ステージおきたま

無農薬百姓33年
舞台作り続けて22年
がむしゃら走り6年
コントとランとご飯パンにうつつを抜かす老いの輝き

『ストリップ小屋に愛をこめて』なぁんて本も読むわけだ!

2020-02-10 08:44:57 | 本と雑誌

 台本書きの資料読みてのはねぇ、テーマとか設定に関わりそうなものを、両手おっびろげて掻っ込むことなんだ。趣味や好みなんて、気にしちゃいられないんだぜ。別の人生、も一つの世界を作り上げることだからね、芝居ってやつは。小難しい本、付き合いたくない本、時には馬鹿くさい本だってわっさか買い集めてページを開く。

 今回なら、キーワードは、浅草、ストリップ、コント、井上ひさし、ってところだが、そのものずばりってものばかりじゃ生きた人間たちは見えてこない。時代の風も感じにゃならん。戦後史とか、戦後の文化論とか、女性史とかにも、あっち寄りこっち佇みしてきた。下手な鉄砲数打ちゃ当たる、闇夜の投網、雑魚もたくさんあがってくるが、時にこれは!って大物、珍品、宝物を引き上げることもある。

 『「モノと女」の戦後史』著:天野正子・桜井厚。これなんか、一番の獲物だったな。パンストとか下着とかナプキンとか避妊具とか流し台とか、戦後大きく変貌したモノたちがもたらした女の意識の変遷を詳しく論じていて、うんうん、唸るばかり、圧倒されたね。男にゃうかがい知れない世界だものな。ふんふんなるほど!の各章なんだが、これは、次々回の作品できっとお世話になるはずだから、その時、再読して紹介する。女の小物、男が知ってどうする?いやいや、男こそ知っておかにゃならんこと満載だから。

 もう一つ儲けもの。『ストリップ小屋に愛をこめて』著:川上譲治

 表紙の写真といい、タイトルといい、エロ好きのおっさんのストリップオタク談義か?引いちゃったよ、届いた時は。中にゃあられもない写真が満載だしね。そっと楽しむにゃいいが、真面目くさって資料として読むてのはどうか。神さんの前で大っぴらで広げるにゃちょい憚られた。

 のっけから、ソロダンス、ソロベッド、入れポン、レンズ、ピンク、まな板、天狗レズ、本番白黒・・・・なんて業界用語とそのギャラが載っている。さらに、その前書きには、「ちなみに、昭和51年当時、ショーの一日分のギャラは陰部を見せることを前提としてー」などある。おっとぉぉぉぉぉ!

 ストリップの技法の数々を開陳するのが目的の稀覯本か?うん、それぞれの中身についてももれなく書かれているが、それは、著者のストリップ屋としての人生遍歴として、その都度ごとの表現なんだ。

 漠然と写真家を目指していた青年が、新宿2丁目にあったストリップ劇場「モダンアート」に転がり込んだところから、ひょんな青春爆走物語が始まる。照明係、裏方のスタッフから、ストリッパーたちの世話係、(マネジャーではない、この世界でマネジャーは女たちのヒモを意味する)小さな小屋の運営を任され、しだいに力を付け、入れ方(手配師)としてストリッパーを多数抱え、信頼を勝ち得て、出し物のプロデュースに手掛けるようになって行く。

 著者がストリップ屋として目指したのは、局所を見せたり、触らせたり、ついには、本番にいたる過激化するストリップ業界に抗い、「来るべき未来のストリップ・ショー」を確立することだった。ダンスあり、芝居あり、様々仕掛けあり。その中に女たちの裸を溶け込ませる。見せることなきエロティシズム。

 芸能プロダクションを立ち上げ、アングラ劇団員や暗黒舞踏派の若者たちを引き込んで、次々に斬新な舞台を提供していく。小屋借りして始めた取り組みにも限界があり、ついには、自分の常打ち小屋を手に入れるまでになる。

 しかし、ストリップの改革には限界があった。一つは、警察の執拗な取り締まり。軌道に乗ったと思えば、叩き潰され、大きな借金を背負わされる。さらに大きな壁は、観客の貪欲で変わらぬ欲望、ただただ、女のあそこが見たい!触りたい!練りに練り、稽古を重ねた新しいステージも、この助平オッサンたちのエロの壁の前には無力だった。

 観客のさらなる欲望肥大とピンク産業の攻勢に押されて、業界はますます先鋭化し、ついにはじり貧化して行く。著者の新しいストリップも時代の波に飲み込まれ、ついには、最後のショー「ラスト・ストリップ」の成功を手にこの世界から抜け出して行く。

 ストリップへの愛、小屋への愛、ストリッパーたちへの優しい眼差し、そして、青春の勢いで駆け抜けた裏社会。これはもう、爽やかでほろ苦い青春爆走蹉跌物語以外の何物でもない。読み始めのうさん臭さなんて軽くすっ飛んで、著者とともに、ストリップ小屋を駆け抜けた充実感があった。

 人間っていろんなところで、しっかり生きてるもんだ、偏見は無用だぜ。

 

 

 

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