<新・とりがら時事放談> 旅・映画・音楽・演芸・書籍・雑誌・グルメなど、エンタメに的を絞った自由奔放コラム
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「飛行機は怖いからできるだけ新幹線でね」

と、ひところ私の嫁さんは出張の多い私のことを心配していた。
東京へ行くのも新幹線の方が安心だというのだが、3.11以降、態度が微妙に変化した。
東南海地震の発生が危惧される東海地方を時速270kmで走る東海道新幹線に乗るリスクは飛行機のリスクと比べて大差無いように感じるようになったからだと思われる。

「新幹線無事故。地震発生でも大丈夫。日本の技術は素晴らしい。」

と中越地震でも3.11でも絶賛された。
新幹線は巨大地震でも脱線転覆しない。万が一脱線したとしても中越地震で脱線した上越新幹線のように転覆はしないしけが人も出さない。
と、世間は言う。
甘い!

私はそんなことは信じられないのだ。

阪神大震災では山陽新幹線の高架橋が数カ所で倒壊。
初発前の地震だったので事故に繋がらなかったのだが、もし地震発生時に時速300kmで走行する新幹線がその場所に差し掛かっていたら、と考えると恐ろしくなる。
阪神大震災は直下型地震だったので高度利用者向け地震速報システムはほとんど無意味。
海溝型の3.11の場合、震源地に近い場所でも数十秒のゆとりがあったのでインフラの安全停止は実現したが(福島原発を除く)、阪神のように地震発生即激震では止める暇もない。
大阪市内でも発生からわずか7秒で本震が来たのだ。

といことで、長距離移動は飛行機で、ということに最近は落ち着いている。
しかも航空機で事故に合う確率は3000年間毎日乗り続けていても1回遭遇しない低レベル。
正直、幹線道路横の歩道を歩いているほうが危険なのだ。
さらに飛行機は最新型ほど事故を起こしにくいという統計もあり、例えば最新鋭のA320は100万回の飛行で0.15回。B777に至っては0回で、あまり良い例えではないが宝くじの1等賞に当たるよりレアな確率だ。

ところが昔は違って、航空機は度々事故を引き起こした。
伊豆大島に墜落。
東京湾に墜落。
羽田空港で墜落。
富士山に墜落。
青森で墜落。
御巣鷹村に墜落。
と、大きなものだけでもかなりの数になる。

先週、久しぶりに本棚から柳田邦男著「マッハの恐怖」(新潮文庫)を取り出し再読した。
少々小遣いが逼迫していたので新刊を買わずに蔵書の中から、久しく読んでいない本を選んだ結果が本書だった。

「マッハの恐怖」は昭和41年に立て続けに発生した3件の航空機事故を取り上げたノンフィクションで、技術的には古い部分があるものの、災害対応、災害対策技術などの大きな参考になるノンフィクション。
今回再読して改めてその迫真の事故調査記録に夢中になった。

3件の事故とは全日空機B727羽田沖墜落事故、カナダ航空羽田空港着陸失敗事故、英国国営航空の富士山上空空中分解事故だ。
たった1ヶ月の間にこれだけの事故が発生し、多くの人命が奪われたわけで、当時3歳の私は、

「大きくなってもパイロットにはなりたくない」

と親に話したそうで、中でも富士山への墜落は再三にわたり「怖い」と言っていたそうである。

この三つの事故はそれぞれに原因究明方法が異なり、それぞれの方法が航空機事故に限らず、事故原因究明というプロジェクトについては大いに参考になるものであった。
技術的追求。
抜けはないのか。
従来の常識だけで判断して良いのか。
などなど。
とりわけ富士山上空空中分解事故は科学的な解明でエンジニアリング的にはものすごく興味ある内容だ。

それとは対象なのが全日空機の墜落事故で3年かかかっても原因を突き止められない事故調査委員会の結論の出し方が恐ろしい。
多数決で決めた内容での事故調査書提出という形でまとめられたのだ。
ちなみにこの事故は現在もなお原因不明とされているが、「マッハの恐怖」では、東京大学の山名正夫教授の綿密な調査活動とそこから得られた結論がレポートされ、感情的に山名教授と対立する事故調リーダである日本大学の木村秀政教授が自分の主張する玉虫色結論を多数決を用いて公式見解として採用し、山名教授の具体的検証を退けるところは、論理的でなければならない科学者の世界の背景に漂うどす黒い陰湿なものを見ることになり、空恐ろしさを感じるのであった。

あの鳥人間コンテストの審査委員長だった木村教授は論理の人ではなく、商売人であったようでかなり残念だ。

ということで、久々に読んだので内容もかなり忘れていて、本もボロボロになっており、巻頭の写真のページのノリがとれて床にバサッと落ちたりして困ったが、内容はスリリングで読み応え十二分な一冊だった。

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