、世襲となることが多いこの世界。
健は研修所を経てこの世界に入ったわけですから、
対人関係の気の使いようも並大抵ではありません。
でも、彼のキャラがいいですね。
前向きで元気で、苦労を苦労と感じさせない。
そうして、文楽の様々な演目や、その解釈を、
駆け出しの健の思いを通して、私たちに知らせてくれる手法はありがたいです。
そして、その実演シーンの迫力ある描写、
さすが三浦しをん氏の力量を感じるところでもあります。
こんな風で、渋くて堅いストーリーかと思えばご心配なく。
ちゃんと恋愛話も絡んでおり、楽しく読むことができます。
いきなり子持ちの女性に一目惚れ。
今も結婚しているのかいないのか、
それも聞き出せないままに、気持ちが燃え上がってしまいます。
また、健の住居も非常にユニークです!
伝統芸能に対して、この猥雑さたっぷりの生活感の取り合わせが何ともいえません。
なんにしても、一つのことに正面から粘り強く取り組む。
そういう人の姿は美しく、すがすがしいのです。
駅伝でも。文楽でも。
「仏果を得ず」三浦しをん 双葉文庫
満足度★★★★☆
文楽、林業、辞書・・・
三浦しをんさんは本当に渋いところを突きます。でも今こそ若い人たちが後を継いで行かないと消えてしまいそうなんですね。どんなところにもやりがいや生きがいがある・・、そう思えるので、しをんさんのお仕事小説は大好きです。
しをんさんはタイトルの付け方も良いですね。
人形浄瑠璃。この本でずっと身近に思えては来ましたが、何しろ、こちらのような地方都市ではほとんど見る機会がありません。
いつぞや、敬愛する野村萬斎さんの能を見たことがあるのですが、見事爆沈して寝てしまいました。狂言ならまだいいのですが・・・。
伝統芸能は私にはムリ・・・と、その時身の程を知った気がしたのですが・・・。
自分の国の伝統なのに、この遠さは、悲しいですよね・・・。
次にこの本を紹介するときは、たんぽぽ様のコメントを引用させてくださいね。
全く縁のない人形浄瑠璃。せっかく日本人に生まれたのですから、これを機会に少しは…
でもこれって、ねむりねずみ(近藤文恵)を読んだ時にも思いました。
人形浄瑠璃だけでなく、歌舞伎、落語といった日本の伝統芸能は、私にはまだまだハードル高し です。もちろん、シェークスピア劇もオペラも です。悲しいことに…。