全英連参加者のブログ

全英連参加者の、言葉やその他諸々についての雑感... 不定期更新です。

過去になった未来

2015-03-02 04:00:00 | 気になる 地方自治・行政

 ある資料より抜粋。

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(3)高等学校教育
【現状と展望】
■生徒の減少期を迎える高等学校教育
 上昇を続けてきた本県における高等学校進学率は、近年頭打ちの傾向を強め、ほぼ94%台で推移してきている。
 また、急増してきた中学校卒業者数も、1989年(昭64)に約12万人のピークに達し、その後は、減少期に入り、2000年(昭75)には、約7万人になるものと予測されている。
 こうしたことから、高等学校進学者数は、大幅に変動することが予測され、今後、教育諸条件の改善整備を図るに当たっては、高等学校進学者数の増減を見通しながら、計画的に進めていくことが望まれる。
■生徒の多様化への対応
 現代社会は、物質的な豊かさのなかで、利己主義や営利主義的風潮を生み、刺激的な情報がはん濫するなど、多感な年代にある生徒の生活行動や人格形成に必ずしも好ましいとはいえない環境となっている。
 最近の生徒には、他人への思いやりや自制心が欠け、また、自己形成の責任は、基本的には自らにあるといった自覚が乏しいとの指摘もなされている。
 さらに、画一化された高等学校教育は、在学生徒の多様化に対応しきれず、過熱した受験競争は、知育偏重に拍車をかける結果となっている。
 このような状況のなかで、一部の生徒は、目的意識もなくいたずらに不満と不安をつのらせ、無気力化すると同時に、いわゆる落ちこぼれや非行、問題行動を生み、中途退学者が増加するといった新たな問題も生じている。
 一方、価値観や職業観の多様化が進み、特色ある職業教育や、専修学校等への進学希望者が増加するといった傾向も見受けられる。
 これからの後期中等教育にあっては、生徒がその能力、適性、関心や進路等に応じて選択できる多様な教育の機会の整備充実を図っていく必要がある。
■増大する私立高等学校への期待
 私立高等学校は、建学の精神と独自の校風のもとに、教育内容、教育方法にそれぞれ特色をもたせた教育を推進し、本県高等学校教育の重要な一翼を担っている。
 近年、私立高等学校の在学者数は、確実に増加を続けており、私学教育に対する県民の期待も大きい。
 私学の独自性、自主性を尊重しながら、私学教育の健全な発展を促進する必要がある。

【目標】
 1.生徒一人ひとりの個性と能力を伸ばせる、多様な教育を推進する。
 2.幅広い教育的識見や優れた指導力を備えた教員を確保、養成する。
 3.建学の精神と伝統をいかした、特色ある私学教育の振興を図る。

【施策の方向】
 1.生徒がその能力、適性、進路等に応じた教育を受けることができるよう、入学者選抜制度の改善を図る。また、教育課程の多様化、弾力化を進め、選択制を拡大する。
 2.指導内容や指導方法の改善を図るとともに、自主的、創造的な学習活動を促す。
 3.在学青年セミナーハウスの設置等により、体験学習の推進を図る。
 4.運動場などの整備を進め、学校スポーツ活動を振興する。
 5.生徒指導、進路指導を充実し、生徒一人ひとりの能力、適性、進路に応じた適切な指導、援助を行う。
 6.国際化や情報化など、時代の進展に即した新しい学科の設置や学科の転換を図るとともに、専門学科の適正配置を進める。
 7.特色ある学校づくりを推進するため、施設設備の整備充実を図る。
 8.通信制高等学校や定時制高等学校の整備充実を図る。
 9.通信制高等学校と職業訓練校、専修学校との技能連携制度を推進する。
 10.専修学校及び各種学校の健全な育成に努める。
 11.経済的理由により、就学が困難な者に対する援助制度を充実する。
 12.教員として資質に優れた有能な人材の確保に努めるとともに、研修を充実する。
 13.父母負担の軽減を図るなど、公私立高等学校間の格差の是正を図る。

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 過日実家に帰った。掃除をしていたら、押入からある報告書が出てきた。上記はその抜粋である。資料の名称は、おそらく「埼玉県新長期構想試案」で、昭和59年(1984年)11月に発行されている。実は表紙もなくなっており、報告書名称も正しいかわからない。副題もわからないのだ。
 内容としては、発行年から15年後の2000年前後(21世紀初頭)を展望するものである。埼玉県がかかわる、様々な行政課題について分析している報告書で、将来展望・構想をまとめたものだ。
 残念ながら、この報告書がどのような経緯で実家に来たのか、全くわからない。当時父は現職公務員だが、埼玉県職員ではない。僕も県立高校に勤務していたが、普通の高校教諭がもらえる類いのものではない。価格の問題ではない。一目見てわかるのだが、学校現場に来るような資料ではないし、当時旧浦和市三室にあった「教育センター」の資料放出で、入手できるようなものでもないと言うことだ。

 おおよそ30年前に15年後(2000年)を展望したもの。その2000年は、もう15年前である。報告書119ページから「V.部門別構想」がとりまとめられている。196ページから(3)高等学校教育というセクションがある。
 改めて読んでみると、【現状と展望】の二つ目(■生徒の多様化への対応)は、一体いつのお話ですかと思える部分が多い。この報告書の内容が、役所的な言い方だと、どう具現化されたのか。自分は県立高校に勤める者として、部分的には経験してきた立場(のはず)である。【施策の方向】の部分を読み直してみた。

 1.について
 県立高校は推薦選抜を実施した。これにより、受験機会複数化は実現された。5教科の学力検査総得点と内申書得点、記載事項を選抜材料とする方式にも、変化が見られた。(現在受験機会は基本的に一度である。)
 教育課程の多様化、弾力化は進んだ。選択制も拡大した。埼玉県に限らない。国レベルの変化である。結果として、特定分野を履修(学習)せず高校を卒業し、大学入学者の「学力(学習前提としての知識)不足」(知識欠損)ということが問題化、顕在化している。
 この「学力不足」は、教育課程の多様化、当時と比べると増加した大学数(入学定員)と相まって、30年前には考えられなかった層の生徒が、現在は大学に入学できる状況と不可分であると思う。18歳人口はマイナスだが、大学等高等教育機関への入学者数(進学比率)はプラスのはずだ。もう少し調べてみたい。

 2.~5.について
 自主的な学び、体験的な学習活動は推進された印象がある。
 学校スポーツ活動の振興は、思ったほど顕著な成果(もしくはプレゼンス)を感じない。
 「生徒指導」「進路指導」とも、「生徒一人ひとり」を生徒対応(生徒指導、進路指導)において、それ以前よりも強く意識することが求められた。「生徒指導」「進路指導」において、その前提となる生徒理解の仕方が変わったように思う。言葉を選ばなくてはいけないが、求める成長、伸ばしたい能力の目標、将来像の基本が「理想」を強く追うことから、「到達可能点(現実)」の見極めを基本に考えるように変化した感じがする。
 1.で「能力」「適性」「進路等」と列挙されているが、「能力」( )「適正」その結果としての「進路(進学・就職)」のように思う。( )には「=,>,<,+」等々入ると思うが、いずれにしても、県立高校ならば「同じ教育課程で学ぶこと、学べることが当然であった、少なくとも建前としてはそうだった時代と決別せよ」と求められていたのだ。そして、実際にそうなった。

 6.について
 専門学科や普通科のコース制を取り入れ、多様な学びを提供することに努めた。
 現在、普通科のコースはほとんどなくなっている。専門学科としてコースから転科したものは、現在でも専門学科として存続しているものもある。
 多様な学びよりも、「ふつう」が求められたことへの対応だと思う。

 7.について
 これは6.と表裏一体ではないか。

 8.について
 これは、評価が難しい。定時制高校の整備充実は、できているとは言いがたい印象だ。通信制高等学校、定時制高等学校とも、この資料ができた頃とは、社会がそれらにもとめる役割が違いすぎる。
 通信制は当時想像もつかなかった「私立(広域)通信制高等学校」や「学校設置会社立(広域)通信制高等学校」の存在、学校数の拡大とそれによる多くの在学生の存在をどうとらえるか。私学がある程度その存在感を増している現在、埼玉県ならば1校しかない県立通信制高校をどう位置づけるかである。
 定時制は県立高校の再編計画実施にともない、多様な学びを提供する「パレットスクール」に再編統合されたものもあり、設置校数は減少。生徒の学校までの交通アクセスという面では、場所にもよるが不便になっている例もあると思う。はたしてそれでよかったのか。現在の状況でいいのか。正直よくわからない。

 11.について
 高等学校の授業料は、ここ数年で政権交代にともない制度が大きく動いた。
 この30年では、日本学生支援機構「奨学金」(という名称の教育ローン)の方が、いろいろ考えるべき点が多いように思える。

 12.について
 県教委主催の研修は充実したとは言いがたい。いろいろな意味で財政的にできないことが増えたと思う。県教委主催が無理ならば、教師が自主的に大学、研究機関に出向き学ぶこと、大学・大学院通学への配慮をすべきであるが、それほどではない。
 研修に出にくい雰囲気が蔓延していることは、大問題である。

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 30年前の構想、実現できたのだろうか。「よかれ」と考えて実行したことでも、結果はどうだったか。それは、してもよかったことなのだろうか。

 こんなことを考える先生が一人くらいいてもいいかな。

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